2012-12-17

地震予知の現状(8)・・・「地震予知のこれから」(最終回)

 地震予知の現況を押さえてきた本シリーズも、今回で最終回です。2007年に刊行された『地震予知の科学(東京大学出版会)』を参考に、7回にわたり、現況の地震予知について調査・報告してきました。
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  地震予知の科学(東京大学出版会)
第1回 地震予知の現状(1)・・・地震予知とは?  
第2回 地震予知の現状(2)・・・これまで何が行われてきたのか(地震予知研究の歴史)  
第3回 地震予知の現状(3)・・・日本、海外の地震予知の歴史について
第4回 地震予知の現状(4)・・・この10年で何が明らかになってきたのか~「アスペリティ」は「水」がつくる?
第5回 地震予知の現状(5)・・・地震観測網・シミュレーションモデル ~地震予知の進歩と壁~
第6回 地震予知の現状(6)・・・地震予知のリスクマネージメントと東海地震説
第7回 地震予知の現状(7)・・・科学だけで地震を予知していいのか?

 最終回は、地震予知のこれからと題し、今までのまとめと今後の課題をお送りしたいと思います。
  
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 まずは、『地震予知の科学(東京大学出版会)』の中で書かれていたことでポイントとなりそうな所を簡単にまとめます。
●1995年阪神・淡路震災を契機として、前兆現象に基づいた地震予知よりも、地震現象そのものの基礎研究が重視されるようになった。
●今までの各理論が、『アスペリティ』という新しい考え方によって、各理論が統合されつつある。
最近10年の観測技術をはじめとする地球科学の進歩により大きな地震が起きていない時期にもプレート境界ではさまざまなすべり現象が起きていることが新たに発見された。特に、地震と言えば、一瞬のうちに、爆発的に断層がずれて地震波が発生し、それが伝わってきて被害が起こるという地震像とは違い、断層というものが日々静かにずれるものだという概念は、非常に驚くべき内容である(サイレント地震、余効地震とかで今まで報告されてきたものが解明されつつある)。
●地震現象が発生してから、それをすばやく検知して知らせることにより、ゆれることを予め知るということは、すでにいくつかの事例で実現している。
●『いつ』、『どこで』、『どれくらい』の規模で発生するかが地震予知の3要素と呼ばれ、地震予知の世界において、地震が想定されるまでの時間やその精度によって、地震予知が3種類に分かれる。『長期予知』、『中期予知』、『直前予知』である。
 分類   /時間スケール /手法
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①長期予知 /数百年~数十年/過去の地震発生履歴を用いて統計的に予測
②中期予知 /数十年~数ヶ月/現在の観測データと物理モデルを用いてシュミレーションによって予測
③直前予知 /数ヶ月~数時間/地震直前に現れる現象(前兆現象)を捉えて予測
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
 最後になりますが、今後の地震予知を行う上での課題を、抜き出してみます。

【長期予測の精度向上】海溝で発生する地震については、アスペリティを単位として発生するものの、複数のアスペリティが連動して破壊するという現象がしばしば発生している。これは現在の長期評価で想定している地震像が、必ずしも実際の地震を反映していないことを表している。長期予測に関しては、アスペリティの分布や、アスペリティの連動破壊などの解明をより進めて、正確な地震像を作り上げ、それを長期予測のための統計モデルに反映させる必要があるだろう。一方、発生履歴が明らかになっていない内陸地震については、現状では長期予測そのものが困難であり、調査を進める必要がある。
【中期予知の実現と精度向上のための課題】地震や地殻変動の観測データと、コンピュータによるシュミレーションを統合して、将来の地震発生を定量的に予知することを、中期予測と呼び、この10年間で中期予知に関する技術が急速に向上したことを述べてきた。今後の課題はまずこの中期予知を実現することである。そのためには、観測データとシュミレーションとを比較し、データに合うようなシュミレーションのパラメータ等を求めるシステムを作る必要がある。
最大の困難は、アスペリティがどの程度の応力によって壊れるか、言い換えればアスペリティの強度があからないからである。現在、GPSなどの観測によって、アスペリティでの応力増加を時々刻々推定することができるようになった。
内陸地震の場合は、プレート境界でのアスペリティモデルにあたる地震の原因についてのモデルをまず構築することが課題であり、そのための研究が進められている。
【信頼できる前兆現象に基づく地震予知】地震発生直前に、地震発生前にのみ生じるような変化を捉えて予知をしようというのが直前予測である。そのような現状として現時点で信頼できるものは、前兆すべり(プレスリップ)だけである。しかし、これは2003年の十勝沖地震でも捉えることが出来なかった。この事実は、直前予知を現状の観測網で捉えうる前兆すべりのみに頼ることの危うさと、信頼できる他の前兆現象の発見や観測方法の開発が必要であることを示している。最近では、岩石のすべり実験から、断層面を透過する波や反射する波の振幅を用いて、プレート境界や断層の固着強度を推定する方法が考案された。
一方、動物の異常行動に代表される宏観異常現象や、さまざまな電磁気異常現象が地震の前兆現象であるという考えもある。最近、電磁気異常現象と地震との関係を示唆する論文等も出てきているが、どのようなメカニズムかが明確にされていない。
【地震予知の新兵器】新しい観測技術が、多くの新しい知見を与えてくれている。
新技術として、人工衛星から地殻変動観測を行う『だいち』、海洋研究開発機構による海底における「観測ネットワーク」、地球深部探査船『ちきゅう』、さらに地下の状態変化を遠隔モニターするための『アクロス』などが注目をあびている。

(参考)注目技術紹介
・陸域観測技術衛星『だいち
・海洋研究開発機構による海底における観測ネットワーク
・地球深部探査船『ちきゅう
・地下の状態変化を遠隔モニターする『アクロス
 この本を読んで解ったことは、現状の地震予知は、まだまだ十分な地震予知が出来るレベルにありません。それは、311という大きな地震を予知出来なかったことでもわかります。
 しかし、一方で、動物の異常行動に代表される宏観異常現象や、さまざまな電磁気異常現象が地震の前兆現象であるという考えも含め、科学者たちは(一部の素人も含む)、地震予知の道のりを少しずつ歩み始めています。
 311以降、地震予知に関する、われわれの期待は高まる一方です。今後は、今まで以上に、観測技術の発展により、地震に関する事実・現実の収集が進むことで、新しい事実が、新しい理論を引き出してくれる可能性は十分にあると思われます。

以上です。ありがとう御座いました。

List    投稿者 runryu | 2012-12-17 | Posted in D03.地震No Comments » 

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