2010-06-10

『次代を担う、エネルギー・資源』トリウム原子力発電10~計画通りに進まない“再処理”計画~

☆☆☆難解な問題(バックエンド問題)は先送りにされる
2回にわけて“再処理”について書いていきましたが、まとめると、
①:再処理とは安全に処理することではなく、核廃棄物の中からプルトニウムを取り出すことであり、その他は埋めるしかないということ
②:軽水炉などの濃縮ウランを用いた核廃棄物から再処理する技術は、非常に困難であり、未だ確立された技術ではないということ
③:プルサーマルや高速増殖炉を実現させるには、再処理技術の確立が絶対条件であること
④:それにもかかわらず、再処理技術は確立されている前提で、これら(プルサーマル、高速増殖炉)の研究が先行されていること
⑤:高速増殖炉は(プルサーマルも基本的には同じ)燃料生産のためであり、最終処分の問題は何も解決していないこと
ということが分かりました。
このようにバックエンド問題(最終処分問題)とは、複雑で技術的にも難点が多いため、問題は先送りされていくという状態が続いています。

『次代を担う、エネルギー・資源』トリウム原子力発電9~再処理は実用の域に達しているのか?より引用
前回の記事では、再処理バックエンド問題についてまとめました。今回改めて、「再処理計画の推移」が具体的にどうなっていたのかを追求していきます。

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☆☆☆原子炉増設計画と再処理計画の経緯
前回の記事で述べたように、原子炉が稼動するためには、燃料の確保が必要になります。そういう意味で再処理技術の確立が絶対条件とされたわけですが、原子力委員会は、1956年に原子力長期計画を発表し、ここで再処理についてふれています。
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表を拡大する
表は核情報さんのデータをもとに作成しました。
☆ 再処理技術の計画推移
東海村処理工場は計画より3年遅れて、1974年に稼動しましたが1972年の使用済燃料排出予測ではすでに1977年に処理能力を超えると予測されています。これでは間に合わないため、1978年には民間により2つ目の再処理工場をつくり1985年には稼動させる計画を立てています。これが六ヶ所村の再処理工場です。しかし稼動計画は実現できず、稼動時期は1990年→2000年→2007年と先延ばしされて、現在も完成していません。
ようやく2006年にアクティブ試験(本物とほぼ同様に再処理を行い、結果を分析する)を開始し、2010年フル稼働を目指しています。
☆ 高速増殖炉計画の推移
こちらも発表の回数を経るごとに実用化時期が先延ばしされていることがわかります。こちらの計画の先延ばしスパンは再処理計画よりも乖離が激しいことが見て取れます。当初は発表年の10年後くらいの計画だったのが、2005年の発表では「実用化は2050年から」と45年もの開きがあります。また、初めて実用化の時期にふれた1961年の発表では1970年代後半には実用化するとしていたことからすると、その計画は、ほとんど計画通りにいっていないということが見えてきます。
☆ 計画通りに進んでいないという現実
日本原燃の説明によれば、再処理とは、貴重な資源であるウランとプルトニウムを、原子力発電により生じた使用済核燃料から取り出し、リサイクルすることです。そして再処理をすることで、使用済燃料を直接処分する場合(ワンススルー)と比べて、放射性廃棄物の発生を1/2以下に減らすことができるそうです。
また再処理の目的の大半を占めているのが、プルトニウムを使用してさらに燃料生産をするという高速増殖炉です。
それらが有用か否かという価値判断を置いてみても、現状はほとんど実現できていません。
それでも原子炉だけは先行して増加していっているというのが現状です。当然、使用済み核燃料はどんどん出てきます。これらをどうするのか?という問題が厳然として存在します。
☆☆☆増加し続ける使用済核燃料をどうする?
☆ 原子力発電所基数と発生使用済燃料及び再処理量の推移
再処理技術も高速増殖炉も計画通りにいっていない実態がわかりましたが、原子力発電所は稼動し続けています。過去からどのくらいの使用済み燃料が発生し、どのくらい再処理されているのでしょうか。
様々なサイトを探してみましたが、断片的なデータしか出てこなかったため、推定値のグラフを作成してみました。
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グラフを拡大する
グラフ元データ
グラフ元データ2
グラフ元データ3
・原子力発電所稼動数は、『「世界の原子力発電開発の動向 2006年次報告」編集発行 社団法人 日本原子力産業協会』より作成しました。
・「推定使用済燃料発生量」は内閣府原子力委員会 燃料サイクルの比較 -エネルギー、廃棄物および経済性の観点から- より試算しています。 具体的には年間総発電量×原発稼働率×平均廃棄物発生割合で計算。原発稼働率の1966年から1968年の数字はデータが無かったため1969年値と同じと推定しています。
・ 「推定再処理量」は東海村処理工場の累積再処理量と六ヶ所村再処理工場におけるアクティブ試験による再処理量、及び海外に委託した再処理量の合算値を使用しています。
・ 東海村再処理工場の累積再処理量は1977年の稼動から2001年までで980トンというデータを元に、年あたり41トンと推定しています。2002年以降も同じだと推定。
・ 六ヶ所再処理工場は2006年よりアクティブ試験を開始し、2006年141トン、2007年181トン、2008年103トンの再処理をしています。
・ 海外再処理委託量は1978年の3600トンの委託契約が1982年から1991年までの10年間分というデータから、年あたり360トンと推定。追加契約で3500トン(計7100トン)あるのですが、こちらも1992年からの10年分と推定し、年あたり350トンだと推定しました。
・ 「推定未処理量」は「推定使用済燃料発生量」-「推定再処理量」です。
☆ 再処理技術開発は計画通りにいかないのに、原子力発電所はどんどん増加→累積廃棄物量は増加する一方
グラフを見ると、再処理技術が計画通りに進んでいないのに、稼動原子炉数は年々増加しています。結果、累積推定使用済核燃料もどんどん増加していっています。
1978年にフランスおよびイギリスに1982年からの10年間分3600トンの再処理委託契約をしています(最終的には7100トン)が、とても間に合っていません。
グラフを見ると、1995年頃からは原発稼動数は横ばいですが、累積使用済核燃料の増加はとまりません。
そのため、六ヶ所村再処理工場のフル稼働が期待されているわけですが、ここで改めて再処理の中身を抑えておきます。
☆ 再処理をすれば廃棄物が1/2になるって本当?
先にも述べたように日本原燃の説明によれば、再処理をすることで、使用済燃料を直接処分する場合(ワンススルー)と比べて、放射性廃棄物の発生を1/2以下に減らすことができるそうです。
一方、原子力資料情報室によれば、再処理をすれば高レベルの使用済み燃料がガラス固化体(放射能レベルが高い液状の廃棄物をガラスと混ぜて個体化する。それをキャニスターと呼ばれるステンレス容器に入れる。それでも非常に放射能が強く崩壊熱も強いため30年から40年間冷却した後地下300メートルに埋設する。)にされることで小さくなることは事実ですが、同時に膨大な低レベル放射性廃棄物が生じるとしています。
その量は、フランスのラアーグ再処理工場では元の使用済み燃料に比べて約15倍、東海村再処理工場では約40倍で、六ヶ所村再処理工場でも約7倍の放射性廃棄物の発生が見込まれているそうです。
これらは再処理をしなければ発生しない廃棄物なのです。
「再処理」というと完全に安全に処理されたかのように錯覚しがちですが、危険な物質が残ることに変わりはありません。推定累積廃棄物全発生量は2006年時点で約45、000トンになり、推定未処理量も28000トンにのぼります。
仮に日本原燃が発表しているように、再処理によって全体量が1/2になったとしても、それは今後もどんどん増加していくのです。
☆ 使用済み核燃料及び再処理後放射性廃棄物が安全な物質になるまでに数万年以上かかる
使用済核燃料や再処理後の放射性廃棄物が安全な状態になるのにかかる時間は数万年(数百万年という試算もある)と言われています。ですから、仮にガラス固化により地下に埋設したとしても、その維持管理にはそうとうな労力と費用がかかることになります(ステンレス容器に入れられたガラス固化体は、さらにオーバーパックと呼ばれる炭素鋼の容器に入れられ、まわりは粘土の緩衝材で固めるとされています。この人工のバリアと天然のバリア(地層のこと)が、溶けだして地下水に運ばれる放射能が人間の居住空間まで到達することを遅らせると期待されています)。
一口に数万年と言えば、氷河期の時代にまで遡ることになりますが、果たして氷河期の時代に埋設されたガラス固化体が数万年後も安全であるかというのは誰にもわかりません。
ましてやその量は原発が稼動し続ける以上、増加こそすれ、減ることはないのです。
国はその維持管理に責任を持つということですが、それはすなわち私達の税金で賄われるということです。安全な物質になるのに数万年かかるということはそれが半永久的に続くということに他なりません。
一時的な便利さを求めるあまり、私達は日々ふんだんに電力を使用しています。しかし、その電力は使用すればなくなります。けれども結果生じる使用済核燃料は消えません。
原子力発電がこのまま続けば、ひと時の快適さのために危険な廃棄物がどんどん溜まっていき、その後始末に途方も無い労力と費用が半永久的に発生するという構造にあるのです。

参考サイト
原子力資料情報室
原子力百科事典ATOMICA
廃止措置と放射性廃棄物処理・処分の状況
放射性廃棄物の処理処分の動向について

List    投稿者 hirakawa | 2010-06-10 | Posted in F03.原子力発電ってどうなの?No Comments » 

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