2011-12-31
『科学はどこで道を誤ったのか?』(3)古代ギリシアの時代~人工集団を統合するための分配の原理から数学的自然観をつくりだした古代ギリシャ
◆ ◆ ◆ 海賊山賊たちの人工集団=ポリスを統合するために観念収束した古代ギリシア
ギリシャでも、共認対象としての(いわば主体的な)自然から霊が切り離された客体としての自然への転換は起こりましたが、より大きな変化は、紀元前12世紀~7世紀の暗黒時代、つまり、海の民たちの侵略による共同体の解体と、彼ら山賊・海賊たちによって新たに作られた私的所有者の誕生と彼らがつくった人工集団としてのポリスの誕生によって引き起こされました。
引き続き引用文は坂本賢三先生の著書「科学思想史」2008年岩波全書コレクションによります。
紀元前12世紀~7世紀の暗黒時代、東地中海でオリエント的専制国家が崩壊し、民族移動を契機に新しい村落共同体が形成され、その集住としてポリスができていった。その原因としてはいわゆる「海の民」による破壊行動や鉄器の普及などが考えられるがいずれにせよ、分割地を持つ私的所有者が誕生、また商工業の発達がポリスを生む前提となったのであろう。このポリス及びそれを成立せしめた貨幣市場経済の成立こそギリシアの科学思想をオリエントから区別させるものであった。
紀元前600年前後に大きな変化が現れた。ポリス内部の対立が危機的状況に達したのである。この対立を解消し、ポリスとして市民を均質化する努力が各地で行われる。スパルタは全市民を軍事に専念させる制度をつくることによって実現し、それをなしえなった諸都市では「七賢人」が活躍する。専制的な政治権力のないところでは諸勢力間の調和を目指す立法は極めて困難であるが、ここではそれを精神世界の変革によって行ったのである。
そして密儀宗教が発達した。その教義にはエジプトやペルシアやスキタイの影響も見られるが、それらと基本的に異なるのは個人の救済を目指すものだったことである。それは家柄とか身分とかかかわりなく、かつては王のみに許されていた永遠の至福を約束する。また新しい立法は私闘を禁じ共同体による罰に代えたのであるが、そいれは流血を穢れとする態度と結びつき、新しい立法は新しい信仰による浄めと結びついた。
密儀宗教は貴族と平民を調和させただけでなく、貴族の特権に反対し、富や快楽のもたらす逸脱にも反対した。いわゆる禁欲主義であり、公平をもたらそうとした。貨幣の存在はあらゆるものの公平な分配を可能にし、比を探求することで正義がもたらされると考えた。※坂本賢三「科学思想史」より引用
こうして、個人的救済を目指す密儀宗教を母体としながら、分配の公正を目指して、公共の場での議論、討論が研鑽されることになる。こうして前6世紀に哲学者たちが登場することになり、自然哲学も、ポリスにおける秩序と正義の根拠をなす自然秩序とその原理の探求へと向かったのであった。