【地震と水】第4回 : 海洋プレートからの「脱水」が地震発生メカニズム解明の鍵!?
●「含水」⇒「脱水」のメカニズム
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「水」をキーワードに地震発生のメカニズムに迫るシリーズ、第4回目です。
第1回~第3回の記事は・・・
【地震と水】~第1回:(プロローグ)水が地震を引き起こす!?~
【地震と水】~第2回:水と地震の関係(基礎編1)・地球の中にも水がある!~
【地震と水】第3回~地震波分析・マントルトモグラフィーから反射法地震探査へ
第2回では地球内部に大量の「水」の存在することを明らかにしました。また、こうしたプレート内部の大量の「水」による“化学的要因”や“物理的要因”が地震の発生に関係することを述べました。
更に、第3回では「地震波トモグラフィ」や「反射法地震探査」 など、地球の内部構造を“視覚化”できる最新技術を紹介しました。そして、これらの技術を駆使してプレート内部の温度分布と震源を重ね合わせてプロットした結果、大陸プレートの下部に沈み込む海洋プレートの姿が見えてきました。
●マントルトモグラフィと震源の合成図
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●「反射法地震探査」により明らかになった沈み込み帯の様子
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これらを受け、第4回は、スロースリップ、アスペリティ、内陸型巨大地震、火山性地震といった地震にまつわる諸現象のメカニズムを解明する上で、鍵となる「含水」と「脱水」・・・とりわけ沈み込む海洋プレートからの「脱水」による大陸プレートへの「水」の供給メカニズムについて、『地震発生と水~地球と水のダイナミクス~』(東京大学出版会 笠原氏、島海氏、河村氏共著)より引用しつつ紹介したいと思います。
■海洋プレートの大陸プレート下への沈み込みと「含水化」
海溝やトラフのようなプレート境界では、冷えた重い海洋プレートが、温かく軽い島弧や大陸のプレートの下に沈みこんでいる。海洋プレートが沈み込んだものをスラブと呼ぶ。日本海溝では年代の古い太平洋プレート(年齢約1億3000万年/冷たい)が陸のプレート(ユーラシアプレート)の下に、伊豆・小笠原海溝~マリアナ海溝では太平洋プレートがフィリピン海プレート(年齢約2000万年/比較的温かい)の下に、南海トラフでは生成年代の若いフィリピン海プレートがユーラシアプレートの下に沈みこんでいる。
この、海洋プレートの地殻プレート下部への沈み込みですが、太平洋プレートは年間およそ10cm、フィリピン海プレートは年間およそ3cm沈み込んでいることがGPS観測の結果判明しています。
そして、数千年から1億年を超える永い年月をかけ海洋プレートには大量の水が様々な形で「含水」されることがわっています。
■沈み込む海洋地殻物質と「水」
海水を取り込んだ海洋地殻物質は、沈み込みに伴う温度と圧力の増加によって地表で見られるような変成岩に変わる。
海底からの深さにして2~3kmまでは、圧力の増加による密度の増加やSiO2などが沈殿し、ゼオライト、オパール、石英、方解石などができはじめ(続成作用・低度変成作用)、その後深さ数~10kmほどまで沈むと、鉱物相互の反応、鉱物と水との反応などにより、緑色片岩、青色片岩ができる。これら変成岩に含まれる鉱物は、結晶構造に「水」を含んだ含水鉱物を主体としている。
この「含水」の在り様ですが、鉱物の隙間に間隙水としてH2Oを含む様は非常にイメージしやすのですが、それとは別に、 「含水鉱物」という形もあります。含水鉱物とは、化学式の中に水素(H)を含んでいるもので、その多くの場合はOH-(イオン)として結晶構造の中に含まれています。
●「含水鉱物」であるスメクタイト
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■「脱水反応」による大量の「水」の放出
更に温度や圧力が上昇すると含水鉱物の脱水反応が起きる。プレート年代が古くて冷たいプレートが沈み込む場合には、含水化した海洋地殻の脱水反応は深さ30km付近から始まり、深さ400km低度で完結する。脱水反応によってスラブの上部に位置する陸(島弧)のマントルウェッジの中に噴水のように大量の(自由)水が放出される。
この「脱水反応」とは何か?
プレートの沈み込み境界域に沿って海洋地殻の最上部にあるスメクタイトやゼオライトに富んだ海洋性堆積物・変質海洋地殻物質は、海水を大量に吸着しながら、次第に沈み込み帯の深部に沈み込むだろう。温度・圧力が上昇するに従い、スメクタイトはより温度・圧力が高くなるとイライトに変化する。注目すべきことは、イライトはスメクタイトと全く異なった物理学的性質を持っていることである。イライトは層間水もないし、膨潤性も示さず、力学的特性も造岩鉱物からなる岩石に近い。
かんらん岩に含まれるH2Oの量は、主に蛇紋石および緑泥石(クロライト)の脱水分解反応の条件を境として大きく変化し、これらの含水鉱物が安定な600-700℃以下かつ5Gpa以下では、かんらん岩は8%程度のH2Oを含み得る。一方、600-700℃を超えこれらの鉱物が不安定な場合に、かんらん岩の含み得るH2O量は急減する。
つまり、沈み込みに伴う温度・圧力上昇の下、含水鉱物であるスメクタイトがイライトへ、同様にかんらん岩が蛇紋石や緑泥石に変化することで性質が大きく変わり、結晶構造的に“含水できなくなる”ことで、大量の「水」が放出されるわけです。
海洋地殻が、海溝からマントルへ沈み込みをはじめるときには、かなりの量の水を含んだ状態であることが予測される。また、海洋地殻が沈み込みを始めるときには、その上には多量の堆積物がたまっている。堆積物は、鉱物の粒間、あるいは含水鉱物である粘土鉱物として多くの水を含んでいる。水を含んだ堆積物や海洋地殻が沈み込むときには、徐々にその水を放出していくと考えられる。なぜならば、圧力・温度が上昇していくにつれて、粒間に存在していた水は搾りだされ、含水鉱物に保持されていた水は含水鉱物の脱水反応によって吐き出されるからである。
水はまわりの岩石と比べて相対的な密度は小さい。そのため、放出された水は上昇すると考えられ、沈み込むスラブ直上のレールゾライト質のマントル部分には、放出された水によって含水鉱物(蛇紋石、タルク(滑石)、ブルーサイト、緑泥石etc.)が生ずるであろう。
●「含水」⇒「脱水」のメカニズム
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大きくは「粒間に存在していた間隙水の放出」と「含水鉱物の脱水反応」・・・この2つの「脱水」現象により大陸プレート内に大量の水が放出され、徐々にプレート内を上昇・・・再び新たな含水鉱物を作るだけでなく、「地震」に関連する様々な現象を引き起こす・・・この様々な地震現象の詳細は次回以降の記事で述べていく予定ですが、今回は今後のシリーズの「INDEX」としての意味も含め、簡単にそれら諸現象のメカニズムに触れておきます。
因みに、以下の諸現象は、沈み込みに伴う「脱水」深度順(浅部⇒深部)となっています。
■第5回記事:スロースリップ~地震空白域のメカニズム
南海トラフやバルバドスなどの沈み込み帯浅部では、海洋プレートの上部に水を多く含み変形しやすい「スメクタイト」などの含水鉱物の層(デコルマ)が形成される。
また、伊豆・小笠原沈み込み帯においては、脱水反応により変形しやすい蛇紋石層が形成されており、これら含水層は、プレート間の摩擦特性を「安定すべり」に変え、(絶えずすべることにより)地震が起きない「地震空白域」を作り出している。
●豊後水道、浜名湖周辺、房総半島東部の3カ所で長期的なスロースリップ現象が確認されている
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■第6回記事:アスペリティ=“固着帯”とバリア侵食~巨大地震が同じ場所で繰り返すのはなんで?
水を多く含む「スメクタイト」は、一定深度において温度・圧力が高くなると、脱水することで水を含まず膨潤性も示さない「イライト」に変化する。イライトは力学的特性も造岩鉱物からなる岩石に近い。
つまり、この(一定の深度に達した際に発生する)水を多く含む「スメクタイト」から水を含まない「イライト」への変化は、「安定すべり域」(デコルマ)から、すべりにくい「固着帯」(アスペリティ)への“定位置”での変化を示しているのではないか?
また、「バリア侵食」仮説により、アスペリティ間の地震連動のメカニズムに迫る。
●アスペリティとバリアーの概念図
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■第7回記事:阪神大震災~内陸巨大地震の震源に「水」あり?!
地震波トモグラフィによる調査の結果、1995年兵庫県南部地震や2000年鳥取県西部地震の震源域は顕著な地震波「低速度域」であることが判明。低速度域=「流体」であり、これらの地域が火山帯でないことから、「流体」=「水」である可能性が高い。
つまり、フィリピン海プレートからの脱水反応により生じた「水」による「脱水不安定化」現象が内陸型巨大地震を引き起こすトリガーとなっていると思われる。
●新潟-神戸歪集中帯には地震は“低速度帯”が広がっている。
阪神大震災の震源直下は火山地帯ではないことから“低速=水”ではないかと言われている。
■第8回記事:火山性地震~「水」がマグマを作り出す?!
脱水反応により大陸プレートのマントル内に放出された水は、マントル内の対流(地殻流体)により浅い部分へ上昇。上昇した水は背弧側(例えば東北日本の日本海側)から火山フロント直下へ斜めに移動。水が含まれることでマントル物質が部分融解し、玄武岩マグマが容易に生成することがわかっている。(この結果、「火山フロント」としての日本列島が形成されている。)
これは、「水」が鉱物・岩石の融点を下げる(1720℃⇒1130℃)性質を持つことに起因する。
●プレートの沈み込みが深さ110kmに達したところで、角せん石、緑泥石からの脱水が起き、また深さ170kmで金雲母からの脱水が起き、それぞれの深さでマグマが発生する。このために、海溝側と日本海側の二列の火山列になる。
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以上がシリーズ後半の“さわり”です。
詳細は各記事で展開しますので、「地震と水」シリーズ後半もお楽しみに!
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