2009-05-09

地球環境の主役 植物の世界を理解する⑮ 乾燥外圧に適応した草の世界

シリーズ⑬「外圧に適応して生まれていった植生帯」では、年間降水量の少ない場所では、サバンナやステップという草原地帯になることを見ました。 
 
外圧に適応して生まれていった植生帯 
 
 
ところで、なぜ、年間降水量が少ないと樹木ではなく『草』になるのでしょうか? 
 
今回は、『草』についてみてみます。 
 
  アフリカ・サバンナの草原と象
  sabana.jpg
  Elephants in a marshy savanna、写真家Rhett A. Butler氏 
 
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まず、草原地帯の気温と降水量の年間変化をみてみましょう。アフリカのナイロビ、中東の乾燥地帯テヘランです。比較のために、多雨地帯である日本の大阪をあげておきます。 
 
草原地帯の気温(摂氏)と降水量(mm)・ナイロビ

  1月 2月 3月 4月 5月 6月 7月 8月 9月 10月 11月 12月 年 間
平 均
気 温
19.3 20.1 20.5 20.2 19.1 17.7 16.9 17.2 18.5 19.7 19.3 19.1 年平均
19.0度
降水量 39.9 48.3 68.6 152.9 107.5 26.5 12.4 13.3 23.6 43.8 121.2 79.6 年間
737.6mm

 
4月、5月は100mmを超える雨が降ります。一方、7月、8月は10mm位しか雨が降りません。
雨期と乾期ですね。 
 
草原地帯の気温(摂氏)と降水量(mm)・テヘラン

  1月 2月 3月 4月 5月 6月 7月 8月 9月 10月 11月 12月 年 間
平 均
気 温
3.1 5.6 10.2 16.1 22.0 27.2 30.0 28.8 25.1 18.6 11.4 5.7 年平均
17.0度
降水量 33.8 30.7 34.9 27.2 15.1 2.8 0.8 1.5 1.1 13.1 17.3 32.1 年間
210.8mm

 
テヘランは、冬から春にかけてはそこそこ雨が降りますが、6月から10月にかけてはほとんど雨が降りません。7月は平均気温は30度ですが、雨はたったの0.8mmです。 
 
大阪の気温(摂氏)と降水量(mm)

  1月 2月 3月 4月 5月 6月 7月 8月 9月 10月 11月 12月 年 間
平均
気温
5.5 5.8 8.6 14.6 19.2 23.0 27.0 28.2 24.2 18.3 12.9 7.9 年平均
16.3度
降水量 45.8 60.4 102.0 133.8 139.4 206.4 156.9 94.8 171.5 107.5 65.1 34.4 年間
1318
 mm

 
大阪は春から秋の気温の高い季節に降水量も多いですね。 
 
草原地帯の特徴は、年間数か月、雨の殆んど降らない季節があることです。
 
 
1.乾燥する季節サイクルに適応した植物=草 
 
雨が降らない、超乾燥の季節。この乾燥季節サイクルに適応したのが『草』です。 
 
水が十分ある季節に急いで成長し、種子を作りあげ、乾燥期には本体は枯れてしまう。乾燥期は、乾燥に強い種子でしのぎ、次の雨期に芽を出し、世代を継続させる。
樹木では、超乾燥の季節を乗り越えられないのです。 
 
草の特徴、季節サイクルを整理してみましょう。 
 
 1)水分の確保できる季節に、芽を出し、そこから素早く成長する。
 2)花が咲いてから実(種子)を成熟させる期間が短く、乾期の前に種子を完成させる。
 3)種子が成熟する過程で、本体が枯れていく。(種子こそが生命線)
 4)翌年、同じ季節に種子から芽を出して、次の世代が繁殖する。 
 
こうですね。 
 
 
2.被子植物ではじめて草という存在が可能となる 
 
被子植物は、植物界で最後に進化・登場した植物です。被子植物は、生殖機構を高度化した植物でしたね。
被子植物・胎内受精の完成 
 
被子植物は、受精機構を高度化すると共に、種子への成熟期間を短縮しています。 
 
裸子植物では受精から種子が成熟するまでに半年、1年かかってしまいます。一方、被子植物では、受精から種子成熟まで2~3か月です。(例えば、稲は7月に花が咲き、受精=受粉し、9月には成熟し収穫しますね。)
年間の季節サイクル=乾燥サイクルに適応するには、受精の確実性と素早い種子成熟が必須です。乾期の訪れるまでに、成長し受精し種子成熟を果たす必要があるのです。
種子成熟の段階では、本体(葉や茎)の養分を種子形成に使い、本体は枯れていくという作戦もとっていますね。 
 
被子植物ではじめて、乾燥サイクルに適応できる『草』という適応形態が可能になりました。
(なお、裸子植物の現生種では、樹木はありますが、草という形態ありません。) 
 
 
3.春成熟と秋成熟(麦と稲の季節サイクル) 
 
最後に、同じイネ科の草である麦と稲の季節サイクルをみてみましょう。 
 
麦は、秋に発芽し、春先に花が咲き夏が来る前に種子を成熟させます。麦の発祥の地といわれるメソポタミアの乾燥地帯は、テヘランの気温・降水量でみたように、夏期が超乾燥季節ですね。 
 
だから、降水量が確保される冬から春先に成長し、相対的に温度が高く、降水量が確保できる「春期」に受精・種子成熟を行うのです。 
 
 mugi.jpg  photo-1-cb533.jpg 
 春先の麦と5月末の実った麦穂 
 
対して、アジアモンスーン地帯の稲は、夏の高温時に十分水が確保できますので、この高温多雨の時期に受精・種子成熟を行い、秋以降の乾燥時期までに種子を実らせます。 
 
 6tuki21kosi.jpg 1064897701.jpg 
  田植え後の稲と頭を垂れた稲穂 
 
同じイネ科でも、異なる季節サイクル(乾燥サイクル)に適応したので、麦は夏前収穫、稲は秋前収穫となるのですね。 
 
なお、一粒の種子からどれだけの実(種子)がなるのかでは、稲の方がすぐれています。現在の栽培種では、以下のようにいわれています。
「稲は、一粒の種から800粒の稲粒が実る。対して、麦は、一粒の種から最大300粒の麦粒がやっとで、通常は150~170粒である。」 
 
麦は、一年のうち、相対的に気温の低い季節を成長・受精・種子成熟の時期としている。対して、稲では、一番高温の季節が成長・受精・種子成熟の時期となっているので、植物としての生産性が高いのですね。稲の生産性の高さに感謝です。 
 
『草』の世界も奥深いですね。 
 
 
気温と降水量のデータは、以下のサイトを参考にしました。 
 
世界の主な都市の気温と降水量
日本各地の気温と降水量 
 

List    投稿者 leonrosa | 2009-05-09 | Posted in D.地球のメカニズム1 Comment » 

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コメント1件

 hihi | 2009.12.19 13:46

医療に関してはまだまだ情報がオープンになっていない部分が多いと感じますね。
人の命と市場の間に闇がいっぱい隠れているように思います。少しずつでも、普通の人々が引きずり出していく必要がありそうですね。

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