風がふくのはなんで?(5)~偏西風の蛇行と低気圧の異常発達の関係は?~
前回記事では、偏西風の一つで上空に吹く「ジェット気流」の仕組みと、蛇行する原因(気象に与える影響が大きい)について勉強してきました。今回記事では、上空のジェット気流が蛇行することによって、地上の気象が変化する仕組みについて追求していきたいと思います。
●温帯低気圧の発生から消滅までのサイクル
爆弾低気圧や竜巻のレポートでも紹介しましたが、低気圧の異常発達には上層大気の流れが大きく影響していますが、まず最初に、上層大気の影響を無視した低層大気における低気圧の形成から消滅のプロセスをおさらいしておきましょう。(尚、台風=熱帯性低気圧は別で扱うものとして温帯性低気圧を中心に扱います)
図はこちら→ http://www.bioweather.net/column/weather/contents/mame065.htm からお借りしました。
★STEP1 寒気と暖気が接するところに前線が発生(図2-a)。寒気と暖気が流れている方向は逆向きで、勢力がほとんど同じなため、前線は停滞前線となっています。
★STEP2 寒気と暖気の間の温度差が大きくなってくると、その温度差を解消しようとして前線は南北方向に波打ちはじめます(図2-b)。これを前線上の波動といい、波動の中心に気圧の低いところができて、円形の等圧線が描けるようになると低気圧の発生です。
★STEP3 低気圧が発達する(中心気圧が低くなる)と。寒冷前線のところでは、寒気が暖気を押し上げます。(図2-c)雲が垂直に発達し、短時間で強い雨が降っています。前線の間に挟まれた暖域はどんどん狭くなり、やがて寒冷前線が温暖前線に追いついてきます(図2-d)。
★STEP4 寒冷前線は完全に温暖前線に追いついてできた前線を閉塞前線といいます(図2-e)。この状態は低気圧が最も発達したときです。低気圧の周辺では広い範囲で強い風が吹いています。しかしこれがピークであり、以後は低気圧は衰退に向かいます。
★STEP5 低気圧を残したまま、閉塞前線は低気圧の中心から離れていきます。さらに閉塞前線はなくなって、温暖前線と寒冷前線だけが東に進んだり、停滞前線になったりします。低気圧の中心気圧も高くなり、等圧線の間隔も広くなって渦巻きは消え、低気圧は消滅します(図2-f)。
このように、暖気と寒気が接する停滞前線からはじまり、この接線部分が温度差を解消するために波を打つことで、低気圧と温暖前線と寒冷前線ができ、閉塞前線へと発展していきます。そしてこの前線に沿って上昇気流が発生し、雨になることによってエネルギーが解放されると、再び停滞前線へと戻っていくというのが温帯性低気圧のサイクルということになります。
ここで注目すべきは「閉塞前線ができて暖域が消失してしまうと暖気の供給が断たれてしまうので、低気圧はエネルギー源を失って衰退に向かう」ということで、低気圧は無限に発達するわけではない、ということです。
しかし、先の爆弾低気圧や竜巻のように上空大気との関係で上昇気流が加速される場合、通常以上のエネルギーを持った低気圧に発達することがあります。ではどのような場合、上昇気流が加速され、低気圧が異常発達するのでしょうか?
●上層大気に形成される気圧と尾根と谷が低層大気の発達を決める
※図 気圧の谷と尾根
大気の高層では、低緯度では熱膨張しているため等圧面が高く、高緯度へいくほど低くなっています。そしてその段差の大きいところは中緯度において発達し、夏は高緯度より、冬は低緯度よりに形成され、この段差の大きいところで等圧線と平行に偏西風が吹いています。
注目すべき点は、等高度線は一様に南から北へと平行線を描いているわけではなく大きく湾曲している点です。(上空の偏西風も等高度線に平行に、そして蛇行しながら吹いていることが理解できます)これは前回記事で扱ったように温度差を解消しようとする「擾乱」によって起こる変化です。そしてこの大気の高さが切り替わる等圧線が北へとせり出している部分は地図に見立てると尾根にあたるので、「気圧の尾根」、逆に南に湾曲している部分は谷にあたるので、「気圧の谷」と呼びます。そして偏西風の蛇行とはこの尾根と谷に沿って偏西風がカーブを描きながら流れていることをいうわけです。そしてこの気圧の尾根と気圧の谷の周辺に、地上の気象を左右する高気圧と低気圧を生み出す仕組みが潜んでいるのです。
気圧の尾根と谷ができると偏西風の風速も一様ではなくなり、加速されるところと減速するところができます。
南から高い気圧の尾根が伸びている西では気圧傾度が西向きとなり、南からの尾根 が縮む=北の低い気圧の谷が伸びる東では気圧傾度が東向きとなります。ジェット気流は基本的に東向きの西風ですから、尾根の西を北上するときには減速され、尾根の東を南下するときには加速されます。空気塊が加速するところは空気塊が溜まり(収束)、高気圧化します。その結果、上層大気から下層大気へ向かって吹き降ろす下降気流が発生します。他方、空気塊が減速するところでは空気塊が発散し、いわば低気圧します。その結果、下層大気から上層大気へ向かう上昇気流が発生します。
※図 上層大気と表層大気の相関
つまり気圧の谷の東側では上空の空気が不足して、足らなくなった部分を低空から補おうとする現象が生じ、低気圧が発達する環境が整うことになるのです。そして上層大気の気圧の谷の東側に下層大気の低気圧が重なった時、上昇気流が加速され爆弾低気圧や竜巻といった低気圧の異常発達が起きることになるのです。
そしてもしHAARPによる上層大気の気象操作がおこなわれれば、低層大気の異常気象化を加速することが可能になるわけです。
風シリーズ、次回からは風と海流の関係に迫ってみたいと思います。
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