【地球のしくみ】22~大気編(8)~生物の多様な適応放散には、「酸素呼吸」の進化が深く関わっている
36億年前の光合成生物の登場以降、生物は「呼吸システム」の進化に大転換します。
光合成生物により環境に酸素濃度が高まり、“呼吸”という高効率の代謝機能を獲得した生物は、外圧に適応して進化する上で、猛毒である酸素から身を守りつつ、いかにしてこの高エネルギーの酸素をさらに効率よく細胞に送りこむか、というのが大きな課題となりました。
そして他の生物よりも効率的な呼吸システムを獲得した生物が、進化を遂げその時代時代の制覇種となっていきます。
今回は、その呼吸システムの進化の歴史を扱います。
◆ ◆ ◆ 酸素呼吸の登場、進化ベクトルの多様化=カンブリア大爆発
光合成細菌による酸素濃度の上昇、そしてその酸素の強力な酸化力で、有機物を分解することによって、莫大なエネルギーを得る「呼吸機能」を獲得した「好気性真核細菌」。
好気性真核細菌は、それ以前に比べて、同一量の有機物から実に19倍のエネルギーを取り出すことに成功します。
この凄まじいエネルギー効率により、好気性真核細菌は他の生物を圧倒し、時代の制覇種となりました。
その好気性真核細菌が、多様な進化を遂げたのが4.5億年前の「カンブリア大爆発」です。
それまで数10種類しかいなかった生物が、1万種類にまで増えたといわれています。
これにより「種間圧力」はどんどんと高まります。この種間圧力に適応すべく、生物は「体を大きくする」「硬い殻をもつ」「すばやく動く」など多様に進化しました。
★種間圧力に勝利するためには、酸素をより多く取り込む「呼吸システムの進化」と、「そのエネルギーをどこに使うのか」というのが、生物の大きな課題だったといえます。
◆ ◆ ◆ 莫大な酸素エネルギーを摂取できる陸上へ
海中で酸素濃度が飽和を迎えると、大気中に酸素が放出されていく。
大気中に放出された酸素は、紫外線と反応してオゾン層を形成する。そしてオゾン層が完成したとき、生物にとって有害な宇宙(太陽)から降り注いでくる紫外線がカットされ、生物の海から陸への進出が始まる。
4.5億年前、海から陸に進出した最初の生物は「植物」でした。
◆「植物」の陸への適応
オゾン層により紫外線の問題は解消されたが、海中で生存していた生物にとって、陸上へ進出する際に大きく問題となったのが「乾燥」でした。これを克服するため「クチクラ」と呼ばれる硬い膜を表面につくって適応する種が登場します。しかしながら硬い膜は、植物が必要とする二酸化炭素を遮断してしまいます。
そこで「気孔」とよばれる小さな穴を表面に設け、二酸化炭素、酸素を取り込むシステムを構築し、遂に海中で生存していた植物の中から、大気に包まれる陸での生存に適応する種が登場しました。
植物の気孔
◆「動物」の陸への適応
陸上に最初に進出した動物は、サソリ・クモのような節足動物でした。
海洋生物の呼吸は、水を体内に取り込み、鰓をつかって溶存酸素を取り込む呼吸システムでした。
地上に進出した節足動物は、この鰓に蓋をかぶせ「書肺」と呼ばれる、呼吸器官を作り出しました。
これは「気門」と呼ばれる穴から空気を取り込み、書肺と呼ばれる「ひだ」に血液を充たし、それが酸素と触れることで血液中に酸素を取り込むシステムでした。このように初期の陸上に進出した動物は、大気中での酸素の取り込みには成功しますが、その中身は成り行き任せでした。
そのシステムを進化させたのが「昆虫」です。かれらは「気門」から取り込んだ空気を「気管」を通じて全身に送ることで、酸素をすばやく取り込むシステムを作り出します。
このように、生物は海⇒陸へ進出することで、溶存酸素からダイレクトに大気中の酸素を摂取することになります。
これにより、酸素摂取量が飛躍的に増大します。
>酸素の摂取は水中からより空気中からのほうがはるかに有利となる。これは水中における溶存酸素がせいぜい15℃で7ml/lであるのに対して空気中には209ml/lにも達する事、空気の比重は水の1000分の1、空気の粘性は水の100分の1である事、酸素の血液中への拡散速度は空気中が水中の50万倍にも上る事による。
(リンク)
このように、陸上で莫大な酸素エネルギーを手に入れた生物は、更なる進化を遂げます。
◆ ◆ ◆ 躯体の巨大化という適応戦略で、制覇種となった昆虫と恐竜
このようにして陸上に進出した生物は、その酸素エネルギーで更なる進化の道を歩みます。
その適応戦略の一つが「躯体の巨大化」でした。
巨大化することで、他の生物を捕食し、種間闘争に勝利するという戦略をとった生物は、地球上に2ついます。それが「昆虫」と「恐竜」でした。
◆高酸素濃度のもと巨大化した昆虫
昆虫が陸上に進出した炭素紀は実に35%という、地球史上最高の酸素濃度もあいまって、昆虫は最大1mまで巨大化しました。
しかし巨大昆虫たちは、高酸素濃度に甘んじて、呼吸システムを進化して来ませんでした。
その後、火山活動による酸素濃度低下で酸素濃度が15%まで下落した際に、巨大昆虫たちは、大量に絶滅しました。(ペルム紀大絶滅)
◆低酸素状態から、高度な呼吸機能で巨大化した恐竜
ペルム紀に、地球の酸素濃度は大きく低下しますが、この低酸素濃度の中、呼吸機能を進化させ適応してきた種が「恐竜」でした。
彼らは「心臓」をそれまでの3室から4室に進化させるということに成功します。これにより静脈と動脈が混ざることなく体中にいきわたるようになりました。
もうひとつ、彼らは肺の前後に「気嚢」と呼ばれる、空気のポンプを作り出しました。これにより、酸素取り入れ量が劇的に増えたのです。
恐竜の呼吸システム
空気を大量に送り込むポンプの役割をする「気嚢+肺」と、効率的に血液を細胞に行き渡らせることに成功した「4室心臓」という地球上の生物の中で、もっとも高度な呼吸システムは、この「低酸素」状態からという逆境のなかから生まれたのです。
そして彼らは地球上のどの生物よりも巨大化しました。2億年前ジュラ紀最大の恐竜アンフィコエリアスの体長は、実に60m。これ以上巨大な生物は、地球史上存在しません。
★このように昆虫・恐竜は、その酸素エネルギーを「躯体の巨大化」に向け、時代の制覇種となりました。
◆ ◆ ◆ 運動機能を進化させ、空という新たな世界の制覇種になった鳥
このような高度な呼吸システムである気嚢を受け継いだのは、「鳥類」でした。彼らは、高度8000m級の山を飛び越えられるほど、低酸素状態でも運動パフォーマンスを発揮できます。
その呼吸システムは、恐竜のシステムを踏襲したもので、肺の前後にある「胸気嚢」と「腹気嚢」で肺は「一方通行」に空気が流れ、絶えず新鮮な空気で充満した状態になるというものです。
彼らは、その高度な呼吸システムで、「海」「陸」につづく新たな世界「空」に適応したのです。
★このように鳥類は、その酸素エネルギーを「重力に逆らうまでの運動機能=飛ぶ」ということに向け、新たな世界=空の制覇種となりました。
◆ ◆ ◆ 生殖機能を進化させ、陸上を制覇した哺乳類
巨大化で陸上を制覇した恐竜も、絶滅を迎えます。それが「特殊寒冷期」とよばれる、地球全体の寒冷化です。
呼吸システムは高度だった彼らですが、生殖システムは爬虫類時代から引き継いだ「卵生」でした。成体は寒冷にも耐えるが、卵は孵らず絶滅の道をたどりました。
一方、恐竜なきあとの地上を制覇したのが、哺乳類でした。哺乳類の呼吸システムは、「肺」と「4室心臓」のシステムです。
恐竜との違いは、哺乳類の肺は、「横隔膜」の伸縮で空気を体内に取り込むということです。
肺に入った空気は、横隔膜が縮むことで、再び外に出て行きます。つまり空気は一方通行ではなく、出たり入ったりするのです。
つまり哺乳類の呼吸システムは、恐竜ほど高度ではありません。それは陸上哺乳類最大のアフリカゾウの全長が7m程度であることからもわかります。
哺乳類の肺
そのような哺乳類ですが、酸素エネルギーを使い、恐竜とは別の機能に特化しました。
それが「生殖機能」です。
哺乳類の生殖で重要な役割を果たす「胎盤機能」は、胎児に血液を通じて酸素を送り込むシステムです。
母親の動脈血は、胎盤で静脈血と混ざり合い、混合血となり胎児は、その混合血から酸素を得ます。
これは胎児に高い酸素エネルギーを送りながら、かつ強い酸化力から胎児を守るということを実現したシステムといえます。
これにより、胎児は母親の胎内で、地球初期段階のような低い酸素レベルの環境で育まれることになります。
このように酸素濃度を胎内でコントロールするという、高度な生殖機能をつくり出した哺乳類は、この特殊寒冷期に適応するのに有利でした。つまり特殊寒冷期にも子孫を残せたのです。
★このように哺乳類は、その酸素エネルギーを「生殖機能」に向け、陸の制覇種となりました。
◆ ◆ ◆ まとめ
①36億年前、光合成生物により酸素濃度が高まり、呼吸により莫大な酸素エネルギーを得た生物は、4.5億年前カンブリア期に一気に爆発的に適応放散し、多種多様な種が登場し、種間圧力が高まる。
②種間圧力に勝利するためには、酸素をより多く取り込む「呼吸システムの進化」と、「そのエネルギーをどこに使うのか」というのが、生物の大きな課題になる。
③生物は莫大な酸素エネルギーが摂取できる陸上に進出し、ダイレクトに空気から酸素を取り込むことで、その摂取量を飛躍的に増大させる
④昆虫は高濃度の酸素環境下で、躯体を巨大化させ時代の制覇種となった。
⑤低酸素濃度の環境下で、「気嚢+肺」というもっとも高度な呼吸システムをつくり出し生物が「恐竜」だった。しかし適応戦略が「躯体の巨大化」だったため、環境の変化(特殊寒冷期)に適応できず、絶滅した。
⑥鳥類は、恐竜の呼吸システムである「気嚢」を受け継ぎ、その酸素エネルギーを「運動機能=飛ぶ」ということにあて、空の制覇種となった。
⑦哺乳類は、酸素エネルギーを「生殖機能」にあて、体内で酸素濃度をコントロールする「胎盤機能」を作り出し、特殊寒冷期にも子孫を残すことが可能だったため、陸の制覇種となった。
それでは次回は、生物が陸上進出する上で欠かせなかったもの「オゾン層」について見て行きたいと思います。
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