2019-10-10

自滅に向けて“暴走”する農業

農業というと里山と田園が広がり、自然と人々が共存した日本人の原風景が蘇ったものです。

現在では、品種改良・水や化学肥料や農薬の投入の増加・機械化に焦点を当てた近代農業科学・技術は農業生産の大きな増加をもたらしたが、反面、環境的持続可能性も脅かしています。

ひと昔前の農業とは全く異なっています。
農業はどこに進んでいるのでしょうか?

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『痩せゆく土壌と弱体化する農作物──食料供給の危機に立ち向かう研究者たち』より引用します。

現代化された農業によって土壌は痩せ細り、品種改良され続けた農作物は病気に弱くなる。しかも恐ろしい勢いで土壌から栄養分を吸収する──。こうして世界的な食料供給の危機が予想されるなか、研究者たちは持続可能な方法で農作物を栽培する方法を見つけようとしている。研究者が注目しているのは、古代の作物や土壌の微生物だ。

オランダの微生物学者であるヨス・ラーイマーカースは8年前、多くの人々が魅力的とは考えない分野の研究を行なっていた。マメの内部の仕組みを念入りに調べるという研究である。

ラーイマーカースはチームとともにコロンビアの農村部の山腹を歩き回り、野生のマメの根の周囲にある土壌サンプルを収集していた。あるいは土壌に棲む微生物たちのコロニーのスナップ写真も撮影した。

これらの調査結果は研究チームを刺激するものだった。野生のマメの根には、栽培品種化された子孫たちとは異なる微生物が付いていることがわかったのだ。野生種を栽培品種と同じ土壌に植えた場合でも、野生種には異なる微生物が発見された。

ラーイマーカースは当時、同僚たちに「この発見は今回のプロジェクトだけでは終わらない、もっと大きなものにつながると思う」と、ビールを飲みながら語っていたという。

謎が多い土壌微生物と植物の健康状態の関係

土壌内では、細菌や菌類、センチュウやミミズなどが食物連鎖の関係にあり、こうした豊かな生態系が植物の命を支えるうえで重要な役割を果たしている。ただし、その仕組みは科学の世界では長らく見過ごされてきた。最近ようやく理解されるようになってきたばかりだ。

この仕組みが正確にどのように機能しているのかは、依然として謎である。だが、腸内フローラがメンタルヘルスに影響を与えると考えられるようになったのと同様に、土壌微生物の状態と植物の健康状態が関係していることを疑う人はほとんどいない。

さらにラーイマーカースが調べたマメは、現在の土壌で起きている危機の解決策になる可能性がある。その危機は、食料生産システム全体を徐々に衰えさせる恐れのあるものだ。

耕作に適した土壌は縮小を続け、死にかけている。現代の農作物は病弱で、生き延びるためにこれまで以上に大きく肥料や農薬に依存しているが、これは土壌にとっての“死”を意味する。集約的な作物栽培も養分を土壌から収奪する。

2050年には、世界人口が100億人に増加するという予測もあり、食料需要の増加は必至となっている。その一方で、農業を支える土壌が壊滅状態に陥るのではないかと懸念されているのだ。

選抜育種で失われた“強い”微生物

このジレンマから抜け出す道を示す可能性をもつのが、現在も野生の状態で育っている作物の原種だ。こうした原種は現代の作物ほど養分を必要としないことが多く、病気との闘いにうまく対処できる微生物コロニーを伴うなどの有益な特性をもっている。

だがこうした特性は、非常に長期にわたる選抜育種のなかで失われてしまった。ラーイマーカースのチームは、そのような特性を見つけ出して、作物種のなかに再び導入したいと考えているのだ。

「わたしたちが試みているのは、いなくなった微生物たちを見つけ、それらの微生物に植物の成長や保護に役立つ機能があるか確かめることです」と、ラーイマーカースは説明する。チームは現在、コロンビアとエチオピア、オランダにおいて、ジャガイモやコーリャン(ソルガム)などの作物の野生種の現地試験を実施しているところだ。

ラーイマーカースとオランダ生態学研究所(NIOO)で研究を続けている行うウィム・ファン=デア=パトンも、現代の食料作物には早急にリセットが必要であるとの意見に同意する。「わたしたちの環境調査によると、農業においてシステムエラーのようなものが起きていることが示されています」

弱くなっていく土壌という問題

人類は、栄養は豊富であっても病気に弱い植物を選択し続けてきたことで、自ら問題の種をまいてきたとファン=デア=パトンは説明する。「現在の土は一度しか使えないものになっているのです」

これまでわたしたちは、足下に隠れている土について気に留めてこなかったが、科学者たちは土が直面する多くの脅威について懸念をもつようになっている。まず第一に、豊かな土壌は限りある資源だ。1cmの表土(土の最上層で植物の成長に必要な養分の多くが含まれている)が自然に形成されるには、100年以上かかる。

一方で、耕起や単一栽培を行う近代農法では、土が脆弱化して強風で飛ばされたり、豪雨によって流されたりしやすい。農薬や肥料も、土壌微生物に害を与えるため、土壌が弱くなる。英国環境庁が19年6月に発表した報告書によると、イングランドとウェールズにおける耕作可能な土壌の40パーセントに浸食の危険があると考えられるという。

さらに悪いことに、土壌には相当量の二酸化炭素が貯め込まれているため、土壌にひびが入ると大量の温室効果ガスが放出される可能性がある。ランカスター大学で持続可能性の講義を担当しているジェシカ・ディヴィスは、土壌破壊は気候変動を加速するのだと指摘する。「土には、すべての樹木と大気を合わせたよりも多くの二酸化炭素が含まれています」

~・中略・~

コーリャンを壊滅状態に追い込む「魔女の雑草」

最も進んでいるのが、発展途上地域において主要な穀物であるコーリャンに注目したプロジェクトだ。ビル&メリンダ・ゲイツ財団から資金提供を受けているラーイマーカースは、コーリャンの自生地であるエチオピアで現地試験を実施している。

その目的は、コーリャンの栽培を壊滅状態に追い込んでいる寄生植物「ストライガ」との闘いに、攻撃力の高い微生物を利用することだ。英語で「魔女の雑草(Witchweed)」と呼ばれるストライガは、紫色の美しい花を咲かせるが、各種穀物の収量を大幅に減少させている。

研究チームは、すでに温室で実験を行っているが、結果については慎重だ。「現段階で楽観的になるのは早すぎます」とラーイマーカースは述べる。

一方で、迫りつつある土壌の危機に対する賢明な解決策として、より日常的な方策を提案している人々もいる。土壌研究者だったジェニファー・ダンゲイトは、18年に研究生活から身を引き、土壌のストレスを軽減するために実行できる簡単な方法を農家に指導している。

例えば、耕起を控えたり、刈った茎などを地面に残してマルチング(土壌の被覆)にしたり、冬期に被覆作物を植えて土が流出しないようにしたりする、といったことだ。「鋤で切り刻まれてしまったら(菌類は)生きていけません」とダンゲイトは言う。

自滅に向けて“暴走”する農業

作物栽培の完全なリセットを目指す研究者たちには、時間という障害がある。現地試験は最大で10年かかる場合もあるうえ、そのあとには長期に及ぶ品種改良の過程がある。さらに規制上の問題もある。

ラーイマーカースは、新しい作物の種まきができるようになるまでには、10年から20年かかるとみている。ファン=デア=パトンは、長ければ40年かかる可能性もあると指摘する。

NIOOの取り組みが「予備調査的なもの」であることをファン=デア=パトンは認めている。しかし彼は、現行の農業が自滅に向けてすでに暴走を始めていることに対する解決策を見つける決意を固めている。

農業の再生とは、作物が生きるために必要な土壌を完全に破壊することなく、高い収穫高を維持する方法を見つけることを意味するようになるだろうと、ファン=デア=パトンは言う。そして、そうした状態を達成するには、何らかの譲歩が行われる必要がある。「わたしたちは、無分別な行為を続けることはできないのです

List    投稿者 asaoka-g | 2019-10-10 | Posted in G.市場に絡めとられる環境問題No Comments » 

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