2023-01-14

これからのエネルギー覇権は?世界、そして日本のエネルギー動向のいま。

前回記事(リンク)では、産油国、世界のエネルギー産出力を整理しました。そこから見えてきたのは、世界のエネルギー産出バランスの偏り、つまり実物を持つ国家がユーラシア大陸に集中している状況です。
これまでの世界のパワーバランスは、西側諸国が制覇力(金融・軍事・シーパワー)を持っていました。一方で近年は、中国の存在感増大、ウクライナ侵攻による経済制裁で顕わになった欧州のロシアエネルギー(天然ガス)依存、国内に目を当てれば電気代の異常高騰による政府の国民補助など、西側諸国のエネルギー政策の限界が見えてきています。これらは、世界動向に対する重要な示唆を与えてくれているように思えてなりません。

今回は、世界の、そして日本のエネルギー動向と世界のパワーバランスを読み解いていきます。

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世界に対するユーラシア大陸の存在感
上記の通り、世界のエネルギー産出はユーラシア大陸に偏っています。では、これらユーラシア大陸内の国家連携はどうなっているのでしょうか。
ロシア主導の「ユーラシア経済連合」、日米豪印の「クアッド」等、経済や軍事等の連合体さまざまありますが、最も注目すべきは中露が推進する「上海協力機構(以下SCO)ではないでしょうか。
加盟国は、中露のほか、カザフスタン・ウズベキスタン・キルギス・タジキスタン・パキスタン・インド・ベラルーシ・イランの10か国。オブザーバーにモンゴル・アフガニスタン、対話パートナーにスリランカ・トルコ・アゼルバイジャン・アルメニア・カンボジア・ネパール・エジプト・カタール・サウジアラビア、対話パートナー参加予定国にUAE・ミャンマー・クウェート・モルディブ・バーレーンといった中東や中央アジア諸国が続々と加盟に向かっています。また、UAEと中国は、昨年末にも湾岸協力会議※と首脳会談で、継続的連携と人民元決済の展開に対する意思共有を行っています。
SCOの共通テーマは「多極的世界秩序」の実現、要するに反米(反西側)です。ここからわかるように、中国を筆頭に、世界の産油国は脱西側に舵を切り始め、世界の西側が先導してきた脱炭素に対しても反旗を翻しているのです。また予定国も含むSCO関連国が産出するエネルギー源を足し合わせると、原油産出約50%、天然ガス埋蔵量約70%、石炭産出約50%にもなり、実物を持っている国が続々と上海協力機構側に歩み寄っているのです。エネルギー覇権を持つ国家が脱米に舵を切り、世界のパワーバランスが西側からユーラシアに偏っていることも、今後のエネルギー動向においては注目すべき事象です。
※湾岸協力会議:中東・アラビア湾沿岸地域における地域協力機構。加盟国は「バーレーン、クウェート、オマーン、カタール、サウジアラビア、およびアラブ首長国連邦(UAE)」の産油6カ国
参考)
上海協力機構が共同宣言 イラン23年加盟、10カ国に(日本経済新聞)
習近平、アラブとも蜜月  石油取引に「人民元決済」(YAHOO!JAPANニュース)

日本のエネルギーのいま
日本の発電・ガソリン・工業利用等を含む、1次エネルギー国内供給率は以下のような内訳になっています。
石炭25.4/石油36.3/天然ガス21.5/再生可能(水力除く)7.1/水力3.6/未活用2.9/原子力3.2(%)
 資源エネルギー庁『集計結果又は推計結果(総合エネルギー統計)「時系列表」』2021年値より
ただ、これらのエネルギー供給の大半は輸入に頼っており、日本のエネルギー自給率は13.4%しかありません。
 資源エネルギー庁『集計結果又は推計結果(総合エネルギー統計)「時系列表」』2021年値より
また、自給率の低さが際立つにも関わらず、輸入化石燃料への依存度も高く、他国で見られるような自然エネルギー活用もほとんどされていません(ブラジル水力約70%、デンマーク風力+バイオマス約40%)。

引用:自然エネルギー財団『統計ー国際エネルギー 電源構成』
自給の重要性は、昨今の欧州を見ても、この間の電気代高騰を見ても疑う余地はありませんが、上記のデータでも示される通り、日本はエネルギー資源を多く持たないというのが現時点での通説です。では、日本が生き残るエネルギー源は本当にないのか。
次に昨今の国内エネルギー開発状況を整理していきます。

1)島根・山内沖 海洋ガス田
島根と山口両県の沖合で30年ぶりの海洋ガス田の開発を期待され、2022年5月より試掘調査を行っていましたが、商業生産には至らない規模であることが判明し、8月には終了しました。国内の天然ガスは新潟・千葉・秋田・宮崎・北海道で生産されているが、少量であり、ほとんどは豪州からの輸入に依存しており、しばらくはその依存から脱すことは難しいと予測されます。
参考:島根・山口沖の海洋ガス田 商業生産に至らず 年度内に再調査を判断(産経新聞)

2)メタンハイドレート
砂層型と表層型に二分されるメタンハイドレート(以下MH)ですが、技術的に商業利用が近いと言われているのは、砂層型です。詳細の技術開発動向は割愛しますが、東部東海トラフエリアには1.1兆立米のMH資源量が発見されており、凝集帯でも 5,739 億 m3にも上り、日本のLNG輸入量(2018年値)の5倍にもなります。まだまだ技術的課題は多く抱えているものの、商業利用へ向け、国家で開発が進められています。

3)地熱発電
「第6次エネルギー基本計画」にも示されたように、日本は世界第3位の豊富な地熱資源量(1位アメリカ・2位インドネシアに次ぐ、2,347万kW)を持つことから、県・エネルギー開発会社・電力会社・建設会社等によって日本全域で開発が進められています。全国でも運転開始3か所、探査・開発段階6か所、調査段階35か所が経産省の支援を受け、今後も開発が進んでいくことが予想されます。
参考:産業経済省 資源エネルギー庁

こうしてみると、かつて日本にもあった産油や石炭の自給はほぼ行われていないものの、新技術の開発は活性化していることが分かります。※その他、第7鉱区開発は政治的影響が大きいが、当初予定通り海域が確保できれば日本のエネルギー自給は大きく改善されます。

地震・火山大国、山脈国家、島国といった日本ならではの固有資源を用いたエネルギー変換が一つの自給型エネルギー国への出発点になると言えるかもしれません。

日本の新エネルギーの開発については、次回記事で深掘りしてみたいと思います。

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