気候シリーズ:2012年の気象を振り返る
気候シリーズ、今日は豪雨や寒波に覆われた去年1年を振り返り、そうした気象の原因を高層大気の状況から振り返って見たいと思います。気象庁では毎月、その前月の高層大気(500ヘクトパスカル天気図)を公表し、コメントを付けていますが、これを読むと、いかに偏西風の蛇行やブロッキング高気圧が気象に大きな影響を与えているかがよく分かります。
まずは去年1年間の気象ニュースを振り返ってみましょう。日本気象協会の気象10大ニュース http://season.tenki.jp/season/newyear/ からの転載です
2012年8月に関西で雷が多かったのは上記のような気圧配置が原因
【その1:寒い冬、26年ぶり】
冬(2011/12-2012/2)の平均気温が低く、最近10年間では北日本は最も低く、東・西日本は2006年冬に次いで低くなりました。
【その2:遅いお花見、北海道旭川は桜開花と満開が同日に】
春先まで寒さが長引き、桜の開花日は平年より3~6日遅いところが多く、京都、東京、新潟、仙台などで、最近10年間では最も遅くなりました。
【その3:春の嵐、急発達した低気圧】
4月3日から4日は日本海で急発達した低気圧の影響で、春の嵐となりました。全国の76 地点で最大風速が観測史上1位を更新し、最大瞬間風速は新潟県両津で43.5 メートル、東京都八王子で38.9メートルなどを観測。
【その4:竜巻による大きな被害】
5月6日、茨城県つくば市や筑西市、栃木県真岡市、福島県会津美里町付近で竜巻が発生し、大きな被害がありました。
【その5:金環日食】
2012年5月21日は金環日食の観察日和に。本州では129年ぶりの金環日食。
【その6:平成24年7月九州北部豪雨】
7月11 日から14 日にかけて、西日本に停滞した梅雨前線に向かって南から非常に湿った空気が流れ込み、九州北部を中心に「これまでに経験したことのないような大雨」
【その7:不安定な夏、大阪など雷日数最多を更新】
8月は、西日本を中心に局地的に大雨や雷雨が多く発生しました。とくに、8月13日から14日は日本海から南下した前線の影響で大気の状態が非常に不安定になり近畿中部を中心に局地的に猛烈な雨が降りました。
【その8:記録的残暑、全国51地点で9月の月平均気温最高を更新】
8月下旬から9月中旬にかけて太平洋高気圧の勢力が非常に強く、北日本と東日本は記録的な残暑に。
【その9:台風、沖縄・奄美に12個接近、猛烈な風】
沖縄・奄美地方には、12個の台風が接近し、平年の1.5倍の数に。8月は5個の台風が接近し8月の降水量は平年の2倍以上。
【その10:遅い初雪、一転、猛吹雪】
北海道や東北地方は秋の記録的高温の影響で、カエデやイチョウの紅(黄)葉が記録的に遅くなりました。
大きくは寒気(大陸性高気圧)の影響が夏を遅らせて、短い秋を経て一気にまた寒い冬がやってきた、という印象を持ちます。3~4月の寒気の影響が長く続いたおかげで、遅れてきた春一番といわれた4月の爆弾低気圧も発生しました。台風が沖縄どまりとなった一方で日本の夏を席捲したのは台風=熱帯性低気圧ではなく、温帯性の低気圧だったという点も、太平洋高気圧が日本全体を覆うほどには発達しなかったからで、それは大陸性高気圧の影響ではないでしょうか。8~9月にかけて西日本では多雨、北日本は猛暑になった理由も太平洋高気圧が北・東日本側にずれていていた結果とのことですが、これも大陸性高気圧が大きく、偏西風が蛇行した結果でしょう。
http://weathernews.com/ja/nc/press/2012/120903.html
今年もゲリラ雷雨が各地で発生し、人々の生活に大小様々な被害・影響を与えています。一番発生回数が多いのは、130回で大阪府、次いで107回で愛知県、92回で長野県となっており、大阪府のゲリラ雷雨発生回数は、東京都(24回)の約5倍となっていることが分かりました。特に、「この夏の特徴は?」の質問で約3割の人が「雷」と回答した近畿では、発生数が多くなっています。8月後半になると、東?北日本に高気圧の中心が移ったため、湿った空気が流れ込みやすかった近畿エリアでは雨雲が発生しやすく、特に風が集まって雲が発達しやすかった京阪神エリアで、ゲリラ雷雨の発生数が多くなったようです。
http://www.data.jma.go.jp/gmd/cpd/longfcst/extreme_japan/monitor/japan20120921.pdf
8月下旬~9月中旬の期間、日本付近の上空では北東海上を中心に偏西風が大きく北に蛇行しました。これに関連して、日本の東海上で太平洋高気圧の勢力が非常に強まるとともに、北・東日本に張り出しました。高気圧の張り出しに伴って南から暖かい空気が流れ込んだことや、高気圧に覆われて晴れたことなどにより気温がかなり高くなりました。
日本付近の偏西風の北への蛇行には、アラビア海からベンガル湾にかけてとその周辺域でモンスーンに伴う積雲対流活動が活発だったことが一因と考えられます。
8~9月の太平洋高気圧の位置ずれは偏西風の蛇行によってもたらされたようですが、この例に限らず、気象庁の高層大気図分析によると今年1年、偏西風の蛇行は日本の気象に大きな影響を与えていたことが分かります。
以下、各月の高層大気図(500ヘクトパスカル天気図)を見てみましょう。
1月 中・高緯度は、西シベリア付近が気圧の尾根、日本の東海上は気圧の谷、偏西風は日本付近で南へ蛇行。東シベリア付近にブロッキング高気圧が、アムール川下流付近には極渦の一つが見られた。これらの影響で、日本付近は北からの寒気が流れ込みやすかった。http://www.data.jma.go.jp/obd/stats/data/stat/tenko1201.pdf
2月 西シベリア付近には明瞭な気圧の尾根があり、オホーツク海付近には極渦の1
つが見られ、寒帯前線ジェット気流は日本付近で南に蛇行。このため、日本付近には寒気が流れ込みやすくなった。
http://www.data.jma.go.jp/obd/stats/data/stat/tenko1202.pdf
4月 北半球全体で偏西風の蛇行が大きく、日本付近が気圧の谷となり、全国的に低温となったhttp://www.data.jma.go.jp/obd/stats/data/stat/tenko1204.pdf
6月 寒帯前線ジェット気流の蛇行が大きく、シベリア付近は気圧の尾根となった。このため、北に偏った高気圧やオホーツク海高気圧が周期的に現れた。一方、東シナ海付近には気圧の谷が見られ、本州以南では南からの湿った気流が入りやすかったhttp://www.data.jma.go.jp/obd/stats/data/stat/tenko1206.pdf
9月 日本の北東で偏西風が大きく北に蛇行し、日本の北東海上を中心に顕著な正偏差となり、日本の東海上では太平洋高気圧が強まった。このため北日本を中心に記録的な高温となった。http://www.data.jma.go.jp/obd/stats/data/stat/tenko1209.pdf
10月 偏西風(亜熱帯ジェット気流)は北半球規模で南偏
11月 ベーリング海から東シベリアにかけてブロッキング高気圧。極東の中緯度帯では偏西風は平年より南寄りを流れた。東日本以西では寒気の影響を受けやすく気温が低かった。
12月 日本付近は東西に広がる負偏差域だった一方、日本の北ではシベリアからアリューシャン列島付近にかけて正偏差となった。日本付近を流れる偏西風は平年より南寄りを流れていたため、日本付近は北からの寒気の影響を受けやすかったhttp://www.data.jma.go.jp/obd/stats/data/stat/tenko1212.pdf
まとめると
1月 日本付近で偏西風が南へ蛇行
2月 寒帯前線ジェット気流は日本付近で南に蛇行
4月 北半球全体で偏西風の蛇行が大きく全国的に低温
6月 寒帯前線ジェット気流が大きく蛇行
9月 日本の北東で偏西風が大きく北に蛇行
と1年間のうち、5ケ月までが偏西風蛇行が天候に影響していることがわかります。また10月以降、偏西風は通常よりも南に偏っており、これも含めて、ユーラシアの大陸性高気圧が強い力を持っていることがこの1年の気象の背景にはあるように思われます。
次回は、こうした偏西風蛇行を引き起こしている要因や世界規模での異常気象について、去年1年間を振り返ってみたいと思います。
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