東北地方太平洋沖地震~原発は必要か否か14~放射線はどのように広がっていくのか、またそれが肉体にどのように影響するのか、の放射線の原理~
原子力保安院・東電・政府・御用学者の発表する被爆被害度はあまりにも楽観的かつ根拠に乏しいと思います。そこには、自分たちの責任ではない、原発政策の間違いを認めたくないなど、さまざまな思惑が見て取れますが、今みんなが期待しているのは、論理が整合した確からしい予測です。
そして、彼らが拠り所としている基準すら科学的に十分確立されているものではありません。例えば、何マイクロシーベルトだから安全というように、あたかも、確固たる根拠があるような報道が多いですが、これすら十分な根拠を持ったものではないのです。
なぜならば、放射線による被害は何十年もあとに出てくることが多く、その結果、何十年か後に、被害が出ている可能性がある統計的数値として出てきます。その多くは、原発被害を受けた人々を支援する団体からです。その貴重な情報を、原発推進側は因果関係が不鮮明ということで否定するということを、アメリカも日本も繰り返してきたからです。画像は『北の国から猫と二人で想う事』様からお借りしました。
このような問題を孕むならば、まず原発を作るかどうかの議論が先なのですが、今はまったく逆です。
原子力開発の推進理由は次から次へと変わっています。初期は、夢のエネルギーとして、石油に比べて効率的優位性が謡われていました。次に、効率的優位性は無いことが明らかになり、石油に代わり増加するエネルギー消費をまかなえるのは原子力だけという理由に変更されました。そして現在、温暖化を防ぐ救世主としての原子力という理由が主流になってきました。 このように、首尾一貫した理由は無いにも拘わらず、長年の間、計画的に原子力発電所が建設されてきました。
ように原発ありきで事業が組み立てられ、理由は後付でころころ変わっているのです。それは、『治外法権を確立してきた原発推進体制』という利権体制に問題があるからです。このことは外国からよく見えているようで、【米国ブログ】それでも東電は破綻しない「政府とのなれあい続く」でもふれられています。
このような状況ですから『安全な原発』など幻想にすぎません。むしろ、上記のような現実を覆い隠すために、原発の潜在的危険性は高いが、高度な制御によって事故発生確率を下げているので、それらを掛け合わせたリスクは小さいとう、事故発生確率を組み込んだ安全理論が捏造されたのだと思います。
そして、その確率すら間違いで、このような大惨事がおきてしまえば、想定外だったという一言で責任転嫁をしているのです。そして被害度の情報も断片的で良くわかりません。そこで今回は、測定される事実である放射線被曝量をどのように理解して行けば良いのかについて、素人の目で考えて見たいと思います。
不十分なところは、こころある専門家のかたからのアドバイスを受けたいとも考えています。そのことで、少しでも被害が少なくなることが、多くの人々の期待するところだと思うからです。
ここから先は、あまり厳密な数値や、化学記号を使うと本質を見失う可能性があるので、簡単に省略して書きます。まず原理の理解から進めていきたいと思います。
☆☆☆根拠を示さない報道ばかりを聞いていると思考停止になる
放射線といえば光線のように直線的に走り、人体をも貫通することもある危険なもの、というイメージがあります。これはこれでおおむね正しいのですが、それではなぜ、この直線的な放射線を浴びたあとに水で洗い流せば、悪影響はどのように軽減されるのでしょうか?
また、福島の原発からの放射線から、どのようにして東京に届いてくるのでしょうか?このような疑問に応えている報道はほとんどありません。そのため、原理を解らないまま、こうすれば安全という政府発表を鵜呑みにするしかない状態です。これでは思考停止になってしまいます。
☆☆☆放射線とはどのようなものなのか?
放射線とは光の様に直進し、距離が大きくなればその影響は小さくなります(距離減衰)。よって、福島から発せられた放射線が、害のあるレベルで直接東京まで飛んでいく可能性はほとんどありません。ではどのように東京まで放射線は届くのでしょうか?このような、今起こっている現象を理解するためには、2段階の視点が必要です。
1. 放射線の発生単位である原子のレベルでの現象
2. 膨大な原子の集まりの塵が、空気中に拡散し放射線を発していく現象
☆原子1個について、放射線の発生過程を見てみると
原子1個について、放射線の発生状況を見てみましょう。まず、放射線には約4種類ありますが、どれも光のような動きをするもの程度に考えてください。そして、放射線は物質(正確には原子、原子は原子核と電子から構成される)から飛び出します。
この、放射線が飛び出すもとの物質を放射性物質といいます。また、放射線が飛び出した後は、その物質はもう放射線を出すことが無い別の種類の物質に変化し無害になります。例えばヨウ素がキセノンという物質に変化します。
これを大雑把に言うと、原子1個につき1回限りの放射線を出すと考えても差し支えないと思います。正確には、何段階かにわたり異なる放射線を出して無害になるものが多いですが、回数は限られます。
☆放射線と放射性物質は分けて考える必要がある
放射性物質は地球上に存在するさまざまな物質(元素)の中で、放射線を出す性質を持つものの総称です。よって、それを食べると死に至る毒である青酸カリのような、物質の(化学的)性質を表すものではありません。
例えば化学的には無害な炭素についても、自然界には放射線を出す炭素(放射性同位元素)が、少量ですが存在します。そして炭素としての化学的性質は、普通の炭素と同じですから、放射性の炭素も生物などの体を構成する部品になっています。放射線測定で年代を予測するのもこれを使っています。
これらの放射性の炭素は、今でも時間がたつにつれ、放射線を出して、まったく放射線を出さない無害な物質の窒素に換わっていきます。このように放射線は、あくまでも原子から1回だけ飛び出してくる光(例えば紫外線)のようなものであって、それ自体は有害ですが、出した後は無害な物質に変わっていき、放射性物質ではなくなります。
☆☆☆膨大な原子の集まりが、空気中に拡散し、放射線を発していく現象
☆ヨウ素、約1グラムにはどのくらいの原子があるのだろう?
1モルから出した概算ですが、ヨウ素約1グラム中には、4.6×(10の21乗)個の原子が含まれます。これは46億の1兆倍というとんでもない数になります。つまり、1個の原子は微小なので、1gでもその中に含まれる原子の数は天文学的に大きい、ということがポイントです。
☆原子炉の中には、膨大な放射性物質(核分裂生成物)が溜められている
そして、原子炉の中では、運転するにつれて放射性物質(核分裂生成物)増えていく構造にあります。その量は、全ウラン燃料の1%程度で、それに加えてプルトニウムも1%程度生成します。
ここからは超概算ですが、1号から4号機の燃料総量は、約350t。そのうち放射性物質(核分裂生成物、ヨウ素・セシウムなど)は3.5t=3,500kg=3,500,000グラム。
先の1グラムの、3,500,000倍です。これに使用済み核燃料を含めると、約2倍の7,000,000倍になります。この数値は、正確ではないですが、原子炉の中には膨大な量の放射性物質(核分裂生成物)が存在するということが重要です。これをできるだけ拡散させないことが現在の最大課題です。
『福島第一原子力発電所 設備の概要』より超概算
☆無数の原子が放射線を出して別物質に変化していくスピード
原子1個が放射線を出す現象は、上記の無数の分子すべて同時に起こるのではありません。最初は多く、あとになるとだんだん少なくなるカーブを描いて減っていきます。原子の数が半分になる期間(=全数の半分の原子が放射線を出して別の物質になるまでの期間)を半減期といいます。これを、どのくらいの速さで放射線を出し続けるかという目安に使います。
たとえばヨウ素131では、約8日で全原子数の半分が放射線を出します。つまり、残りの半数は放射線を出す能力(放射能)はあるけれども、まだ出さずに、時限爆弾のように放射線を出すタイミングを図りながら待っている感じです。セシウム137だと約30年です。
このとき、放射性物質が、1秒につき1個の原子から放射線をだす能力を1ベクレルといいます。よって、例えば1200ベクレルというのは1秒あたり1200個の原子が放射線を出して別の物質に変わっていく数です。
だだし、この単位は発生する放射線の時間当たりの数しかわかりません。現実は、エネルギーの異なる何種類もの放射線があるので、その種別ごとに発生するエネルギーは異なります。これを加味して、放射線別のエネルギーを出し、それが人体の単位重量あたりに吸収される程度をしめしたものがグレイという単位です。
このグレイをもとに、統計的に調べた人体の部位別の危険度と、放射線ごとの危険度を加味したものが、よく言われるシーベルトという単位です。なので、水道水などのベクレルだけの報道では、シーベルトのような人体への影響度はなかなか判断できません。
☆無数の原子からなる塵状の時限爆弾が、風に乗って運ばれていく
放射性物質は、常温で気体なら数個の原子からなる分子状態で大気中に拡散されていきます。また、煙のような非常に細かい塵状の固体でも、億を超える原子で構成されています。これらが、半減期で表されるスピードで、どんどん放射線をだして普通の物質に変わりながら空中を漂い、東京などに放射線を降らしていることになります。だから、風向きによって被害は大きく変わります。
☆☆☆運ばれてきた放射性物質は2つの作用を及ぼす
☆人体の外からやってくる放射線(外部被曝)
貫通力が強い放射線(γ線など)は、その量がかなり大きいか、長期にわたって放射線を浴びつつけるかで、問題を生じさせます。ただし、これは外部被曝といって、医療で受ける放射線と同様に、あくまでも外部から降り注ぐ放射線のみが対象です。その意味で、現在の被曝量基準は参考になると思います。
ちなみに、よく参考にされる医療放射線は、今回の放射性物質と大きく危険度が異なります。レントゲンなどは、電気を使って放射線だけを発生させますが、放射性物質が空気中に漂いながら、放射線を出すことはありません。また、放射性物質を使った放射線治療も、密閉容器に閉じ込められていて、その容器から放射線のみが貫通して外に出るようになっています。(微量しか扱わない一部の検査治療法を除いて)
☆人体に入ってから放出される放射線(内部被曝)
それに対して、放射性物質は、空気中に漂いながら、いつ爆発するかわからない状況にあます。一度放射線を捨ててしまった原子は無害になりますが、まだ放射線を出していない原子も存在します。(厳密には2段階3段階もありますが)
それを、吸い込んで肺に沈着したり、放射性物質のついた食物を食べそれを吸収してしまったりしたあとに、時限爆弾が炸裂して放射線を出すことになります。細かな塵でも何億個の原子がありますから、半減期で表される崩壊スピードでどんどん放射線を出し続けます。
そして、体内に取り込まれた放射性物質は、非常にやわらかい組織に至近距離かつ局所に集中して、放射線が当たることになります。これを内部被曝といい、外部被曝に比べて、癌の発生率など危険度が増加します。
また、放射線を浴びたら体を洗うというのは、放射線そのものをとるのではなく、体についた、これから放射線を放出していく物質を除去するためです。これにより内部被曝も外部被曝も軽減されます。
ところで、テレビでよく見る放射線防護服は外部から来る放射線を遮るものではありません。その放射線は浴びたままで、被曝限度量を超えない時間内に活動を押さえるだけです。
本当の役割は、内部被曝や体に直接放射性物質がつくのを防ぐことです。ガスマスクのような形状は吸い込む空気に含まれる放射性物質を取り除くためのものです。このような事例からしても、放射性物質を直接吸い込んだり、飲んだりすることはなるべく避けたほうがいいと思います。とくに、生殖細胞系(妊婦)は被害を受けやすいとされています。
ただし、これに対しての防衛線を張ろうにも、水道水のようにベクレル表示だけではその影響予測は不正確きわまりないのです。その放射線種や、放射性核種の公表と、人体への影響度に換算した単位での情報公開は必須だと思います。
☆☆☆放射線種別と人体への影響
☆放射線の種類と影響度
放射線には、図のように約4種類あると見てください。このうち、α線とβ線は極微粒子が飛び出すもの、γ線、X線は電磁波で、紫外線とよく似たもので、危険度はずっと高いもの程度に考えてください。それらの、貫通能力は以下のとおりですが、これはあくまでも外部被曝の危険度の参考として見るべきでしょう。
☆無数の放射性物質は、時間がたつにつれて順次放射線を出していく
実際、貫通してしまう放射線は、貫通後もエネルギーをすべて失っていないため、人体へ与えるエネルギーも少なくなります。ところが、紙一枚で防げるα線は、人体にあたると静止し、すべてのエネルギーが人体吸収されてしまいます。そのため、これらを肺に吸い込んで沈着してしまうと、その部分が癌になる可能性が極めて大きいのです。内部被曝の重要な監視対象放射線は貫通力が弱く、安全だと思われがちなα線ということになります。
このことから、空気中に浮遊した物質が一様にα線を出すことを前提とした今の内部被曝基準は甘すぎで、沈着を前提にすればもっと局所に大きな線量を受けるので基準値を引き上げるべきだという、『ホットパーティクルの放射線基準』を提唱するアメリカの学者グループもいました。
かれらの判断では、当時の基準の11万5000分の1に引き下げるべきということになっていました。
ところが、それでは原子力計画はほとんどストップしてしまうため、それを阻止しようとする推進側の学者との間で論争がはじまりました。結果は、いつものように推進側=国家権力が勝つという構図でした。このような状況から、11万5000分の1という基準はかなり安全側だとしても、α線内部被曝に対しては、現行の基準は甘すぎるのではないかと考えられます。
☆なぜプルトニウムが猛毒と言われるのか?
また、ヨウ素やセシウムは、割りと貫通能力の高い放射線のβ線やγ線をだします。それに対して、プルトニウムは貫通力の弱いα線を多く出します。これらが、何らかの理由で飛散してしまえば、風に乗って内部被曝にもっとも危険な放射性物質が舞い落ちることになります。これを吸引すれば、かなり微量でも影響が出るといわれています。これが死の灰といわれるものの正体です。
他方、原子炉の中で運転中にプルトニウムは生成されます。使用済み核燃料のなかにも存在します。その上、福島原発のうち1基はMOX燃料といって、過去原子炉で生成したプルトニウムを分離精製したものをウランに混ぜて燃やす仕組みです。だだし、プルトニウム自体は固体で、爆風などで吹き上げられなければ、原子炉に溜まったままです。
これが今後起こりうる可能性のある水蒸気爆発などで舞上るようなことがあれば、日本だけの問題ではなくなるくらいの大惨事になる可能性があります。そのため、日本の国力をすべてかけてでも飛散を食い止める必要があるのです。
このことは、官僚・電力会社の幹部・政治家などの保身意識や立場など吹っ飛ぶくらい大きな問題ではないかと感じています。解決のためには、現行の制度は一旦キャンセルしてでも、保身にしか意識が向かない人々は即刻退場していただき、この危険な現実を直視できる人の英知と、日本の財力を総動員してでも問題の収束に向かう必要があるのではないかと思います。
☆☆☆原子炉の寿命で廃炉にする場合も良く似た問題になる
☆後処理だけで何十年?
この危機を乗り越えるためには、発生し続ける熱を取るための新たに冷却システムと、飛散防止のための封印システムを構築し、それに新たなエネルギーを投入して運転しながら何十年もかかる可能性があります。このような無駄遣いは、現存の使用済み核燃料処理施設と同じです。処理だけのために莫大なお金を投入しているのであって、再処理というのはまやかしです。
☆この事故が無くても廃炉問題でよく似た状況になってしまう
稼働を続けてきた日本の商用原子炉はまだ廃炉の経験がありません。すでに何十年もたち老朽化して、その必要が出ているものが多くあります。しかし、これも大変な難課題です。核燃料だけでなく、原子炉そのものや、汚染された建物、膨大なコンクリート、原子炉付近の土壌。どれをとっても処理が必要です。
その方法は、今まで経験したことの無い汚染物の量を、膨大なお金をかけてどこかに持っていくか、現地で塩漬けにして汚染が少なくなるのを待つかしかありません。これも、放射性物質の半減期等を考えると、何十年、何百年の単位だと思います。
これの安全な管理のためにも新たなエネルギーや、新たな人材が必要です。
それは同時に、その様な閉塞空間で核のゴミを管理する人間を増やすことを意味します。その様な息苦しい管理社会で、社会の活力が生み出されることはありません。つまり、効率だけを考えて原子力発電を続ければ、確かに目先のエネルギーを得ることはできますが、それと引き換えに急速に閉塞空間が増えていき、社会活力の衰弱が進行していくのです。
これは、一時の快楽のために、子孫にとんでもない環境を残していく行為にほかなりません。
この事故を契機に、国民みんなが原発問題を真剣に考えていく時代に入ったのだと思います。
最後までお付き合いいただき、ありがとうございました
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