2010-04-13

『次代を担う、エネルギー・資源』 トリウム原子力発電6-1/2 ~原子力発電を巡る世界の動き【先進国編】~

画像は、「平成20年版 原子力白書」さんからお借りしました。

これから【先進国編】【発展途上国編】の2回に分けて、原子力発電およびトリウム資源利用を巡る世界の状況について連載します。

主な論点として、各国の

①原子力発電を巡る政策について
②原発の稼動・開発状況について
③トリウムの利用状況について

を取り上げます。これによって、原子力発電を巡る現在の状況および、今後の課題を整理していきたいと思います。

さっそく、世界の原子力発電の概況から見ていきます。

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☆☆☆世界の原子力発電の概況
2008年12月現在、世界で稼動中の原子力発電所基数は436基約3億7千万kWを発電できる設備があり、世界の一次エネルギー(※)供給量の5.6%、世界の発電電力量の16%(2007年現在)を供給。

世界と日本の一次エネルギー・発電電力に占める原子力の比率
世界の比率は「原子力白書 平成20年度版」、日本の比率は「電気の情報広場(2010年)」より

日本では一次エネルギー供給量の11%、発電電力量の26%(2008年現在)が原子力による。
※一次エネルギーとは、石油・石炭・天然ガス・原子力発電の燃料であるウランなど、自然から直接得られるエネルギーのことを指す。これに対し、電気・ガソリン・都市ガス等、一次エネルギーを変換や加工して得られるエネルギーのことを二次エネルギーという。
また、2008年末現在、世界で建設中・計画中の原子力発電所は、27カ国で151基約1億5千万KWの規模であり、このうち6割が中国、インドなどのエネルギー需要が高まりつつあるアジア諸国におけるものになっている。発展途上国における原子炉開発およびウラン濃縮には、フランス・アメリカ・ロシアなどの先進国が関与している。
国際エネルギー機関(IEA)のシナリオによると、世界のウラン資源は2030年にはピークを迎え、少なくとも今世紀半ばには枯渇に向かう(「World Energy Outlook 2006」による)。現在でも、ウラン鉱石の産出量は、需要量を大幅に下回っている。 そのギャップは、ロシアの解体核兵器や、低品位鉱石からの回収によって埋められている。世界で目白押しの原子炉新増設計画に対してウランの需給ギャップは続き、争奪戦で価格高騰は免れない情勢である。実際、ウラン価格は近年急激に高騰し、00年6月に1ポンドあたり9.2ドルだったのが、07年6月には1ポンドあたり138ドルと15倍になったことがある。(総合資源エネルギー調査会 需給部会)
09年の平均価格は、1ポンド42.85ドルだった。(ブルームバーグ ウラニウム・ワン)
☆☆☆先進国の状況
☆日本
1.原子力発電に関する基本政策
核廃棄物の処理については、再処理により抽出したプルトニウムと、ウランの混合酸化物燃料(MOX燃料)を利用するプルサーマル計画、高速増殖炉(※)の開発など、再処理方式による研究を進めているが、東海村やもんじゅの事故などのトラブルが続き、思うように進展していない。高速増殖炉もんじゅは、1995年のナトリウム漏れ事故以来14年に渡って運転を停止しているが、2010年3月には国による安全審査が全て終了し、運転再開は地元の福井県と敦賀市の判断待ちになっている。
(毎日jp 2010年3月18日)
※高速増殖炉 
炉心燃料集合体の周囲にブランケット燃料集合体を配置することで、炉心燃料は上下・周囲ともブランケット燃料に取り囲まれた形となる。主に、炉心燃料の部分で核分裂反応により熱が発生し、ブランケット燃料の部分では、ウラン238がプルトニウム239に変換される。
参考:「もんじゅ」の炉心構成要素
しかし、トラブルの原因についての究明が不十分なままでの運転再開には、安全性への疑問の声も挙がっている。
・また、現在稼動中の原子炉の耐用年数が過ぎる2030年頃から発生すると見込まれる代替炉建設需要に対応することを目指して、次世代軽水炉の開発を進めている。
2.原発の稼動状況
・2009年1月末現在、運転中のものが53基・建設あるいは計画中のものが13基。
・アメリカのゼネラルエレクトリック(GE)社、ウェスティングハウス(WH)社からの技術供与によって導入した軽水炉を使用しているが、現在では国内で全ての技術をサポートできており、日米関係の保全のために従来のフレームを維持している。
3.ウラン資源とトリウム資源の埋蔵量
・ウラン、トリウムともに確認資源量は非常に少なく、また資源の探索そのものが中途半端な状態になっている。
4.トリウムの原発利用への取組み
・トリウム燃料の利用および、溶融塩炉への政策的な取組みはなされていない。これは、現在主流の軽水炉を開発した官僚・電力会社・メーカーの国策独占グループの利権と対立するため、意図的に排除されていると思われる。
5.その他
・将来的なウラン資源の確保先として、ウラン埋蔵量が世界第二位のカザフスタンをウラン資源確保の最重要地点と位置づけて連携を模索している。巨大資本の独占状態にあるウラン鉱山会社と、カザフスタンとの関係はどうなっているのか?が調査課題。

☆アメリカ
1.原子力発電に関する基本政策
・1977年にカーター政権が、再処理で取り出されるプルトニウムが核兵器の拡散につながるとして、商業用再処理の禁止を打ち出して以来、核燃料の再処理工場の建設・操業を中止している。ブッシュ政権下では、使用済み核燃料の再処理施設や高速増殖炉の建設計画が持ち上がり、30年ぶりの再処理路線復帰と見られていた。しかし、オバマ政権になって原子力政策を転換し、原子力発電所の使用済み核燃料の商業用再処理施設や高速増殖炉の建設計画を取りやめる方針を発表した。
・オバマ政権は、ヤッカマウンテンの最終処分場(再処理を行なわずに、地中に直接埋設する方式)について反対を表明し、原発敷地内での中間貯蔵(※)を当面続けることにしている。
※使用済み核燃料などの放射性廃棄物を、処分場の開設までの期間保管すること。
・1970年代末から80年代はじめにかけて、景気の後退とエネルギーの節約によって電力需要が減少し、多額の投資を必要とするプロジェクトを敬遠するようになっていたことに加え、1979年にスリーマイル島の原子力発電所2号機の事故が起こって以降、原子力発電所の新規発注が行なわれてこなかった。2002年2月には、2010年までに新規原子力発電所を建設・運転する計画が発表され、これを受けて30基以上の新規建設計画が立案され、2009年1月現在、原子力規制委員会に対して、26基の建設・運転の一括許可の申請が行なわれている。
2.原発の稼動状況
・2008年12月現在、稼動中の原発が104基、建設・計画中の原発が12基ある。
3.ウラン資源とトリウム資源の埋蔵量
ウランの埋蔵量が約35万トン、トリウムの埋蔵量が約91万5千トン。
4.トリウムの原発利用への取組み
熔融塩炉を含むトリウム原子炉の研究を、海軍において進めるための費用が、国防予算の中に織り込まれ、2009年6月に下院を、7月には上院を通過した。研究結果は2011年2月1日までに国防委員会に報告させることになっている。

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・1990年代後半、内閣に原子力推進に反対する緑の党が参加したことから、高速増殖炉スーパーフェニックスの閉鎖、原子炉の新規建設発注の見送りなど、部分的な停滞をしていた。2002年以降は、原子力推進派の保守政権が誕生し、既設の原発を建て替えることが、国家エネルギー政策として確認されている。原発燃料については再処理を行なうことを前提に、各種設備の開発が進められている。

写真はサルコジ・仏大統領とサバーハ・クウェイト首長
画像は、「アラビア半島定点観測」さんからお借りしました。

欧州加圧水型炉(EPR)と呼ばれる新型軽水炉の開発が進められているほか、核融合ではトカマク試験装置などによって研究を進めるとともに、欧州原子力共同体を通じてITER(国際熱核融合実験炉)計画など、国際的な研究開発に参加している。2008年1月現在、59基、6,602万KWの原子力発電設備を保有し、発電電力量の約80%を原子力が占めている。
サルコジ大統領は、中東・湾岸諸国へ積極的な訪問を行なっているほか、2010年には、国際金融機関による原発開発資金の融資や原発安全性の評価順位発表など6つの案を発表するなど、自国の原発の輸出を促進しようと躍起になっている
(中央日報2010.03.10)

☆ドイツ
・環境保護勢力を支持基盤とする緑の党が、州・連邦政府へ参加したこともあり、核燃料サイクルを含めた原発開発は大幅な後退を余儀なくされた。
・将来の原子炉建て替えの需要を見込んで、シーメンス社が、フランスのアレバ社と共同で欧州加圧水型炉(EPR)と呼ばれる新型軽水炉の開発を進めているが、原発反対派と推進派の協議が進展しない現在の政治情勢からして、詳細設計段階まで進む可能性は今のところない
・軽水炉で、プルトニウムとウランの混合酸化物 (MOX) 燃料を利用するプルサーマルがさかんに行なわれており、8機の原発にMOX燃料が装荷されている。
・2008年1月現在、17基、2,137万KWの原子力発電設備を保有し、総発電量の約30%を原子力発電が占めているが、建設中・計画中の原子炉は1基もなく、新規の原子力発電所が建設される見込みもない。

今回は、先進国での原子力発電を巡る状況を見てきました。
先進各国では、将来の原子炉建て替え発展途上国への輸出を見込んで、新型原子炉の開発を進めるなどの動きが見られます。しかし、核廃棄物処理の方法については、各国共通して計画通りに進展しておらず、苦慮している様子が伺えます。

〈つづく〉
List    投稿者 daiken | 2010-04-13 | Posted in E03.トリウム原子力発電, F03.原子力発電ってどうなの?No Comments » 

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