2011-12-17

【自然災害の予知シリーズ】-9~明瞭な電波異常と発生地特定のしやすさが特徴のULF観測

地震に伴う地球上の電磁気的影響を観測することが試みられています。
今回は、この試みを紹介する第4弾です。
 
 ~前回まで~
【自然災害の予知シリーズ】‐6 ギリシャで成功している予知~VAN(地電流ノイズによる予知)
【自然災害の予知シリーズ】-7~VHF電波の乱れで地震を予知する~
【自然災害の予知シリーズ】‐8 ~地震に伴い電離層は擾乱する。それによりVLF電波の伝搬異常が起こる~ 
今回は、地震発生前に発生するULF帯磁場強度を観測する手法を早川正士氏らが研究しているので紹介していきます。
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◆ ◆ ◆ ULF波ってなに?

 ULF(Ultra Low Frequency)は超低周波、極超長波といわれる電波のことを言います。
周波数が低く(波長が長く)大地や水中を通り抜ける特長をもっています。そのため、軍によって他者に傍受されない安全な通信の手段として使用されていました。現在は鉱山での通信の他、潜水艦との交信にも利用されています。
 ULFの周波数は厳密には定義されていませんが、早川氏は通常10Hz以下を指すといっています。
ITU(国際電気通信連合)の定義では10Hz以下はELF(extremely low frequency,)を指し、ULFは300Hz~3kHzの周波数を指しています。)
 この周波数帯では地中における表皮効果による減衰が、高周波に比べて低く、地震に伴って発生する電磁放射を観測しやすいという特長を持っています。
※表皮効果とは、周波数が高くなるほど、導体の交流抵抗が高くなること。
Q.では、ULF帯電磁放射と地震との関係は?

◆ ◆ ◆ ULF帯電磁放射は大地震前に発生する
 ULF帯電磁放射は、先に述べた通り波長が長い。したがって、その発生には大きな発生源が必要となります。ULF帯電磁放射は岩盤がわれる際に発生されると言われています。つまり、大きな岩盤が割れるほどの大きな力がかかったときのみULF帯電磁放射が発生します。
そのため、ULF帯電磁放射は大地震の時だけ発生することが特徴です。
 そして、ULF法とはこの観測事実から、地震発生前のULF帯電磁放射を観測し、地震の予知をする手法といえます。
 
Q.では、どのように観測しているのでしょうか?

 
◆ ◆ ◆ ULF帯電磁放射の観測手法
ULF帯電磁放射を直接観測するのはノイズの影響で困難な為、ULF帯電磁場強度の測定をしています。
 
◆ 地震前に発生するULF帯磁場強度の異常変動を観測する ⇒ 地震予知
 
ULF帯地場強度は地磁気観測用のセンサを使って観測されています。地震に関連すると思われる電磁気信号は、地磁気変動や人工雑音より小さいと考えられているため、トーション型磁力計、インダクション型磁力計およびフラックス・ゲート型磁力計などの高感度磁場センサが使われます。
 
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写真1:インダクション型磁気センサ磁力計
(RFワールドno.4 CQ出版社 よりお借りしました)
 
 また、写真でみて分かるように観測は地表で行っています。
これは、最初にあげたULFの特徴「この周波数帯では地中における表皮効果による減衰が、高周波に比べて低い」から、地中で発生した電磁波が地表まで減衰しないで届くのです。
 
 では、実際にどのような観測事例があるのかを見ていきます。

 
◆ ◆ ◆ ULF帯電磁放射の観測事例
 
◆ ◆ 世界の観測事例
◆ 1988年12月7日発生 アルメニア スピタク地震(M=6.9)
 

 
図1:スピタク地震ULF帯磁場強度
(RFワールドno.4 CQ出版社 よりお借りしました)
 
 図1の(a)は、縦軸にULF帯磁場強度の値をとっています。
(b)は、縦軸に地磁気活動度の値をとっています。一般に、地磁気活動度はULF帯磁場強度の変動の主要因となっています。(a)(b)の横軸は、共にスピタク地震(1988年12月7日)発生前後の期間を表しています。
 
(b)のグラフを見ると、地磁気活動度は安定しています。
一方、(a)のグラフを見ると、地震の約10日前から磁場強度が上昇し、約45日後には平常値に戻っています。
 
地震前の磁場強度上昇時に地磁気活動は安定しています。このため、この磁場変動が地震に関連した変動である可能性が高いと考えられています。

 
◆ 1989年10月17日発生 アメリカ合衆国カルフォニア州 ロマプリータ地震(M=7.1) 

 
図2:ロマプリータ地震前後のULF帯(0.01Hz)の磁場強度
(RFワールドno.4 CQ出版社 よりお借りしました)
 
 図2はロマプリータ地震(1989年10月17日)発生前後でULF電磁場強度の変動を表したグラフです。
 
 図2を見ると、ULF帯磁場強度は地震の約2週間前から上昇し、地震のほぼ1週間前まで継続しました(第1のピーク)。地震発生の直前には更に磁場強度が急上昇しました(第2ピーク)。
また、地震の発生前においては、スピタク地震同様に地磁気活動度は安定していました。従って、この変動も地震に関連した変動であること可能性が高いと考えられています。

 
◆ ◆ 日本の観測事例
◆ 1986年7月1日/7月9日/7月15日発生 伊豆諸島地震(M= 6.1/6.4/6.3)

 
図3:伊豆半島地震、震央の位置
(なぜ電磁気で地震の直前予知ができるのか 早川正士 著 よりお借りしました)
 
図3は、1986年7月に伊豆諸島で起こったマグニチュード6.0以上の3つの地震の震央が示されています。網掛けの●や▲は、磁場観測を行っている場所です。
伊豆半島の三観測地点(清越、持越、賀茂)から震央までの距離は50~60km程度です。
 

 
図4:伊豆半島(清越、持越、賀茂)観測地点での磁場強度の変動
(なぜ電磁気で地震の直前予知ができるのか 早川正士 著 よりお借りしました)
 
図4は、図3の中にある7月の3つの地震のULF帯磁場強度の変動を表現しています。磁場強度の値は、震央から50~60km程度の伊豆半島(清越、持越、賀茂)で観測した値です。
図4を見ると、地震発生の約1カ月前から徐々に上昇しています。
そして、1週間前後で降下および地震直前から急上昇を示しています。
これは、世界の観測事例と同様な変化をしています。

◆ 1997年3月26日/5月13日発生 九州地震(M=6.5 /6.3)
1996年3月26日と5月13日に、九州でM=6.0以上の地震が観測されました。
観測された2つの地震は震央から約60kmの鹿児島県垂水(磁場観測地点)でULF帯電磁放射が確認されました。
 

 
図5:磁場観測地点(垂水、父島、ダーウィン) 
(なぜ電磁気で地震の直前予知ができるのか 早川正士 著 よりお借りしました)
 
図5には、磁場観測を実施している父島およびダーウィン観測点と垂水観測点との位置関係を示しています。
 

 
図6:3観測地点(垂水、父島、ダーウィン)での磁場強度の変動
(なぜ電磁気で地震の直前予知ができるのか 早川正士 著 よりお借りしました)
 
図6は、図5に示した3観測地点のULF帯電磁場強度の変化をプロットしたものです。
垂水のグラフを見ると2月末(地震一ヶ月前)から通常時から2倍に上昇しています。その後減少が始まり、その減少が落ち着いたところで最初の地震が発生し、しばらくその値が継続しています。再び、その減少が始まり、第二の地震が発生しています。
一方、父島、ダーウィンでの変化は安定していることから、ULF帯電磁放射の観測は観測地点が遠いと確認出来ないことがわかります。

◆ ◆ ULF帯電磁放射の観測事例から見える特徴
◆ ULF法の観測範囲は、M=7クラスの地震で震央から100km程度以内
 

 
図7:これまでに解析された地震とULF帯地磁気異常の存否
(地震予知はできる 上田誠也著 よりお借りしました)
 
 今までの観測事例より、ULFの観測はM=7.0クラスの地震で100km程度圏内では確認されています。
アミかけの部分は理論的に信号のキャッチが期待される領域を示しています。
 
図7を見ると、M=7.0クラスの地震なら100km程度、M=6.0クラスの地震なら60~70km程度圏内で観測が期待されています。
逆に言うと、観測範囲が狭く地震発生地を特定しやすいといえます。

 
◆ ◆ ◆ ULF法を用いた地震予知の可能性
 
ULF法の特徴をまとめると、
 
①日本でも地震前に発生するULF帯電磁放射を観測可能。
②1ヶ月前に1度目の磁場強度上昇があり、その後鎮静化して数日前に再び上昇する。更に、数時間前に急上昇する。
③地震前兆を表すULF帯電磁場強度の異常値は素人目で見ても分かりやすい形をしている。
④大型地震の観測が可能。
⑤ULF帯電磁場強度の異常値が数時間前に出るため、短期予知の期待が高い。
⑥観測範囲が概ね100kmと狭いため、震源地が特定しやすい。
 
 
以上から、今まで見てきた地震予知法の中で最も可能性がある手法ではないかと思われます。
特に、大地震に対して短期予知の可能性があると期待されると考えられます。 
 

 
図8:ULF帯磁場強度観測ネットワーク(関東)
(なぜ電磁気で地震の直前予知ができるのか 早川正士 著 よりお借りしました)
 
 既に関東地区では図8の様に、伊豆半島、千葉、柿岡、秩父、松代の5観測地点を設置し観測をしています。
 おおむね1県1観測所を設置していけば、日本全国で大地震に対しての短期予測が可能になってくるのではないでしょうか。
 
今後の研究に大いに期待できそうです。
 

List    投稿者 yhonda | 2011-12-17 | Posted in D05.自然災害の予知No Comments » 

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