2022-12-24

世界のエネルギーの動き~日本が中東諸国に依存するのは何故か?~

前回の記事では、化石燃料をはじめとしたエネルギー源の生成過程や気象変動の影響について紹介しました。

(前投稿:「そもそもエネルギー源とは何か?化石燃料とは?」より)

今回は、それら化石燃料がどこで採掘されるのか、世界各国での輸出入関係について紹介していきます。

地球の地下には石油や石炭、天然ガスなど多くの化石燃料が眠っています。
しかし、それらは地球のいたる所で採掘できるわけでは無く、大量に採掘できる場所もあれば、採掘できない場所もあります。日本のエネルギー自給率が低く、他国より資源を輸入しているのは埋蔵量が少ないことが要因の一つです。

では、日本を含めた世界のエネルギーの動きはどうなっているのでしょうか?
化石燃料は地球の何処で発掘され、日本と他国との輸出入関係はどのようになっているのか、いくつかの観点から見ていきます。

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■化石燃料埋蔵量と輸入国の割合

可採埋蔵量を大きく「石油」、「石炭」に分けた時、世界では下のような分布になります。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「石油」はベネズエラが18%、サウジアラビアが17%
「石炭」はアメリカが24%、ロシアが15%
化石燃料の種類によっても埋蔵量が違うのがわかります。そして、他国と比べると日本のエネルギー資源が乏しいのも明白です。

化石燃料の埋蔵量分布だけを見ると資源を多く採掘できる「石油」はベネズエラから、「石炭」はアメリカから輸入するのが自然な考えです。
しかし、日本は化石燃料の大部分を「中東諸国」と「オーストラリア」から輸入し、アメリカやロシアからはほとんど輸入していないのです。特に「石油(原油)」に関しては、9割以上を中東諸国に依存しています。

この情報から、必ずしも可採埋蔵量が多い国から資源を調達しているわけではなく、資源を輸入する国には埋蔵量の他に何か要因があることがわかります。

財務相貿易統計データ(2021年)より

 

■中東諸国と日本の関係性

最低限、資源を輸出入する相手の国とは良好な関係性でなくてはなりません。
上の表にもある原油の輸入が一番多いサウジアラビアに焦点を当てると、サウジアラビアと日本では古くから良好な国際関係にあります。
日本とサウジアラビアは1938年から外交接触が始まり第二次世界大戦で関係性が一時中断しましたが、1955年に正式に外交関係が樹立。1955年から現在に至るまで約67年間もの間、石油を中心に良好な国際関係を気づいてきました。

それだけには留まらず、官民が参画し両国の成長戦略に貢献するプロジェクトで構成されている「日・サウジ・ビジョン2030」が策定され、エネルギー資源だけに留まらない幅広い領域での戦略パートナーとしての関係も確立されつつあります。

日本の原油の輸入が中東諸国に集中しているのは、このような国際関係が大きく寄与しているのです。

「第6回日・サウジ・ビジョン2030閣僚会合」の様子

 

 

■エネルギー運輸の安全を確保する貿易経路

そして、相手国との国際関係に加えて重要な視点としてあるのが運送される際の安全確保です。
化石燃料の運搬は主に海運ですが、その海運ルートとして使われる狭い海峡のことを「チョークポイント」と呼び、座礁事故などが発生しやすい場所になっています。
代表的なチョークポイントはホルムズ海峡、マラッカ海峡、パナマ運河などがありますが、これらを何カ所も通ることは事故などのリスクを高めることになります。

実際の経路を見ると、中東諸国から日本への経路では「マラッカ海峡」と「ホルムズ海峡」を通過する必要がありますが、北米から日本への経路では地中海近辺にある数多くのチョークポイントを通る必要があり、リスクが大幅に上がることがわかります。

「世界の主なチョークポイント」

 

「一次エネルギーの動向(Statistical Review of World Energy 2018)より」

2021年、日本の会社が所有するコンテナ船が、地中海と紅海を結ぶ「スエズ運河」で座礁事故を起こしたニュースは皆さんの記憶に新しいと思いますが、運輸の途中で事故が起こると自国の資源調達が遅延し大きな問題となります。運搬費を可能な限り抑えることも大切ですが、いかに安全に資源を調達するかも資源調達において大切な視点になるのです。
以上のように、エネルギー資源の輸出入には埋蔵量だけでなく、国際関係や運輸ルートなど様々な要因が起因しています。中東諸国は中南米に比べ、埋蔵量も多く昔からの国際関係が良好であり、運搬ルートの安全性も高い国です。

しかし、資源価格や国際情勢、新たな新エネルギーの開拓、運搬経路の開拓など、様々な要因で資源調達の国が将来的には変化していくことでしょう。
すでに米国ではシェールガスの運搬に力を入れ、2016年に「パナマ運河」に新たな運河を開拓し大型船舶でも太平洋と大西洋を自由に行き来することが可能になりました。この開拓により日本へも、2017年1月、ルイジアナ州サビンパスからシェールガスの輸出が開始されました。

現在では、原油を中東諸国に依存していますが、日本における電力発電に使用する原油の量は減少傾向にあります。良好な中東諸国との関係も崩れるのは、近い将来あるかもしれません。

 

「資源エネルギー庁公開データ(2019年)」より

 

自国を運営するために必要なエネルギーですが、国際政治にも大きな影響を与えるエネルギー問題。
一つの観点から読み解くのではなく、様々な要因から分析することが重要なのだと感じます。

日本が中東諸国にエネルギー供給を依存しているのは、単に可採埋蔵量が多いだけでなく、長年かけて築き上げた国際関係、資源運搬ルートの様々な条件が整合しているからだと考えられます。他の国でも同じく輸出入を繰り返し、世界のエネルギー資源のやり取りが頻繁に行われているのです。
今回解明できなかった、エネルギー価格の決まり方や具体的なエネルギー取引についても今後追求していきたいと思います。

次回は、日本だけでなく中東やロシア、中国との繋がりなど世界のエネルギ事情についてご紹介します。

List    投稿者 hanatuka | 2022-12-24 | Posted in G.市場に絡めとられる環境問題No Comments » 

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