2013-02-09

【地球のしくみ】19~大気編(5) ~代謝系の進化・逆境の種が高度な代謝を作り出した~

 前回、生物の光合成により地球環境が激変したことを見てきました。
では、光合成とはどんなものなのでしょう?光合成を調べていくと、生物の代謝系の進化を見て行かないと全容が見えてこないに気づきました。今回は、少し横道にそれて、生物はどうやって今の代謝を獲得していったか?です。
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写真は光合成を行う葉緑体と呼吸を行うミトコンドリアです。
どちらも、細胞内に数多く存在しているのが判ります。

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◆◆◆ 生物とは、膨大な化学反応群のネットワーク
◇ 生物のみがエントロピーを逆行する
まず、熱力学第2法則、宇宙は常に無秩序の程度、即ちエントロピーは常に増大します。
しかし、生物だけはこれに逆行し、複雑な機構を造形していくことができます。
その時、エントロピーに逆らうため、エネルギーが常に必要になりますが、それはどうやって得ているのでしょうか?
◇ 我々が「食べる」ということは?
 我々が「食べる」、ということは、我々の身体の構成要素を作るために栄養素を摂取する、という意味と、生命を維持する(エントロピーに逆らう)ためにエネルギーを取り入れるという意味があります。
しかし、いくらご飯を食べても、それを消化吸収しても、そのままでエネルギーになるわけではありません。炭水化物や脂肪をそのまま燃やして熱を得ている訳では無いのです。もっともっと複雑な化学反応でエネルギーを得ています。人間はまだこの複雑な化学反応を人工的に再現できていません。生命とは高度な化学反応のネットワークなのです。
   これらの反応全てを代謝と呼びます。
◇ 生きるためには代謝が必要
代謝とは、生命系で起こる全ての物理・化学的変化を指します。
生体内で行われる物質の化学変化の全て、外界から摂取した物質が分解・合成されて自己の構成物質に同化され、やがてエネルギーや老廃物として異化され体外に排出されること全体を指します。
◇ ATP 
アデノシン三リン酸。全ての生物が使う生体エネルギーの素、基本通貨です。ATPが細胞内に行き渡り、そこで分解されるとき、リン酸基の結合に使われていたエネルギーが放出されます。そのエネルギーを使い、我々は生きています。以下述べる代謝は、この「ATPをどうやって作り出すか?」の反応です。
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ATP。ウィキペディアより
◆◆◆ 代謝はどのように進化したか?1~原生生物までの段階
◇ 3ドメイン説
生物界は真性細菌、古細菌、真核生物の3ドメインに分類されます。身近に目視できる、動物、植物、菌類などは全て真核生物です。真性細菌と古細菌はどちらも原核生物で見た目は変わりませんが、RNA塩基配列を調べると、大きく異なることが判明し、全く進化系統樹上で異なることが解りました。
◇ 最初の生物
40億年前、地球の地表には色々な物質が存在しましたが、有機物はほとんど有りませんでした。これに雷や紫外線や熱や衝撃波が加わり、「化学進化」が起こり、原始海の中で有機物含むスープが出来上がった、と考えられています。実際、実験で同じような環境を作ると、生物に必要なアミノ酸などが生成されるのを確認されています。
その中から、膜を持ち、自己複製出来る生物が生まれましたが、その代謝はどのようなものだったのでしょうか?
◇ 化学合成細菌(独立栄養)  
初期の生物の代謝と考えられます。様々な代謝反応があり、無機化合物を酸化してエネルギーを得る細菌で、硫化水素、アンモニア、水素などを利用します。多彩ではありますが、効率は悪く、その後生物界での主流とはなっていません。いくつもの可能性の中で、たまたま獲得した反応だったということでしょう。これらの中から、進化への道を進み始めたものがいました。
◇ 嫌気性従属栄養細菌
化学合成細菌が作り出した有機物をとりこみ解糖によってエネルギーを取り出す細菌が出てきます。
解糖はほぼ全生物が持つ代謝反応(多いのがEM回路)です。グルコースをピルビン酸に変え、そこからATPを取り出します。これが発酵の共通する回路です。発酵にはいくつも種類があり、人類はそれを使って酒やヨーグルトを作っているのです。
 以下の図の前半が解糖部分でEM回路です。反応していく中でATPが二つ生成されているのが判ります。左が乳酸を生成する発酵、右がお酒を生成する発酵です。
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図は こちら からお借りしました
◇ 嫌気性光合成細菌(緑色硫黄細菌・紅色細菌)
従属栄養細菌が繁殖すれば、地球上の有機物の量が少なくなります。しかし、解糖の反応を逆行させれば有機物を得ることが出来ます。それにはエネルギーが必要です。では何を使うか?無尽蔵にある太陽光エネルギーを使うことに成功した細菌(=緑色硫黄細菌・紅色細菌)が誕生しました。しかし、まだ嫌気性で、酸素は反応に使いません。
◇ 藍色細菌 シアノバクテリア
緑色硫黄細菌と紅色細菌の遺伝子が混ざり合い、両方の回路を持つシアノバクテリアが登場します。酸素をはき出し、大繁殖しました。これが、今の植物と同じ「光合成」の始まりです。光を生体エネルギーに変換し、そのエネルギーで無機物から有機物を作り出します。
以下の図で、光によってATPが生み出され、そのATPを使って反応回路を回しグルコースを生成しているのが判ります。
画像の確認
図はこちらからお借りしました
◆◆◆ 酸素は猛毒?
我々動物は酸素がないと生きていけません。しかし、嫌気性の細菌にとって、酸素は猛毒でした。
酸素の特徴は非常に反応が激しいことです(だから良く物を燃やす)。だから、好気性生物は酸素を代謝反応に使い大きなエネルギーを得るのですが、太古の生物にとっては、反応が激しすぎて使えない物質だったのです。酸素はすぐに生体の全てが反応し、酸化してしまいます。それは細胞にとって死を意味します。
 代謝によるATP生成の重要ポイントは、ゆっくり少しずつ反応することです。全反応で共通するのは、元の物質を少しずつ変化させ、段階的にエネルギーを取り出すように進化してきました。
◆◆◆代謝はどのように進化したか?2~真核生物の戦略
◇ αプロメテオ細菌(好気性)
猛毒である酸素に取り囲まれた環境で、紅色細菌の一部が、光合成暗反応(カルビン・ベンソン回路)を逆転させてクエン酸回路を作ります。ここに好気性細菌が生まれました。この反応で生まれる圧倒的エネルギーを得て、光合成を行う必要も無くなりました。これが「呼吸」を始めた最初の生物、αプロメテオ細菌です。
◇ 真核生物の誕生
上記の真性細菌へと進化した細菌たちが地球上ではおそらく、勝者だったのでしょう。いまだ、海底火山の噴出口や沼の底に住む古細菌たちは他の生物が生きられない環境に逃げた種です。特にシアノバクテリアの大繁殖は地球上の多くを彼らにとって猛毒で溢れる環境としました。
そんな逆境の中で、自らの身体を大きくし、真性細菌の中で勝っていこうとする種が現れます。その戦略は捕食。他の細菌を自らに取り込み、解糖します。「食べる」ためには相手より大きく無ければなりません。食べることにより大きなエネルギーを得、さらに自分を大きくしていきました。しかし、大きくなると、原核のままでは不都合が出てきます。DNAが細胞内どこにでもあるような形だと分裂の効率が悪い。それで、外側の膜を折り込み、もう一枚の膜を細胞の中に作り、そこにDNAを納めたのです。また、核にDNAを内側にまとめることにより、酸素から守ることも出来ました。これが真核生物の始まりです。
後に、代謝を格段に効率よい物として、地球上で最も繁栄していきます。我々の祖先です。
◇ ミトコンドリアの誕生
嫌気性の真核生物細菌にとってαプロメテオ細菌は栄養価の高いエサでした。しかし、すぐ食べてしまうより、取り込み、そのエネルギー効率の良さを頂く方が有利であることに気づいた者たちが居ました。これがミトコンドリアの始まりです。ここに我々の使う代謝「呼吸」が始まります。
グルコース→(EM回路)→ピルビン酸→(クエン酸回路)→H→(電子伝達系)→電子受容体 
  
EM回路は嫌気性従属栄養細菌の時代から引き継ぐ回路。
  クエン酸回路はαプロメテオ細菌から引き継ぐ回路。
  この呼吸回路は全真核生物に共通する回路となりました。
初めは共生していたと思われますが、その内ミトコンドリアDNAの大部分を宿主真核生物に取られ、自律して生きられなくなります。こうしてミトコンドリアは真核生物細胞の一部となりました。
  下の図で、左側が解糖=EM回路、右側の輪がクエン酸回路、○囲みの中が電子伝達系です。
  解糖に比べて、一つの反応で格段に多くのATPが得られるのが判ります。
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図はウィキペディアからお借りしました
◇ 葉緑素の誕生
同じようにシアノバクテリアを取り込み共生した真核生物が現れます。これはミトコンドリア誕生後です。なぜなら葉緑素がある生物=植物には全てミトコンドリアも含まれているからです。
   この反応は、基本、全植物に存在します。(機能しなくなった種もあるが)光合成こそが植物たらしめているのです。しかし、光合成だけでは使えるエネルギーになりません。グルコースを作ったあと、呼吸によって代謝は完成します。
 以下が本記事で追求した代謝系を軸にした進化系統樹です
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ピンク色の部分が呼吸を獲得した種、緑色の部分が光合成を獲得した種です
◆◆◆逆境の中から我々の祖先は生まれた
生物は栄養分の無い地球上で、必至にエネルギーになるものを探してきました。
途中までは、発酵の代謝様式を獲得した真性細菌が勝者だったでしょう。そして地球は光合成を行うシアノバクテリアの天下となります。
そんな中で、我々、真核生物の祖先は苦戦していました。
迫り来る猛毒の酸素、自分では作り出せないエネルギー源。多くは、沼の底や、海底の熱水口近くに逃げ込み、現在の古細菌として生きていくしかありませんでした。
 その中で、他者を捕食することによって、エネルギーを得る方向へ進化し始めたのが我々の祖先です。
捕食行動がミトコンドリアを共生させるきっかけとなり、後に葉緑体を共生させるきっかけとなりました。真核生物の最初は極めて動物的だったのです。
そして、逆境が真核生物、それから進化する動物・植物を生み出したのです。

List    投稿者 hihi | 2013-02-09 | Posted in D01.地球史No Comments » 

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