2010-07-26

『次代を担う、エネルギー・資源』バイオプラスチックの可能性5~リグノフェノールの実用化は進んでいるのか?~

前稿~リグニンの利用とは?~より

このリグノフェノールを使うことで、木材を融解させたり、また固めたりといった操作が自由に出来るようになるというのです。今まで一度使ったららおしまい、であった木材を原料として低エネルギーで加工して何度も、繰り返し使うことを可能にしたのです。
もともと石油は自然の中で何億年もの長い時間を掛けて、樹木が変化して出来たものでした。この方法は、先にも述べたとおり、いわば樹木から直接プラスチックを作る方法なのです。

樹木から直接プラスチックを生産できれば、「森林大国日本」にとっては石油依存を軽減する大きな可能性です。
この40年間の日本林業の低迷とそれを放置してきた森林の現状は誰の目にも明らかであり、森林政策や林業対策について各方面からいろいろな提案がなされています。

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ただ、いずれも観念的でスローガンにとどまっていて、具体的施策になかなか発展していかないようです。
バイオマスについては聞こえがいいので必ず盛り込まれていますが、いずれも追求が浅く「付け足し」に過ぎません。リグニンについても「リグニンの有効利用が課題」とは書かれていますが、リグノフェノールについてはほとんど触れられていません。
どうやら、バイオマス利用推進、リグノフェノール生産にはなにか大きな壁があるようです。
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■リグニン利用の現状
では現在、日本の産業界でのリグニン利用はどうなっているんでしょうか?
木材原料からリグニンを最も多く抽出するのは製紙業界です。セルロースをパルプに加工するので分離されたリグニンが排出されるわけです。(⇒黒液
‘70年代に社会的大問題となった「ヘドロ」は、製紙工場から廃棄されたリグニンです。

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「ヘドロの海」(ホントにひどい状態でした・・・)

製紙企業にとってリグニンは「ヤッカイ者」で、その処理は切実な問題ですから、リグニンの有効利用は「積年の課題」となっています。現在、いくつかの取り組みが公表されています。

・大王製紙・・・カーボン代替材料としてタイヤ(ゴム)補強材に転用。
・森林総合研究所・・・リグニンを原料とした接着剤を開発(エポキシ樹脂接着剤の3倍の強度!)
・日本製紙ケミカル・・・コンクリート、モルタル混和材を製品化。

いずれも消費規模は小さいものです。またここで利用されるリグニンは廃棄物となったリグニンで、高分子構造が破壊されているため多様な利用ができません。
ですから企業のホンネはというと、

「リグニン利用の費用対効果を考えれば、燃料利用が社会貢献できる限界」 (王子製紙)

リグニンの利用価値を高めるにはもっと大きな「市場」を作り出す必要があります。
その可能性を秘めているのが木材から相分離システムで取り出したリグノフェノールですが、リグノフェノール生産に必要なエネルギー量が小さいといっても生産インフラが整わないのが現状で、ここでもバイオマス利用はその採算性が常に壁となっています。
→市場原理の枠内で石油系プラスチックからリグノフェノールへの転換には無理がある?
⇒としたら、木材が『緑の社会資本』であることの社会全体にわたる合意形成が不可欠になってきます。
■リグノフェノール生産の動向
実際問題として、木材からリグニンを抽出してリグノフェノールを生産するだけでは、木材資源の限られた利用で終わってしまい、環境破壊にもつながりかねません。そこで前出の舩岡教授は、この技術をあくまでも木材資源のリサイクル・システムの中に位置づけることを提案し、それを実現するための技術移転の手法をTLOとともに模索しました。

リサイクル・システムを作るためには、リグノフェノールを 生産する原料メーカ 一だけでなく、システムの各段階を担う様々な企業を巻き込む必要がある。そこで、複数企業による研究会を立ち上げることを TLO側が発案し、「リグノフェノール研究会」が発足した。現在、荏原製作所、ならびに大手日用品メーカ一等6社が参加している。この研究会が母体となり、今後、実用化を目指した開発研究が進んでいる。
リグノフェノール実用化に取り組む企業
日精樹脂工業、住友林業、段谷産業、ザナジェン、
住建産業、大建工業、松下寿電子工業、荏原製作所、
大成建設、東洋樹脂、マルト- 、コクヨ

「企業間協力の核としての技術移転機関の機能」から引用
※TLO:大学技術移転機関 (Tec㎞ oloW Licensing Organization;T LO)
しかし・・・
■市場の壁
リグノフェノールはパイロットプラント稼動以来10年もたつのに、一般市場に製品が登場してきません。企業ができる技術高度化でも超えられない壁が産業構造、市場にあるのでしょう。
具体的に何が壁になっているのでしょうか?
(効率的な集荷・製材システム等の導入が必要)
日本の木材原料は諸外国に比して相対的に安価だが、リグニン素材の集積が産業システムに組み込まれていない。分散的収集、多段階の流通や機能していない原木市場、規模の小さな製材所などによりコストが高い。5年~10年に1度は地域のどのような山にも間伐、択伐が入る仕組みの導入等が必要。
(施設費や運転費の削減が必要)
十分に普及していないため、施設建設費が高いために事業リスクが高くなる。特に破砕機の部分が高い。リース方式の導入可能性や国からの交付金の利用も含め、施設費の削減を図る。
(情熱のある事業主体の確保が必要)
環境配慮をアピールすることだけが目的なら、生産ルートが既にできているポリ乳酸やバイオエタノールに乗っかって、一部の製品に利用すればいいのでそこに飛びつく企業が多い。
木質バイオマス事業は地域にとって新しい事業であり、トライアル&エラーの要素が多い上に、産業構造全体を組み替える事業でもあるので実現に向かう決意性と活力が不可欠である。新たな課題にあたってもそれを突破するだけの情熱を持つ企業がなし得る事業である。

【参考】
「他社(特に大学)の知財を事業化するためには」 株式会社リクルート テクノロジーマネジメント開発室
「森林バイオマス利活用の動向」 株式会社 エックス都市研究所
●リグノフェノール実用化の前提条件
プラスチック生産の転換は「脱石油」の大きな柱です。
が、本記事で取り上げたリグニン素材のバイオプラスチック「リグノフェノール」の生産の現状からは、なにか「行き詰まり」を感じます。
リグノフェノール実用化、その実現基盤は市場を越えたところにあり、市場原理から脱却して次の社会を考える認識転換が不可欠です。
同時に、木材の生産期間と消費期間がバランスする「バイオマス循環サイクル」を構築する必要があります。
次稿では「バイオマス循環サイクル」をどのように構築するのか、を考えて見ましょう。

List    投稿者 finalcut | 2010-07-26 | Posted in E05.バイオプラスチックの可能性No Comments » 

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