リン資源の循環系
今日はリンに注目した記事を書いてみたいと思います。
えっ?何でリン? 🙄 と思われる方もいると思いますが、リンは生命活動にとって必要不可欠なもの。先日行なわれたなんでや劇場でも扱われたように、リンは生命活動のエネルギー源として生命誕生初期から使われていた物質です。だからどの生物もリンを得る事で重要課題です。
そんな全ての生物にとって重要なリンですが、リンは体内で生成することは出来ず、火山や海底の火口付近にたくさん存在しています。そんなリンが鉱石となり、それを抽出して肥料や原料にしているのですが、今世界でリンが不足していきています。日本はリンを100%輸入していますが、リンが枯渇してきている事で、リン価格が急激に高騰。リン枯渇まで30~300年と言われています。(アメリカは自国防衛のため、リンの輸出を制限してきています)
そんなリンについて参考になる記事を紹介したいと思います。
リンの大循環の不思議
基本的にリンは比重が重いので、重力にしたがって地球上に分布しています。つまり低いところにたまりやすいということで、土中であれば地下深くに、海であっても深海の方にたまりやすくなります。ですから、自然に任せていれば、リンは山から川などを経て海の底深くに行くということで一方的な動きしかありません。
しかし長い地質学的な時間で見ればリンは大きな循環構造の中に入っています。海底の土中にあるリンが、海洋の中の湧昇流(深層の水が表層域へ動く垂直方向の流れ)に乗って表層域に移動したり、また海底火山の爆発によって突発的に海中、表層域に運ばれるのです。その表層域ではプランクトンが繁殖し、それを小魚が食べます。その小魚を鳥類が食べます。この過程で生物濃縮され、鳥の糞には高い濃度リンが含まれることになります。離島のサンゴ礁に海鳥の死骸や糞、魚や卵の殻などが数千年から数万年という長期間にわたって堆積して化石化したものを「グアノ」と呼びますが、そのグアノを形成するためにはウミウなどの海鳥が、魚を食べて糞をするという重要な役割を担っていたのです。グアノはリンの含有率が高く、人工的に合成されるようになるまでは主要なリン資源でした。
ですから鳥類が海から陸にきて糞をしたり、同じ陸地でも、平野部から山間地や森林の間を移動し糞をするということは、低い方へ低い方へと一方的になりがちなリンの動きに対して、重力に逆らって空を経てリンをより高い場所へ運び上げるという循環のルートを形成しているのです。
魚類もリンの循環にとって重要な役割を果たしています。人間を含めた動物に食べられることによって、リンを地上に運びます。鮭などのように一生の間に河川と海の両方で活動する魚は、海洋で蓄えたリンを産卵のために川を遡上することで内陸深くまで運び上げ、熊をはじめとする大小の動物によって食べられ、糞や死体となって土にもどります。つまりそうした魚類も鳥類と同様、重力に逆らってリンをより高い場所へ運び上げるという循環のルートを形成しているのです。
また人類も漁業によって年間約1億トンもの水生生物を海水・陸水から地上に水揚げし食料や肥料として利用しています。これも重力に逆らった動きです。
過剰ゆえの問題
このように生物にとって非常に重要なリンですが過剰と不足の両面から問題になっています。一つは過剰ゆえの問題です。リンは自然界においては基本的には不足しがちな物質ですから生物はそれを取り込むことに敏感です。とくに水生生物の繁殖を左右する重要な元素です。
1970 年代~ 80 年代にかけて琵琶湖や霞ヶ浦などで藻類・植物プランクトンが大発生し水質の悪化がおこりました。その原因は当時の合成洗剤に含まれていた縮合リン酸塩洗浄助剤(代表はトリポリリン酸ナトリウム)でした。その後メーカーによる無リン洗剤の開発が行われ水質の改善が行われました。
一方なかなか改善しないのが産業由来のリンです。現在の農業では、窒素、リン酸、カリウムが化学肥料として農地に施肥されていますが、リン酸は与えたうちの10%しか吸収されないそうです。そのため収量を上げようとすると過剰な投与が増えます。しかしこれは土中の「リン酸貯金」が増えることにはなりますが、他の成分と結合するため、植物がすぐに使える状態にはなりません。そのため農業関係者の間では肥料を与える方法・量・時期・他の肥料とのバランスなどがいろいろ研究されています。
また畜産動物(牛・豚・鶏)の排泄物にはリンや窒素をはじめとして有機物も多く含まれ、本来は肥料としても有効なものです。しかし現状ではそれが廃棄物とし処理されていたり、畜舎からの排水を通して河川や湖沼などに入り込み、それが水質悪化の元になっています。そのため、回収技術や飼料の改良研究がされています。
不足ゆえの問題
一方で不足ゆえの問題があり、今後その問題が社会的にも重要になってくるでしょう。基本的には人間が利用できる地球上の資源としての量は限られています。自然循環に従って鉱石が作られ人間が利用可能になる時間と、人類による消費速度の時間スケールが異なるので循環ができていないことが不足の大きな理由です。
先ほども挙げた農業用の三大肥料(窒素・リン酸・カリウム)の中では、リンが一番不足しています。水系では不足すると貧栄養化がおこり、生態系全体にに影響を与えます。
採掘可能なリン資源は2 0 ギガトンで、可採年数は数十年~ 150 年(~ 550)年と言われていて、資源としての有限性が切実な問題になってきます。それはつまり石油や水と同じように今後希少資源をめぐっての国際紛争が起こることも考えられるということです。実際歴史的に見ても、南米ペルー沖のロボス島やカリブ海の鳥島、そして太平洋のガラパゴス諸島を舞台にアメリカと利害の対立する国々の間で紛争が続きました。太平洋戦争時にはアンガウル島を巡って日米が攻防しましたがそこにもリン資源の争奪問題があったのです。
また太平洋のナウル共和国は22?の国土面積のうち、8 割がリン鉱石の鉱床でできており、戦後は良質かつ低コストで採取できました。それを輸出して国庫が潤っていたので、税金のない国として有名でしたが、すでに枯渇しました。このほかにもいくつかの島ですでに枯渇しています。
リンを含んだ鉱床は島だけでなく大陸の内部にあるのですが、石油や宝石と同じように世界的に見てある場所が偏っています。そして化学肥料を必要とする日本は自国では産出しないため輸入に頼っています。また工業的にもセラミックや医療分野の新素材として注目されていて、今後もさまざま分野で必要とされるでしょう。つまりリンやその化合物は国家戦略上も重要な物質でもあるわけです。特に農業分野での肥料としての役割は大きく、現在40%の食料自給率が問題になり自給率の向上や食糧安全保障の課題も検討されていますが、それらのことを考えるならば当然リンを筆頭にした肥料の安全保障も考えていかなくてはならないでしょう。
リンは実は生活排水に過剰に含まれています。豊かになり栄養の取りすぎともみえる現代は、私達が出す排水も栄養分がたっぷり。そのリンを多量に含んだ排水が、プランクトンの増殖を呼び赤潮の原因となっています。リンが過剰故の問題です。
その一方で石油と同様に、資源枯渇を招いている問題です。これは大量に採掘した結果が大きいですが、リンの循環系の変化も大きいでしょう。
大きく共通するのは大量生産、大量消費ですが、今後もリンは継続追求です。
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コメント2件
naganobu | 2009.10.08 21:29
そう、みんなが、事実を追求して答えを出して行ける場は、マスコミではなく、こういうネットでの追求の場だと思います。一緒に追求して行きましょう!
せきや | 2009.10.08 20:10
>でも、大半の人は、じゃあ、どうすれば良いのかというところで止まってしまっている。
これよく分かります。
分からないから考えないようにしているようにも思います。でも、その先に見据えるものの可能性を感じ取れたら、みんな一緒に考えてくれると思いました。