【地震と水】第3回~地震波分析・マントルトモグラフィーから反射法地震探査へ
>地球内部の物質構成は、温度・圧力によって変化します。
たとえば、地殻における岩石は堆積岩、火成岩(火山岩・深成岩)などが、温度や圧力の変化によって変成岩となります。また、風化作用によって粘土鉱物となります。
これらの変成作用には、水(H2O)の存在が大きく関わっています。
地球内部に存在する水を分析していく上で、重要になってくるのが、地球内部の温度分布です。
地球内部の温度分布はマントルトモグラフィーによって推定されています。
今回の記事では、このマントルトモグラフィーの原理を中心に、掘削不可能な地球の内部構造をどのように分析しているのかを紹介します。
温度分布であるマントルトモグラフィーの原理は、P波S波の速度の違いに着目し、その速度差から地球内部の温度を想定します。
●1.地震波分析
上の図は、震度計に記録された地震の様子です。
まず、P波が記録され、その後揺れの大きなS波が記録されるのが分かると思います。
大きな地震が来ると、最初に「カタカタ」と少し揺れ、その後「ぐらぐら」と大きな揺れが発生しますが、その「カタカタ」がP波で、大きな被害をもたらす「ぐらぐら」がS波の正体です。
又、地震の前に遠くから「地響き」のような音を感じることがありますが、それもP波によるものです。
S波とP波の到達時間の違いをグラフにすると下記のようになります。
このS波とP波の到達時間の差を複数点から観測すれば、地震の発生した震源の平面位置と深さが推定されます。
この原理によって、地震の震源は記録されます。
この方法によって、地震の平面的な位置のほか、震源の深さも想定されるようになり、深発地震の存在も明らかになったのです。
これを1927年に初めて発見したのが和達清夫でした。
地下において深発地震が発生する地帯は、緩やかなカーブを描いた面状に分布している。これを深発地震面という。深発地震面は、断面図上に震源分布をプロットしていくと現れる。1930年代には日本の地震学研究者の間では広く認知されていた。当時は地震は深くても数十kmほどまでの浅いところでしか発生しないと考えられており、この発見が地震研究にも大きな影響を与えた。
1960年代に支持されるようになったプレートテクトニクスでは、プレートが海溝に沈み込んだ後の様子を示す1つの証拠として深発地震面が用いられた。この理論によりプレートの運動が深発地震と結び付けられたことで、深発地震のメカニズムに関して新たな考察がなされた。
リンク
●2.「トモグラフィー」と呼ばれる手法
地震波分析の手法は、地球内部の構造が均質な構造をもっていることが前提ですが、現実の地球内部はもっと複雑であり,場所によって地震波速度が異なる不均質状態となっています.
先行するP波は、固体・液体・気体いずれも伝わっていき、その速度は秒速6km~7km、後でやってくるS波は、固体だけに伝わっていき、その速度は秒速3.5kmといわれています。
地球内部の地震波速度の変化はおよそ数%から10% 程度といわれていますが、P波到達時間とS波到達時間の差が小さい場合その経路は固体である可能性が高く、遅い場合は流体である可能性が高い。これが地震波低速度域、高速度域と呼ばれます。
実際の震源決定では,震源の深さと震央距離の関数としてP波およびS波の走時を求めるプログラムを電子計算機の内部に組み込み,地震の発震時と震源の位置を少しづつ変えながら,観測されたP波およびS波の着震時データと理論的な走時がもっとも良く適合する組合せを探すという作業を行なっています.
ここで、地震波低速度域=流体=マグマ=高温、地震波高速度域=固体=鉱物=低温と想定し、それらを画像化することによって、マントルトモグラフィーはつくられています。
(P波の伝わる速度が1%違えば、約100度の温度差があると考えられています)
マントルトモグラフィーの発展により、地球内部の温度分布が解明されました。
●3.震源・温度分布・プレート境界の合成
以上見てきたような科学技術を使って、日本列島のある断面における震源・温度分布・プレート境界を合成した図が下記です。
画像は リンク より転用しています
上図は地震波速度トモグラフィによって得られたS波(横波)速度構造の,鳥海山や栗駒山付近を通る鉛直断面です. 青色は高速(低温,高密度)部,赤・黄色は低速 (高温,低密度)部を表します.○は地震の震源で▲は活火山です. 東北地方の陸域下に沈み込む太平洋プレートの姿が,青色の帯として明瞭に写し出されています. マントルウェッジには,明瞭な低速度域が,沈み込むプレートにほぼ並行に存在しています. この低速度域は,マントル深部からの上昇流に対応し,島弧マグマ活動と密接に関係していると考えられています. 赤丸は,深部マグマ活動に起因する低周波微小地震(非常に卓越周期の長い波形を持つ特殊な地震)です.
●4.現在の調査技術
1.反射法地震探査
地震波分析は、実際の地震がなければ観測できませんが、最近では人工的に地震波を発生させ、そこから地球内部の構造を調査する「反射法地震探査」とよばれる調査も行われています。
【原 理】
反射法地震探査は,地表で発生させた波が,地中の反射面(主に,速度や密度が変化する地層境界面)で反射して帰ってくるさまをとらえ,その到達時間その他の情報を用いて地下構造を探査する手法である。元来,石油や石炭といった資源の探査に用いられ,高い実績をあげてきた手法であり,国内では,主に,近年の地震の多発に伴う断層調査や,海域における大陸棚の調査などに用いられている。
【特徴】
深い深度の地下構造を連続的に知ることができる。
地層境界面の深度情報を知ることができる。解析結果は深度方向の反射係数(弾性波速度と密度の情報から得られる音響インピーダンスの変化情報)の分布図になる。
リンク
この反射法地震調査により、地震波をきわめて強く反射する薄い層が深度5~10km付近に広い範囲にわたり分布していることが発見された。
そしてこの境界(あるいは薄い層)を境にして変形(と応力)が不連続になっていることが観測により発見された。このような境界面はデコルマと呼ばれる。
この発見はプレート境界層の新しい理解へと導くひとつの大きな扉となった。P波・S波の速度差が大きくなる原因は、唯一流体があることになるが、この周辺の温度はたかだか500℃であるから、岩石が溶けたマグマとは考えられない。
ここで登場する仮説が水の存在である。水がクラックのように平たいレンズ状に入っていると考えるとこの不連続面の説明がつく。
(「先端巨大科学で探る地球」より)
●まとめ
以上のように地球の内部構造は、様々な方法で解明されていますが、地震を発生させるメカニズムに関してはまだまだ未解明な点が多く、従来の地震理論の限界が、専門家の中でもあがっています。
しかしここ数年反射法地震探査という観測技術により、より詳細な地球の断面構造があきらかになってきました。マントルトモグラフィーで解明された低速度域も従来の流体=高温=マントルという定説でなく、流体=水に置き換えてこれまでの地震現象を解明する。こういった研究や仮説について次章では詳しく展開します。