【地震と水】第5回 : 【水が引き起こすズルズル地震「スロースリップ」の解明が巨大地震の予知につながる!?】
「水」をキーワードに地震発生のメカニズムに迫るシリーズ、第5回目です。
第1回~第4回の記事は・・・
【地震と水】~第1回:(プロローグ)水が地震を引き起こす!?~
【地震と水】~第2回:水と地震の関係(基礎編1)・地球の中にも水がある!~
【地震と水】~第3回:地震波分析・マントルトモグラフィーから反射法地震探査へ
【地震と水】~第4回: 海洋プレートからの「脱水」が地震発生メカニズム解明の鍵!?
などを扱ってきました。
今回からは、事例も交えつつ水がどうやって地震を引き起こしているのか?という原理に突っ込んでいきます。第5回はスロースリップです。
図1(画像はこちらからお借りしました)
■スロースリップの発見
地震と聞くと、震度3、震度5の地震のように、私たちが揺れを感じられるものを思い浮かべるのではないでしょうか。一方スロースリップと呼ばれる地震は、普通の地震より揺れの周期がずいぶんと長く、私たちが揺れを感じることはありません。そうした長周期の地震は、国土地理院のGPS網のような衛星による方法を用いて、位置の変化を測ってはじめて発見されました。
それまで安定していると思われていた地球は、実は絶えず動き続け、揺れ続けている不安定な存在だったのです。
これまでもスロースリップの存在は指摘されてきましたが、なぜスロースリップが起きるのか?といった発生原因やメカニズムについては謎のままでした。また、近年発見されたスロースリップは、いずれも巨大地震の震源域に隣接しているという共通の特徴があります。このことから、第5回目の今回の記事では、巨大地震とスロースリップにはどんな関係があるのか?を探っていきます。
■スロースリップとはどんな現象か?
ここで、本記事では【通常の地震】、【スロースリップ】、【安定すべり】を以下のように定義します。
・【通常の地震】とは、地震波が観測され、一般的に人間でも感じることができるもの。
・【スロースリップ】とは、GPSにより間欠的にズルズルと滑っていることが観測されるが、地震波は引き起こさない。
・【安定すべり】とは、GPSにより絶えず沈み込みが起きていることが観測されるが、地震波は引き起こさない。
そもそもスロースリップとはどのような現象なのかを探るために、通常の地震とスロースリップの違いを、「時間変化」と「ずれの量」に着目して見ていきます。図2は、通常の地震とスロースリップを、断層面上にずれを生じる時間経過の違いによって模式的に示したものです。
=== 図2 断層面上のずれの時間経過の違いによる様々なスロースリップ ===
国土地理院のGPS観測網により現在までに検出されたスロースリップとしては、豊後水道,浜名湖周辺,房総半島東部の3カ所で,【これらの地域は,いずれもプレート境界で起こる巨大地震の震源域に隣接しています】。スロースリップの継続時間は豊後水道で1~2年,浜名湖周辺で4~5年,房総半島東部で1~2週間程度と様々であり,ずれの量は数10cmから数mと推測されています。そして,これらの現象はいずれも6~7年くらいの間隔をおいて繰り返されているらしいことがわかってきました。 (図3)
===図3 これまでに見つかった長期的スロースリップ ===
(画像はこちらからお借りしました)
■スロースリップが、大地震の震源域に隣接した地域で発生しているのはなんで?
『地震発生と水―地球と水のダイナミクス―』(2003)より引用
固着が強く大地震の主なモーメント開放域をアスペリティと呼ぶ。(中略)短周期からやや長周期(数百秒程度)の地震波は、このアスペリティから生じていると考えられる。それに対し、固着が緩い部分では沈み込みが絶えず起きているが(安定すべり領域)、地震波や津波などは発生しにくい。三陸沖、房総沖、日向灘ではGPSや水管傾斜計などの地殻変動の計測から、プレート境界でゆっくりしたすべりがあったことが分かった。安定すべり領域とアスペリティの中間の領域では、間欠的にすべりが起きる領域(間欠的すべり領域)がある。ここでは、すべりは地震波となるほど速くはなく、かといっていつも定常的にすべっているわけではなく、すべりは数日~100日程度かかりほぼ終了する。これらはスロースリップとかサイレントアースクエーク(地震)とか呼ばれている。
プレート境界の固着状態を次3つに整理できることが分かりました。
①固着が強い部分=アスペリティ・・・短周期からやや長周期の地震波を引き起こす
②固着がややゆるい部分=間欠的すべり領域・・・数日~100日程度かかるスロースリップを引き起こす
③固着がゆるい部分=安定すべり領域・・・地震波や津波などは発生しにくい
ここから、【スロースリップが大地震の震源域に隣接した地域で発生しているということは、①、②の固着状態には何かしらの関係がある】という仮説が立てられます。
この仮説を検証するために、次はプレート境界において様々な固着状態が出来る原因を探りたいと思います。
『地震発生と水―地球と水のダイナミクス―』(2003)より引用
バルバドス付加帯で深海掘削した結果によると、デコルマは厚さ20mほどの層からなり、その層中の流体含有率がきわめて高いことがわかった。また、この層(デコルマ)とその直上にはスメクタイト族の粘土鉱物と、イライトが見いだされた。(中略)
海洋近くの最上部にあるスメクタイトやゼオライトに富んだ海洋性堆積物/変質海洋地殻物質は、海水を大量に吸着しながら、次第に沈み込み帯の深部に沈み込むだろう。温度・圧力が上昇するに従い、スメクタイトはより温度・圧力が高くなるとイライトに変化する。注目すべきことは、イライトはスメクタイトとまったく異なった物理化学的性質を持っていることである。
図4 南海トラフの断面
(画像はこちらよりお借りしました)
ここでは、デコルマと呼ばれる含水層と、この含水層の上にあるスメクタイト・イライトの存在が指摘されています。
「地球内部の物質構成は、温度・圧力によって変化します。たとえば、地殻における岩石は堆積岩、火成岩(火山岩・深成岩)などが、温度や圧力の変化によって変成岩となります。また、風化作用によって粘土鉱物(イライト、スメクタイト)の岩石となったりします。
これらの変成作用には、水(H2O)の存在が大きく関わっています。例えば、粘土鉱物のスメクタイトは、水を吸収しやすく変形しやすい特徴をもっています。 そのため、スメクタイトがプレート間に存在すれば、プレートは滑りやすい状態となります。
一方、この鉱物は、高圧力・高温度の下では化学的変化を引き起こします。脱水することで、水を吸収しにくく変形し難い鉱物イライト)に変化します。そのため、プレート同士を密着させ、滑りにくい状態(この摩擦が切れると地震となる)となります。」
(【地震と水】~第2回:水と地震の関係(基礎編1)・地球の中にも水がある!)
つまり、このような【化学的変化がプレート境界における固着状態のちがいをつくり出していた】のです。
上の写真はスメクタイト鉱物を含有したニッケル珪質岩で、ここから引用させて頂きました。
下の写真はイライト鉱物を含有した岩石です。
つまり、デコルマという含水層の上に、水を豊潤に含んだスメクタイトがあるときは、プレート境界は固着が弱いためすべり続けます。しかし、プレートが沈み込むに従い温度・圧力が上昇し、スメクタイトからイライトに変化すると、イライトは層間水を含まないために固着状態は強くなり、プレート境界はすべらなくなります。ここがアスペリティ(固着域)となります。
①【プレート境界の固着度合いの違いにより、地震の規模にばらつきが生まれる】
②【プレート境界の固着度合いの違いを生み出しているものは「含水鉱物」と「脱水によってはき出された水」である】
ことが分かりました。
■まとめ
地球規模で見ると、地盤とはそもそも絶えずズルズルと沈み込んでいっています。その中で、固着が強いためにすべらない箇所(アスペリティ)も存在しています。ある地域にアスペリティがあると、そこにひっかかりながらすべる、という現象が起こる地域もあることが推測され、これがスロースリップの正体であるのではないかと考えられます。
今回の記事より、スロースリップが観測されたところに隣接する地域には、固着域が存在する可能性が高く、従って、そのような地域では将来的に巨大地震が起こる可能性が高いと考えられます。
このことから、スロースリップの観測を続けていき、その分布を分析することが、将来の巨大地震予知に通じるかもしれません。今後、水との関係から地震のメカニズムを追求していくことで、通常の地震や巨大地震の発生メカニズムとスロースリップの発生メカニズムの関係が明らかになれば、これも不可能ではないと言えます。
次回(第6回)は、アスペリティをより深く追求していくことで、巨大地震発生の新たなメカニズムに迫ります!ご期待下さい♪
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