原子力産業の再編④:GEによる原発市場制覇と日本勢三分の計
「原子力産業の再編:国際金融資本家たちによる『原子力市場』の刈り取りが始まってきた」で投げかけられていた、
それにしてもなぜ、日本のメーカーが中心になって原子力メーカーが再編されてきているのか?
資源エネルギー庁
「原子力産業の再編②:BWRとPWRの違いによる力関係は?」で触れられた、国内原発建設で磨かれ続けた日本の製造技術の高さ は日本企業が再編成で各勢力に絡んでいる大きな要因です。
’79年のスリーマイル島の原発事故以降原発建設を凍結してきた米国大手のGEも原発の基礎技術や設計力は保持しつつ、原発建設ではGEの生徒である東芝、日立に機器製造は任せてきました。
再編された3大勢力全てに日本企業が名を連ねる様は、一見今後の原発市場拡大に主役級で打って出る 日本勢の躍進 とも見えますし、実際うまみ も手にはするでしょう。
しかし、
・近年着実に打たれてきたCO2温暖化説~原発推進の布石
・’06年のGNEP構想発表http://kakujoho.net/rokkasho/GNEP.htmlにみられる、原子力産業でリーダーシップを執ろうという米国の姿勢
・既に建設予定されている原発の数では米国が近年の主戦場であること
といった背景を考えると、「そう易々と日本勢に 」の感覚は拭えません。
東芝、米WH買収を発表
【ロンドン=中村宏之】東芝は6日、米原子力大手「ウェスチングハウス(WH)」を買収することで、WHの親会社の英核燃料会社(BNFL)と最終合意したと発表した。買収額は54億ドル(約6210億円)。
米政府の承認などを経て近く買収手続きを完了する見通しだ。東芝はWH株式の51%以上を保有して子会社化し、残りは複数の企業が共同出資する。出資企業には丸紅などが浮上している。
東芝は、東京電力の原発で採用されている「沸騰水型軽水炉」の技術を持つ。WHが持つ「加圧水型軽水炉」の技術を取り込むことで、中国など加圧水型が優勢な海外市場で巻き返しを図る。ロンドンで会見した東芝の西田厚聡社長は「今回の買収で東芝は世界的な原子力メーカーになれる」と述べた。
WH買収を巡っては、三菱重工業や米ゼネラル・エレクトリック(GE)なども名乗りを上げたが、破格の買収額を提示した東芝が競り勝った。
(2006年2月7日 読売新聞)
原子力メーカー再編で最も目を引く東芝のWH買収は日本勢の躍進を特に印象付けていますが、釈然としない部分も孕みます。その辺りを改めて見てみたいと思います。
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○市場価値の3倍にも上る買収額
WHは元々米国企業でGEのライバル存在でもあったが、’99年に英国のBNFL(英国原子燃料会社:投資顧問はNMロスチャイルド&サンズ)が買収。WHの企業としての市場価値は当初2000億円程度と言われていた。
○かつて最も米国から最も叩かれた東芝による米国企業買収に特に波紋が起きていない事
ex.’87ココム事件、’99年ダイナブック訴訟etc
○その後GE+日立勢優勢とされていた米国原発(BWR)を東芝+WHが逆転受注の可能性が高く、またその受注額はWH買収額とほぼ同額
東芝が米原発受注、総事業費6000億円
東芝が米電力大手NRGエナジーから原子力発電所を受注することが内定した。同原発は日立製作所・米ゼネラル・エレクトリック(GE)連合が優勢だったが、日本での安定した実績などを訴えた東芝が逆転した。総事業費は約6000億円。東芝本体が海外で原発建設の主契約企業となるのは初めて。原子力政策を転換した米国では今後30基の原発新設が見込まれる。三菱重工業も米国で大型受注を獲得しており、日本の原発大手の攻勢が相次いでいる。
受注が内定したのは、NRGがテキサス州ヒューストン市近郊に新設する改良型の沸騰水型軽水炉(BWR、出力135万キロワット)2基。2014年にも稼働する。
(6月27日 日本経済新聞)
※制御システムはGEに発注し、GEは東芝の受注を承認
○そもそも創業当初からのGEと東芝との関係、特に現在も続く重電部門の技術協力関係から競合は考え難い
東芝は1905年にGEから電球製造のライセンスを受けた東京電気と1910年にGEが株式取得した芝浦製作所が1938年に合併した企業。GEからの出資関係は1989年まで継続していた。
GEと東芝の重電部門の結びつきは強く、原発については日立とともにGEのライセンスを受けて国内のBWRの建設に携わってきた。2001年にはBWRの技術協力契約を10年延長もしている。
沸騰水型原子炉(BWR)に関する技術協力契約の延長について
2001年12月6日
株式会社 東芝
ゼネラル・エレクトリック・カンパニー
株式会社東芝(以下、東芝)とゼネラル・エレクトリック・カンパニー(以下、GE)は、沸騰水型原子力発電プラント(以下、BWR)の技術開発に関する技術協力契約を更改し、10年間延長することで合意しました。
東芝HP プレスリリース
と、東芝によるWH買収劇には出来レースとして穿った見方をしたくなるような要素がいくつもあります。
これらを踏まえ、日本勢がそれぞれ三大勢力に食い込んでる という日本側の見方を離れ、外国勢、特に米国、東芝・日立と繋がりの深いGEの視点から見るとこの間の再編は3勢力のにらみ合いとは違った物にも見えてきます。
○WHの破格の値段での売却によってBNFLが潤う。
○PWRを要望する中国進出は製造技術の凋落からWH単独では難しかったが、潜在的にGEと繋がりの深い東芝の力を使って実現。PWRの得意なフランスのアレバに対抗しつつ米国にとって重要な中国の繁栄も維持できる。
○米国のBWR受注は提携している日立は言うを待たず、東芝が受けてもBWRの師匠であるGEが頭を押さえ、原発建設事業では最も旨味があるといわれる上流の受注ポジションを得られる。
○東芝と同じくGEのライセンスを受けてBWRを製造してきた日立とは、日本に日立8:GE2、米国に日立4:米国6の出資比率で双方に新会社まで設立したが、米国の新会社が日本を除く世界市場の担当。
○世界の3/4のシェアを持つPWRが得手のWHと三菱重厚とが提携できないことで、GEが直接関与しにくい三菱重工の突出を阻止。
○GEは電力事業で三菱重工とも提携(ex.メキシコの原発拡張工事を共同入札)
その技術力から原発建設に不可欠な存在になった日本企業は外せないものの、3極のどの仕事にもGEが顔を出せる体制が出来上がっているようです。
三菱重工+アレバはGEが影響力を行使し難い抵抗勢力同士ひとまず組んだといったところでしょうか。
これまでの関係からBWRで東芝が棟梁になることが実質無いならば、東芝を通してWHに息を吹き込んだGEこそが、BWR・PWRの両形式に跨る恩恵を最も受けられるのかも知れません。
この間の再編がGEの意図を多分に反映したものだとすると、更にこの再編によって、海外に打って出るに当り、日本企業同士は非常に提携しにくくなっている点も見逃せません。
原発メーカーの再編の本質は
・GEによるこの先の原発市場の統合と刈り取り
・技術トップの日本企業連携による純国産原発での市場独占阻止
・トップクラスの技術力を持つ日本企業のサブコン化と技術吸上げにより、アジア圏の原発需要を独占する為の米国原子力産業のリハビリ
といった辺りにあるのではないでしょうか?
「原子力立国」 と勢いにのったつもりで、核兵器開発など軍産複合体 の一端を担うGEに体よくアゴで使われ、気づいたら刈られていた 、などという事の無いように今後とも市場の動きに注視が必要です
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コメント2件
ホイホイ | 2008.08.07 23:26
実現された内容をみれば、このやり方が大いに問題があるのは明らかだなと思いました。
これだけ大々的にやっておきながら、肝心の環境問題に対しては、何1つ答えを出せていないんですよね
ヒートアイランドの方が心配 | 2008.07.29 17:07
>まず、第一に何が本当の問題なのかを考える風土を破壊してしまったこと。次に、二酸化炭素発生を抑えることだけが、環境問題を解決する唯一の正しいやり方であるという洗脳に、いともたやすく引っかかってしまったことだ。
その通りだと思います。
これ自体は悪い方向に進んでいますが、一つの可能性としては、うそだらけの温暖化説に多くの科学者がしっかりと異論を唱え始めたという事です。政治を避けていた科学者がようやく重い腰をあげ始めたのかな。と感じました。