2013-05-14

気候シリーズ:コラム~暗い太陽のパラドックスと秩序化システムを持つ地球(前編)

気候変動を考える一般市民向けの非常にわかりやすい入門書が発売されました。多田隆治東京大学教授が書かれた「気候変動を理学する」で日立環境財団が主催する市民向けの化学講座サイエンスカフェでの講座をまとめたものです。興味深い話題がいくつも書かれていますので、その中からいくつか紹介していこうと思います。1回目は、「暗い太陽のパラドックス」についてです。
●地球の熱収支について
地球が太陽から光を受け、その恩恵を受けていること。そしてそれゆえに暖かく、また生命に溢れた地球環境が維持されていることは誰もが認める事実です。では、その熱収支はどうなっているでしょうか?
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太陽放射と地球放射の関係 http://www.asahi-net.or.jp/~rk7j-kndu/kisho/kisho01.html より引用

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●地球が太陽から受けるエネルギー流量
地球が太陽から受けるエネルギーの流量は以下の式であらわされます。
地球が太陽から受けるエネルギーの流量=So×(1-A)×πr^2
ここでSoは地球が単位時間あたりに太陽から受けるエネルギーで太陽定数といい、1㎡あたりだと1370Wです。100W電球14個分ですからかなりの明るさです。πr^2は地球の断面積です。しかし、地球は全ての太陽エネルギーを吸収するわけではありません。つまり一部は反射しています。そこでこれを反射能=アベルドと呼びます。上の式のAにあたります。
このアベルドですが、雪山は反射能が高い、白色のため0.9~0.8、砂漠では0.4~0.3、森林は光合成によってエネルギー吸収を高めようとしていますから、その色合いも吸収率が高い緑色で0.1です。海は入射角度によってばらつきがあり、真上からだと0.1ですが、斜めからの光は反射します。地球全体では0.3ぐらいとされています。
●地球が放射するエネルギー量
対して地球が放出するエネルギーは以下の数式で表現されます。
地球が放出するエネルギー=4πr^2×σT^4
ここで4πr^2は地球の表面積。Tは地球の表面温度、σはステファンボルツマン定数と呼ばれるもので、つまり表面温度の4乗に比例するということです。
そして、地球が太陽から受けるエネルギーと地球が放出するエネルギーは本来、つりあっているはずです。勿論、太陽のエネルギーを光合成によって生物活動のエネルギーに変えていますから、その一部は地球の生命によって消費されているのですが、その割合は極めて小さく、無視できる程度です。
ところが、So×(1-A)×πr^2=4πr^2×σT^4 として、T=地球表面温度を算出すると絶対温度255K、つまり摂氏マイナス18℃になってしまうのです
そうすると、最終的には地球が太陽から受けるエネルギーと地球が放出するエネルギーはバランスしているとしても、地球表面の温度を押し上げている要素があるということになります。それはなんでしょうか?
このブログの読者のみなさんならおわかりだと思いますが、大気(水蒸気や二酸化炭素)が持つ温室効果です。
つまり地球は大気という毛布を身にまとうことで、高層大気は低温だけれども、地球表面は生命活動が可能なほどよい温度に維持されているということなのです。
従って、上述の算式は、大気によって地球表面温度を保持させる率αを加えて以下のように改めることができます。
So×(1-A)×πr^2=α4πr^2×σT^4
そして現在の地球ではαは0.61、Tはプラス11~13℃
となっています。
●何故、大気には温室効果があるのか?
では何故、大気には温室効果があるのでしょうか?この謎にひとことで応えるなら、大気は太陽光に対しては透明に作用するが、地球から放たれる熱=赤外線に対しては不透明である、ということになります。つまり大気は高い周波数帯で地球に降り注ぐ太陽光はスルーさせるが、地球から放出される低い周波数帯の赤外線は通しにくい、という性質を持っているのです。下表参照。
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●暗い太陽のパラドックス
さて、太陽のエネルギーによって地球の温度が決まっているとした場合、太陽エネルギーは長期的にはどのように変化しているのかが重要になります。はたして太陽エネルギーはその誕生以降、増大しているのでしょうか?それとも減少しているのでしょうか?
この問いは実は当ブログでも過去あまり扱われていませんが答えは‘増大している’です。言い換えると、太陽が若かったころは今より暗かった、のです。
恒星進化論によると、主系列星の光度はその進化とともに増大する。これは、核融合反応で水素を燃焼してヘリウムができることで星の中心部における密度および温度が増大する結果、核融合反応効率が増大するためです。最近までの研究によると、誕生したばかりの太陽の光度は、現在と比べて25~30%程度小さかったと推定されています。太陽は時間とともにその明るさを増しているのです。
しかし、そうすると太陽が暗かった時の地表温度は零度以下となり、地球全体が凍っていた(全球凍結)ことになります。しかも、凍った地球は全体が氷や雪で覆われてしまうので、前述のアルベド(地球の太陽エネルギーの反射能)が上がってしまうので、ますます凍結度を高めてしまうことになり、地球は一向に温暖で生物が住める世界にならないことになってしまいます。
ところがこの仮説は、観測事実と合致しません。何故なら、歴史上、全球凍結が数回あったことは地質学的に証明されていますし、しかも、全球凍結と全球凍結の間に温暖化したことがあることも地質学的な事実として証明されているからです。(1980年代になってオーストラリアの研究者が6.5億年前の赤道付近の凍土地層を発見したのです)
この「かつて太陽が暗かった時代、理論的には地球はひとたび凍結したら二度とそこから抜け出せないという理論的仮説」と「全球凍結の時代と凍らない海があったが時代が繰り返されているという地質学的事実」の矛盾のことを「暗い太陽のパラドックス」といいます
では、この矛盾を解決する案はあるでしょうか?この暗い太陽のパラドックスという難問にチャレンジしたのが古地磁気学者ジョー・カーシュビングでした。ではカーシュビングの仮説に最新の学説を重ねて「暗い太陽のパラドックス」の謎を解いてみましょう。
次回に続く・・・・

List    投稿者 staff | 2013-05-14 | Posted in D02.気候No Comments » 

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