『次代を担う、エネルギー・資源』バイオプラスチックの可能性2 ~バイオプラスチックとは
こんばんは。
前回のエントリーでは、現代においては、その性能・性質等において、プラスチックは簡単には、無くせないものであることが明らかになりました。
一方で、プラスチックの原料となる石油は、一般的には、数億年前の生物の死骸が化学変化を起こしてできた化石燃料であるため、枯渇性の有限資源といわれており、中長期的には供給量の減少も危惧されています。
このような状況から、持続的にプラスチックを供給する手段として、化石燃料に依存しない、バイオマスを利用したバイオプラスチックの可能性が注目されています。
お米のもみ殻や古々米からつくったバイオプラスチック製品
greenz.jp HPより
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●バイオプラスチックとは ~バイオマス由来のプラスチック
バイオマスとは、バイオ(生物)とマス(量)の結びついた生態学の専門語ですが、生きている動植物、収穫された農水産・林産物、死んだ生物の遺骸などが含まれます。一般に「バイオマス」と言う場合は「活用できる生物由来の再生可能な有機資源」と定義されます。
石油由来の原料を使用する場合は、地球上に蓄えられたエネルギーを消費していく方向、つまりエントロピーは増大していくのみなのに対し、バイオマスの場合、太陽エネルギーを利用した光合成反応により空気中の炭素を生物の体内に固定化することで、再び資源やエネルギーとして利用可能な状態に再生できます。
このような、再生可能なバイオマスを利用し、作られたプラスチックをバイオプラスチックといいます。
バイオプラスチックは新しい概念ですので、未だ世界的に統一された定義はないようですが、日本バイオプラスチック協会では、
「原料として再生可能な有機資源由来の物質を含み,化学的又は生物学的に合成することにより得られる分子量(Mn)1,000以上の高分子材料をいう.(化学的に未修飾な非熱可塑性天然有機高分子材料は除く)」と定めています。
バイオプラスチックと呼ばれるものには、上記のようにバイオマスから作られた「バイオマスプラスチック」という意味と、微生物によって分解可能である「生分解性プラスチック」という2つの意味があるようですが、このエントリーでは、バイオマスから作られたプラスチックという意味に限定して使用します。
(ちなみに生分解性プラスチックには、バイオマス由来が主流ではあるものの、石油由来の製品も混在しています。逆にバイオマス由来であっても生分解性でないものもあります。)
バイオプラスチックの分類
日本有資源協会HP より
●バイオプラスチックの現状
このように、有限である石油資源の枯渇を気にすることなく、無限に再生可能なバイオプラスチックですが、生産技術面及び費用の面から、まだそれほど普及していない状態にあります。
日本におけるバイオプラスチックの生産量を正確に把握した統計はないようですが、少し古い統計によると、2003年には約7000tと推定されています。
日本有資源協会HP より
前回のエントリエーのプラスチックの消費推移グラフでは、2003年のプラスチックの消費量は約1000万tです。2003以降、プラスチックの全体の消費量が変化してないこと、バイオプラスチックの生産量は増加傾向にあること、上記のグラフの伸び率(バイオプラスチックの生産量換算で年間約1~2000t程度の伸び)がそのまま維持されていると仮定すると、現在の日本におけるバイオプラスチックの割合は、約2万t程度(全プラスチック消費量の概ね0.2%程度)と推定できるのではないでしょうか。
このように、少しずつ生産量を増やしていると思われるバイオプラスチックですが、技術面を除き、普及に対する最大の難関の一つが生産コストと消費エネルギー量の問題です。
バイオプラスチックの生産にかかるコストをエネルギー量として見た場合、バイオプラスチックの生産に必要なエネルギーはどのくらいなのでしょうか?
具体的な数値として公表されているのは、ポリ乳酸由来のバイオプラスチックを製造しているネイチャーワークスからのみのようですので、この公表データにより、石油由来のプラスチックとの比較してみます。
GPNバイオプラスチック研究会レポート より
※表中の略語
PC:ポリカーポネート
HIPS:耐衝撃性ポリスチレン
GPPS:汎用ポリスチレン
PP:ポリプロピレン
PLA:ポリ乳酸(バイオプラスチック)
ABS:アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン樹脂
※再生不能エネルギー:使えばその分なくなっていくエネルギー
(ex.石炭、石油などの化石エネルギー)
⇔再生可能エネルギー:自然環境の中で繰り返し起こる現象に伴って得られるエネルギー
(ex.大陽、風力、海洋、水力、バイオマスなどを利用したエネルギー)
新・?を!にするエネルギー講座より
上記グラフから読み取れるように、原料分と製造分を合わせたエネルギー量では、バイオプラスチックは、油由来のプラスチックよりエネルギー使用量は少ないレベルにあるようです。また製造分のみを比べても技術革新により石油由来のプラスチックと遜色ないレベルになってきているようです。
では、仮に現在使われているプラスチックを全て最も開発が進んでいるポリ乳酸由来のバイオプラスチックでおきかえるとどうなるか?
日本におけるプラスチックの年間消費量は約1000万tです。
(前回エントリーより)
現在、最も可能性の高いバイオプラスチックの一つであるポリ乳酸プラスチックは、10粒のトウモロコシ(5g)からおよそ2gのポリ乳酸が作れます。
リンク
日本では、トウモロコシよりもお米の方が身近に入手可能なため、お米にて試算してみます。
お米の重量からのポリ乳酸の生成量の正確なデータは、見つりませんでしたが、、バイオ燃料である、重量あたりのエタノール生成量は、トウモロコシ:0.4kl/tに対し、お米:0.45kl/tであり、ややお米の方が生成量はよい。
<農林水産省ヒアリング 追加説明資料 農林水産省 P21 原料ごとのバイオエタノールへの変換量>
リンク
ポリ乳酸生成の場合も同様にやや米の方が重量あたりの生成量はよいと思わますが、一旦、米と同程度だとし、5gのお米からおよそ2gのポリ乳酸が作れると仮定します。
>現在、日本全体で生産できるお米の量(潜在生産量)は、およそ1,400万トンですが、実際に必要な量が950万トン程度であることから、およそ、3分の1の水田にはイネ以外の作物が植えられています。
このため、実際に生産されるお米の量は、約1,000万トンになっているのです。
リンク
年度によって、お米の収穫量は変化しますが、仮に上記の1,000万トンだとすると、5gのお米からおよそ2gのポリ乳酸が作れる計算ですので、日本中すべてのお米を使用したとして、お米から作られるポリ乳酸プラスチックの生成量は、
1000万t×(2/5)=400万t 生成可能ということになります。
仮に休耕田他も利用したとすると
1400万t×(2/5)=560万t
日本のプラスチックの年間消費量は約1000万tですから、約50%が代替可能という計算になります。
おおざっぱな計算でしたが、日本における主要なバイオ原料であるお米をすべて利用したとしても、せいぜい現在のプラスチック消費量の半分程度しか補えない。逆に言うとものすごく多くのプラスチックを消費していることがわかります。
227910 バイオプラスチックで代替するとどのくらいになる?
(生産量1420万tを消費量1000万tに修正して引用)
原料が食料とバッティングする、ポリ乳酸を使った現状の技術では、プラスチックの全てをバイオプラスチックに置き換えることは不可能なことがわかります。
●後書き
このように、石油由来のプラスチックに替わるプラスチックとしてバイオプラスチックは期待されています。現在は、ポリ乳酸由来のバイオプラスチックが生産面で優位にあるようですが、食料資源との兼ね合いから、将来的にも問題を孕んでいるのではないでしょうか。食料資源由来以外のその他のバイオプラスチックについても、現状は開発途上であり、今後、様々な製品が登場してくるだろうと思われます。
次回は、現在開発されているバイオプラスチックの種類と作り方について、詳しく紹介していきたいと思います。
お楽しみに!!
●参考ホームページ
日本バイオプラスチック協会 バイオマスプラ入門
日本有機資源協会
化学ミュージアム 化学製品について
●これまでのシリーズ記事
『次代を担う、エネルギー・資源』バイオプラスチックの可能性1~プラスチックとは?
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