【自然災害の予知シリーズ】‐8 ~地震に伴い電離層は擾乱する。それによりVLF電波の伝搬異常が起こる~
このシリーズでの動物、植物、雲の宏観現象の追求から、地震の前兆に電磁気が発生することは間違いが無いようです。
【自然災害の予知シリーズ】-2-先人の知恵に学ぶ(動物編その1)~地中や水中に生息する動物は、地震の予知が早い
【自然災害の予知シリーズ】-3-先人の知恵に学ぶ(動物編その2)~地震の前、動物が感知するのは電流と熱!
【自然災害の予知シリーズ】-4-先人の知恵に学ぶ(植物・雲編)~地震前に、オジギソウは大気の電位差を感知する!
【自然災害の予知シリーズ】-5-先人の知恵に学ぶ(植物・雲編)~地震発生前、ラドンガスが発生し大気をイオン化させている
この宏観現象に整合するように、世界の地震予知の先端は、地震に伴う地球上の電磁気的影響を観測することが試みられています。
今回は、この試みを紹介する第3弾です。
第1弾は、地震の前兆に起こる地圏内の電磁気現象を観測する手法として、ギリシャで実績を上げている「地電流ノイズを観測する手法(VAN)」を紹介しました。
【自然災害の予知シリーズ】‐6 ギリシャで成功している予知~VAN(地電流ノイズによる予知)
そして、第2弾は、電離層の反射を利用して電波を送信する、日常のテレビやFM放送で使用される「VHF(超短波 very high frequency)電波送信の乱れを観測する手法」を紹介しました。
【自然災害の予知シリーズ】-7~VHF電波の乱れで地震を予知する~
今回は、同じく電離層の反射を利用して電波(※リンク)を送信する、オメガ無線航行に使用される「VLF(超長波very low frequency ※リンク)電波送信の乱れを観測する手法」を、
【なぜ電磁気で地震の直前予知ができるのか 早川正士 著】より紹介します。
◆ ◆ ◆ VLF波と電離層は、相互作用の密接な関係にある
VLF帯の周波数(10~20kHz前後)においては、多数のVLF送信局が世界中に存在している。そのうち最もよく知られているのがオメガ局(※リンク)である。その送信周波数は10kHz前後である。
世界中のどの地点においても複数のオメガ局が受信され、それらの方位を測定して自身の位置を決定することが可能で、航行(ナビゲーション)用に用いられてきた。一方、オメガVLF局電波は航行用電波であるが、地球物理的にも1970~1980年にかけて下部電離層の電子密度を測定するために永らく使用されてきた。
VLF電波は電離層と大地から成る導波管の内を伝搬するが、その電離層での反射高度は下部電離層のD層である。
下部電離層はロケットなどでも測定困難であり、VLF波の使用が有効と考えられてきた。すなわち、高度が1km程度変化しても、電離層・大地導波管伝搬での位相が極めて敏感に反応するためである。
電離層・大地導波管伝搬するVLF電波は、電離層に擾乱が生じると、伝搬異常(発生特性、継続時間など)が顕著に現れる特性をもつ。
しかし、1980年以降この研究は終息した。そして、1980年以降はまったく別の観点からVLF送信電波の使用がまた注目されている。
雷からのVLF電波が電離層を透過して磁気圏(※リンク)に侵入し、磁気圏内荷電粒子と相互作用し、それらの粒子を下部電離層へ降下させる。
すると、その降下電子により下部電離層中に局所的な異常電離が発生する。
このような異常電離の検出にオメガ局などVLF/LF局電波が有用であることが明らかになってきており、近年のスペースの最先端の学問になっている。
磁気圏波動・粒子相互作用の定量的評価として電離層への降下電子をVLF電離層・大地導波管伝播異常(Trimpi現象)により研究するものである。
雷からのVLF波の発生により、下部電離層に局所的な異常電離が発生し、それを受け、VLF電波の伝搬異常が生じる。
つまり、VLF波と電離層は、相互作用の密接な関係にある。
とすると、地震にともない電離層が擾乱するとすれば、直接には電離層の擾乱を観測することは難しくても、観測可能なVLF電波の伝搬異常を観測することで、地震予知ができる可能性が高い。
【地震 電離層の擾乱 VLF電波の伝搬異常 地震の前兆現象】
Q.では、地震に伴い「電離層の擾乱=VLF電波の伝搬の異常」は発生するのだろうか?
◆ ◆ ◆ 地震に伴うVLF伝搬異常の現象事例
◆ 1983年12月30日発生 コーカサス地方の地震(M=7.2)
“なぜ電磁気で地震の直前予知ができるのか 早川正士 著”より引用(図3.2)
“なぜ電磁気で地震の直前予知ができるのか 早川正士 著”より引用(図3.3)
図3.2のカーブ①は、図3.3でのレユニオン(送信局)~オムスク(受信点)経路に対する結果で、実線は地震の数日前の変化を示す。
そして、破線は普通の日(地震の無い日)の平均的日変化パターンである。
この実線と破線のカーブの違いから、地震の数日前にVLF電波の位相に変化が生じることがわかる。
また、カーブ②は、地震の影響が及んでいない震央から十分離れたリベリア(送信局)~オムスクパスでのVLF電波の曲線であるが、何の擾乱も観測されていない。
◆ 1988年12月7日発生 アルメニアのスピタク地震(Ms=7.0)
“なぜ電磁気で地震の直前予知ができるのか 早川正士 著”より引用(図3.4)
スピタク地震に対して、オメガ局VLF電波の電離層・大地導波管伝搬波の顕著な伝搬異常が、ロシア国内で見出された。(※位置関係は、図3.3を参照)
図3.4はスピタク地震での位相変化を描いたもので、破線部分はレユニオン―レニングランド経路の結果、実線はリベリア―オムスク経路の結果である。
位相の異常(図中で斜線の部分)が1週間前程度より出現しはじめ、数日前にはその異常の発生頻度が著しく上昇している。
異常(正常)の判定の客観性は重要な要素であり、その判定はその月の平均値、標準偏差などの詳細な解析に基づいている。
上図では2σ(σ:標準偏差)を超えているという極めて厳しい基準を用いている。
スピタク地震後の長期間のデーターでは、2σを超えるような異常はまったく観測されていない。
◆ 1995年1月17日発生 阪神大震災(M=7.3)
“なぜ電磁気で地震の直前予知ができるのか 早川正士 著”より引用(図3.5)
地震に伴ったVLF/LF帯電波伝搬の明らかな異常は、1995年1月17日に発生した兵庫県南部地震(M=7.3、震源の深さ20km)に伴い観測された。
前述の他の事例は、伝搬距離が5,000~9,000kmという長距離伝搬であったが、対馬~犬吠の伝搬距離は1,000km前後であり、VLF電離層・大地導波管伝搬としては近距離といえる。
短距離伝搬路では、夜間よりも日出、日没時間が最も顕著な変化を示す。
“なぜ電磁気で地震の直前予知ができるのか 早川正士 著”より引用(図3.6)
図3.6は、対馬オメガ局を通信総合研究所犬吠電波観測所で受信した結果である。
図の縦軸は日付を表しており、“Jan17”が阪神大震災が起こった日付けで、横軸が一日の時間を表している。
グラフは、10.2 kHzの位相変化の日変化プロットを地震前後二週間ほどに対して描いたものである。
そして、一日毎の位相変化がすべての日に対して同じスケールでプロットしている。
図から、日出、日没付近の位相最小の時刻が見出される。
地震の数日前より、位相最小を示す時刻(ターミネーター・タイムと呼ぶ。日出付近=tm、日没付近=te)は、tmは早くなり、teは遅くなっている。
すなわち、電波の感ずる日中の時間が長くなっている。
この影響は地震後数日すると、全体の変化は地震二週間前の変化に戻っていることがわかる。
“なぜ電磁気で地震の直前予知ができるのか 早川正士 著”より引用(図3.8)
“なぜ電磁気で地震の直前予知ができるのか 早川正士 著”より引用(図3.9)
図3.8と図3.9は、地震の前後±4ヶ月のteに関する結果である。
上段の図が位相に基づくもので、下段の図が振幅に基づくデーターである。実線は±1日の平均値をプロットしている。
地震の数日前のteの変動ピークは、2σを大きく超え、3σをも超えている。
3σを超えることが起こる確率を考えてみると、この異常が偶然ではないことを物語っている。
そして、下段の図の振幅での最小を示す時間もまったく同様の特性を示している。
地震の前兆として、位相最小を示す時刻(ターミネータ―・タイムtm、te)の伝搬異常が起こるのは、伝搬理論による解析から推論すれば、神戸地震の前に下部電離層が数km低下したためと推測できる。
“なぜ電磁気で地震の直前予知ができるのか 早川正士 著”より引用(表3.1)
“なぜ電磁気で地震の直前予知ができるのか 早川正士 著”より引用(図3.12)
結果は、
(1)深さ30km未満の浅い地震に対しては、5例の内4例に対して、神戸地震同様のターミネータ―・タイムに異常が認められた。
(2)深さが30km~100kmのものについては、2例の内1.5例に対して、ターミネータ―・タイムに異常が認められた。1.5例とは1例ははっきりとしていたが、もう1例はタイプの異なる異常が認められたことを意味する。
(3)深さ100kmを超える地震に対しては、4例中のすべて異常は認められなかった。
このことから、浅い地震(深さ<100km)は、80%以上で電離層異常が発生していることになる。
また、マグニチュード6.0以上の極めて強い地震で直下型地震に対しては、7割~8割の確率で電離層に2σを超えるという基準で異常が検出される。
★紹介した事例からみて、電離層の影響を著しく受けるVLF電波が、地震の前兆に伝搬異常を生じることから、地震に伴って電離圏まで影響を受けることは間違いが無いようです。
◆ ◆ ◆ VLF波の観測による地震予知の可能性
◆国内ネットワークを用いることによりほぼ日本全地帯をカバーすることができる。
“なぜ電磁気で地震の直前予知ができるのか 早川正士 著”より引用(図3.19)
図3.19は、国内7観測点と受信しているVLF送信局の受信状況を示している。
線は、観測点とVLF送信局を結ぶ大円を示している。
“なぜ電磁気で地震の直前予知ができるのか 早川正士 著”より引用(図3.20)
さらに、図3.20は、40kHz標準電波JJY(※リンク)と各観測点との相対位置関係を表示している。
以上の国内ネットワークを用いることにより、日本全地帯のVLF電波の観測をカバーすることが出来、それにより伝搬路の近くで発生する地震に対する電離層応答を検出できると、引用の著者である早川氏は述べている。
◆ ◆ ◆ 結論
地震に伴って電離層は擾乱する。
それによりVLF電波の伝搬異常が起こる。
よって、電離層の擾乱を直接観測することは難しくても、VLF電波の伝搬異常を観測することで地震予知できる可能性は高い。
但し、VLF電波の観測による地震予知は、浅い震度(<100km)、被害を甚大にするマグニチュード6.0以上の極めて強い直下型地震に有効と判断できる。
よって、日本のような活断層が多く、直下型地震の危険を抱える地震国においては、特に有効であると考えられます。
そして、既存の国内ネットワークを用いれば、ほぼ日本全地帯をカバーできそうです。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
シリーズのここまでの追求から、以下のことが明らかになりました。
★ 宏観現象から、地震の前兆に電磁気現象が起こる。
★ 地震の前兆に発生する電磁気現象は、地圏内のみならず大気圏にも電離圏にも
影響を与える。
★ 宏観現象に整合するように、世界の地震予知の先端は、地震の前兆を地球上の
電磁気的観測で行なおうとしている。
そして、それは、地震予知の可能性を見出している。
シリーズの今後の追求課題は、
☆ 他の電磁気現象の観測により地震予知する手法は?
☆ 電磁気現象ではなく、化学的現象の観測により地震予知する手法は?
☆ 地震発生のメカニズムから、直接的な地震観測により地震予知する手法は?
そして、これまでの内容を踏まえて、
☆ なぜ、地震の前兆に電磁気現象が起こるのか?
☆ なぜ、地震の前兆で発生する電磁気現象は、大気圏や電離圏にまで影響を与えるのか?
☆ (電磁気現象などを観測する)地震予知のなかで、何が最も有効か?
これらの仮説にチャレンジしてみたいと思います。
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小野 和彦 | 2014.09.05 11:13
TVで超長波伝搬による地震予知を知りました。私は長い間アマチュア無線をやっております。短波通信で世界中の方と交信を楽しんでいます。短波は11年周期で太陽活動の影響を大きく受けます。
最近このサイクルに狂いが生じています。
こんな事からこの地震予知に大きな関心を持ちました。
残念ながら日本の地震予知は一部の学者や省庁の金の問題に特化されて、本来の予知から遠のいてゆく感じを持っていました。地震計を海底に沈めて果たして予知が出来るなんて、学者だって信じていないのでは。
かねてより、地震の前に不思議な雲が出たり、閃光がが走ったりする現象が語られています。これは何かの電波が関係しているのではないかと、考えていました。そこへこの発表です。
又北海道では、地震の前に、FM放送がとんでもない遠方で聞こえたとか。
まだまだ予知できる現象はあるのではないかと考えています。
今後の成果を待っています。