2020-09-04

異常気象により崩壊していく農業

各地で発生した7月の豪雨、9月になっても40度越えの気温が観測されたりと異常とも言える気象が続いています。

「異常気象」によってもたらされる最大のリスクの1つに「食糧不足」がある。メディアは目先の天候にばかり注目して、将来のリスクについてほとんど報道しようとしない。

極端なことを言えば、異常気象=食糧不足=日本国民が飢える――という現実がありうることを直視しなければならない。

2020年夏、ほぼ全域が深刻な干ばつ中にあるコロラド。 Outthere Colorado

『全世界で異常気象により崩壊していく農業生産。全世界を巻き込む食糧危機と飢餓のカオスが2021年頃から到来する可能性がさらに高く』より引用します。

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なぜ飢餓の懸念か

このブログを始めた 10年ほど前から懸念していたことのひとつに「世界的な食糧危機」というものがあります。

そういうことが起きることを懸念していた理由として、最も大きな部分は、

合理的な原因の帰結として迎える食糧危機

という部分です。合理的な原因というのは、自然災害の増加、経済的な問題や、あるいは各国の農業政策の失敗やサプライチェーンの崩壊などにより発生する食糧危機のことです。サプライチェーンの崩壊は、今年のパンデミック下で何度か発生していますが、現在はある程度立ち直っています。

もうひとつの理由は、いわゆる合理的な話ではないほうの話で、

古代神話では今の地球は地震と飢餓で終わる

とするものが、特に南米の古代文明を中心に数多くあるということを含めて、以前から気になっていたことのひとつでした。

古代語られていたような「終末の光景」に今、どんどん近づいているように見えるということもあります。

たとえば、アステカ文明は、地球の歴史を「 5つの太陽の時代」で示していて、今は第五の太陽の時代ということになっているのですが、ある解釈では、以下のようにアステカ文明の暦に描かれているのだそうです。

第5の太陽の初期黄金時代には、自然、科学、芸術、宗教が完全に調和のとれたすばらしい時代であった、と古文書(コデックス)には記されている。

その文明は頂点へ達したが、神々の都テオティワカンやユカタン半島、、グアテマラのマヤ地域の住民たちはなぜか消えてしまった。古文書は次のように続く。

赤と黒の墨の人々(古文書は大部分、赤と黒の墨で書かれたことから「英知を持つ人」の意)が行ってしまうと、この星は無知と暗闇で満たされ、退廃の歴史が始まった。人身御供が行われ始め、戦争は世界各地で絶えることなく続き、空気や環境は汚染され、そして現在の黙示録的住民時代にまで至る。(学研ムー 1982年2月号)

ここにある、

> 戦争は世界各地で絶えることなく続き、空気や環境は汚染され、そして現在の黙示録的住民時代にまで至る。

というのは、過去 100年くらいからパンデミック下のこの 2020年あたりまでの状況をとても的確に語っているようにも思います。

これらの話は、10年ほど前となりますが、以下のふたつの記事などでふれています。

太陽黒点磁気スマイルと現在の太陽神トナティウ (2010年12月13日)

アステカ神話の過去4つの世界と太陽。そして、現在の太陽トナティウの時代の終わりは (2011年12月18日)

なお今回の記事は、このような神話などとは関係ない「合理的な理由のほうの話」です。

世界各地の食糧生産の状況を、いくつかの報道からご紹介しますが、それらの全体を見ますと、世界的な食糧危機が確かに迫ってきていると思わせるものはあります。

また、今回のパンデミックと、各国のロックダウン措置は、農業生産者の疲弊とサプライチェーンの崩壊をものすごい速度でもたらし、今年の春には買い占めを含むパニックが各国で発生しました。以下の記事などで記しています。

パニックと飢餓の気配の中で : 今、単なる風邪が世界を終わりに導くストーリーを見ている
投稿日:2020年3月1日

そして、9月になろうとしている今、スウェーデンなど一部の国を除いて、主要国各国では、感染拡大が続いていて、「再ロックダウン」が現実化している国も多くなっています。これは、再ロックダウン等で、Google などで検索すると、さまざまな国が出てくることからもわかります。

仮に各国でロックダウンや移動の制限等が復活し、すでに疲弊しきっている農業生産者たちと企業、サプライチェーンのダメージがこれ以上となると、自然災害や気象の問題と共に「食糧供給の継続が不可能な状態」がいつかやってくる気はいたします。

今はまだ食糧供給は大丈夫でも、来年は、その次の年はとなると、なんとも予測できないものがあるはずです。

そして、2021年あたりからさらに不安定となりそうだと思ったのは、世界最大の食糧消費国である中国の最近の中国政府の発表を聞いたからです。

中国の食糧危機の懸念は、各国のメディアで伝えられることもありましたが、中国の政府系の人民日報の報道では、「中国に食糧危機の心配はない」として、8月27日に以下のように伝えていました。

現在、中国の食糧の安全は保証されている。

1人あたり平均占有量は472キログラムで、世界の食糧の安全標準ラインの400キログラムを大幅に上回る。これと同時に、長年にわたる豊作で、備蓄は十分にあり、価格も全体として安定している。

中国の食糧の安全は全体的に好調で、今は供給に問題はなく、中長期的な供給も保証されている。 (人民日報 2020/08/27)

つまり中国政府は、「中国では豊作が続き、食糧備蓄もあるため、食糧難になるということはない」と述べていたわけです。

しかし、やはり以下の中国当局の発表を聞きまして、来年以降はどうなんだろうと思わざるを得なかったのでした。中国農業農村省の 8月26日の発表です。

中国農業農村省は26日、主要穀物の備蓄量は国民消費の1年分を確保していると明らかにした。 NNA 2020/08/27)

これは「 1年分備蓄があるから大丈夫だ」という発表なのですが、安心というよりも、むしろ「 1年を過ぎた後に、中国と世界の食糧供給が不安定なままだったらどうするんだ?」という懸念を思わせる発表でもありました。

そして、食糧生産と直接に関係する「世界の気象」。

これがすごいのです。

今年の全世界の生産は、歴史的な不作になりはしなくても、少なくとも「豊作」ということにはならないだろうという観測はできる状態です。

ちなみに、多くの農業生産国では、すでにこの数年、特にこの2、3年は、激しい気象の異変で、農作地が荒れ続けていまして、好転する兆しがない地域も多いです。

今回は、各国や地域の状況をお伝えします。

中国の状況を入れていないですが、あれだけ大洪水が続いている中でも、中国政府は先ほどのように「豊作続き」と発表していて、それ以外の公式な数値が出てこないので、わかりようがありません。

ご紹介させていだくのは、公式な数値が出されている国と地域だけのものです。

コントロール不能の気象異常は全世界規模に

世界全体として、気象は農業に対して厳しい状況となっていますが、いくつかの代表的な地域についてご紹介します。

アメリカ


NASA

地球の衛星画像や気候や環境に関するデータを提供している NASA の最近の記事では、米国農務省や国立海洋大気管理局などによっての土壌の測定による現在のアメリカの「干ばつ状況」を示したマップを載せていました。

上がそのマップです。

この記事のタイトルは、「アメリカの 3分の1が干ばつ」とあり、これ自体も歴史的にかなり深刻なものなのですが、NASA の人工衛星が測定した「アメリカ全体の表面土壌の水分レベル」のマップを見ますと、さらに深刻な状況が進行していることがわかります。

人口衛星GRACEが測定した8月10日のアメリカの土壌の水分レベル

NASA

農業に適さない山間部を除けば、「アメリカ中部から西部の平野部のほとんどが干ばつ状態」であることがわかります。

上のマップの下には色分けとともに「数字」がありますが、これは NASA によれば、このような干ばつが起きる確率の数字です。

つまり、最も濃い赤にある「 2 」というのは、このようなことが起きる確率は「 2%」であることを示します。

この 2%というのは、「 50年に1度しか起きない規模の干ばつ」を示していまして、そのような極端な干ばつの地域が、これだけ広がっているということがわかります。

通常、このマップで濃い赤で示されている地域は、夏にはモンスーンが発生して土壌の水分が確保されるのですが、NASA の記事には以下のようにありました。

通常の夏は、アメリカ・ロッキー山脈南部の高気圧により、カリフォルニア湾とメキシコ湾から湿気が引き込まれ、7月から 8月にかけて、アリゾナ州、ニューメキシコ州、およびその周辺地域にモンスーンのシーズンがもたらされ、この時期が最も雨の多い時期となる。一部の地域では、年間降水量のほとんどがこの時期に記録される。

ところが、今年は、ジェット気流が通常よりはるかに北に向かって移動したために、モンスーンがこれらの地域にやって来なかった。 NASA

50年に 1度の干ばつがこれだけ広がっている理由のひとつは、このように「ジェット気流がかつてない位置で移動していた」ことによるようです。

このジェット気流の異常については数年前から起きていまして、これが異常気象の原因ともなっていますが、これが最初に起きたころについて、以下の過去記事などで取り上げています。

《特報》地球の気流が壊れた : ジェット気流が赤道を通過して北極から南極に進むという異常すぎる事態。このことにより、この先の気象と気温はこれまでに考えていた以上のカオスとなる可能性が極めて濃厚に
投稿日:2016年6月30日

このようなこともあり、アメリカの中西部は数十年に 1度の干ばつに見舞われていますが、しかし、中部から西部にかけては「青い状態」つまり、土壌に水分が多い状態となっていますが、干ばつではないこのあたりも、農業生産的には問題が続いているのです。

マップで最も土壌に水分が豊富なのは、ネブラスカ州、アイオワ州、ミズーリ州あたりとなっていますが、このあたりは西部とは逆に「繰り返される歴史的な洪水」に苦しめられています。

例えば、以下は、昨年のこちらの記事で取り上げましたアメリカのメディアの「世界最大の農業災害」と題された記事の冒頭です。

2019年3月の米メディアより

気候変動の中、今、アメリカで信じられない洪水が発生している。このような壊滅的な洪水を私たちアメリカ人は見たことがないほどだ。アイオワ州、ネブラスカ州、サウスダコタ州および他のいくつかの州では、広範囲で農地を広く帯状に破壊している。

特に、ネブラスカ州では、この歴史的な災害の範囲は州のあらゆる範囲に及んでおり、ネブラスカ州は現在混乱の中にある。

この洪水により失われた農作物と酪農動物の被害額は、現在の初期段階の見積もりで、すでに 30億ドル(3300億円)に近づいている。 (cold climate change

2019年は、この洪水によりアメリカ中東部の多くの農業生産地が破壊され、それにより生産者たちが疲弊している中で、今シーズンは「パンデミックのロックダウンによる物流の停止」という状態から始まっています。

生産者たちのダメージはかなりのものとなっていると思われます。

それでも、アメリカは広い上に、大規模農業生産者が多いですから、今は大丈夫なのだと思いますが、こんな状態が今後も続いた場合は、いつまでもつか…とは思います。

気象の異常については、先ほどのジェット気流の変化の問題が続く限り、毎年のようにこのような「極端な洪水と極端な干ばつが繰り返される」という状態は続くようにも思います。

いくらアメリカが盤石な農業生産システムを持っているとしても、限界はいつか訪れるはずです。

ヨーロッパ各地も農業生産がかなり厳しい状態となっていることが相次いで報じられています。

ヨーロッパ


Extreme weather causes UK’s worst wheat harvest in 40 years

上の記事は、イギリスの小麦の収穫が過去数十年で最悪のレベルに落ち込んでいることを報じたものです。この原因もまた、アメリカとも似ていて、「極端な大雨の後に、極端な干ばつがやってきた」ことによります。

報道には以下のようにあります。

英国の小麦の極端な不作を伝える報道より

英国農業界は、40年ぶりの英国で最悪の小麦収穫が、今後、小麦粉やパンの価格高騰を引き起こすと予測している。

昨年の秋の大雨のため、小麦は通常量の 40%しか植えられなかったが、今年の干ばつは収穫される作物の品質にも影響を与えている。

全英農業組合は、昨年秋に続いた大雨のために、小麦は通常の量の 40パーセントしか植え付けできなかったと述べる。

その上、今年の初めからは干ばつが続き、現在収穫されている小麦の品質に影響を与えており、生産者たちは厳しい局面にある。

農業関係者は、食糧のサプライチェーンについて、国産の高品質の小麦が不足しているため、イギリスは世界の他の地域から小麦を輸入しなければならない可能性があると述べている。 (watchers.news

イギリスは今後、「小麦を輸入する」ということになる可能性が出てきているのですが、同じような状況に昨年からなっているのがオーストラリアで、もともと小麦の大生産国であったオーストラリアは、2019年から、干ばつにより「小麦の輸入国」となっています

これについては、先ほどもリンクさせていただいた記事で取りあげていますが、オーストラリアの気象の問題は継続しているようで、今年2月のオーストラリアについての報道には以下のようにありました。今後も、オーストラリアが小麦の輸入国であり続ける可能性は高いようです。

オーストラリアの農地は 3年以上の干ばつに見舞われているが、2月18日に発表されたオーストラリア当局の予測によると、記録上で最も暑く乾燥した夏だった本年は、作物生産量が大幅に減少し、夏の生産量としては記録上で「最低レベル」に落ち込むことになると見込まれる。

農業当局は、ソルガム、綿花、米などの作物の生産は 66%減少すると予想しており、これは、統計が開始された 1980 – 81年以来最の低レベルだ。 AFP 2020/02/18)

これまで、他の国に多くの小麦や農業生産物を輸出していたこれらのような国が、このように「輸入国」になり続けていると、

「次は一体、どの国が生産して他に輸出するんだ?」

というような話にも次第になってきます。

中国でさえ食糧輸入を増加させており、少し前には、「中国による「日本の米」買い占めが現実味(BJ 2020/08/12) 」というような記事も出たほどで、その中国が積極的に、食糧を他の国へと輸出するようにも思えません。

なお、ここではイギリスを挙げましたが、「ヨーロッパ全域」が、同じような状態となりつつあるようです。

たとえば、ファイナンシャル・タイムズの以下の記事では、

「ヨーロッパの現在の干ばつは、過去 250年間見られなかった規模」

だという科学誌ネイチャーに掲載された論文を紹介しています。

3年連続の水不足と熱波、気候変動で焼かれる欧州 (FT 2020/08/19)

この状態は、ヨーロッパの広範囲に広がっているようで、これもまた農業生産について良い徴候とは言えません。

南米


watchers.news

他には、農作物の大きな輸出国として、ロシアやアルゼンチンやブラジルなどがありますが、ブラジルもまた、過去にない干ばつに見舞われていることが報じられているのですが、ブラジルでは干ばつだけではなく、「複雑な問題」が起きており、たとえば現在、「極端な寒波にも見舞われている」のです。

南半球の南米は現在、冬である場所が多いですが、それでも、南米全域として見ますと、雪など降らないところが多いですし、氷点下の気温などになる場所はそう多くはないのですが、今年は、南米各地が異常な気候となっています。

以下の記事で、パタゴニアと呼ばれるアルゼンチンなどの地域で、8月に入り歴史的な大雪と寒波で非常事態宣言が出されていることを取り上げたことがあります。

南米パタゴニアで歴史的な大雪と寒波により非常事態宣言。農業局は「回復に何年かかるかわからない」と声明
地球の記録 2020年8月2日

その後、事態はさらに深刻化しているようで、パタゴニアでは、10万頭以上の飼育されている羊や牛が死亡しており、アルゼンチン・リオネグロ州の農産当局は、

「今のままだと、州全体の 70%の動物が死亡する」

と述べています。

そして、ここに追い打ちをかけるような予測が出されていまして、南極からの冷たい大気が南米全域を襲うとブラジルの気象局が発表したのです。

8月20日頃からしばらくの間、南米のアルゼンチン、ブラジル、パラグアイ、ボリビア、ウルグアイ、ペルー、エクアドル、コロンビア、ベネズエラなどに、「歴史的な記録となる可能性のある寒波」がやってくると発表しました。

これが今後も続くのかどうかはわからないですが、南米も農業的には厳しい地域が多くなっていることが予測されます。

このように、それぞれの国や地域を見ていきますと、現時点ですでに「グローバルな食糧供給」が少しずつ崩壊しかけていることがわかります。

現在のシステムが急速に壊れることはないにしても、たとえば日本にしても今年あるいは今後の農業生産の行方は不安定なはずで、アジアを含めて世界全域で、サプライチェーンの崩壊による食糧危機を超えた、「食糧そのものが少しずつ枯渇していく」という事態も出てくる可能性がないとは言えないかもしれません。

そして、気候も、パンデミック下の社会運営なども含めたあらゆる面で、今後事態が急激に好転するようには思えないのが現実のような気がします。

現在の気象の状態が、来年そして今後数年など続いた場合、食糧危機の問題は確実化しそうです。

[追記] この記事を書いた少し後に、中国南部の雲南省のイナゴ被害が過去数十年で最大規模に拡大しているという香港のサウスチャイナモーニングポストの報道を知り、以下でご紹介しています。

▶ 中国雲南省のイナゴ被害が11の郡に拡大。農作物が危機的な状況に
地球の記録 2020年8月31日

この雲南省での被害作物にはトウモロコシも含まれているようで、中国全体への供給の影響の程度はわからないですが、イナゴの活動期はまだしばらく続きます。

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