左脳の世界
左脳は 直線的・ 系統的に考えます。 左脳にとっては 過去と未来が全てです。
左脳は 現在の瞬間を表す 巨大なコラージュから 詳細を拾い出し、その詳細の中から さらに 詳細についての詳細を拾い出すように出来ています。 そして、それらを分類し 全ての情報を整理し、 これまで覚えてきた 過去の全てと結びつけて 将来の全ての可能性へと投影します。
そして左脳は 言語で考えます。 継続的な脳のしゃべり声が、 内面の世界と外の世界とをつないでいます。 その小さな声が 私に囁きます。帰る途中で「バナナを買うのを忘れないで、明日の朝いるから」
計算的な知能が、洗濯をするよう 思い出させます。
しかし 最も重要なのは、その小さな声が、 私に「私がある」と言う ことです。そして、左脳が「私がある」と言った途端 、私は 切り離されるのです。私は 1人の確固たる個人となり、周りのエネルギーの流れから離れ、周りの人から分離されます。
右脳の世界
右脳にとっては「現在」が全てです 。「この場所」「 この瞬間」が全てです 。
右脳は 映像で考え 、自分の体の動きから 、運動感覚で学びます。 情報は エネルギーの形をとって 、すべての感覚システムから、 同時に一気に流れ込み 、この現在の瞬間が どのように見え ・どのように臭い・ どういう味がし・ どんな感触がし・ どう聞こえる かが、 巨大なコラージュになって現れるのです 。
右脳の意識を通して見ると 、私という存在は 自分を取り巻くすべてのエネルギーとつながった存在なのです 。右脳の意識を通して見た私たちという存在は 1つの家族として互いにつながっている エネルギー的存在です。 今 この場所・ この瞬間、私たちはこの地球上で 共に世界をより良くしようとしている兄弟姉妹です。
この瞬間に、 私たちは完璧であり・ 完全あり・ 美しいのです 。
(脳卒中を起こした時)腕を見ると もはや自分の体の境界が 分からなくなっていることに気付きました。 自分がどこから始まり どこで終わるのか その境界が分かりませんでした。 腕の原子分子が 壁の原子分子と混じり合って 一緒になっているのです。 唯一感じ取れるのは エネルギーだけでした。
その瞬間― 左脳のささやきが 完全に途絶えました。 まるで誰かが テレビのリモコンを取り ミュートボタンを押したかのように 全くの静寂になりました。 最初 頭の中の静寂に ショックを受けていましたが、それからすぐに 周囲の大きなエネルギーに魅了されました。 もはや 体の境界が分からない私は 自分が大きく広がるように感じました。 全てのエネルギーと一体となり、 それは 素晴らしいものでした。
私はこの空間を 親しみを込め ラ・ラ・ランド (陶酔の世界)と呼んでいます。 そこは素晴らしい所でした。 外の世界と自分をつなぐ 脳のしゃべり声から 完全に切り離されているのです 。
この空間の中では、仕事に関わる ストレスが 全て消えました。 体が軽くなったのを感じました。 外界全ての関係と、それに関わる ストレスの元が全て無くなったのです。 平安で満ち足りた気分になりました。 想像してください 37年間の感情の重荷から解放されるのが どんなものか! ああ! なんという幸福 幸福 とても素敵でした。
体が大きく拡大するように感じ、ランプから解放されたばかりの精霊のようでした。 私の魂は 大きなクジラのように自由に飛び 静かな幸福の海を滑るように進みました。 天国を 私は天国を見つけたのです。 この大きくなった自分を 再び小さな体の中に 押し込めるのは無理だろうなと思ったのを覚えています。
脳の研究者が、自身の脳卒中時の脳の状態を内側から冷静に観察し、左脳の機能が停止して右脳の機能のみが作動している世界を見事に描写しています。左脳と右脳の機能を熟知している科学者でなければ、成し得ないことでしょう。
悟りと右脳の世界の共通点
私がこのスピーチを初めて聞いたのは 2013年ですが、今聞き返しても古いという印象は全くありません。
それは、彼女が描写した右脳の世界(ラ ラ ランド )が、宗教的な究極の世界観と一致しているからでしょう。
仏教で言う悟り(涅槃:ねはん・解脱)の世界。
*訳では「天国」となっていますが、テイラー博士は「nirvana」(涅槃)という言葉を使っています。
ヒンドゥー教で言うサマディ(三昧)の世界。
キリスト教で言う天国。
時代の変化に左右されない、普遍性のあるスピーチといえるでしょう。
テイラー博士のスピーチの結び
(脳卒中を起こした後)私は「でもまだ私は生きてる!」と思いました。 そして、天国を見つけた私が、天国を見つけて まだ生きていられるのであれば、生きている皆も天国を見つけることができるんだと気付きました。 美しく、平安で、思いやりに満ち、いつでもこの場所に来られると知っている愛すべき人々で満たされた世界を思い描きました。 意識的な選択により左脳から右脳へと歩み寄り、 この平安を見出すことができるのだと。この体験がどれほど大きな賜物となるか、生きている人たちに どれほど強い洞察を与え得るか そのことに気づき それが回復への力になりました。
さて、私たちは一体何者なんでしょう? 私たちは 器用に動く手と 2つの認識的な心を備えた 宇宙の生命力です。そして私たちは この世界の中で どんな人間でいたいのか どのようにありたいのか すべての瞬間 瞬間において 選ぶ力があります。 今 ここで この瞬間 私は 右脳の意識へと寄ることが出来ます。そこでは 私は宇宙の生命力です。 私を作り上げる 50兆もの 美しい分子が一体となった 生命力の塊です。
あるいは 左脳の意識へと寄って 1人の堅実な個人としてあることを選べます。 大きな流れや 他の人とは 別個の存在です。 私はジル・ ボルト・テイラー博士、理知的な神経解剖学者です。
この2者が 私の中にある“私たち”なのです。 皆さんが選ぶのはどちらでしょうか? どちらを いつ選びますか?
私たちがより多くの時間を 右脳にある 深い内的平安の回路で生きることを選択すれば、世界には もっと平和が広がり、私たちの地球も もっと平和な場所になると信じています。
テイラー博士は20分にも満たないスピーチの中で、我々一般人も、今生に生きる中で『悟る』こと、または、それに近い世界に近づくことがが可能であることを示してくれました。
それは、人生の瞬間 瞬間に、左脳の思考世界から、右脳の感覚世界に意識的にスイッチすることで可能となることを。
そして、より多くの人が右脳の内的な平和な世界を選択することで、実世界もより良いものになる 可能性を示唆してくれました。
現代社会では、言語を用いて物事を考える 左脳中心の生活が主となっていますが、時には思考を止めて左脳を休ませ、五感を使うことに意識を向けて、右脳の世界に浸ることが『悟りへの一歩』となります。
また、多くの悩みを抱えた現代人にとっては、『過去』に起きたイヤなことを何度も思い返したり、まだ起きていない『未来(将来)』に対して恐れや不安を抱く左脳の世界から、『いま、ここ』にある右脳の世界(ラ・ラ・ランド)へと意識的にシフトすることで、悩みから解放されることにもなります。