2012-12-05

【地球のしくみ】18~大気編(4)~「海底の化学物質」の枯渇という逆境から「酸素発生型光合成生物」は生まれ、「地球の磁場の発生」という変化から大増殖、そして地球の大気は激変した。

前回は、地球に二酸化炭素と水蒸気が中心の大気が誕生し、如何にして現在の地球の内部構造(マントル、外殻、内殻の三重構造)が出来たのかを見てきました。
今回はその二酸化酸素と水蒸気中心だった地球の大気が、今の窒素と酸素中心の大気へと劇的に変化していった過程を追います。
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(泡海)
現在の地球の大気中には、約21%の酸素(O2)が含まれています。
しかし、初期大気には、水素に還元されて水(H2O)として含まれていても、遊離酸素O2としてはほとんど含まれていませんでした。それがどうして大気中に含まれるようになったのでしょうか?

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◆ ◆ ◆ 光合成生物の誕生が地球の海洋環境を変えていった。
およそ20億年前までの海の地層の中には、海底に沈殿した鉄鉱物と石英とが繰り返して縞状の地層をつくっている「縞状鉄鉱層」が頻繁に含まれています。
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(縞状鉄鉱層)
この縞状鉄鉱層ができるためには、酸素の少ない状態で海中にとけ込んでいた鉄の二価のイオン(Fe^2+)が、酸素にふれて水に溶けにくい三価のイオン(Fe^3+)に変化し、水酸化鉄(酸化鉄)になって海底に沈殿する現象が、海中で周期的に起きることが必要になります。

①Fe2+ → Fe3+ + e-
②2 Fe3+ (aq) + (n+3)H2O → Fe2O3・nH2O↓ + 6 H+(aq)

地層の中に縞状鉄鉱層があるということは、当時の海洋が酸素に乏しい状態であり、かつ、何らかの要因で海洋の中に周期的に酸素が供給されて鉄鉱物を沈殿させていたことを示しています。
その酸素を海洋に供給していたのは何なのでしょうか?
◆ 海洋に酸素を供給していたのは紫外線ではなく光合成生物だった。
一つの仮説として、オゾン層のなかった当時の酸素の供給源は、太陽の紫外線が、水蒸気(H2O)を分解して水素と酸素に変えていたことが考えられます。確かに、当時の大気中の酸素分圧は紫外線による水の光分解によって決まっていましたが、その濃度は現在の5.0×10^9乗分の1以下ほどです。その僅かに生成された大気の酸素が海中に取り込まれ、縞状鉄鉱層を形成する可能性は低いといえます。さらに、光は年中降り注いでいるものなので、その光によって周期的に酸素が供給され鉄鉱物と石英が繰り返して縞状の地層をつくることは難しそうです。
実は紫外線ではなく、縞状鉄鉱層の形成には、38億年前に海が形成され、35億年前に生物(原核単細胞生物)が誕生したあとに登場した「光合成生物」が重要な役割を果たしていました。
光合成生物が海中で酸素を発生させることで、海中の鉄鉱物が酸化され沈殿していったのです。
なぜ、縞模様になるかというと、光合成生物の活動が盛んになる夏場には酸化鉄、逆に活動が衰える冬場には砂、という“鉄→砂→鉄→砂→・・・”の繰り返しによって層状に堆積していったからです。
このように、海洋に酸素を供給していたと考えられている光合成生物ですが、原核単細胞生物が誕生してから、どのようにして光合成生物が生まれたのでしょうか?

◆ ◆ ◆ 生命は生き残るために、光からエネルギーを作り出す『酸素発生型光合成』を始めた。

地球上の全ての生物は炭素代謝によって生きています。
そのエネルギー源である炭素をどうやって得ているかで、生物は「従属栄養生物」「独立栄養生物」の2種類に大別できます。
「従属栄養生物」は自ら炭素を合成できず、他の生物が作り出した炭素成分を利用する生物で、「独立栄養生物」は無機化合物(二酸化炭素、重炭素塩など)を炭素源とし、無機化合物または光をエネルギー源として利用する生物のことを言います。
始原生命から光合成生物へと進化する過程で、生物は様々な環境変化に適応することで生きてきました。
生物はどのように環境に適応して光合成生物へと進化したのでしょうか?
その流れを見ていきます。
◆ 従属栄養生物から独立栄養生物への進化
始原生命は、海中の有機化合物(糖質CmH2nOn、脂質CH2-O-CO-R-CH-O-CO-R’-CH2-O-CO-R”、タンパク質NH2-[-CH(R)-CO-NH-CH(R’)-CO-]n-OH)を栄養源に繁殖する「従属栄養生物」でした。しかしながら、彼らの生存していた環境に存在する化学的に合成された有機物は有限で、繁殖が進むと環境適応の限界を迎えます。
その外圧を突破し適応するために、従属栄養生物の中から、海中に存在する硫化水素(H2S)や亜硝酸(HNO2)などの簡単な無機化合物を酸化してエネルギーを得る(化学合成)「独立栄養生物」へと進化する生物が登場しました。
こうして、海中に存在する栄養源を直接摂取する「従属栄養生物」から、自ら栄養のエネルギーをつくり出す「独立栄養生物」への大進化を起こすのです。
しかし、硫化水素(H2S)や亜硝酸(HNO2)などの化学物質も限界があり、またもや繁殖が進むと環境適応の限界という外圧にさらされることになります。そうするとまたしても、生存の危機に直面する生物のなかから、新しい生物が誕生します。
◆ 化学合成生物から光合成生物への進化
海中の化学物質も限界があり、生存の危機に直面する生物のなかから、太陽からほぼ無尽蔵に降り注ぐ光エネルギーを使い、自ら栄養のエネルギーをつくり出す「光合成生物」が登場します。
ただし、光合成生物といっても初期の生物は、酸素を嫌う「嫌気性菌」でしたので、まだ、植物のような水(H2O)との化学合成により二酸化炭素(CO2 )を還元して炭素(C)からエネルギーを得ると同時に酸素を破棄する光合成生物ではありませんでした。
◆ 光合成生物の種類と酸素発生型光合成生物への進化
光合成する微生物が、二酸化炭素から有機物を合成するためには水素が必要です。この水素をどのように得るかにより,代謝システムが異なります。例えば緑色硫黄細菌は硫化水素(H2S)から水素を取り出すため,廃棄物は硫黄で、酸素ではありませんでした。この仕組みはある特定の物質を必要としているという観点からは,化学合成型の生物と類似しています。

①6 CO2 + 12 H2S → C6H12O6 + 6 H2O + 12 S
②6 CO2 + 12 CH3CHOHCH3 (イソプロパノール)→ C6H12O6 + 6 H2O + 6 CH3COCH3 (アセトン)

ところが、その中から、水素を得るために、海中により豊富に存在している水を選択した生物が現れます。二酸化炭素と水から有機物を合成するので廃棄物は酸素になります。

6 CO2 + 12 H2O → C6H12O6 + 6 H2O + 6 O2

こうして『酸素発生型光合成』をする生物が登場するのです。
これは、地球の自然環境を全く違う世界に大転換させるような、生物史上最大の劇的な進化でした。
その代表的な例が「シアノバクテリア」です。
そのシアノバクテリアのような酸素発生型光合成生物が大繁殖したことで、地球の海洋と大気の環境が大きく変わったのです。
では、シアノバクテリアはいつ、どのように大繁殖したのでしょうか?
◆ 地球の磁場の発生が酸素発生型光合成生物を大繁殖させた
「シアノバクテリア」は、シアノバクテリア類の死骸と泥粒などによって作られる層状の構造をもつ「ストロマトライト化石」から、27億年前に大繁殖したと推定されています。
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シアノバクテリア
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ストロマトライト化石
27億年前といえば、地球の内部構造が、マントル、外殻、内殻の三層構造となり、地球が磁場を持った時期と一致します。地球が磁場をもつことにより、地球の外側に磁気圏が形成されます。
地球ができてから磁気圏ができるまでの約19億年間、地表には宇宙から、地球上の生物にとって非常に危険な、太陽風などの大量の高エネルギー荷電粒子が降り注いでいました。
その太陽風を、この磁気圏が防ぐようになります。
磁気圏は太陽風から地球を守るバリアとなっているわけです。
磁気圏ができることにより、海の深くにしか住むことの出来なかった生物がより広い範囲に進出できるようになり、酸素発生型光合成生物はより強い太陽光を浴び、吸収することで爆発的に繁殖していきます。
このように、自然環境の変化に適応していく過程で、酸素発生型光合成生物は誕生し大繁殖しました。
さて、シアノバクテリアなどの活動によって海中へ大量の酸素が供給され始めました。
その結果、地球の大気に大きな変化が現れます。

◆ ◆ ◆ 二酸化炭素中心の大気から酸素中心の大気へ

縞状鉄鉱層は、19億年前よりも新しい時代にはほとんど出現しなくなります。
これは大気に酸素が含まれるようになり、鉄が二価のイオンとして溶け込むことが難しくなったことを示しており、地球の大気に少しずつ酸素が増えてきたと考えられます。
そうすると次第に陸上へも影響が出始めます。
20億年前以降の陸上の河川底に堆積した岩石(堆積岩)に、大気中の酸素によって「鉄成分が酸化され赤色を呈する砂岩(旧赤色砂岩)」が見つかっています。この岩石は20億年前より古い地層からは産出していなく、このことから、20億年前以降には鉄を酸化させるほどの酸素が大気に存在したと考えられます。
上記の2つの証拠、 「縞状鉄鉱層の形成年代」「大陸部赤色砂岩の出現年代」から判断すると、30億年前頃に登場し27億年前に大繁殖したシアノバクテリア(藍藻)により放出された酸素は、少なくとも20億年前までは大気中に蓄積は起こらず、海中の鉄や硫黄の酸化に使われていたと考えられます。
そして、光合成活動は鉄の沈殿の有無にかかわらず、豊富な二酸化炭素を使って進行した結果、20億年前頃に海水中の溶存酸素が増え、海水と平衡状態にあった大気中の酸素分圧が増加したのです。そして、20億年前頃を境に、大気中の酸素濃度が増え続けていくのです。
次回は、地球を酸素中心の大気で満たした「光合成」の原理に迫ります。

List    投稿者 isiisii | 2012-12-05 | Posted in D.地球のメカニズム, D01.地球史No Comments » 

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