次代を担うエネルギー・資源 トリウム原子力発電11 ~地球の物質循環から切り離された廃棄物の増量→蓄積の危機~
一時的な便利さを求めるあまり、私達は日々ふんだんに電力を使用しています。しかし、その電力は使用すればなくなります。けれども結果生じる使用済核燃料は消えません。
原子力発電がこのまま続けば、ひと時の快適さのために危険な廃棄物がどんどん溜まっていき、その後始末に途方も無い労力と費用が半永久的に発生するという構造にあるのです。
前回の記事『次代を担う、エネルギー・資源』トリウム原子力発電10~計画通りに進まない“再処理”計画~』で、放射性廃棄物は消滅することなく半永久的に残り続けることに触れました。今回は、それらの使用済核燃料や放射性廃棄物をいったいどうしているのか?という点を整理していきます。
現状、使用済核燃料の再処理量は、増え続ける使用済核燃料の量にまったく追いついていません。再処理に回すことのできない使用済核燃料は、いったいどこへ行くのでしょうか?
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☆☆☆核廃棄物処理フローの概念図
まず、核廃棄物処理フローの理想形は、上図の通りです。使用済核燃料の再処理によってプルトニウムを抽出するとともに、高速増殖炉でウラン238をプルトニウムに変換して原子炉の燃料として再利用します。また、ガス・液体の高レベル放射性廃棄物をガラスに固化して、最終的には地下数百メートルの地層へと埋設処分する計画を立てています。
☆☆☆処分できずに、たらい回しにされる使用済核燃料
☆現状の処分=貯蔵の実態
それでは、実態として使用済核燃料の処分はどうなっているのでしょうか?
原子炉から出た使用済核燃料は、まず原発敷地内の貯蔵プールで4年~5年間冷却した後で再処理することになっており、平成20年度末で200リットルドラム缶に換算して62万4,309本(保管面積にして約74万平方メートル)の使用済核燃料が、それぞれの原発敷地内の貯蔵プールで保管されています。
それぞれの原発敷地内における貯蔵量の限界が迫っている使用済核燃料は、各地の原発から、茨城県東海村の日本原子力研究開発機構の再処理施設および、青森県六ヶ所村の日本原燃の再処理事業所(再処理工場はまだ試験運転の段階)へと搬送されています。
平成20年度末現在、東海村の再処理施設には、200リットルドラム缶に換算して81,913本の使用済核燃料が、六ヶ所村の再処理事業所には、200リットルドラム缶に換算して22,375本の使用済核燃料が保管されています。これらはいずれも、「燃料プール」と称される施設に入れられています。
また、処理しきれない使用済核燃料を、一時的に(最長で50年程度)保管するための「中間貯蔵施設」(リサイクル燃料備蓄センター)が青森県・むつ市に平成24年に開設される予定になっています。
この施設は、建屋2棟(1棟の敷地面積は約7,800平方メートル)に最大5千トン(金属キャスク288基分)の使用済核燃料を貯蔵する計画ですが、その後の搬出先については目途が立っていない状況です。
つまり、現状では、再処理サイクルが未完成のため、廃棄物の循環が止まっている状態になっており、それぞれの原発敷地内の保管場所で溢れた使用済核燃料を、「“再処理施設”という保管場所」へ引越ししている状態になっています。
一方、原発のメンテナンス時に発生する、作業に使用した手袋などの低レベル放射性廃棄物は、ドラム缶の中にセメントで固められて、それぞれの原発敷地内にある保管施設で貯蔵されます。
原発敷地内の保管容量が限界に近づいてきたため、その中の一部が、六ヶ所村にある「低レベル放射性廃棄物埋設センター」に運ばれて埋設処分されています。
この施設は、専用道路などを含めた用地面積が約360万平方メートルあり、それぞれドラム缶20万本相当の廃棄物を埋設できる約4万立方メートルの1号・2号廃棄物埋設施設が設けられています。2009年3月現在、1号埋設施設に14万795本、2号埋設施設に6万7千312本の低レベル放射性廃棄物が埋設されています。
☆再処理をしても核廃棄物が減ることはない
仮に、再処理技術が確立され、使用済核燃料が原子力発電の燃料として再利用できるようになったとしても、原子炉で発生した核分裂生成物が消滅する訳ではありません。しかも、再処理をする過程でも核分裂が起こり、より強い放射能を発生させる物質が生成されてしまいます。
☆高レベル放射性廃棄物の最終処分場の研究施設
「独立行政法人 日本原子力研究開発機構」の研究施設が、北海道幌延町(幌延深地層研究センター)と岐阜県瑞浪市(瑞浪超深地層研究所)に建設され、高レベル放射性廃棄物(ガラス固化体)を最終処分(深さ300メートルよりも深い地層への埋設処分)するための研究開発が行なわれています。この施設は、あくまでも研究目的とされていますが、現在、岐阜の施設で地下460メートル程、北海道の施設で地下250メートル程の深さまで坑道を掘削するなど規模が巨大です。
今後研究を進める中で、実際に高レベル放射性廃棄物が地中に埋設される可能性は否定できません。そうなると、このまま最終処分場の候補地が見つからず、高レベル放射性廃棄物の行き場がなくなった場合に、恒久的に埋設され続けることも想定されます。
(毎日新聞2010.6.13 「地層処分PR施設完成 幌延に広がる不安」)
☆☆☆閉塞空間を増やし続ける放射性廃棄物
☆地球の物質循環から切り離された廃棄物が閉塞空間を生み出す
石炭・石油といった化石燃料は、炭酸ガスに変わって大気中に放出され、それを植物が吸収して光合成に使います。それを草食動物が食べ、草食動物を肉食動物が食べ、やがて死んで微生物に分解され…と、最終的には食物連鎖へと循環します。
それに対して、放射性廃棄物は地球の物質循環から切り離されています。核分裂が進み、放射能がなくなるまでの数万年~数億年もの間、分解されることなく残り続けるのです。
しかも、原子炉を作って50年もすれば原子炉を廃炉することになり、原子炉を解体した際に出る放射性廃棄物が急激に増えることになります。こうして増え続ける放射性廃棄物の行き場がなくなれば、廃炉になった原子炉を解体することなく、原子炉ごと周囲を立ち入り禁止区域にすることも想定されます。
いずれにしても、人間の使える土地が地球上からどんどん減っていくことになります。これが、原子力発電の最大の問題点なのです。
☆原子力発電によるエネルギー供給の背後で、社会活力の衰弱が進行する
放射性廃棄物は、無害化するまでの途方もない期間、人間の暮らす空間から隔離しておかなければなりません。放射性廃棄物が増えて蓄積されるということは、「隔離された閉塞空間」が地球上に増え続けることに他なりません。
それは同時に、その様な閉塞空間で核のゴミを管理する人間を増やすことを意味します。その様な息苦しい管理社会で、社会の活力が生み出されることはありません。つまり、効率だけを考えて原子力発電を続ければ、確かに目先のエネルギーを得ることはできますが、それと引き換えに急速に閉塞空間が増えていき、社会活力の衰弱が進行していくのです。
〈参考〉
・原子力環境整備促進・資金管理センター
・日本原燃 低レベル放射性廃棄物埋設センター
・原子力辞典ATOMICA:使用済燃料中間貯蔵技術
・独立行政法人日本原子力研究開発機構 地層処分研究開発部門
・内閣府 原子力委員会:平成21年9月8日 我が国のプルトニウム管理状況
・原子力発電環境整備機構(NUMO)
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