『首都直下型地震4年以内にM7級が70%』報道にみる学者・マスコミの迷走(1)
2011年東北地方太平洋沖地震以降、新聞、テレビ、週刊誌では地震に関する報道が盛んです。
・「首都直下型地震。4年以内にM7級が70%」(読売新聞1月23日)
・「最大34・4m津波予測の高知県に衝撃広がる(国が31日に公表した南海トラフの巨大地震による津波想定)」(読売新聞4月1日)
・「首都直下地震・震度7湾岸広範囲に 文科学省試算」(毎日新聞3月31日)
これらの記事には「多くの仮定に基づく試算なので条件を変えると結果が大きく変わる・・・」とも書かれています。しかし、国や、東京大学地震研、京都大学地震研の発表だとすれば、つい信じてしまうのではないでしょうか・・・?でも実態はどうなのか?
今回は、これらの記事の中で、「首都直下型地震。4年以内にM7級が70%」を扱ってみます。実は、調べて驚いたのですが、この数値、結構いい加減なんです 👿
まずは、「首都直下型地震。4年以内にM7級が70%」が新聞・テレビでセンセーショナルに扱われましたが、その後、この数値はいろいろ迷走しました。この数値は、東京大学地震研究所・平田直教授が試算したものですが、発表後、東大と同様の手法で京都大学防災研究所の遠田晋次・准教授が「5年で28%」になると発表。その後、平田直教授が再計算をしたところ、「4年以内で50%以下」と変化し続けました。
なんでそんなにコロコロと数値が変わるのか・・・?
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【東京大学地震研究所】から引用します。
2011年東北地方太平洋沖地震による首都圏の地震活動の変化について
■以下の試算は,2011年9月の地震研究所談話会で発表されたもので,その際にも報道には取り上げられました.それ以降,新しい現象が起きたり,新しい計算を行ったわけではありません.
■当初から明言している通り,このページは個々の研究者の研究成果・解析結果を掲載したものです.このページに掲載されたからといって,地震研究所の見解となるわけではありません.(途中略)
このページを作成したのは,詳しい背景説明を,報道や一般の方から求められたためです(1月23日22時開設).本サイトでは以前から,需要に応じてこういった活用を行っています.また,何らかの理由で報道内容が科学的に正確でない場合にも活用を行っています.
そもそも、マスコミ報道が、世間の注目を集めた理由は、首都直下型地震の発生確率70%が、政府が発表してきた従来の「30年以内」から、「4年以内」と急激に早まったからです。
そして、各メディアが東京大学地震研がその値を新たに計算したものとして意図的に報じたためにパニックを助長してしまいました。そのため、当の東京大学地震研究所が、このような記事をサイトに載せているのです。
では、この問題は、マスコミの問題なのか・・・? そうとは言えないのです。数値の根拠が以下に示されています。
用いられた解析手法
大きな地震はめったに起きませんが,小さい地震はたくさん経験されたことがあると思います.地震の頻度というのは,マグニチュード(M)が小さいほどたくさん起こり,大きくなるほど少ない,という経験則があり,それが『グーテンベルク・リヒターの式』と呼ばれる関係式で表現されています.たとえば日本では,おおよそ,M3の地震は一年に10,000回(1時間に1回),M4の地震は年に1,000回(1日に3回),M5は年に100回(3日に1回),M6は年に10回(1ヶ月に1回)程度となることが知られています.
一方,大きな地震が起こると余震がたくさんが発生しますが,余震の数は大きな地震(本震)から時間が経過するのに伴って減って行きます.これを数式で表現したものが『改良大森公式』と呼ばれる公式です.地震調査委員会はこれらグーテンベルグ・リヒターの式と改良大森公式を組み合わせて,『余震の確率評価手法』を作りました.
この手法の適用範囲は「狭義の余震」(本震の震源域およびその近傍で起こる余震)と明記されていますが,酒井准教授らは東北地震による首都圏の誘発地震活動も広い意味では余震であるので,この手法が適用可能であると考えて,M7の誘発地震が将来起こる確率を,2011年9月に計算しました.
3月11日前後での首都圏の地震活動
下の左図は3月11日までの半年間(2010年9月11日~2011年3月10日),右図は3月11日以降の半年間(2011年3月11日~2011年9月10日)の,M3以上の地震の分布をあらわしています(気象庁一元化震源を使用).3月11日の地震の前後で,地震の数は,47個から343個に増加しています.
2010年9月11日~2011年3月10日のM3以上の地震の分布(左)と,2011年3月11日~2011年9月11日の地震の分布(右).47個から343個に増えている.
この3月11日以降の地震活動には,3月10日以前からの定常的な地震活動と東北地震による誘発地震活動の両方が含まれていますが,後者の方が圧倒的に数が多いので,すべてが誘発地震活動であるとして解析されました.まず,グーテンベルグ・リヒターの式のパラメータb値や改良大森公式のパラメータp値を推定します.推定されたパラメータを『余震の確率評価手法』の中の算出式に代入して,M7程度(具体的には,M6.7-M7.2)の誘発地震が今後30年間に発生する確率を計算すると98%となりました.まったく同じ算出方法で期間4年間として計算すると,確率が70%となりました.
試算結果に含まれる誤差
以上の試算結果には次のような誤差が含まれます.
1.「狭義の余震」のための『余震の確率評価手法』を誘発地震活動に適用したことによる誤差.
2.パラメータb値やp値を推定する際に発生する誤差.
1.の誤差については不明ですが,予測手法に明記されている適用範囲を越えて用いているので,かなり大きいことが予想されます.また,2.の誤差も以下に示すようにかなり大きいものです.
上に示した2011年9月での試算ではb値は0.67と推定されましたが,その後の2011年12月までのデータを含めるとb値は0.78と大きく変化しました.同じようにp値の推定値も大きくなってしまいました.『余震の確率評価手法』には改良大森公式が組み込まれているので,起算日を変えなければ発生確率は変化しないはずですが,こうしたパラメータ推定値の変化により30年確率の試算結果は,98%から83%に変わってしまいました.
つまり,2.の誤差の試算結果への影響だけでもこれほど大きいのですから,両方の誤差を加え合わせた影響は非常に大きいものと考えざるを得ず,30年で98%や4年で70%といった数字そのものにはあまり意味がないと考えてください.ただし,首都直下地震が起こるということや,それが切迫しているということは,以前から,政府をはじめ多くの研究者が指摘しているとおりです.今がその時と思って,備えてください.
なんと、確率数値には、以上のような大きな誤差が含まれていたのです.その結果、
『両方の誤差を加え合わせた影響は非常に大きいものと考えざるを得ず,30年で98%や4年で70%といった数字そのものにはあまり意味がないと考えてください.』
と確率数値が当てにならないことを本人たちが言っているのです。
(参考)一般に地震が発生すると、その地震が発生した場所の近傍で、最初の地震より小さい地震が多数発生する。最初の地震を本震、それに続く小さな地震を余震といい、このタイプの地震活動を本震-余震型という。また、本震の直後(数時間から1日程度)の余震分布は本震の震源域をほぼ表している。狭義の余震とはこの近傍の余震をいい、ここから飛び離れて起こる地震はいわゆる広義余震または、誘発地震ということもある。
政府公表の『今後30年で70%』とは異なる数値になる理由
読売新聞記事にも書かれているように,文部科学省の地震調査研究推進本部は,南関東のM7程度の地震(いわゆる首都直下地震)の発生確率を「今後30年で70%程度」と発表してきました.本研究の試算「今後30年間で98%(あるいは,今後4年で70%)」は,政府発表の値とは異なるものとなっています.この相違の理由は,見ているもの(評価や試算の対象)の違いであると言えます.
政府の試算では,過去150年間に起きたM6.7-7.2の地震を数えて,その頻度から確率を求めています(参考: 地震調査研究推進本部の該当ページ (PDF)).つまり,東北地震による誘発地震活動が始まる前の定常的な地震活動の中から,首都直下地震に相当する地震を選び出して発生確率を計算しています.一方,本研究では首都圏で起こる東北地震の誘発地震活動が試算の対象です.
ところが,東北地震の誘発地震活動と定常的な地震活動との間の関連性はまだよくわかっていません.したがって,両者の数字を単純に比較することは適切でないと考えられます.
東京大学地震研究所という立場の教授が、前提条件が不確かで、かつ著しい誤差が含まれていると知っていながら、それを公表していたということです。
この行為は、311地震後の、大衆の不安、そしてその不安の中での期待(事実を知りたい、どうすればいいのか知りたい)に応えるものではないと思います。そもそも人々の期待を汲み取れておらず、311後の原発問題での『想定外』を平気で連発した学者と同じ自分第一の意識構造なのではないでしょうか。
次は、この件におけるマスコミの問題について扱っていきます。ありがとう御座いました。
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