2009-04-25

地球環境の主役 植物の世界を理解する <番外編> 地衣類 ~共生による進化適応の世界その2~

今回は、前回の番外編にひきつづき、驚きの植物の共生世界にスポットを当ててご紹介します 😀

みなさん地衣類(ちいるい)ってご存知でしょうか?古い樹の幹や石や岩に良く見られるもなので、おそらく、殆どの人がみたことがあるのではないかと思います。それは、苔のような・・・カビのような・・・そんな生き物です。そしてなんと、この地衣類こそが植物の地上への上陸進化のパイオニアだったのです

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木の幹に見える斑の部分が地衣類です

え~?コケじゃないの?!

地衣類は苔でもなく、カビでもキノコでもありません
さて、驚きのその地衣類の正体とは!!

気になる方はポちっとね♪

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これまで本編の植物シリーズで扱ってきたように、植物は大きく分類するとコケ・シダから裸子植物・被子植物と進化してきました。しかし、その進化とは植物の単独進化としてではなく、実は常に他生物との共生によって果たされてきたのです。

031.jpg地衣類の一種

さて、今回はそんな植物の陸上共生の始まりのお話です

●5億年前最初に陸地に上陸した植物の先祖は地衣類だった!!

最初に陸地に第一歩を印した名誉ある植物、藻類は協力者としてある種の菌類を見付けました。藻類単独では、海草と同じで乾燥に耐えられない為、上陸と言っても水際への進出が精一杯。しかし、菌類の作り出す構造の内部に水分を溜め込み、その中で生きることでついに陸地への進出を果たしたのです。植物は海中に引き続き、ここでも「共生」という道をえらびました。それが藻と菌類の共生体、つまり「地衣類」の誕生です。

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地衣類の一種

菌類は乾燥にも強く酸にも強い生物です。そして、藻類は光合成により自らエネルギーを作り出せる生物です。この両者が手を組んだ地衣類の適応力は凄まじいの一言です。嫌気性細菌が好気性細菌を取り込んだという「共生論」を唱えたリン・マ-ギュリスはその著書『共生生命体の30億年』の中で、極北の地でさえ繁殖する力を持つ地衣類の生命力について次のように述べています。 

  南極のヴィクトリアランドの不毛の谷は氷でおおわれた地獄だ。夏でも周期的に岩の上を強風がき、溶けはじめた氷をたちまち凍らせてしまう。それでも岩の一、二ミリメートル下には、菌類と藻類と細菌の共生的混合体である地衣類が繁殖し、多孔性の砂岩にまですみついている。透明な石英の粒を通してとどく日光のおかげで生きているのだ。全世界の岩に生息する地衣植物の総量は、13×1013トンにのぼると算定されており、バイオマスとしてはなんと海に生息する全生物より多い。
切り立った岩にへばりつく菌類に保護されて成長した藻類が岩肌をおおい、ついには岩を砕いて土壌に変え、植物の根や菌類の菌糸のネットワークが入り込めるようにする。地球の硬い岩石は、菌類と藻類の協力の結果、何億年という歳月をかけて砕かれ、豊かな養分を持つ土壌になった。地衣植物もまた、陸地を生物の生息に適したおだやかな場所にしている主役の一人なのだ。
地衣類が張り付き、岩を砕いて土壌に変えた場所に、続いて蘚苔類が根を下ろしていく。苔類は土壌水分を充分保持させていった。羊歯類や草類が無愛想な陸地に緑の絨毯を敷き詰め、菌糸や落ち葉が土壌を肥沃にし、植物の根が張って地上に植物の王国を築いていった。

このように過酷な環境に適応できる生命力を持つ菌類と自らエネルギーを生み出せる藻類の共生態である地衣類(最強コンビ)が、地球上で最初に上陸した植物の先祖だったのです。そして、その地衣類たちが長い長い時間をかけて、無機的な岩石を酸で溶かし、自身も死骸となり、その後の植物繁栄の礎となる最初の土壌を形成していくことになるのです。そして、その土壌の上にやがて苔・シダ植物が登場します。

植物の進化過程の大きな第一歩である陸上進出の段階においても、植物はみごとに新たな共生関係を構築して新世界に適応していったのでした。

●地衣類って何?

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あらためてですが、地衣類とは菌類と緑藻やシアノバクテリアとの共生体です。地衣類は、見た目上もコケ類と間違われやすいのですが、菌類の作った構造の内部に藻類が共生して成立している複合的生物体の名称です。なぜ共生体かというと,地衣類の藻類と菌類を分離できないからです。菌類を除去すると藻類は死滅するし,藻類がいないと菌類も死滅する。要するに,菌類と藻類で一つの生命体なのです。

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地衣類の断面図・菌類の構造の中に藻類が共生しています

菌類構造のマンションに住む藻類住人って感じですね~

厳密には環境を整えた実験室でこれらを分けることは不可能ではなく、それぞれに独立した生物と見なすことも可能ですが、実際には両者は強く結びついて生活しており、また両者が揃うことで形成される特殊な成分の存在や、極めて特殊な環境でも多様に生活できることから、現在では独立した生物群=共生体と見なしています。ただ、その主構造を構成するのは菌類ということから、その名は菌類として扱われています。(反面、過去にコケと間違われて分類されてきた経緯から○○コケという、コケの名を持つ地衣類も多いようです)

20070924164740s.jpgコナアカミゴケ(地衣類)

菌類と藻類の共生体によって始まった陸上の植物進化。その後の進化過程でも、植物は多様な種との共生を試みて逆境に適応進化してきました。

あまり知られていませんが、地衣類以外の植物も共生適応の系譜を今も受け継いでいます。現生の植物でも、実にその8割が菌根菌という菌類と共生しています。この菌は植物から栄養をもらい、お返しにリン酸を効率よく吸収して宿主植物に供給しているのです。

さらに驚くのが、この菌根菌が菌糸でつながり多種多様な植物が共存する地面の下で、ネットワークを築いているという事実です。近年では、この菌根菌のネットワークを通じて、実は植物同士も情報や物質のやり取りをしている可能性が議論されています

次回の番外編ではこのあたりを探ってみたいと思いますのでお楽しみに!

<引用及び参考に頂いたサイト>
縄文塾中村忠之さん・「森と人の地球史」「植物陸に上がる」http://joumon-juku.jp/mori&hito/013.html
国立科学博物館・地衣類の探求http://research.kahaku.go.jp/botany/chii/index.html

List    投稿者 kasahara | 2009-04-25 | Posted in D.地球のメカニズム1 Comment » 

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コメント1件

 コバヤシ | 2009.12.22 19:29

消費第一の価値観だから、ゴミ問題が発生しているのなら、やはり消費第一の価値観を何とかしない限り、ゴミ問題は解決するわけがない。
逆にみんなの意識潮流は既に共認第一になっているので、あとはその意識潮流に乗りさえすれば、解決しそうに感じます。消費第一=市場第一を切り崩すことが重要です。

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