2009-06-13

日本人は何を食べてきたか 第三部part1 ~ 漬 物 ~

前回までは、日本人と米=ごはんとの関係についてエントリーしていきました。
 
今回からのシリーズは、その日本人にとって、なくてはならない、ごはんと共に食されてきた副食、おかず類にスポットをあてて、少し詳細に紹介追求していきたいと思います。
 
 
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そうだ京都へ泊まろう HPより
 
  
さて、その第一回目は、漬物です。「えっ、なんで漬物からなんだ!?」 とお思いの方もいらっるかもしれませんが、漬物は、日本人の食生活とは切っても切れない関係にあるんです。
 
ところで、漬物といわれて、どんな漬物をイメージしますか?
 
たくあん、野沢菜漬、奈良漬、はてまた梅干やキムチなんて想像されたかたもいらっしゃるかもしれませんね。
 
実は、地域地域によって、漬物の種類は異なっており、その地域ほどの漬物の種類があるといわれています。
 
案外、いまこのエントリーを読んでいただいてる方の出身地での特産となっている漬物を思い出された方も多いのではないでしょうか?
 
 
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漬物マップ 旭漬物味噌株式会社HPより
 
 
実は、漬物はこれほどに、地域地域の食生活に密着した食物なのです。
これほど多様な種類がある漬物ですが、全体像を把握するために、まずはその大きな分類について見ていきましょう。
 
 
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●漬物の分類について ~漬液や漬床から~
 
一般的には、漬液や漬床の違いによって、大きく分類されるようです。
 1)塩漬け
 2)醤油漬け
 3)味噌漬け
 4)粕漬け
 5)麹漬け
 6)酢漬け
 7)糠漬け
 8)辛子漬け
 9)もろみ漬け
10)その他の漬物(無塩乳酸発酵漬け)等
  
  
この分類からも、漬物の種類が多岐・多様に渡っていることが伺えます。
 
 
●漬けることによって、美味しくなるヒミツ ~漬物の漬物である所以~
 
さて、漬物の種類がこれほど多様に渡っている事は分かりましたが、そもそも漬物とは何をもって漬物と呼んでいるのでしょうか?
 
 
「漬物」というからには、上記分類のように、「何かに漬け込む」のですが、その基本は塩であり、塩を入れた漬液の濃度にあります。
 
材料となる野菜には細胞膜が存在し、その細胞膜の中は細胞液で満たされていますが、それらより濃度の高い漬液の中に野菜を入れると、浸透圧により細胞液の水分が外部の漬液に浸出して脱水されていきます。さらに脱水が進むとその細胞は死滅し、生命活動を停止します。そのことで風味の根源になる細胞内の栄養成分が消費されず保存されます。
 
野菜の細胞の中には、各種の酵素が含有されています。動植物では細胞が死滅すると酵素の働きが活発化し、自己分解が盛んになりますが、塩漬によって死滅した細胞内においても、酵素の働きにより分解が進み、野菜の青臭みがなくなり風味が出てくるようになります。
 
また一夜漬けのような漬物ではあまり期待できませんが、さらに数日漬け込むと、漬液に溶け出した細胞液を食料にして、乳酸菌や酵母菌が繁殖して発酵を始め、さらに風味が増していきます。
 
ちなみに糠漬は、漬液の替わりに栄養分である糠を漬床として漬け込むことで、乳酸菌や酵母菌の働きを活性化させるとともに、糠の分解により風味が醸成される漬け方です。
 
麹製品である味噌や粕を漬床に利用する漬物もありますが、これは、麹が持つ酵素の分解の働きにより、アミノ酸や甘味を増加させることにあります。
 
また、下漬けされた野菜を水さらしなどによって塩けを除き、醤油、味噌、酒粕、食酢で本漬けをし、さらにはしそや唐辛子、にんにくなどの香辛料によって風味付けがなされることで、より複雑で美味しい漬物になっていきます。

  
 
●日本人が育んできた漬物 ~漬物の歴史~
  
さて、このように多様な種類がある漬物ですが、一体どのようにして現在のような漬物になっていったのでしょうか?
 
日本人との関係において、漬物の歴史を簡単に見ていくことにしましょう。
 
 
日本人がいつから漬け物を作るようになったかは定かではありませんが、野菜に塩をまぶせば簡単にできることから相当古くから食していたと考えられます。一説には縄文時代から海水に浸けた海藻を干して焼くことで塩づくりをしていたことから、縄文時代には漬け物が誕生していたのかもしれません。
 
この漬け物が日本の記録に現れるのは、天平年間(729~749年)の木簡(墨で木札に文字などを書き、送り状や文書に使用したもの)です。ウリや青菜などの塩漬けのことが記載されていました。その後、奈良時代に入ると大陸の文化が伝来、酒や味噌などの調味料が醸造されるようになり、漬け物も多様化していきます。
  
中世に入ると、漬け物はいっそうの発展を遂げ、室町時代には「香の物」という言葉が使われるようになります。そして江戸時代には糠漬けも登場。「香の物屋」といわれる漬け物屋も誕生し、漬け物はいよいよ庶民の間に広まっていきます。
 
こうして江戸時代初期に製造方法や商売の基礎ができあがった漬け物は、近世に入ってさらに発展。今日では健康志向をとらえ低塩で漬ける製造技術も開発されるなど、その市場規模は6000億円に達すると言われています。

 
「漬け物まめ知識」HPより
 
 
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漬物の神様 萱津神社での漬物の奉納の様子 水郷楽人の塵芥録HPより
  
   
●漬物≒発酵食品としての効用 ~昔の人々の経験と知恵の結晶~
 
このように、日本人の食生活の発展と共に、工夫され幅を広げてきた漬物ですが、単に美味しいからだけで、日本人に愛され、今日までごはんのお供として、食されていたわけではありません。
 
もう少し、深い理由があるのです。ここでその中味についてもう少し踏み込んでみたいと思います。
 
 
漬物といえば発酵食品に分類されることもありますが、この発酵食品の持つ効果について、その大きな秘密があります。
  
1.おいしさ
微生物の力によって、食材の澱粉や糖、タンパク質を分解発酵させて独自の旨味成分をつくりあげている。加えて微生物そのものの旨味もあり、これらがミックスされて独特の美味しさ感じられる。
 
2.栄養価の高さ
発酵過程での酵素の働きにより、様々な栄養成分が生み出され、栄養価の高い食品に生まれ変わる。
特に貧困の時代には、漬物による栄養補給は重宝されたことでしょう。
   
3.保存性のよさ
塩漬けによる保存の他、人間に有益な微生物を一定以上繁殖させることで、人間に有害となる腐敗菌の繁殖を押さえるとこで保存性を高めたこと。
冷蔵庫のなかった時代には、保存のきく漬物は、保存食として有用な食品だったことと思います。

 
(参考) 「発酵食品三つの力」
  
 
●不足栄養素の供給源としての漬物 ~ごはんに欠かせないもの~
 
上記の内、うまみや美味しさ、保存性のよさも重要な要素となりますが、特に漬物が、ごはんのお供として食され続けてきたのは、漬物がもつその栄養素にそのヒミツがあると思います。
 
栄養については、素材を生で食す時よりも、栄養価(特にビタミン類等)が高まるというのも大きな要因だと思います。
 
 
五訂食品成分表(厚生労働省発表)を整理したものです。
表にすると見難いですが、サイトにはグラフ化もされています。
ビタミン、ミネラル、食物繊維とも、生よりも増えています。
特にぬか漬けは圧倒的です。
 
 ~中略~
(各野菜のビタミン成分量については、HPを参照)
 
ぬかには、ビタミンB1、B2、ナイアシンなどの栄養素が豊富に含まれています。
また、塩の浸透圧で水分が抜けた分、ぬかの栄養分が野菜に浸透するので生で食べるよりも栄養価が高まります。食物繊維も実に豊富です。野菜から水分が抜けることによって食物繊維を凝縮した形で摂ることができるからです。漬かる過程で、発酵によってビタミンB群や乳酸など有機酸がつくられますが、それらは腸内の悪玉菌を抑制してくれる働きもしています。

 
「漬け物はビタミンを増やす」 より
  
  
ごはん、特に玄米は、完全食といわれることもありますが、ビタミン類等は、ごはんだけで補給しようとすると、多く食べることにもなり、玄米に比べ栄養素が少ない白米を主食とする現代人においては、ことさら大変なことだと思います。
(具体的な玄米・白米及び必要栄養素の分量についてはHPを参照) 
 
(参考) 米の栄養、あと何が必要?
  
 
ちなみに、ビタミンとは、
 
>微量で生体内の物質代謝を支配ないしは調節する働きをするが、それ自体はエネルギー源や生体構成成分とはならない有機化合物であり、しかも生体内では生合成されず、食事などによって外界から摂取しなければならない不可欠栄養素の一つ。ただし、ニコチン酸のように肝臓で一部生合成されるが必要量まで達しないものも、ビタミンに含まれる。
 
要するに、一言で言って「生体内で合成できない微量な代謝調整物質」といったところだろうか。

 
人類やサルにとってビタミンでも他の生物にとってはビタミンじゃない?
 
 
とあるように、体内で生合成できないが、生命維持活動においては不可欠な微量物質。
 
これを、ごはんのお供として、漬物から補給していたということが、重要な点なのだと思います。
 
まさに、ごはんに寄り添う事で、その存在価値が光って見えるのです。
 
このような漬物の効用を、日本人は経験的にも知っており、工夫思考の末、多種多様な漬物として生み出していったのだと思います。
 
 
以上、見てきたように、ごはんを主食とする日本人にとって、まさに漬物は切っても切れない必要不可欠の関係にあることがわかりました。
 
たかが漬物、されど漬物。漬物、侮るべからずです。
 
 
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自宅レストラン料理写真集HPより
 
 
 
■参考書籍 
 
漬物と日本人 小川敏男著
 
 

List    投稿者 yuyu | 2009-06-13 | Posted in N01.「食への期待」その背後には?8 Comments » 

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コメント8件

 スター | 2010.01.09 23:05

すごく端的にまとめられててわかりやすい!★
これいいですね!★★
最後?の3が気になります!楽しみにしています!★★★

 daruma | 2010.01.09 23:56

あけましておめでとうございます。本年もよろしくお願いします。
 このシリーズを通して、支配者側とわれわれ大衆側の意識が貧困の消滅を境に大きく分裂したことがわかりました。
 そういえば、その頃、「成長の限界」が発行され、話題となったのもうなづけます。支配者は新たな利権=支配構造を作ろうとし、一方の大衆は、本来の意識を取り戻したというのに気づきました。

 nae | 2010.01.10 1:42

なるほどー!☆とっても読みやすくて、気づきがいっぱいでした(@@)
物的欠乏が飽和限界に達した後も、市場の延命措置のために大量の国債が投入されてきた。
マスコミの扇動と制度の残存によって、私たちは皆、潜在的にはズレを感じながらも、多くの人々の認識は改められることなく40年が過ぎたのですね。
今、このようにネット上で情報を共有し、認識を洗練させていく基盤があるということは、ものすごい可能性ですね!

 ふぇりちゃん | 2010.01.10 16:56

>目先の秩序収束、制度収束超えて共認収束に転換する必要がある
と、特権階級との関係をみていて。
私の職場(組織)も、同様の問題を抱えていることに気づきました。
特権階級は大衆のことは考えず(求めていることを理解せず)、目先的なことにしか飛びつかない。
だからみんなの不全がたまったり、不安感が増していったりするんですね。

 sinsin | 2010.01.12 12:55

スターさんへ
コメントありがとうございます
1から3まで通読していただければ幸いです

 sinsin | 2010.01.12 13:00

darumaさんへ
>支配者側とわれわれ大衆側の意識が貧困の消滅を境に大きく分裂したことがわかりました。
> そういえば、その頃、「成長の限界」が発行され、話題となったのもうなづけます。支配者は新たな利権=支配構造を作ろうとし、一方の大衆は、本来の意識を取り戻したというのに気づきました。
その共認支配のために、マスコミ・学者・制度など使えるものは何でも使って、大衆を欺き続けていたのですね。

 sinsin | 2010.01.12 13:06

naeさんへ
>マスコミの扇動と制度の残存によって、私たちは皆、潜在的にはズレを感じながらも、多くの人々の認識は改められることなく40年が過ぎたのですね。
これは、命綱である共認機能を逆手に取った、特権階級の犯罪だとおもいます。
>今、このようにネット上で情報を共有し、認識を洗練させていく基盤があるということは、ものすごい可能性ですね!
そうですね。ここに一番の可能性があるのだと思います。特権階級の共認支配から抜け出すためにも。

 sinsin | 2010.01.12 13:13

ふぇりちゃんへ
>特権階級との関係をみていて。
私の職場(組織)も、同様の問題を抱えていることに気づきました。
>特権階級は大衆のことは考えず(求めていることを理解せず)、目先的なことにしか飛びつかない。
だからみんなの不全がたまったり、不安感が増していったりするんですね。
そうですね。
構造認識は社会の基底部の構造を言葉化したものですから、どんな領域でも役に立ちます。どんどんつかってスッキリしていきましょう。

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