『水資源』の危機!!どうする?コラムその4~古代から続く乾燥地の灌漑施設~
これまでのシリーズでも見てきたように、灌漑(各種の施設・機器を用いて耕地に水を供給すること)による農地の生産性向上が果たす役割は非常に大きい一方で、不適切な灌漑や過剰仕様は危機的な状況も生み出します。
灌漑は、古くはエジプトやメソポタミヤで紀元前3500年頃から行なわれています。 因みに何れも川の氾濫を利用した灌漑ですが、エジプトと異なり溜池や水路で農業基盤を整備したメソポタミヤではそれが騒乱 のたびに収奪の対象となり、管理の悪さから塩類集積による生産力低下で衰退を招いています。
今回は水資源の乏しい環境の中で多く用いられ、現在でも一部は3000年以上も前のものが使われている灌漑施設を紹介します。「カナート」という地下水道で、カナート(ギリシャ・ペルシャ・アラビア)、カレーズ(アフガニスタン・パキスタン)、フォガラ(アルジェリア・ナイジェリア)、フォラジ(オマーン)、レッタラ(モロッコ・チュニジア)、坎児井(カンアルチン/中国・中央アジア)など、呼び名は変わりますが、中東を中心に世界各地で取られている取水方法で、日本語では「横井戸式地下水灌漑体系」。日本にも、三重県の鈴鹿山麓に「マンボ」と呼ばれるものがあるそうです。
写真:ミツカン水の文化センターから引用
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水のある山麓地帯に最初の深い母井を掘り、そこの帯水層から取った水を暗渠で導水し、灌漑地の近くで地表に出す仕組みです。地下から一直線に横掘りができない為、暗渠で水を引くのに、多数の竪抗の井戸を続けて掘って、それらをつないでいくという、恐ろしく手間のかかる作業で作られています。数キロから、長いものだと数十キロ導水します。
画像:サントリーHP 水事典から引用
乾燥地帯の厳しい気候の中、地表面の水路では膨大な量が蒸発してしまうのを抑えられること、地中の帯水層では下流になるに従って地中の塩分を含み、水の塩分濃度が増すが、その影響を受けにくいことなどの利点があります。
こうした事例を見ると、つい仕組みの方に目がいきますが、循環型の水利で数千年にも渡って使用できる例があるのは、自然の水循環の流域の範囲で水を使っていることに加え、使う側の管理の問題があります。
地域によっては、カナートに初めて通水する際には村から花嫁を選び、カナートと結婚する儀式を行なって、カナートを擬人化して大切に扱い、重労働のメンテナンスなども協働で行ないます。
また、限られた水の過剰消費を抑え、分配していく為に、カナートの水利権を持つ人地主等とは別に、誰からも認められる信頼の置ける人物が水の差配人(水長)になって水管理の権限は独立させ、全体を見通して各人への分配量の決定を荷います。集落の人々はその役割に対しては感謝をし、収穫物などの贈り物をするような関係です。
取水の方法だけでなく、人々の共認の下、水を使用する村落、農地、全体を含めたシステムとして成り立っているのが、カナートのような古くから現代まで循環がつづく水利施設。水問題を考える上では、自然の水循環に応じた取水の仕組みとともに、水を利用する当事者が全体の事を考える協働関係をいかに作り出すかが重要なのだと思いました。
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