微小生物の螺旋運動・構造が医療の発展を促す
■微生物が流体中を自由に動き回る運動機能
自然界における多くの微生物にとって流体中を自由に動き回る機能は生存や栄養などの確保に必要不可欠な機能です。
微生物などのマイクロ/ ナノスケールの物体が流体中を運動する場合、寸法効果により強い粘性が働く。粘性力が支配する流体中での効率的な推進を実現するために、微生物はタンパク質でできた特殊なモーターで回転する螺旋状の鞭毛を発達させてきました。
いったいどのような仕組みになっているのでしょう。
■鞭毛により回転運動がおこる仕組み
鞭毛は多様な蛋白質から成り立つ複雑な構造で真核生物やバクテリアなどによっても構造が違います。
例えば真核生物である緑藻クラミドモナスの鞭毛は、軸糸は9本の微小管(8の字型の周辺微小管)が2本の微小管(中心対微小管)を取り囲む「9+2」と呼ばれるよく保存された構造をもつ.周辺微小管上には内腕・外腕と呼ばれる2つの突起があり,そこにモータータンパク質・ダイニンが含まれている.ダイニンはATPの加水分解エネルギーを利用して隣り合う微小管の間に滑りを起こし,その滑りが時間的・空間的に制御されて規則正しい屈曲運動を起こし、鞭を打つような動きを繰り返して流体中の推進力を得ているのです。
■医療工学への転用
これらの鞭毛の構造は生物の形態や構造、機能を模倣することで、新しい技術の開発やモノづくりに活かそうとする科学技術であるバイオミメティクス(生物模倣)でたびたび利用されています。
15年ほど前から開発されているのは、画像を送信したり、既存のカテーテルでは届かない体の部分に微量の物質を送り届けたりできる、大きさ250ミクロンの装置です。
このマイクロロボットの設計は大腸菌にヒントを得たもので、体内を進むための鞭毛が付いています。
圧電物質がロボット内部のらせん状の微小な構造体を超音波の周波数で振動します。この構造体がローターに押しつけられると、ねじれの戻る力でローターが回転するのです。
この鞭毛は予備研究の段階では人間の毛髪から作ろうとされていますが、ゆくゆくはケブラーを使ってみたいと研究者たちは考えています。
最新のマイクロロボットとしては「螺旋状ハイドロゲルマイクロロボット」があります。
これも電気信号を印加することで回転運動を起こす点では従来のものと変わりませんが、先進的な取り組みとして、柔軟な螺旋状ボディは外部環境に応じた変形を行い、自律的な推進制御の実現を目指しています。螺旋ボディは温度やpH、光、グルコースなどの化学物質などに応答して、膨潤収縮する特性をを有する刺激応答性ゲルで構成されており、これは螺旋状の微生物であるツリガネムシの体の内部にあるサルコメアと呼ばれる筋肉組織から着想を得ています。
以上のように微小生物がもつ螺旋構造や螺旋運動が体内運動のカギとなっているのです。
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