【地震と水】第7回:阪神淡路大震災~内陸直下型巨大地震の心臓部に「水」あり?!
死者6,434人、行方不明3人、重傷10,683人、軽傷33,109人、全壊家屋104,906棟、半壊家屋144,274棟、一部損壊家屋390,506棟、道路被害7,245箇所、橋梁330箇所、河川774箇所、崖くずれ347箇所、ブロック塀等の倒壊2,468箇所・・・
平成7年(1995年)1月17日(火)午前5時46分、淡路島の北東約3kmの明石海峡付近の深さ16kmを震源とするM7.3の地震が発生・・正式名称「平成7年 兵庫県南部地震」・・・
この「阪神淡路大震災」を引き起こした「野島断層」⇒圧縮応力による“逆断層”
画像はこちらからお借りしました。
「水」をキーワードに地震発生のメカニズムに迫るシリーズ、第7回目です。
第1回~ 第6回の記事は・・・
【地震と水】第1回:(プロローグ)水が地震を引き起こす!?~
【地震と水】第2回:水と地震の関係(基礎編1)・地球の中にも水がある!~
【地震と水】第3回~地震波分析・マントルトモグラフィーから反射法地震探査へ
【地震と水】第4回 : 海洋プレートからの「脱水」が地震発生メカニズム解明の鍵!?
【地震と水】第5回:水が引き起こすズルズル地震「スロースリップ」の解明が巨大地震の予知につながる!?
【地震と水】第6回~脱水反応がアスペリティ(固着域)をつくる!?~
第5回では巨大地震発生域と隣接する「地震空白域」である「スロースリップ」「安定すべり」のメカニズムについて、第6回では巨大地震を引き起こすとされる「アスペリティ」が同じ場所に繰り返し形成されるメカニズムについて、それぞれ「水」「脱水」といったキーワードを元に見てきました。
因みに、この2つの現象は概ね海洋プレートが大陸プレート下に沈み込む地帯での現象ですが、今回は、阪神淡路大震災(兵庫県南部地震)や鳥取県西部地震など、「内陸直下型地震」発生のメカニズムを、 「水」「脱水」との関連で考えてみたいと思います。(主に『地震発生と水~地球と水のダイナミクス~』(東京大学出版会 笠原氏、島海氏、河村氏共著)からの引用を元にしています。)
◆◆◆内陸直下型地震の多くは地震波低速度域で発生
まず、地殻大地震のほとんどは既存の活断層の繰り返し運動によって引き起こされており、かつ、多くは、活断層の比較的深部(10-20km)で破壊が始まります。
従って、地殻大地震の発生機構を解明するためには、断層帯の深部構造を詳細に探査することは必要不可欠となります。
そして、こうした深部構造探索に威力を発揮するのが、地震波トモグラフィーを用いる断層帯の構造探索です。
(「【地震と水】第3回~地震波分析・マントルトモグラフィーから反射法地震探査へ」で詳しく解説しています。)
こうした最新技術を用いた調査の結果、非常に興味深い事実が明らかになってきました。
西暦679~2000年の1322年間に日本列島内陸部20km以浅の地殻に発生したM5.7以上の直下型地震約370個について、その分布を日本列島下の三次元地震波トモグラフィーと比較した結果、「内陸直下型地震の多くは地震波低速度域の周辺で発生している」という事実です。
例えば、近年発生した2つの内陸直下型地震である、1995年兵庫県南部地震と2000年鳥取県西部地震も、顕著な低速度域(速度偏差5-6%)の付近で発生しています。
ここで、マントルトモグラフィにより明らかになった「地震波低速度域」とは、固体・液体とも伝わるP波(縦波)と固体のみ伝わるS波(横波)の到達時間の差が大きな区域のことであり、到達時間に差がでるということは、震源域に何らかの(S波を伝えない)液体≒「流体」が存在している・・・つまり、兵庫県南部地震や鳥取県西部地震をはじめ、多くの内陸直下型地震の地下構造は「流体」である可能性が高いということです。
では、兵庫県南部地震や鳥取県西部地震の地下構造はどのようになっているのでしょうか?
◆◆◆鳥取県西部地震の場合~地震波低速度域の正体は地下のマグマ溜まり
・東北、関東、中部および中国地方北部のような火山地域では、地殻大地震の多くは地震波低速度域の周辺に分布しており、東北地方では活断層も低速度域の周辺に分布する傾向が見られる。2000年鳥取県西部地震(M7.0)の震源は、大山火山下の下部地殻とマントル最上部にある1つの低速度域の真上に位置している。
・これらの地域では地表面での熱流量と地温勾配はともに高いことから、地震波低速度域は火山および地下のマグマ溜まりに起因すると推測される。
・地殻内の高温異常領域が低速度域を形成するため、そこでは地殻物質の強度が下がって塑性変形を起こしており、直下型大地震はその周辺で発生しやすいのではないかと思われる。
(書籍 「地震発生と水~地球と水のダイナミクス」から引用)
つまり、鳥取県西部地震の震源域において地震波低速度域を形成する「流体」の正体は高熱の「マグマ」と考えて間違いないだろうということです。(マグマの高熱によって地殻の強度が低下し、逆断層が破壊することによって地震が発生する。)
地下マグマ溜まりと「水」についての詳しいメカニズムは次回の記事をお楽しみに
この、“内陸直下型地震の心臓部に高熱の「マグマ」あり!”・・・これは、誰もが非常にイメージしやすいと思います。
(参考:【地震のメカニズム】7.熱移送説~地震は熱エネルギー移動が起こす~)
では、兵庫県南部地震(阪神淡路大震災)の場合はどうでしょうか?
周囲が火山帯ではないことから、地震波低速度域を形成する要因が「マグマ」とは考えにくい・・・多くの調査・研究の結果、これまでの常識を打ち破る全く新しい「流体」の存在が明らかになってきました。
◆◆◆兵庫県南部地震(阪神淡路大震災)の場合~地震波低速度域に存在する流体の正体は「水」!
<平成7年(1995年)兵庫県南部地震の余震活動
画像はこちらからお借りしました。
紀伊半島、四国と中国地方の南部でも顕著な低地震波速度域が見られ、地殻大地震はその周辺域に分布する傾向がある。これらの地域は沈み込み帯の前弧側に位置しており、熱流量と地温勾配が小さく、地温が低いことがわかっている。また、周辺には火山が見られない。これらのことから、以上のような地域にある低速度異常体は高温によるものとは考えにくい。
1995年1月17日に明石海峡を震央とした兵庫県南部地震(M7.2)が発生し、淡路島から神戸・阪神地域の死者6400人以上を出すなど甚大な被害をもたらした。この地震について、これまで多くの研究者が、様々な手法を用いて精力的に調査研究を行い、大地震の発生機構や破壊過程に関して重要な知識が得られた。この地震は、地震学の歴史の上で最も詳しく研究された大地震の1つとなったといえる。こうした調査研究で得られた最も重要な成果の1つとして、地殻中の水が兵庫県南部地震の発生に重要な役割を果たしたことがわかったことがあげられる。大地震と水の関係が、初めて詳細に解明されるようになってきた。
<中略>
兵庫県南部地震震源域における約30kmの深さまで詳細な三次元P波とS波の速度分布を決定した。
<中略>
震源域の下部地殻に水平方向に16~20km、垂直方向に約7kmにわたる低速度(-5%)、高ポアソン比(+6%)の異常領域が検出された。信頼度と解像度解析を行った結果、震源域におけるその異常体が信頼できるものであることがわかった。
地殻の岩石が低速度、高ポアソン比になる原因には2つ考えられる。
その1つは高温のマグマ溜まりであり、もう1つは流体(主に水)である。これまでの地熱調査研究の結果から、阪神地域の地温は高くないことがわかっている。また、地表には火山が見られない。
これらのことから、兵庫県南部地震震源域の低速度・高ポアソン比の異常体は高温によるものとは考えにくい。このトモグラフィーの結果、および地震学、地質学、地球物理学、地下水学などの研究結果を総合すると、この低速度・高ポアソン日の異常体は、地震発生層の下に位置している高圧含水破砕岩体に対応し、本震の破壊の開始点になったと推定される。言い換えれば、兵庫県南部地震の「心臓部」に水が存在していたことがわかった。
(書籍 「地震発生と水~地球と水のダイナミクス」から引用)
DDトモグラフィー法による1995年兵庫県南部地震震源断層周辺のP波速度構造.(a) 深さ5 におけるP波速度偏差分布.白線は活断層を示す. (b) 断層に沿ったP波速度偏差の鉛直断面図.白線はYoshida et al. (1996)によるすべり量分布(コンター間隔0.4 )
画像及び注釈はこちらからお借りしました。
なんと、ここでの流体の正体は「水」であり、これが巨大地震の“引き金”を引いた可能性が高い・・・つまり、西南日本の下部に沈み込むフィリピン海プレートに押されることで兵庫県南部には絶えず東西方向の圧縮力が働いており、過去逆断層を形成してきたわけですが、この逆断層に「水」が作用し強度が低下することで明石海峡の地下に岩盤破壊の起点が形成され、瞬時に南西及び北東方向に破壊連鎖が起こることで巨大地震が引き起こされたのではないか?という仮説です。
画像はこちらからお借りしました。
では、この「水」は、一体どこからもたらされたのでしょうか?
◆◆◆内陸直下型地震を引き起こす「水」はどこから?
⇒フィリピン海プレートからの「脱水」
・一般に地殻内の水の起源としては、地殻内の鉱物の脱水、間隙水、それに地上の降水・海水の浸透などが考えられる。兵庫県南部地震震源域の水の起源には、もう一つの可能性があることがわかってきた。
それは、西南日本下へ沈み込んでいるフィリピン海プレートからの脱水である。
・紀伊水道と淡路島の下の下部地殻とマントル最上部には、非常に顕著な低速度異常体が見られ、沈み込んでいるフィリピン海プレートの直上に存在している。
解像度解析の結果、この低速度異常体が信頼できる特徴であることがわかった。1995年の兵庫県南部地震は、この低速度体の北端にあたる明石海峡の直下に発生した。
淡路島下のP波低速度異常体は、水によって生じたと推測される。それは兵庫県南部地震の発生以前に既に存在していたことがわかった。
・淡路島下のスラブ直上の低速度体は、沈み込んでいるフィリピン海プレートからの脱水に起因する可能性が高いと推定される。
沈み込み帯の前弧側の下部地殻とマントル最上部には流体は広く存在するものと思われ、上部地殻の地震発生層にある断層帯の強度、応力場及び物質の長期的な組成と構造の変化に影響を及ぼすと推測される。
これらの影響は兵庫県南部地震の破壊核の形成に大きく関与したものと思われる。
・兵庫県南部地震の発生断層が東西圧縮力で破壊したことから、フィリピン海プレートの沈み込みはこの地震の発生に力学的には寄与していないと考えられたが、フィリピン海プレートはこの地震の発生に脱水などの化学的な様式で寄与したといえよう。
・兵庫県南部地震についての研究結果から、四国・中国地方における低速度域の成因に流体が関与していると推測され、それが内陸直下形地震の発生様式を規定している可能性が高い。西南日本の下に沈みこんでいるフィリピン海プレートは非常に浅く、紀伊半島と四国南部の地殻の真下に位置しているので、脱水した流体はすぐにスラブ直上の地殻に侵入できる。その流体が野島断層のような活断層に浸透すれば、断層の摩擦力を降下させ、断層の破壊、つまり地震を誘発できると考えられる。これは、水が地震発生を引き起こすメカニズムの1つである。
(書籍 「地震発生と水~地球と水のダイナミクス」から引用)
◆◆◆まとめ
①内陸直下型地震の多くは地震波低速度域で発生しており、それらは何らかの「流体」の存在に起因する
②この「流体」の正体は「マグマ」か、或いは「水」であると考えられる
③鳥取県西部地震の地下構造における「流体」は、地下の「マグマ」であると考えられる
④一方、兵庫県南部地震(阪神淡路大震災)の地価構造における「流体」は、の正体は「水」であることが最新の研究によって判明
⇒この「水」が断層帯の強度、応力場及び物質の長期的な組成と構造の変化に影響を及ぼし、兵庫県南部地震の破壊核の形成に大きく関与したものと考えられる
⑤そして、この「水」は沈み込むフィリピン海プレートからの「脱水」による可能性が高い
「1995年1月に起きた阪神大震災は、西南日本の下に沈み込んでいるフィリピン海プレートからしみ出た水分が震源となった野島断層などに浸透し、滑りやすくして断層のずれを誘発した可能性があるとの研究結果を、愛媛大理学部の趙大鵬助教授(地震学・地球物理学)のグループが、25日発売予定の地球科学・海洋学専門誌「月刊地球」4月号で発表する。」
いかがでしょうか?!
次回、第8回は、今回の記事でも簡単に触れた、「マグマ」に起因する内陸直下型地震と「水」の関連について、さらに深く突っ込んでみたいと思います。
お楽しみに!
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