2009-07-18

地球環境の主役 植物の世界を理解する⑳ 麦作・牧畜部族の森の神殺し(森林破壊)

前回では、森を維持する東アジアの「稲作・漁労部族」と、森を破壊(開拓)する西アジアの「麦作・牧畜部族」の基本構造をみてみました。 
 
狩猟・採取の段階では、森の恵みに対する感謝、森の神々への念が、部族の意識にあります。
麦作・牧畜による森の破壊(開拓)を必要としていた西アジアの部族は、どのように「森の神々への尊敬の念」を転換していったのでしょうか? 
 
今回は、世界最古の神話、メソポタミアの『ギルガメシュ神話』をてがかりとして、西アジア部族の意識転換を扱ってみます。 
ウルクの英雄・ギルガメシュとその親友エンキドゥによる、森の神・フンババ殺しの物語です。 
 
 フンババ(紀元前1700年/出土地不明/大英博物館) 
 
 shumere001.bmp 
 
飯坂温泉 双葉旅館の遠藤孝秀さんの大英博物館とルーブル美術館に、ギルガメシュを探す旅からお借りしました。 
 
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ギルガメシュ神話の背景と成立年代 
 
紀元前9000年頃、東のイラン高原あるいはインドからメソポタミアの地にシュメール人が移住し、麦作農耕を開始。
紀元前6500年頃、集落が発達。
紀元前3100年頃、メソポタミア南部に、シュメール人の都市国家が発達しはじめる。
ギルガメシュ王の都市国家ウルクはそのひとつ。
シュメールが栄えるのが、肥沃な三日月地帯の南部です。ティグリス・ユーフラテス両川沿岸部に平原が広がり、その後背地に森林が生い茂っていたと想像されます。 
 
  shumere004.bmp

紀元前2600年頃、ウルクという都市国家にギルガメシュ王は実在していたと言われています。
3000年間も戦国時代が続いたようなメソポタミアでは都市を守る城壁を築いた功績は極めて高く、紀元前2400年頃には神格化されていたと想像されます。 
 
神格化が、ギルガメシュ叙事詩という物語を生みました。紀元前2000年頃から紀元前700年頃まで、時代と場所により言葉が変わり、筋立てが変わり、抄本化され、エピソードを追加されたりしながら、粘土板へ刻み続けられました。

『ギルガメシュを探す旅・都市国家ウルクと実在のギルガメシュ王』から 
 
農耕開始から5000年が経過した時代の『ギルガメシュ神話』に、森の神殺し物語が登場するのです。 
 
 
ギルガメシュとエンキドゥによる「森の神フンババ殺し」の物語 
 
ギルガメシュ神話は、多くの神話の集合体ですが、その中の「森の神フンババ殺し」に絞ってみてみましょう。注目は、エンキドゥです。

女神アルルは粘土をつまんで荒野に投げて、エンキドゥという人間を造ります。彼は動物たちとともに成長していきました。 
ある日、狩人がエンキドゥを見つけ、肉体の力強さに目を見張ります。落とし穴を埋め、罠を破った犯人だと知ります。相談を受けた父はギルガメシュ王に会いに行けと言い、ギルガメシュ王も同じ対策を考案します。聖娼のシャムハトを連れていき、「その服を脱がせ、その豊かな奥処を開かせれば、近づいた未開の男から動物たちは離れていくだろう」 
6日7晩、エンキドゥは高ぶったまま、聖娼のシャムハトと交わります。

『ギルガメシュを探す旅・第1の粘土板』から 
 
エンキドゥは、森の動物達の守り手であり、野人として表現されている。その野人が、聖娼と交わることで、動物の守り手の役目を捨てて、都市国家ウルクへと向かう。 
 
エンキドゥとギルガメシュが戦う。しかし、決着がつかず、親友となる。

ギルガメシュ王が、レバノン杉の森へ遠征し、二人で森番のフンババを倒し、レバノン杉を伐採しようと言い出す。 
ところが、エンキドゥは躊躇します。 
「レバノン杉の森を保全するために、主神エンリルはフンババを人々の恐れの的と定めたのだ」
「その声は洪水、その口は火、その息は死である。フンババの森へ入り込む者は、無力が彼を襲うであろう」

『ギルガメシュを探す旅・第3の粘土板』から 
 
しかし、ギルガメシュは、エンキドゥを従えて、森の神フンババ退治に行きます。
エンキドゥの奮闘により、フンババは降伏します。フンババはレバノン杉を持ち去ることを承諾します。 
ギルガメシュは、降伏を受け入れようとしますが、エンキドゥは、フンババを殺す事を主張し、ギルガメシュがフンババを殺します。
 
 
動物の守り手から、都市国家・麦作農耕部族の有力者となったエンキドゥが、森林破壊の急先鋒に変身しますね。 
 
レバノン杉は、現在はレバノン国にわずかに残っているに過ぎない。
しかし、現存する巨木の姿は、フンババ(木の霊)を想像させるものがあります。 
 
  shumere002.bmp 
 
レバノン杉を訪れる/alpsmakiさんの旅行ブログより 
 
 
森の神フンババ殺し・自然破壊を正当化しきれない葛藤 
 
フンババ殺しに続く、ギルガメシュ神話はいかにも歯切れが悪いのです。英雄譚ではなく、ギルガメシュの後悔と苦渋の物語が続きます。 
 
メソポタミア全域の主神エンリルは、自分が派遣していた森番フンババを殺した責任はエンキドゥがとるべきだと主張し、死罪が決定されます。
ギルガメシュは、エンキドゥの死罪を何とか回避しようと、メソポタミアの神々に働きかけますが、結局、エンキドゥは死ぬことになります。
神話は、死を悲しんだ(悔やんだ)ギルガメシュが、エンキドゥの再生を願って死の国への旅物語へ続きます。
世界の大洪水に立会い、不老不死の木を手に入れるがその木をうかつにも蛇に盗まれてしまい、最後は、人として死をむかえるギルガメシュで神話は終わります。
森を破壊(開拓)する事に対する恐れ、葛藤が、大地の神・風と嵐の神であるエンリルの罰として描かれています。また、その罰は、動物の守り手から堕落した、エンキドゥに向います。 
 
農耕開始から数千年、都市国家隆盛を極めた、麦作・牧畜部族である「シュメール人」の段階では、まだまだ、自然破壊・森の神殺しは、正当化が完了していないといえます。 
 
人類数万年に渡る、自然との一体意識は、それ程強いものではないでしょうか? 
 
 
次は、麦作・牧畜の民による森林破壊を、国土を丸裸にしていくギリシャ、ゲルマンの森を破壊していくローマと辿ってみましょう。 
  
ギルガメシュ神話全体については、大英博物館とルーブル美術館に、ギルガメシュを探す旅がお勧めです。 
 

List    投稿者 leonrosa | 2009-07-18 | Posted in D.地球のメカニズム2 Comments » 

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コメント2件

 finalcut | 2010.02.20 19:54

どうやら林業が衰退したのも、無能な官僚が「何もしなかった」というところに根本原因がある。
市場原理の魔の手から日本の森を守る有効な手を打てば、林業は再生する。
日本を自給社会に近づけるために、林業の再生は不可避の課題です。

 hihi | 2010.02.21 12:35

finalcutさん ありがとうございます
仰る通りです。日本の山を無策で荒廃させた人たちにはつくづく腹が立ちます。同時に、そんな中でなんとか守ろうと努力している人たちには頭が下がります。
真っ当な共認さえ出来れば、政策さえ打てればすぐ変えていけると思うんです。                
hihi

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