【気候シリーズ】何故、今年の夏は太平洋側は猛暑、東北と山口・島根は集中豪雨となったのか?(後編)
では、この偏西風の大蛇行とブロッキング現象は何によってもたらされたのでしょうか。実は、この夏場の現象はその前年の冬の北極振動と寒波がもたらしたものではないかという仮説があります。三重大学、立花研究室の研究です。
●冬場の北極振動がもたらす大陸性寒波の発達が、めぐりめぐって日本の夏に猛暑をつくりだす!?
http://www.jamstec.go.jp/esc/seminar/0067.html
我々は冬の負の北極振動が夏の北極振動に影響を与えるまでの仮説を立てた.冬の負のNAOは低緯度・高緯度北大西洋の海0表面温度 sea surface temperature: SST を冷やさない傾向にあることが知られている.
2009/2010年の冬の強い負の北極振動も,低緯度・高緯度北大西洋のSSTを非常に高い状態に保ったと考えられる.海の熱容量が大きいので,SSTが高い状態は春まで続いたと考えられる.SSTが暖かいと春から夏にかけて逆に海洋が大気を暖め始める.その影響により,ヨーロッパ域で高気圧が形成され,ジェット気流の蛇行が起きる.ジェット気流の蛇行からブロッキング高気圧が形成され,正の北極振動の気圧配置が固定され,長く高気圧に覆われた日本やロシア,ヨーロッパで記録的な猛暑を引き起こしたのではないか,という仮説である。
図解は三重大学立花研究室の資料から
確かに2011年末は北極振動は+→2012年夏は偏西風蛇行が問題になったものの、今年のように寒冷渦ができるほどではありませんでした。それに対して2012年末は北極振動が大きく、確かに上記で分析されているように大きな気圧配置の固定ができあがっています。
http://sunnycloudyrainy-hemmy.blogspot.jp/2012/01/2012.html
こちら↑が最新の北極振動図解
http://tachichi.iiyudana.net/DATA%20HP/AOindex.html
北極振動がマイナスの場合、偏西風蛇行が大きくなり、プラスの場合は蛇行がなだらかになることはウィキペディアでも述べられています。確かにこのような蛇行が冬に実現されると、大陸ばかり冷やされて海洋部分はあまり冷やされないわけですから、大陸と海洋の温度差が固定され、その次の夏も大きな蛇行が起こるというわけです。
●まとめ:北極振動がつくりだす大陸と海洋の温度差が、寒い冬と夏の猛暑を加速する。
以上の考察とこれまで当ブログで追求してきたことを重ねてまとめてみます。
①地球の気候の基本は、太陽の熱をよりたくさん受ける赤道付近(低緯度地帯)と太陽の熱をあまり受けない極地(高緯度地帯)の熱移動によってその基本形がつくられています。とりわけ東アジアモンスーン地帯の日本列島は南方でつくられた高気圧が吹き降ろしてくるため、低気圧と高気圧、それにはさまれた前線が活発につくりだされます。
②低緯度帯からの高緯度帯への熱移動は大きな大気循環をつくりだしますが、同時に地球は自転しているため、北半球では、西から東への風(偏西風)が流れています。この偏西風に乗って、前線は移動します。その結果、晴天と雨天が交互にあらわれ日本列島は生命活動にとっては非常に恵まれた地域となっています。
③他方で、極地はオーロラにみられるように太陽活動(磁場)の影響を大きく受けます。太陽活動が活発になると、極地の温度低下が加速されるという。
http://www.kankyo-sizen.net/blog/2012/06/001110.html
この結果、低緯度発の大気循環とは別に極地発の気候変動の大循環(テレコネクション)の可能性があるのではないかという仮説から「北極振動」という視点での研究が進んでいる。
④極地の寒冷化が加速される北極振動マイナスという現象では、シベリア大陸、北アメリカ大陸の両大陸に寒波が異常発達し、偏西風を大きく蛇行させる。これは原理的には熱しやすく覚めやすい大陸と、温度変化の小さい海洋の違いに起因している。
⑤冬場に北極振動マイナスが強まって偏西風の大蛇行が起きると、太平洋・大西洋は実は寒波の影響を受けなくなってしまい、冷やされないまま、夏を迎えることになる。そうすると前年以上に、海が暖められるので、海洋性の高気圧はより発達し、偏西風の蛇行をますます加速することになり、大蛇行から寒冷渦、高気圧が切り離され、ブロッキング現象を引き起こす。
⑥ブロッキング現象は前線を固定=停滞させるため、晴天地域と雨天地域が固定され、晴天地域では記録的な高温、雨天地域ではバックビルディング現象による集中豪雨を引き起こすことになる。
⑦東アジアモンスーン地帯にあっては偏西風がもたらす西から東への天気の流動が、天候の循環を生み出してくれており、自然の恵みの源泉がある。もし、偏西風を操作する人工気象技術があれば、日本に打撃を与えることは非常に容易である。
⑧しかし、気候は大きな循環・連動性(テレコネクション)を持っており、仮に日本における偏西風大蛇行をつくりだしたとすれば、その影響はアメリカや欧州にも波及する。現に、高温はイギリスをも襲っているし、アメリカは竜巻に襲われている。気象操作は天に唾する行為でしかないのである。気象操作に手を染めている勢力がいるとしても、このブーメランにように自分たちに帰ってくるという事実は当然、理解されることになり、早晩、気象操作を断念するしかなくなるだろう。他方で、私たちは、大きくは寒冷化という長期的な気候変動の中にある。気象操作ではなくいかにこの気候変動に向き合うかを追求していかなくてはならない。
最後に三重大学立花先生の「日本の気象の影響図解」を掲載します。
http://www.meijo-h.ed.jp/ssh/blog/index.php?eid=226
この記事の中で立花先生は
メディアや報道では「異常気象」と報道されることが多いが、実は気象は異常があって普通なのである。振子のように行きすぎたり、戻ったりして平均値が算出されている。メディアに惑わされてはいけない。
とおっしゃっておられます。同感です。
以上が、今年の夏の気象からの当ブログの考察のまとめです。これからも「気象シリーズ」ご期待下さい。
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