2011-07-22

福島原発からどのくらい放射能は放出されたのか?2~放出された可能性のある放射能量を推定する~

前回の記事では福島第一原発にある放射能存在量の精査を改めて行いました。
今回はその数値を元に、「どれだけ放出されたか?」について推定した結果、以下のようになりました。
(※7月26日時点で修正しました)
(※テラ=兆=10^12)
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7月11日(震災から4ヶ月)までに放出した放射能量は
『317万テラベクレル(推定値)』です。

※ちなみにこの数値はヨウ素換算していない数値なので、換算すると数値としてはもっと大きくなることが予想されます。
※またチェルノブイリでは520万テラベクレルが放出されたと言われており、しかもその数値はヨウ素換算されている数値です。
ではどうやって推定していったのか、中身を見ていきましょう。

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☆☆☆大気中に放出された放射能を推定する
☆爆発時の放出量を推定する
地震のあった3月11日~3月22日までの約10日間は、1号機から3号機までは爆発があり、4号機でも火災事故などが起こっています。原子力委員会及び保安委員会の発表している数値はあまり参考にならないので、海外からのデータを元に推定していきます。

>福島原発の事故により大気中に放出された放射能については、フランスIRSNがいち早く試算結果を発表しています。
これによれば、3月22日までに
・希ガス  2E18 ベクレル (2.0×10^18ベクレル)
・ヨウ素  2E17 ベクレル (2.0×10^17ベクレル)
・セシウム 3E16 ベクレル (3.0×10^16ベクレル)
・テルル  9E16 ベクレル (9.0×10^16ベクレル)
参考として、上記の放射性元素の値はチェルノブイリの事故の推定放出量の約10%
に相当しますが、これは2011 年3 月22 日現在のデータに基づく最初の評価であるとの注釈があります。
ひかるのぶろぐ様より抜粋)

※ちなみに上記のデータは“ヨウ素換算する前の値“を用いているので注意してください。
(今回の放射能量の推定はあくまで“物理的な量として”放出された量を求めることを目的にしています。)
さて、上記の数値を合計すると10日で2.32×10^18ベクレル(232万テラベクレル)放出されたことになります
他方、原子力安全保安院の発表では、「事故後約1週間で77京ベクレル(=77万テラベクレル)」と発表されています。しかし、この値は「ヨウ素とセシウムのみの数値」とされており、その他の放射能量が公に出てきていないため、妥当性に欠けます。
よって、より妥当性の高いと思われるフランスIRSNが発表した数値の『10日で2.32×10^18ベクレル(232万テラベクレル)』という値を爆発した時の放出量とします。
では次に爆発がいったん収まった後はどれくらい放出されているのでしょうか。

☆“常時”大気中に放出される放射能量を推定する
1)気体に変化した放射能が大気に放出する⇒「沸点別」に検証
1~4号基までは水素爆発によって、建屋及び圧力容器に穴があいていることに加え、内部の圧力制御の為に常にベントしていることから、気体となって大気に常時放出していることになります。
そこで、福島原発内に存在する放射性物質の内、炉内温度によって「気体」になったものは大気に放出されていくこととし、その為に「沸点別」に物質を並べ替えて見ていきます。
現在、ストロンチウムが外部で検出されている為、沸点がストロンチウムの沸点(1384℃)以下の物質は常時大気へ放出されていると仮定します。(※表の緑色の部分の元素)
※但し、炉内温度は常に1384℃以上というわけではないし、実際の温度は不明な点も多いです。ですが、事実ストロンチウムが検出されていること、また、他の気体化した微粒子などと一緒に外部へ放出することからも今回は“ストロンチウムの沸点以下のものは大気から放出する”と仮定できると判断しました。
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公式発表される放射能量はそのほとんどが「ヨウ素とセシウムのみ」である為、その他の放射能についても推定する必要があります。
そこで、まず
前回の「福島第一原発全体の放射能量」から、「ヨウ素及びセシウム」の総量を算出します。そして、その総量と現在発表されている「大気放出したヨウ素及びセシウム」の比率を出すことで、“大気への放射能放出比率”を求めました。
ここでも一旦人体等への影響は無視して、「物理的な量として放出された量」を求めているので、“ヨウ素換算値を加味していない放射能量”を用いていることに注意して下さい。
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前回の表を元に、ヨウ素とセシウムの放射能総量は、炉内総量と使用済みプール内総量を合計して、上記の表より
『ヨウ素とセシウムのみの存在量A』は1.44×10^21Bq(14.4億テラベクレル)となります。
次にそれぞれの元素の『1日あたりの放出量B』は、以下の記事の数値を元に推定します。

>5日に福島第一原発から大気に放出された放射性物質の推定値は、ヨウ素131が毎時0・69テラベクレル、セシウム137が同0・14テラベクレル。
どうなる福島第一原子力発電所様より抜粋)

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上記のように『一日あたりのヨウ素とセシウムの放出量合計B』は1.992×10^13Bq/日(19.9テラベクレル/日)となります。
したがって、福島原発から1日当たりに放出される大気放出量比は
1.992×10^13Bq/日 / 1.44×10^21Bq = 1.38×10^(-8)(一日あたり)となります。
この大気放出量比を用いて、上記で挙げたストロンチウムの沸点以下の放射能1日あたりの大気放出量をまとめると以下のようになります。
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したがって、常時大気へと放出されている放射能量は
1日あたり7.53×10^14ベクレル(753テラベクレル)ずつ放出されていることになります。

3)現在既に大気中へ放出されている放射能量の総合計
今までの検証をまとめると、
3月22日までの10日間で爆発時に「2.32×10^18ベクレル(232万テラベクレル)」が大気放出されており、その後、3月23日から7月11日までの111日間は常時、1日あたり7.53×10^14ベクレル(753テラベクレル)ずつ大気放出されたと推定できます。
つまり、

2.32×10^18(Bq)(爆発時の10日間)+7.53×10^14(Bq/日)×111日間(常時)  
=2.32×10^18(Bq) + 0.84×10^17(Bq)
=2.40×10^18(Bq)(240万テラベクレル) (※テラ=兆=10^12)

が7月11日までに大気へ放出されていることになります。

☆「爆発時の大気放出量」と「常時大気放出量」の比較検証
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リンクより抜粋
上のグラフは福島原発で観測された放射線量のグラフです。
単位は「シーベルト」ですが、空間線量の値ですから、概ね大気放出された放射能に対しての検証には使えそうです。
グラフを見ると、爆発(火災)時に約10mSv(ミリシーベルト)に対し、爆発後の常時は0.1~0.5 mSv(ミリシーベルト)辺りを推移しています。
つまり爆発時は常時の約100倍程度だということがわかります。

今回推定した大気放出量のうち、爆発時の放射能量は「10日間で232万テラベクレル」なので、爆発時の一日あたり大気放出量は、23万テラベクレル(Bq/日)となります。
そして、常時大気放出量は一日あたり753テラベクレル(Bq/日)ですから、爆発時の大気放出量は常時の約300倍ほどになるので、概ね今回の推定量はオーダーとしての妥当性はありそうです。

☆☆☆汚染水として流れ出た放射能を推定する
今度は“放射性物質を含んだ”汚染水として流れ出た放射能量を推計していきます。
炉内温度を下げるために放水・注水していますが、汚染水が漏れている状況を考えると、メルトスルーや冷却循環系の配管等の破損によって、注水した分だけの水がそのまま原子炉外に流れ出ていると考えられるので、「注水量=流れ出す量」を前提に、震災以降、現在までの漏れ出した汚染水の量を推定します。
(※あくまで推定ですので、より現状を把握している方がいれば是非コメントください。)
☆流れ出す汚染水1トンあたりの放射能量を推定する
まず、流れ出す汚染水1トン当たりの放射能量は以下の記事を参考に算出します。

>推計によると、今月1日から、固化剤の注入などによって流出が止まった6日までに約520トンが海に流れ込んだ。汚染水に含まれていた放射性物質の総量は、ヨウ素やセシウムなどの合計で約4700テラ・ベクレル(テラは1兆)に上った。
2011年4月21日の読売新聞より>

4700テラベクレル ÷ 520トン = 9.04×10^12(Bq/t)(9.04テラベクレル/トン)となります。

☆注水量の変動を加味して流れ出す放射能量を推定する
1)7月までの注水量の算定
「注水量=流れ出す量」を前提としているため、注水量に変動があると流れ出す量も変動します。その変動も加味した注水量を出す為に、
1~3号機については、東京電力HPに掲載されている「福島原子力発電所1号機~3号機における炉内への注水量<概算値>」(海水注入開始~5月31日)というデータを用います。
なお、注水は3月12日(震災翌日)から行われていますが、当初は海水を使用しており、日ごとの変動が激しいため、安定した注水が行われ始めた時期(淡水を使用)からの注水量をもとに検討します。
4号機に関しては、東京電力HPには注水量が示されていないため、以下で発表されている値をもとに推定すると、4/23以降は1日あたり140tの注水を続けていることになります。
よって1ヶ月分(140t/日×30日分)は4,200tと仮定します。

>経済産業省原子力安全・保安院は23日、東京電力福島第1原発4号機の使用済み核燃料プールに約140トン注水することを明らかにした。<4月23日の毎日新聞より>

以上を踏まえて4月~5月の注水量は以下のようになります。
       %E2%91%A5%E6%B3%A8%E6%B0%B4%E9%87%8F.jpg
東京電力HPに示されている注水量は約2ヶ月分なので、7月までの注水量が分かりません。よってこの値から月平均値を算出することで、4ヶ月分の注水量(=流れ出す量)を求めると、7月までの想定注水量は84,828tとなります。
2)注水量=流れ出た汚染水に含まれる放射能量
3月11日から7月11日までの約4ヶ月間に汚染水として流れ出た放射能量は
9.04×10^12(Bq/t)(汚染水量1トンあたりの放射能量)  × 84828(t)(注水量=流れ出た汚染水量)
≒7.7×10^17(Bq)となり、77万テラベクレルとなります。
※但し、この値は「もともと原子炉内に存在する水量」と「一旦保管してある汚染水量」は加味していませんので注意してください。

☆☆☆これまでどれだけ放射能は放出されたのか
以上の検証結果をまとめると以下のようになり、7月11日現在までに合計317万テラベクレルの放射能量が放出されたことになります。(※但しヨウ素換算値は加味していません)
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(放出量を加味していない)7月11日までの福島原発に存在する放射能量は前回の推定により、112.5兆テラベクレルなので、今まで放出した放射能量は「100万分の2.82%」しか放出されていないことになるのです。
(※但し、半減期による放射能量の増減は加味していません)

今回、今ある情報で可能な限りを尽くして「どれだけ放出したのか?」を推定してみた結果、今尚福島第一原発に存在している放射能量に比べると、意外なほど微量な分しかまだ放出されていないことが分かりました。
現在マスコミ等で“高レベルの放射能が検出”と良く聞きますが、それはほんのちっぽけなもので“現在も今だに恐ろしいほどの放射能が福島第一原発には存在している”という認識が必要なのだと感じました。それは福島原発に限った話ではありません。
今後、もし自然災害や事故等によってさらに放射能が放出された場合とんでもなく危険な状況になるのだろうと感じています。
今後も様々な事実が出てきた場合、塗り重ねて検証していきますので、何か情報があった場合、コメント等で情報提供やご指摘などお願い致します。

List    投稿者 tutinori | 2011-07-22 | Posted in F03.原子力発電ってどうなの?No Comments » 

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