2011-11-04

【気候シリーズ】日本の気候② 気候変動と森の歴史

日本は国土の67%が森林に覆われた森林国です。南北に長く、平地から3000m級の山地まで高低差も大きな国土ですが、おおむね温帯に属しているため緑豊かな樹林帯が広がっています。
今回は「気候シリーズ」日本の気候第2弾として、気候の特性を浮かび上がらせるために、日本の森林の歴史を振り返ってみようと思います。
%E7%99%BD%E7%A5%9E.jpg
※写真はこちらからお借りしました

 にほんブログ村 環境ブログへ


日本の森林の歴史
日本の森は、大きく3つの樹林帯で構成されています。
%E6%97%A5%E6%9C%AC%E3%81%AE%E6%A4%8D%E7%94%9F.gif
※地図は岩手県立博物館からお借りしました。これは天然林の分布のため、西日本での分布が少なくなっていますが、その詳細はこちら
それぞれの森の姿を見てみると、
●針葉樹林帯
トドマツ、エゾマツ、シラピソ、コメツガなど
%E2%98%85%E9%87%9D%E8%91%89%E6%A8%B9%E6%9E%97%EF%BC%92.jpg
※写真はこちらからお借りしました
●落葉広葉樹林帯
ブナ、ミズナラ、カシワ、トチ、カエデ類、クルミなど
%E2%98%85%E8%90%BD%E8%91%89%E5%BA%83%E8%91%89%E6%A8%B9%E6%9E%97%EF%BC%93.jpg
※写真はこちらからお借りしました
●常緑広葉樹林帯(=照葉樹林帯)
シイ類、カシ類、クス、タブ、ツバキなど
%E2%98%85%E5%B8%B8%E7%B7%91%E5%BA%83%E8%91%89%E6%A8%B9%EF%BC%91.jpg
※写真はこちらからお借りしました
では、3つの森のイメージができたところで、氷河期以降の日本の森の歴史を概観してみましょう。
%E6%97%A5%E6%9C%AC%E3%81%AE%E6%A3%AE%E3%81%AE%E6%AD%B4%E5%8F%B2%EF%BC%88%E3%82%B0%E3%83%A9%E3%83%95%EF%BC%89.JPG
※現代は森林・林業学習館を、それ以前は稲本正「森の形 森の仕事」の内容をもとに作成
これを見れば明らかなように、
氷河期          「針葉樹中心の時代」

氷河期末期~温暖化 「落葉広葉樹(ブナなど)中心の時代」

最温暖期≒縄文中期 「常緑広葉樹(照葉樹)中心の時代」
と気候・海洋の変動と共に、大きく変遷してきました。
そして現在。
気候によって決まる「潜在自然植生」(本来の森林の姿)の分布を見ると、西日本の大半が「常緑広葉樹林帯」に属しています。
しかし、実態はグラフが示しているように、人による伐採などで落葉広葉樹林へと変貌したり、開発やスギ・ヒノキといった針葉樹の植林という人工林への置き換えによって、その大部分が失われ、氷河期に逆戻りしたような「針葉樹中心の時代」の構成になっています。また、天然林だけの構成で見ると「落葉広葉樹中心の時代」と言えます。
落葉広葉樹林(ブナ林)にみる日本海側と太平洋側の気候特性の違い
落葉広葉樹の代表にブナがあります。
日本の大半は温帯の気候区に属していますが、温帯の別名に「ブナ帯」という言葉があるように、ブナは現在も南は鹿児島県の高隈山から北は北海道寿都郡まで広く見ることができる樹木であり、日本の植生を考える上で評価軸となります。
このブナの特性を知ることで、日本の気候特性がより鮮明に見えてきます。今回、特に注目したいのが太平洋側と日本海側のブナ林の違いです。
太平洋側のブナ林は、標高の低いところ(阿武隈山地など)では、ブナにナラやクリなどが混じった林であり、標高の高いところ(大台ヶ原など)では、ブナ林の中に針葉樹、例えばウラジロモミとかヒノキが混じったりしています。ですから秋になると針葉樹と広葉樹の紅葉が混じったきれいなコントラストが生まれます。
%E3%83%96%E3%83%8A%E6%9E%97%EF%BC%88%E5%A4%AA%E5%B9%B3%E6%B4%8B%E5%81%B4%EF%BC%89.jpg
※写真はこちらからお借りしました
ところが、一方の日本海側のブナ林というのは、樹木のほとんど(80~90%)がブナで占められたブナの極相林です。この違いはどこから生まれるのでしょうか?
%E3%83%96%E3%83%8A%E6%9E%97%EF%BC%88%E6%A5%B5%E7%9B%B8%E6%9E%97%EF%BC%89.jpg
※写真はこちらからお借りしました
%E3%83%96%E3%83%8A%E3%81%AE%E5%B0%91%E3%81%AA%E3%81%84%E8%90%BD%E8%91%89%E5%BA%83%E8%91%89%E6%A8%B9%E6%9E%97.gif
※地図はこちらからお借りしました
その原因は多雪 です。
本州の日本海側は世界でも有数の多雪地帯ですが、“雪がたくさん降ったら、雪の重みや残雪などが植物の発芽に影響するのでは?”と思うのが素人の感覚ですが、湿潤を好むブナにとってこの多雪は重要な意味を持っています。
~日本海側のブナにとっての多雪メリット~
①冬季の保温: 厚く積もった雪の下はほぼ摂氏零度に保たれ凍結することがない
②春季の湿潤: 発芽の時期に乾燥を避けられる
③獣害の排除: ネズミの餌探しの行動を制限
④山火事防止: 山火事の発生確率が小さくなる
このさまざまなメリットゆえに、日本海側では豊かなブナ林が形成されています。
%E5%86%AC%E3%81%AE%E3%83%96%E3%83%8A%E6%9E%97.jpg
※写真はこちらからお借りしました
一方の太平洋側はどうでしょうか。冬の日本海で大量の水蒸気を含んだ季節風が山脈にあたってたくさんの雪を降らせたあと、乾燥した風となって太平洋側へ吹き込みます。こうして、太平洋側は春先に必ず乾燥します。ゆえに、
~太平洋側のブナにとってのデメリット~
①春季の乾燥: 発根途中の種子が死亡
②山火事被害: 2~4月に発生(要因は自然発火よりも人間によるものが多い)。
③虫害や獣害: 虫や獣が活発に活動できる
これらの影響を受け、また植林の増加ともあいまって、かつては日本列島の大半を覆っていたブナ林も現在のような混合林へと変わっていったと考えられています。
%E3%83%8D%E3%82%BA%E3%83%9F.jpg
※写真はこちらからお借りしました
以上より、われわれ人間にとっては大きな自然外圧の一つである日本海側の多雪という気候条件が、日本の植生に大きな影響を与えていることが明らかになりました。
★次回は、この日本海側の気候特性を取り上げる予定です。どうぞご期待ください。
参考
鈴木三男「日本人と木の文化」
縄文と古代文明を探求しよう!「シリーズ『日本の起源』~気候の変化をみていこう。」
中静透「ブナ林の成り立ちと将来」
ブナの基礎知識(黒松内町ブナセンター)
弥生人の環境と風土
照葉樹林(ウィキペディア)
照葉樹林とは(日本自然保護協会)

List    投稿者 seiichi | 2011-11-04 | Posted in D02.気候No Comments » 

トラックバック

このエントリーのトラックバックURL:
http://blog.sizen-kankyo.com/blog/2011/11/983.html/trackback


Comment



Comment