2009-01-22

資本主義を正当化するための「優生学」

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【「持続可能な開発」とは(2)では、“国連主導の 「持続可能な開発」とは 、先進国と発展途上国の一部の裕福な人だけが成長を維持する権利を獲得するための開発であり、無秩序な最貧国の発展は許さない。その為には、増え続ける開発途上国の人口を抑制し、限られた人のみが生き残れる社会をつくること” と説明されています。
このように、資本主義の考え方を正当化するための思想として、「優生学」という学問があります。
文字の通り、優れたものだけが生き残るという考え方です。
一般的には、ナチスドイツのユダヤ人の虐殺に代表される、人種差別などと重ね合わせて考えられています。しかし実は、ドイツのみならず、世界中で現在に至るまでその思想の影響を受けているのです。
例えば、現在の人種差別、白人主義というのは優生学の概念です。
この思想について、「優生学と人間社会」(米本昌平・松原洋子・市野川容孝ほか:講談社)より紹介します。
気になる方は・・・

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<「優生学と人間社会」(米本昌平・松原洋子・市野川容孝ほか:講談社)>
○目次
第1章 イギリスからアメリカへ:優生学の起源   
第2章 ドイツ:優生学はナチズムか?
第3章 北欧:福祉国家と優生学
第4章 フランス:家庭医の優生学
第5章 日本:戦後の優性保護法という名の禁種法
終章  生命科学の世紀はどこへ向かうのか
○優生学とは
「優生学の基本は、(中絶、不妊手術等)低価値者が生まれないようにすることで、人の質を向上することが目的」です。
優れたものとは誰か。
人の能力は、個体の能力に先天的に依存される(遺伝)という前提があります。本来は、幼少期の充足体験に依存する場合が多く、後天的に決まるものです。
また、現実場面での能力とは、「集団を導く」など、常に集団という視点が重要です。しかし、優生学では、能力は本能のみを対象化しており、共認域は対象としていません。
元々、本質的には問題のある考え方ですが、一部の支配者には都合のよい思想として、ヨーロッパを中心に広まりました。
○ヨーロッパの優生政策の流れ
ヨーロッパでは、現在では福祉国家大国である北欧が中心となって、断種法を制定するなど、優生政策が積極的に実行されてきました。

1929年:デンマーク「断種法」左翼政権が制定
     →性犯罪の恐れのあるもの、精神病院や施設で暮らす異常者に不妊手術を合法化
1930年代:ノルウェー、フィンランド、スイス、エストニアで「断種法」制定
1933年:ドイツ ナチス政権誕生 「断種法」
1934年:スウェーデン「断種法」社会党政権(左翼政権)で誕生
     →福祉国家の確立のため 精神病患者、知的障害者に不妊手術合法化
1939年:ドイツ ヒトラー安楽死計画
     →障害児、精神病患者など殺害開始1945年まで。「低価値者」の社会からの抹殺

○社会主義と資本主義の共存
社会福祉と優生学は相互に対立するものだと思えますが、そうではありませんでした。デンマークでの社会党K・K・スティンケの主張は、象徴的です。

「一見、社会福祉と優生学は相互に対立するものだと思えるが、そうではなく、社会福祉を充実させるためにも優生政策が必要だと考えた。優生政策の実施によって、社会福祉を必要とするような人々が減少すれば、その分彼らにより多くのサービスをより人道的な形で提供することが出来る。」

この思想により、社会福祉国家に優生学が広まっていきました。
同時に資本主義・個人主義の思想も共存します。優れたものとは何か、という視点で捉えたとき、それは白人や金持ちであるという考え方です。
最も悲惨だったのは、第二次世界大戦時におけるナチスが行ったユダヤ人の虐殺です。低価値者であるユダヤ人を社会から抹殺し、優秀なドイツ人の血を守るという名目の下、断種ではなく大量虐殺が選択されました。(人種差別)
一方で、ナチスドイツを優生学による悪役としている側面もあります。ヨーロッパを中心に同類の優生政策が行われたにも関わらず、これを隠蔽する傾向があるのも事実です。
○現在の先進国の思想
個人の権利(生殖の自己決定という原則)と、公共の利益(優生学的思想)の対立という図式があります。これに対しては、自己決定に一切をゆだねることが先進国の方針となっています。
また、日本における、優生学の現在への影響として、「胎児条項」というものがあります。これは、①胎児に異常があった場合に人工妊娠中絶をしていいですよ、ということと、②胎児に異常があった場合には妊娠のいつでも中絶して構いませんよ、ということを、法律(母体保護法)の条項に明記することです。
このように、「優生学」という思想は、現在にまで影響を及ぼしています。そして、支配者による資本主義の考え方を正当化するための思想として、利用されてきたのです。
今後は、これらの事実を抑えた上で、支配構造を見ていく必要があります。

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