2013-03-09

【地球のしくみ】21~大気編(7)~生物は酸素のエネルギーを獲得し、その生存域を拡大した

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 前回は、嫌気性細菌と好気性細菌のエネルギー生成の仕組みと、共生の仕組みを見て行きました。
【地球のしくみ】20~大気編(6)~「有性生殖」とは、20億年前の嫌気性細菌と好気性細菌の共生の再現である(リンク
 また前々回は、生物の代謝の仕組みを見て行きました。
【地球のしくみ】19~大気編(5) ~代謝系の進化・逆境の種が高度な代謝を作り出した~(リンク
 これらから生物の代謝機能は酸素を必要としない「解糖→醗酵」と、酸素を必要とする「解糖→呼吸」で大きく異なることがわかります。
 
 そして現在地球上に繁栄している生物のほとんどが「酸素」が不可欠な生物群です。これらは、地球の大気の形成と、どのようなかかわりで進化してきたのでしょうか?
 生物自身、地球に対して大きな影響を与えているのも事実です。
 今回は、地球上に生物がいきていくのに欠かせない気体、「酸素」についてみていきたいと思います。
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 地球創生紀の酸素は、大気中の水蒸気が、太陽の紫外線から水素と酸素に分解されたものしかありませんでした。その濃度は現在の10億分の1以下と考えられています。
 
??では酸素はどこから増えていったのでしょうか??
  
◆ ◆ ◆ 光合成生物の登場で、その副産物として酸素を放出した
  
 今から約35億年前に、太陽光をエネルギーに、水と二酸化炭素から有機物を作り出す細菌が登場しました。これが光合成細菌です。
 それまでの生物は、外部から有機物を取り込みエネルギーにしていたのに対し、ほぼ無尽蔵にある太陽光エネルギーから有機物の合成に成功した光合成細菌は、爆発的に繁栄しました。
 その光合成細菌が、光合成の副産物として排出したのが「酸素」でした。
  
 初期の光合成細菌の代表的なものは「シアノバクテリア」で、ほぼ地球上の海という海を埋め尽くしました。
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シアノバクテリア  
 
 海中に放出された酸素は、はじめ鉄イオンと結合し酸化鉄になり海底に沈殿します。この沈殿した酸化鉄が層となって重なったのが、縞状鉄鋼層と呼ばれるものです。当時の地層から多くみられます。
 これらからわかるように、海の酸素濃度は、最初そこまで高くなかったと考えられます。
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縞状鉄鋼層 
 
 その後、海水中に含まれる鉄イオンがほぼ酸化されたころ、はじめて海中の酸素濃度がどんどんと高まりはじめました。
 
??では海中の酸素濃度が高まると生物はどうなるのでしょうか?
  
◆ ◆ ◆ DNAを核で保護し、代謝機能を大きく変化させた
 
 当時の海にいる生物(細菌)にとって、この酸素濃度の高まりは大事件でした。酸素は生物の細胞を酸化させ、破壊する「猛毒」だったからです。
 
 そして約20億年前に、この環境の変化に「2つの大進化」で適応した生物が登場します。
 
◆ 核を作り、DNAを酸素から守った 
 
 この時代に登場した生物が「真核生物」です。それまでの原核生物との大きな違いは、「核膜」と呼ばれる膜で、DNAを取り囲んだことにありました。
 

>そんな逆境の中で、自らの身体を大きくし、真性細菌の中で勝っていこうとする種が現れます。その戦略は捕食。他の細菌を自らに取り込み、解糖します。「食べる」ためには相手より大きく無ければなりません。食べることにより大きなエネルギーを得、さらに自分を大きくしていきました。しかし、大きくなると、原核のままでは不都合が出てきます。DNAが細胞内どこにでもあるような形だと分裂の効率が悪い。それで、外側の膜を折り込み、もう一枚の膜を細胞の中に作り、そこにDNAを納めたのです。また、核にDNAを内側にまとめることにより、酸素から守ることも出来ました。これが真核生物の始まりです。

リンク
 
 このように、DNAを膜で取り囲み、酸素から守りました。
 
 
◆ 「解糖」→「呼吸」へ代謝機能の変化
 
 また代謝機能を大きくかえた生物も登場します。
 
 それまでの生物の代謝は、いわゆる「解糖→醗酵」で、有機物である「」をアルコールに分解することでエネルギーをえていました。その一例を示します。
C6H12O6(グルコース) → 2C2H5OH(アルコール) + 2CO2 (二酸化炭素)
 
 この時代に登場した生物がαプロメテオ細菌(好気性)と呼ばれるものです。彼らは、酸素のもつ強い「酸化作用」を自らの代謝に利用しました。それが「解糖→呼吸」です。
 呼吸により、有機物を「酸化」させることで、上記と同じグルコースの分解は以下のようになります。
C6H12O6(グルコース)+6O2(酸素)→6CO2(二酸化炭素)+6H2O(水)
  
 これにより、今まで解糖によって得られるエネルギーの実に19倍ものエネルギーが、同一有機物からえられるようになりました。
 
 そして真核生物が好気性細菌を取り込むことで、この高酸素濃度に適応した「好気性真核生物」が誕生するのです。
 
 好気性は「酸素濃度が現在の1%(=パスツールポイント)」を区切りとして、醗酵と呼吸を切り替えることが出来ました。
 当時の海は、酸素濃度は不安定だったため、酸素が枯渇すると醗酵、酸素濃度が増えると呼吸という感じで対応していたと考えられます。
 
??では呼吸機能を手に入れた生物はどうなったのでしょうか??
 
◆ ◆ ◆ 酸素のエネルギーで、一気に適応放散とげる
 
 呼吸機能を手に入れた生物は、の効率的な代謝機能を生かし、その進化のスピードをどんどんと加速させていきます。
 
 そして5.4億年前、気候の温暖化と海中の酸素濃度がによって、「カンブリア大爆発」と呼ばれる適応放散を遂げます。現在の世界中の生物につながる系統はほぼすべてこの時代に生まれました。
 

>カンブリア紀に生物が大量に出現した理由は解明されていないが、光合成を行うシアノバクテリアや藻類が大気中に酸素を排出するようになり、身体構造や生活様式の複雑な生物が出現できるほど酸素量が増えたことが要因の1つと考えられている。また、カンブリア紀には生物が生存しやすい環境も整えられた。気候が温暖になったことに加え、海面水位の上昇で低地に浅い海が広がり、新しい形態の生物が生まれやすい海洋生息環境が作られた。

リンク
 
 このように海の中では、生物が大繁栄していました。では一方陸上はどうだったのでしょうか?
 この時代、陸上にはまだ生物は進出していませんでした。
 
 しかし、海中の酸素が飽和状態に達していたので、徐々に大気中に酸素は放出さており、大気の酸素濃度はすでに「呼吸」が可能な濃度に達していました。
 
 そして4.2億年前に陸上でもある事件が起こります。「オゾン層」の完成です。
??ではオゾン層が完成するとどうなるのでしょうか?
 
 
◆ ◆ ◆ 植物が陸上に進出し、酸素濃度は地球史上最高に
  
 それまで生物は陸上に進出できませんでした。その理由が「太陽からの有害な紫外線」です。それをカットし、生物が陸上で生活可能にしたのが「オゾン層」のバリアです。
 
 4億年前から、植物の陸上への進出が始まります。最初に陸上に進出したのは、植物でした。そして3.5億年前には、ほぼ地上を植物が覆い尽くしました。
 
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石炭紀の風景
  
 地上を覆い尽くした植物は、一気に光合成をはじめ、大気中の二酸化炭素を吸い込み、酸素を吐き出します。
 これにより大気中の酸素濃度は、地球史上最高の35%にまで達します。
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 なぜここまで酸素濃度が上昇したのかというと、一番大きな理由は「植物を分解できる菌類が、当時まだいなかった」からです。
 
 現代の森は、木が死ねば菌類を初め、多くの生物がその亡骸を苗床にします。
 それは、植物の光合成で固定化した炭素(=有機物)を、再び水と二酸化炭素に分解することを意味します。
 
 しかし、当時はそのように「植物を分解する生物」が存在しなかったため、木々は死んでも土に沈み、そのままの状態で年月が経過することとなります。
 それらの木の亡骸は「石炭」となり、大気中の二酸化炭素を固定化され、酸素濃度が一気に高まったのです。
 

>木材は,セルロース,ヘミセルロースおよびリグニンからなる難分解性のバイオマスですが,多くのきのこが含まれている担子菌門に分類される白色腐朽菌は,地球上で唯一木材を完全分解できる生物です。その性質が,植物性のプラスチックともいえるリグニンを分解するために必須の酵素である「ペルオキシダーゼ」の進化とともに獲得されたことが,31種類の真菌のゲノム配列を比較解析した結果から明らかになりました。さらにペルオキシダーゼのアミノ酸配列を分子時計解析した結果,白色腐朽菌がリグニン分解能を獲得したのは古生代石炭紀末期頃であると推定されたことから,石炭紀からペルム紀にかけて起こったと考えられている有機炭素貯蔵量の急激な減少に,きのこによるリグニン分解能力の獲得が関与していると考えられました。

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 ここにもあるように、菌類が植物の繊維(=リグニン)を分解する能力を得たときに、石炭紀はおわり、再び酸素濃度も少しずつ低下していきます。
 
 
◆ ◆ ◆ まとめ
 
・初期の生物にとって「猛毒」だった酸素に、生物は「DNAを膜で守る」「解糖→呼吸という代謝」という2つの大進化で適応した。
 
・酸素による「呼吸」は非常にエネルギー効率の高い代謝機能である。
 
・その代謝機能を生かし、生物は「カンブリア大爆発」と呼ばれる適応放散をとげ、現在につながる生物系をほぼ創り出した。
 
・オゾン層が形成されると、生物(植物)は陸上に進出し、陸上をほぼ埋め尽くした。
 
・初期の植物は、分解できる菌類が存在しなかったため、石炭となり大量の炭素を固定化し、大気の酸素濃度は地球史上最大となった。
 
・菌類が植物の繊維を分解する能力を得たときに、酸素濃度も少しずつ低下していった。 
 
 
こうやって見てみると、生物は酸素のエネルギーで、その生存域を海中から陸にどんどんと拡大していったといえます。
 
それでは、次回は陸上に進出した生物に、大気中の酸素濃度がどのように影響したのかを見て行きたいと思います。

List    投稿者 daichi | 2013-03-09 | Posted in D01.地球史Comments Closed 

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