2012-03-07

【気象シリーズ】日本の局地気候と農業 ~奈良県・宇陀でおいしい野菜が採れるのには理由がある~

類農園(類グループ)の奈良農園がある宇陀地域は、大和高原に位置し、冬は季節風の影響を強く受けて寒さが厳しくなる一方で、夏は冷涼となる内陸性の気候です。
データを見てみると、
<大宇陀の一年間の気温>
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<雨温図:奈良県・宇陀市>
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<雨温図:長野県・南佐久郡南牧村>
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雨温図は、長野県にある高原野菜で有名な地域と同様の傾向にあることがわかります。
降水日数も多く年間降水量は約1,500mmにもなるため、野菜栽培にとって恵まれた気候と言われ、ホウレンソウ、コマツナ、ミズナ、ダイコンといった野菜の産地として、最近はTVなどでも頻繁に取り上げられています。
 今回の局地気候シリーズでは、このような宇陀地方特有の気候と、そこでとれる高原野菜、冬野菜のおいしさの秘密に迫ります。

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高原野菜はなぜおいしいのか?
高原野菜のメッカである、長野県は八ヶ岳山麓に広がる野辺山高原。このエリアの名産品であるレタスのおいしさはどこから来ているのでしょうか。
「今の日本では一年を通してレタスが口に入りますが、クリスピーで甘さのある高原レタスは夏だけのものです。(中略)レタスは気温が25度以上になると非常にストレスを感じる野菜です。この野辺山高原では、真夏の日中の気温が日によって30度を超える時があっても、夜温は20度前後まで下がりますし、適度な朝露も降りレタス栽培にはもってこいの条件が整っています。
JA長野県「長野県のおいしい食べ方」より)
どうやら、高原野菜のおいしさは「甘み」にあること、そして気温が大きく影響していそうです
野菜の「甘み」はどのようにして作られるか?
では、野菜の「甘み」はどのようにして生成されるのでしょうか。
高原野菜に限らず、多くの野菜が光合成生物であり、光エネルギーを使って、水と空気中の二酸化炭素から炭水化物(糖類:例えば、ショ糖、グルコース、デンプン)を合成しています。
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【光合成から栄養貯蔵の流れ】中部大学・中村研三研究室より
こうして葉の光合成で作られた糖は、植物が若いうちは、根や茎の先端の生長点に送られ、細胞が増殖して体が成長するための炭素源・エネルギー源として使われます。
やがて植物が成熟すると、光合成産物は次々に作られる種子やイモなどの繁殖器官の栄養貯蔵組織の細胞に運ばれ、デンプン・油脂・貯蔵タンパク質などの栄養貯蔵物質に変換されて蓄えられます。
これら栄養貯蔵物質は、種子やイモから次世代の芽や根が出て成長を始める時に分解され、次世代が光合成能力を獲得するまでの間の栄養源として使われます。
このように、光合成で生成された糖(甘み)は2つの用途に使われます。一つは、自らの体を成長させるためのエネルギー源として、もう一つは、蓄積され次世代のエネルギー源として使用されるのです。
高原野菜や冬野菜が「甘く」ておいしいと言われるわけ
こうして生成された糖分を、野菜の「甘さ」としてわれわれは認識しているわけですが、高原野菜同様に、冬野菜にもこの「甘さ」が顕著に現れます。
冬野菜とは、夏の終わりごろから秋にタネまきor苗を植えて、秋から冬・早春にかけて育てる野菜(一方で、春にタネまきor苗を植えて、夏から秋まで育てる野菜が夏野菜)ですが、
品目としては、
○寒さに強いもの:ネギ、ホウレンソウ、コマツナ、ツケナ類
○寒さにやや弱いもの:エンドウ、ソラマメ、タマネギ、キャベツ、ブロッコリ、ハナヤサイ、レタス、結球ハクサイ、ダイコン、ニンジン、カブなど
があります。
野菜のはてな?より
このように、レタスやキャベツなどの高原野菜と冬野菜とは非常に重複しているのがわかるかと思いますが、これらの野菜が「甘く」なるのはなぜでしょうか?
その理由は2つあります。
一つが、耐寒性を高めるための糖度アップです。
以下、気ままに有機化学「霜が降りると野菜が甘くなる」からの引用です。
「霜が降りると野菜が甘くなる鍵は凝固点効果にあります。凝固点降下=何か溶けているものがあるとその凝固点が下がるってやつ。つまり水は0℃で凍るけど、砂糖水や食塩水は0℃になっても凍らないってこと。これが植物におおいに関係があるんです。
冬になると関東地方でも氷点下まで気温が下がります。ところで、生物の体には水分が多く含まれています。ということは、0℃以下になれば凍るはずです。でも屋外の植物は凍ったりはしません。これは植物は冬になると細胞中の水分が凍らないように、糖類を増やすためです(デンプンを分解して多数のブドウ糖などにする)。この仕組みによって水の凝固点を下げ、0℃でも凍らないのです。」
凝固点降下とは
ショ糖などの「不揮発性の溶質を溶媒に溶かすと溶媒の凝固点が低くなる現象」のことです。水に塩を溶かすに場合も、砂糖を溶かす場合にも一緒の現象は起こります。例えば、積雪の多い地方では路面の凍結防止のために、塩化カリウムなどを撒く方法がとられますが、これなどは凝固点降下を利用したものです(植物の場合、塩は害になってしまいますが)。
もう一つの理由が、生殖起動センサーの遅れによる糖度アップです。
冬野菜の場合は、冬至から春分にかけての気温の低い時期に育つため、成長期間が長期化します。温度は下がりますが、日照そのものは確保されるため光合成による栄養の蓄積が進み、立派な野菜が育ちます。そんな野菜もやがて春の温度上昇を見定めて発芽し、次世代の子孫を残していきます(その際に蓄積してきた栄養を利用)。
このように春の気温上昇という“生殖起動センサーのスイッチ”が入るのが遅れれば遅れるほど、「甘み」が貯えられると考えられます。
まとめ
今回は高原野菜や冬野菜におけるおいしさ、とりわけ「甘み」が生まれる仕組みについて扱いましたが、改めてポイントを整理すると、
宇陀のように寒冷地(※県内でも遅霜で有名。最低気温の記録が3月は宇陀市大宇陀の-6.2°C)で、しかも高原(※奈良盆地との標高差は200m)で育つ野菜には、
二重の環境圧力
★冬の凍結
★朝晩の冷え込み

という圧力がかかっており、それらの外圧環境に適応すべく、おいしさの一要素である「甘み」(糖分)がより多く生成・蓄積されるということになります。
もちろん野菜のおいしさは「甘さ」だけではありません。おいしい野菜とは、糖分のみならず、トータルの栄養価も高いと思われますので、ぜひまたの機会に気候とその他の栄養素との関係についても調べてみようと思います。どうぞご期待ください。

List    投稿者 seiichi | 2012-03-07 | Posted in D02.気候No Comments » 

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