地震予知の現状(5)・・・地震観測網・シミュレーションモデル ~地震予知の進歩と壁~
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『地震予知の科学(東京大学出版会)』を元に、地震研究の世界で行われている“地震予知の現在”を押さえるシリーズの第5回です。
第1回 地震予知の現状(1)・・・地震予知とは?
第2回 地震予知の現状(2)・・・これまで何が行われてきたのか(地震予知研究の歴史)
第3回 地震予知の現状(3)・・・日本、海外の地震予知の歴史について
第4回 地震予知の現状(4)・・・この10年で何が明らかになってきたのか~「アスペリティ」は「水」がつくる?
第5回は、「地震観測網のインフラ整備」と「シミュレーションと観測の融合」という、地震予知の実現へ向けての進歩と壁について紹介します。
◆地震観測網のインフラ整備
日本で地震観測網が整備されたのは、それほど旧くなく、本格的に進められたのは1995年の阪神・淡路大震災以降です。
観測網の整備は、1995年阪神・淡路大震災(兵庫県南部地震)がターニングポイントになった。それまでの地震観測技術は、気象庁、国土地理院、大学などの個別の組織、機関でそれぞれ開発が試みられてきていた。例を挙げれば、地震計の波形を記録するデータフォーマットすら統一されていなかった。別の見方をすれば、各々の組織が目的や興味に応じた観測を行ってきたとも言えよう。全国で、統一された仕様で、リアルタイムかつ連続に、密に設置された観測網を用いて地震現象の解析が行われるようになったのは、実は1990年代中ごろ以降からである。
まず、地震観測については、大学・気象庁などの既設の地震観測網以外に、防災科学技術研究所が日本全国にHi-net(高感度地震観測網約800地点)やK-NET(強震観測網約1000地点)などの地震観測網を構築した。たとえばHi-netを例に取ると、おおよそ20kmメッシュを基本として全国に観測点を配置することになった。この観測網密度は世界でも類を見ないものである。気象庁では、Hi-net、大学の微小地震観測網、気象庁のデータを一元的に処理して高精度震源決定を行っており、現在、年間の震源決定数は13万個以上にもなる。この結果、プレートの形状や地下の構造、地震活動度、震源の移動等、非常に多くのことがわかってきた。
一方、地殻変動観測については、国土地理院が地殻変動の観測網として、GEONETを整備した。GEONETは、GPS(汎地球測位システム)衛星からの電波を受信して、地球上の自分の位置を正確に知ることができるシステムを利用している。GPSは、いまや車や携帯電話にもふつうに搭載されるようになったが、GEONETに用いられているGPSは測量用の高精度なアンテナと受信機が使われており、精密な解析によって数ミリメートル程度の微小な地殻変動も検出できる。
「地震予知の科学」 日本地震学会 地震予知検討委員会編より引用
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地震のメカニズムについては、諸説が展開されていますが、ようやく現象事実との整合を検証できる段階に入ったのです。
予断を捨てて現象事実に向き合うことが、地震のメカニズムの解明していく上で重要になってきます。
◆シミュレーションと観測の融合
地震のメカニズムを解明するために取り組まれているのが、コンピュータシミュレーションモデルの精度向上です。
地震の中期予知に向けてわれわれが実現しなければならないことは、地震の「原因」となる、ふだんのプレート境界でのゆっくりとしたすべりや固着の状態を、コンピュータシミュレーションによってできるだけ正確に再現することである。そして実際の観測データと照らし合わせて、シミュレーションモデルの改良を進めることである。いわばシミュレーションと観測の融合と呼んでもよいだろう。
ここまで地震の「原因」についてのシミュレーションの精度を上げれば、「結果」としての大地震発生の予測精度も上がると暗黙のうちに仮定して話をしてきたが、中期予知と直前予知の間には、乗り越えるべき大きなハードルがある。それは天気予報で言えば、気圧配置や水蒸気量の分布が正確に予測できても、ある場所での雨の降り始めを正確に予測するのが難しいように、断層への力のかかり具合や、摩擦の状態が正確に予測できても、地震の破壊の始まりの時刻の予測は非常に難しい問題だということである。大地震の「原因」となる断層を動かそうとする力がある程度蓄積されたとして、その後どういう「きっかけ」で動き始めるのかとなると、本章で紹介した地震発生サイクルのモデルには含まれていない様々な要因が関係してくる。
断層が動き始めるのは、断層を動かそうとする力が、断層面に働く摩擦抵抗を超えた場合である。個々で紹介しているモデルでは断層を動かそうとする力はプレートの境界の固着・すべり状態だけで決まっている。どこかでそれが加速して地震になるため、固着・すべり状態さえ正確にわかっていれば、破壊開始を予測できることになる。しかし、実際には、モデルに考慮されていない小規模な地震やプレート境界以外での地震によっても、断層を動かす力は増える可能性があるし、潮汐などがきっかけになる可能性もある。一方で摩擦抵抗が何らかの原因で低下することもあり得る。たとえば水等の流体が断層に入ってくれば、抵抗が減って断層がすべりやすくなる。
このように、地震発生の直前における定量的な予測には、現在のシミュレーション技術の延長だけでは解決できない問題が多い。しかし、少なくとも観測とシミュレーションを基にした中期予知によって、地震発生予測精度の向上が将来見込める。中期予知によって地震発生が切迫していることがわかれば、その断層の固着状態を集中的に観測することによって、定量的な直前予知にもつながるであろう。
「地震予知の科学」 日本地震学会 地震予知検討委員会編より引用
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「シミュレーションの精度を上げること」と、「地震の予測精度を上げること」の間には、大きな断層があります。
シミュレーションモデルは、限られた要素に着目して現象を近似する試みであり、様々な構成要素が相互にかつ複雑に作用し合う現実の世界を忠実に再現することは困難です。
シミュレーションの限界を十分に理解し、自然の営みをより深く注視していくことで、地震のメカニズム解明→地震予知の糸口が見えてくるのだと思います。
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