『次代を担う、エネルギー・水資源』水生圏の可能性、水力エネルギーの活用 1.自然エネルギーの原理について
今回のシリーズは「水力エネルギーの活用」です。
水力の活用は、石炭をエネルギー源として使い出す産業革命以前では、最も、一般的なものでした。流れる水の力を水車の回転に転換し、その回転力でいろいろの仕事をさせます。
日本は、多量の雨が降ります。そして、高低差のある地形が、流れの速い河川を作り上げています。この流れの速い河川の水流を使って、水車を駆動させることが普及していきます。
江戸時代には、水車を使って穀物を粉にする製粉所やゴマから油を絞る製油所が全国にありました。
精米製粉用の水車の模式図
右側から水車(A)、上下する杵(D、E)と搗臼(G、H)、回転する挽臼(O)、穀物を石臼に送り込む昇降ベルト(Q)です。(出典:芦屋川水車場跡と城山古墳群第20号墳の発掘調査成果)
一方、風力の活用も行われていました。最も有名なのが、オランダの風車ですね。風の力を風車の回転力に転換し、その回転で仕事をさせます。
自然現象の中に潜在している力は、他に何があるでしょうか?太陽光そのものがあります。地熱も考えらますね。
そこで、水力、風力、太陽光、地熱について、ちょっと原理的な考察をしてみます。
1.自然エネルギーとその連関表
2.水力、風力、太陽光、地熱のもつ潜在的なエネルギー水準
3.自然エネルギーの評価(存在の普遍性、仕事への転換の容易さ・難しさ)
水力、風力は「力」という言葉が使われています。それに対して、太陽光は「光」、地熱は「熱」と違う言葉が使われています。何かヒントが含まれています。
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1.自然エネルギーとその連関表
太陽光発のマクロな現象・力
地球に降り注ぐ太陽光、この太陽光から生じるマクロな物理現象を活用するのが水力と風力です。
まずは水力です。太陽光が水(海水)を蒸発させ、それが雨や雪になって地上に降り注ぐ。高い場所に降った雨・雪が河川を流れる、この水の流れる力です。
(水が蒸発するのはミクロな現象ですが、流れる水なのでマクロな物理現象とします。また、河川は高いところから低い所に流れるので重力が関係しますが、流れるという運動の力として考えます。)
この水の流れる力を活用して水車を回して仕事をします。また、発電機を回し水力発電をします。
次が風力です。太陽光が大気を暖め(その上に水蒸気が大気を暖め)、大気の活性度を上げ(賦活し)、風というマクロな現象を生じさせます。この風の力を活用して風車を回し仕事を行い、風力発電をします。
太陽光発のミクロな現象・エネルギー
今度は力ではなくエネルギーです。そして、ミクロな現象です。
まずは、古来から燃料(エネルギー)として利用してきた薪です。植物が太陽光を活用して光合成を行い、植物自身の体(幹や枝)を作りあげます。そして、我々がその幹や枝を薪として燃やし、熱エネルギーとして利用してきました。植物の光合成は、太陽光のミクロな活用・ミクロな現象です。
太陽光が水の分子運動を活性化させ、水の温度を上げます。この高温の水を活用するのが、太陽温水器です。最近は高温温水を使った「太陽光温水発電」が取組まれています。
太陽光が半導体シリコンの分子運動を活性化させ、そこで生じた電子をうまく取り出すのが太陽光発電です。
上記4ケースは、マクロな物体の運動力(運動エネルギー)ではなく、熱エネルギーや<光→電子>エネルギーとして登場します。運動エネルギーと熱エネルギー・電気エネルギーの違いです。
地球マグマ発のエネルギー
マグマが表層近くまできているところでは、高温な地層温度となります。この高温地層で地下水が蒸気になり、地上に噴出してきます。この高温蒸気を活用するのが地熱発電です。
また、温度の高い地層から「温水供給」を行う試みが始まっています。序で紹介した「星野旅館」のように、温度の高い地層にパイプを埋め込み、パイプの中の水の温度を上げ、その温水をエネルギー源として活用しだしています。
2.水力、風力、太陽光、地熱のもつ潜在的なエネルギー水準
自然エネルギーの潜在力を比較してみます。
単位系は、m・メートル、秒を採用し、エネルギー単位はジュールです。
メートル単位で表すと、例えば水力では、1立方メートルの水が、秒速2メートルで流れていると設定した、潜在的な運動エネルギーの試算です。その他の設定は下表の通りです。
水力の潜在エネルギーは、4,000ジュール水準になります。対して、風力は、大気の重さが水の重さに比して小さいので、速度20mと水流の5倍の速度でも、潜在エネルギーは590ジュールと7分の1です。
太陽光が断面1平方メートルに降り注ぐ潜在エネルギーは、1,000ジュールです。
地熱系統の水蒸気や温水に含まれる潜在エネルギーは圧倒的に大きいです。
地熱発電に使われる水蒸気の潜在エネルギーは、1立方メートルで20万ジュールになります。また、3リットルの温水が7度低下する場合に発生させるエネルギーは9万ジュールとなります。
まとめると、潜在エネルギーは、以下のような順位になります。
地熱水蒸気>地熱温水>>水力>太陽光>風力
風力発電が大きな羽をつける必要があるのは、潜在的なエネルギーが最も小さいからですね。
3.自然エネルギーの評価(存在の普遍性、仕事への転換の容易さ・難しさ)
自然エネルギーとしての可能性を、「存在の普遍性」、「仕事への転換の容易さ・難しさ」を軸に評価してみます。
エネルギー利用の歴史をみると、枯れた草や枝・幹を燃やしたのが最初ですね。植物(草や木)は普遍的に存在し、燃焼という容易な方法でエネルギーを取り出せますので、自然エネルギー活用の最初に位置します。
以下、自然エネルギーの歴史的順番です。
①水車(水力)と風車(風力)は文明時代に登場し、中世から近世にかけて普及
②水車の回転力を発電機につなぐ「水力発電」が登場(近代)
③水を密閉できるパイプ技術ができて、太陽温水器が登場(20世紀前半)
④地熱発電はもう少し新しい(20世紀中ごろ、日本では戦後)
⑤半導体技術としての太陽電池を発明し、太陽光発電が登場するのは20世紀末
⑥地中からの温水供給や太陽光温水発電はつい最近
この順番が決まる要素は、地域に普遍的に存在するかどうか、力・エネルギーを取り出すメカニズムが簡単かどうか、潜在的なエネルギー水準が高いかどうかが関係しています。
水車(水力)と風車(風力)を比較してみます。
そこそこの水流がある地点は、地域的にみて沢山あります。その力を取り出す水車のメカニズムは比較的簡単です。そして、水流の潜在エネルギーは大きいのです。
対して、風力(風車)が使える地点、比較的強い風が吹く地点は、限られています。その上に、潜在エネルギーが小さいので、一定の力取り出すためには、大きな風車をつくる必要があります。だから、風車は、世界中でも限られた地域で活用されていました。
水力発電と風力発電の関係も、基本的には同じです。
太陽光は、地域に普遍的に存在します。
しかし、太陽光から直接エネルギーを取り出すのは、難しいのです。太陽温水器では、水を密閉する技術が必要ですし、太陽光発電では、半導体技術の進歩があって初めて可能となりました。
その上に、太陽光の潜在エネルギーはそれ程大きくないので、エネルギーを取り出す効率が問題になるのです。
太陽光から直接、熱エネルギーや電気エネルギーを取り出すのが20世紀後半になった理由です。
地熱発電や温水供給は、高温な地層が浅い場所にある必要がありますので、地域的には最も偏在しています。潜在エネルギーは非常に大きいのですが、場所の偏在という制約がかかります。
地域存在の普遍性では、太陽光>水力>風力>地熱
エネルギーを取り出すメカニズムの容易さでは、水力>風力>太陽光、地熱
という位置づけになります。
自然エネルギーの主役は水力、脇役は太陽光
存在の普遍性が高く、エネルギーを取り出すメカニズムも比較的簡単で、潜在エネルギーの水準も高いのが水力(水流)エネルギーです。
今後の自然エネルギーの主役になれる可能性をもっているのが水力です。
脇役は、存在する普遍性の高い「太陽光」の直接利用でしょう。その場合、太陽光発電だけでなく、よりメカニズムの簡単な「太陽温水器」の可能性を探る必要がありそうです。
風力と地熱は、地域限定という位置づけになると思います。
自然エネルギーを原理的にみてみましたが、やはり、水力を主役に位置づけることが確認できました。
次回は、水力・水車の歴史にまで遡ってみます。
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匿名 | 2011.09.22 22:22
エネルギー政策予算の原発からの方向転換を願いたいものです。