2011-03-07

環境問題のパラダイム転換シリーズ5 ~京都議定書から見る排出権取引の実態~

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環境問題解決のための政策や運動の方向性が、経済活動を加速し、環境問題悪化の原因になっているという現象が散見されます。先の『いってることとやってることが違う』という感覚は、ここから来るのだと思います。これは、多くの人が抱いている感覚でもあります。
環境問題のパラダイム転換 1 ~CO2地球温暖化仮説を題材にして~プロローグ

画像はJANJAN様からお借りしました。

上記のように、密接に絡み合う環境問題と経済活動への違和感は、誰しもが感じるところであり、「排出権取引」はその中心的な事例なのではないでしょうか。
そもそも「排出権取引」とは、

全体の排出量を抑制するために、あらかじめ国や自治体、企業などの排出主体間で排出する権利を決めて割振っておき(排出権制度)、権利を超過して排出する主体と権利を下回る主体との間でその権利の売買をすることで、全体の排出量をコントロールする仕組みを、排出権取引(制度)
EICネット 環境用語集

とあり、前提となる排出権取引の目的とはCO2排出量の削減の為ですが、「実際どのような状況になっているのかはよくわからない」というのが大部分の人達の感覚ではないかと思います。
そこで今回は、この「排出権取引」への漠然とした違和感の部分を検証していきたいと思います。

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☆☆☆排出権取引制度は何を実現してきたのか
☆リーマン・ショック後の排出権取引の動向
2008年のリーマン・ショックにより、世界的な経済不況から、物の生産量等は減り、CO2の排出量は減少しています。したがって、本来の目的である「CO2削減」という目的は達成されたはずです。
ところが、このような状況を受けて、2010年度の世界銀行レポートではこのように表現されています。

リーマンショックに端を発した世界的な金融危機の影響を受け、排出権価格は急落し、多くの金融機関が排出権関連業務の縮小・撤退を余儀なくされた。
京都議定書が発効した2005年から一貫して拡大基調を続けてきた国際排出権取引市場は2009年、大きな試練を迎えた。
2013年以降の排出権の需要を左右する最大の要因として、各国にどのような排出削減義務が課せられることになるかや、CDMプロジェクト等により発生する排出権がどのように位置づけられるか、さらに新たな国際排出権取引ルールが考案されるかが注目される
国際排出権取引市場の現状と今後の展望/世銀レポートにみるリーマンショック後の姿/みずほ政策インサント

上記のように、排出権取引市場を取り仕切っている世界銀行でさえ、「いかに排出権市場を維持、拡大できるか」という意識が先行し、本来の目的の「CO2削減」という意識は伺えません。
銀行にとっては「取引が行われること」が存在基盤である限り、当然といえば当然なのですが、このように排出権取引市場の拡大(or維持)が目的化され、彼ら(銀行)にとっては、本来の目的であるCO2削減は二義的でしかないと言わざるを得ません。

☆「市場価値>環境対策」となっている排出権取引の実状
では一方、取引を行っている国々はどうなっているのでしょうか?
下記は日本とウクライナとの排出権取引での一件(2010年、2009年)です。

京都議定書の温室効果ガス排出削減義務を単独で達成できない日本が昨年、ウクライナから余剰排出枠を購入する際に払った代金が、同国で行方不明になったことが二十五日までに判明した。代金は環境投資に充てる契約になっており、日本はウクライナに調査を要求した。
日本はウクライナを含む外国との排出枠取引に際し、カネで解決を図ったとの批判を避けるため、売却代金の使途を環境投資に限定する「グリーン投資スキーム(GIS)」を適用してきた。しかしGISは環境投資の手続きや監視などに関する国際規定がなく、不適正な資金流用のリスクを抱えている実態が浮き彫りになった。
関係者によると、不明となっているのは日本が昨年、ウクライナの排出枠千五百万トンの購入で払った代金で、およそ二百億円相当とみられる。ウクライナ側は入金を確認したが、今年二月の政権交代後、特別口座に預けるはずの代金がなくなっていたことを明らかにした。
~(中略)~
二月に誕生したヤヌコビッチ政権は、前政権が代金を流用した疑いがあると非難している。
~(中略)~
経済危機が深刻なウクライナ政府にとって、排出枠は貴重な収入源で、12年までに今回の15倍の排出枠を外国に売る方針だ。
温室ガス排出枠購入 払った200億円どこへより引用

途上国では“貴重な収入源”として認識され、現に資金は消失したというのです。
このように、「排出権取引=環境対策」とはお題目に過ぎず、「市場価値」として位置付けられているのが、排出権取引の実状なのです。
これらの事例が示す通り、排出権取引制度が市場に組み込まれて以来、目的(CO2削減)と実態(市場拡大の道具として使われる)に大きな矛盾が出ていることは明らかです。
しかし、このような事態は始めから予測がついた事態とも言えます。それは、排出権取引制度が生まれた背景を検証することで見えてきます。

☆☆☆排出権取引とは覇権争いをきっかけとしたEU側の金融市場拡大の道具である
☆アメリカは初めから京都議定書の批准を拒否
京都議定書の削減義務に対して数値目標を決める際(COP3/1997年)、アメリカは始めから、その条約には批准しないという意思は決まっていました。また、米国では「国際条約の批准には憲法の規定により上院議員の2/3 の賛成が必要とされる」ことから、京都議定書の米国の批准は当初から無いことが前提だったと言えるのです。そして現在もアメリカには京都議定書におけるCO2削減義務はありません。

アメリカでは京都議定書(1997年12月)の前の1997年7月に、ハード=ヘーゲル決議で『アメリカ経済に深刻な影響を与えるような条約、発展途上国による地球温暖化防止への本格的参加と合意が含まれない条約には批准しない。』という議案が全会一致という圧倒的支持のもとに議決されていた。
京都議定書で嵌められた日本 2『過剰消費なのに持続可能な開発と言う欺瞞性』

また、下図は1990年から2008年までの各国のCO2の排出量をグラフ化したものです。

※グラフは独立行政法人国立環境研究所『附属書I国の温室効果ガス排出量データ(1990~2008年)』を元に作成
アメリカだけが1990~2000年まで増加の一途を辿り、その他のEU、日本はほぼ並行しているようです。
つまり、京都議定書の削減目標の基準年が1990年であるため、アメリカにとっては非常に不利になってしまうことになります。
このことからも「1990年基準の京都議定書」の批准を拒否した理由が伺えます。

☆EUは自国の経済的優位性を押し通した
COP3は1997年に行われ、京都議定書を各国が批准したのが2005年です。しかし、何故それより遡り、『1990年』という中途半端な時期に基準を設定する必要があったのでしょうか?
それにはEUの政治的(=経済的)策略があるからです。
1990 年に東西ドイツは統一され、旧東ドイツの旧式の設備は廃棄され、エネルギー効率は急速に改善しました。それによって、1990 年以降東側の温室効果ガスは大きく削減されました。また、英国では国内産の石炭から北海油田のガスに切り替えられ、フランスでは石炭から原子力発電への転換が行われたのです。
こうすることで、1990年から1997年までの削減分が見込まれることになり、EUにとって非常に有利になります。

そこで、実際にどのように数字に現れるか検証するため、各国のCO2排出量から『1990年基準』での削減率(図1)と、『2000年基準』での削減率(図2)を各国で比べてみました。
※グラフは図1,2共に独立行政法人国立環境研究所『附属書I国の温室効果ガス排出量データ(1990~2008年)』を元に作成
図1:1990年基準(京都議定書基準)の2008年までのCO2削減率


図2:2000年基準の2008年までのCO2削減率

上記の図1、2を比較してみると、1990年基準(京都議定書基準)だと、EUは削減率-6.5%ですが、2000年比だと-3.5%となり、EUにとっては1990年基準の方が多く削減したことになり、有利なことが分かります。
一方アメリカの場合、1990年基準だと増加率のほうが多くなり、削減したことにならなくなってしまいます。また、2000年基準だと各国殆ど削減率は同じくらいだということも分かります。
したがって、EUが環境対策に積極的だというのは数字のトリックであり、始めから国家間の覇権争い(=市場拡大)の道具として「排出権取引」は使われているのです。その結果、1990 年を基準年にすることを提案したEUの政治的策略が成功し、アメリカはいち早く逃れましたが、日本だけがマジメに削減に取り組んでいるという状況なのです。
※参考:温暖化問題を巡る国際交渉の歴史と現状
※参考:京都議定書で嵌められた日本 3『京都会議時点ではなく90年が基準年なのは?』

以上のように、排出権取引の実状とその背景を検証することで、排出権取引というのは、『CO2削減という目的はあくまで二義的であり、本来の目的は「市場拡大」だということ』がはっきりしました。
次回は、排出権取引の仕組みそのものを構造化するとどのようなことが浮かび上がるのか?その部分に踏み込んでいきたいと思います。

List    投稿者 tutinori | 2011-03-07 | Posted in G01.二酸化炭素による温暖化って本当?4 Comments » 

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コメント4件

 タッキー | 2012.01.30 0:46

初めまして、タッキーと申します。
地震予知というとても興味深い内容でしたのでコメントさせていただきました。
更新が楽しみです。

 匿名 | 2012.01.31 21:00

 地震予知って、色んな手法がありますね。これだけあれば、どれかは本当に可能性があるかも?!
 でもここで紹介されている手法って、あまり一般的に知られていない??なんでなのでしょう?

 ぴのこ | 2012.02.02 0:35

タッキーさん
コメントありがとうございます♪
現在の日本における災害でもっとも恐ろしいのは、地震。
にも関わらず、日本の地震学者が予知できたことはありません。
私たち、素人も追求すれば可能性のある予知の方法を探索することができます☆
これから、シリーズ終盤です!お楽しみに!

 ぴのこ | 2012.02.02 0:43

2つめのコメント下さった方へ
コメントありがとうございます☆+’
いろいろ扱ってみて、可能性が見えてきましたよ(^^)。
でも、どれも聞きなれないものばかりですよね。。
そうなんです!!
可能性がありそうなのに、全然研究されてない感じ。。
なんでなんでしょうか?
その謎については、再来週に投稿が入りますので、お楽しみに・・♪

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