2012-09-04

地震予知の現状(1)・・・地震予知とは?

 昨年の3.11地震後、地震予知に関して、テレビや週刊誌ではいろいろなアイディア(例えば地震雲、動物が騒ぐ等の宏観現象、電磁波を使った地震予知、GPSを使った地震予知)が取り上げられます。ただし、その内容は昔から言われてきているものだったり、その根拠が不鮮明だったり、地震予知が本当に出来ているのか?などなど、実はよくわかりません。一方で、人々の期待を受けて、一部の研究者が地震予知に取り組み始めていますし、海外ではその実績もあるようです。
 
 今後、地震予知を追求する上で、まずは、地震予知の現況を押さえる必要があります。そのため、2007年に刊行された『地震予知の科学(東京大学出版会)』を参考に、数回にわたり、現況の地震予知について調査・報告したいと思います。
  
    zisinyochi1.jpg
  地震予知の科学(東京大学出版会)
 以下の内容で、順に進めていきます。
1.地震の発生をあらかじめ知るとは(地震予知とは)
2.これまで何が行われてきたのか(地震予知研究の歴史)
3.この10年で何が明らかになってきたのか(最近の地震予知研究で判明したこと)
4.地震を予知することの今(最近の地震予知研究をもとに行われていること)
5.地震予知のこれから(今後の地震予知の課題)
では、今回は、地震予知の概要、『1.地震の発生をあらかじめ知るとは』です。
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 地震予知の難しさはどこになるのでしょうか?もちろん、地震予知をするための理論が確立されていないことにつきますが、それ以上に、われわれ素人が感じることは、地震予知の現象(前兆)と地震発生を結ぶしくみ(仮説を含む)が明らかにされておらず、地震予知が当たった・外れたということだけに注目が当っているため、地震予知の可能性が有るのか無いかの判断が出来ないと思います。
 地震予知が当ったとマスコミが騒ぐ方法も、実は、日本の現状の地震観測網で観測される地震の数は、震源が決められているものだけでも、年間およそ13万個以上、1日あたり400個弱が発生しており、ある意味、当てずっぽうでも地震予知が当たったように考えることが可能な状況にあります。
    japan.png
  1990年~2000年にかけての日本付近で発生した地震の震央分布図(気象庁のホームページより)
 では、地震予知の現況を今後押えていきたいと思います。そのためにも、今回は地震予知の導入部・・・地震予知の状況を知る上で知っておくべき、現象や定義について扱います。
 
●地震とはどんな現象か?
まずは、地震に関する基本的内容をまとめてみます(諸説ありますが、一般的な内容でまとめます)。

・地震とは地下で発生する岩盤の破壊現象。岩盤が地下のある面=断層を境にずれる現象。地下の岩盤にたまった歪を解消する現象。
・断層はある点(震源)からずれ始めるが、震源はある広がりをもっている。
・断層のずれが一瞬でおきるわけではなく、秒速2~3kmで広がる。
・断層がずれる際に地震波が生じ、周囲に伝わり広がっていく。
 
 例えば、2004年末に発生したスマトラ沖の地震(M9.1)では、ある解析によると約1200km×200kmの広がりをもつ断層が、500秒ほどかけてずれました。東京から沖縄近くまでの長さをもつ断層が10分近くかかってずれたことになります。

●地震予知とは?

 地震予知については、『いつ』、『どこで』、『どれくらい』の規模で発生するかが地震予知の3要素と呼ばれています。また、地震予知の世界において、地震が想定されるまでの時間やその精度によって、地震予知が3種類程度に分かれるようです。『長期予知』、『中期予知』、『直前予知』です。この内容についてまとめてみます。
 分類   /時間スケール /手法
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
①長期予知 /数百年~数十年/過去の地震発生履歴を用いて統計的に予測
②中期予知 /数十年~数ヶ月/現在の観測データと物理モデルを用いてシュミレーションによって予測
③直前予知 /数ヶ月~数時間/地震直前に現れる現象(前兆現象)を捉えて予測

●長期予知とは?

 過去に発生した地震の履歴をもとに、将来の地震発生の時期をおおまかに予測します。このような予知は、すでに政府の地震調査研究推進本部によって『地震の長期評価』として実現しています。過去の地震について調べる方法はいくつかあり、古文書など歴史史料の記録を調べる方法、活断層を調べる方法、津波によって運ばれた堆積物を調べる方法、海岸の隆起・沈降を調べる方法などあります。これで、『どこで』、『どれくらい』の規模の地震が発生するかについての予測をすることを可能にしています。
ただし、地震発生間隔にはバラツキがあるため、今後30年間の発生確率として表現されています。

【参考】下図は地震調査研究推進本部による「全国を概観した地震動予想地図2007年版」です。約2000の活断層の中から、発生する地震の規模が大きく、社会的・経済的影響が大きい主要活断層を選び、地震が発生した場合の規模(マグニチュード)や、発生確率(今後30年以内に発生する確率など)を評価しています。ただし、これだけでは発生確率の持つ意味が解りづらく、どう判断するのか不鮮明です。これだけでは地震予知?と思ってしまいます。
  ファイルをダウンロード
●中期予知とは?

 長期予測の欠点を克服するために、地震がどの程度切迫しているかを、現地点までの観測データに基づいて推定する必要があります。そのために、日本列島で発生する地震や地殻変動をくまなく観測している地震観測網やGPS観測網などによる地震活動や地殻変動データなどを用います。現在日本列島には1200点以上の高感度地震観測点があり、マグニチュード1.5以上の地震ならば、日本列島のどこで起きても確実に捉えることができます。また1300点以上もあるGPS観測点によって、日本列島が時々刻々と変化していく様子も手に取るように明らかになってきました
  zisinnyochi3.jpg
 GPS観測による地震時地殻変動
この結果、特にプレート境界の地震については、地震が発生する様子が良く解ってきて、いくつかの地震については、コンピュータのシュミレーションによって発生パターンが再現できるようになってきました。このような予知が出来れば、行政レベルで長期予知よりも具体的かつ集中的に耐震補強などの地震防災対策を実施することが可能になります。

●前兆現象に基づく直前予知は?

 地震発生の直前に警報を発することが出来れば、多くの生命を守ることができます。そのためには、地震の前兆現象を活用した予知が必要となります。このような予知を、『直前予知』と呼びます。地震発生の直前にしか起きない現象があって、その発生を監視し、地震発生に向っていよいよ地殻が動き始めたかどうかを判断することができれば、精度の高い予測が可能になります。東海地震については、このような前兆現象のうち、プレート境界で発生する『前兆すべり』という現象の監視を気象庁が行っています。『前兆すべり』とは、地震発生直前に、普段は固着している震源域の一部がゆっくりすべり始めるという現象です。ただし、前兆すべりが実際に観測されたことはなく、今後の課題です。

 以上のように、地震予知は、『いつ』、『どこで』、『どれくらい』の規模で発生するかを解明するために、『長期予知』、『中期予知』、『直前予知』を使いながら、予測精度を高める努力をしています。特に『いつ』についての予測精度を高める努力が、現在の地震予知研究の目指している方向です。
 次回は、地震予知の歴史;2.これまで何が行われてきたのか(地震予知研究の歴史)を扱いたいと思います。

List    投稿者 runryu | 2012-09-04 | Posted in D03.地震1 Comment » 

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コメント1件

 天変地異 | 2013.10.23 18:20

南極でオゾンホールが発生しない理由、実に明快ですね。これはなかなか反論できないでしょうね。一方、北極でオゾンホールが発生しないと言うのは、何らかの情報操作がされている気がしてなりません。もしかすると、既に取り返しがつかないくらい大きくなっているのかもしれません。北極海の氷がどんどん解けているのはまぎれもない事実の様ですから(「北極海航路の開通」で検索すると、関連情報が続々と出ます)。
前回書いた、核実験とオゾンホールの関係は、
岩坂泰信著、『 オゾンホール ~南極から眺めた地球の大気環境~ 』 裳華房
に、記載されています。

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