2010-01-23

『次代を担う、エネルギー・資源』 トリウム原子力発電1 核エネルギーを利用した発電システムを概観する1/2

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画像は磁性の裏にひそむ極小磁石さんよりお借りしました。

『次代を担う、エネルギー・資源』 プロローグでは、        

しかしながら、現在の工業化・マクロ化した状況では、一足飛びには行かないでしょうから、エネルギー・資源の自給を最大の課題にして、『二階建てのエネルギー・資源供給方式』を模索して行く必要がある。

そこで、

一階:ベースの全国共通のエネルギー・資源
二階:地域毎の特性を生かしたエネルギー・資源

で、『次代を担う、エネルギー・資源』を追究していきます。

のように、2階建てのエネルギー追求を考えています。その中で、今回は、その1階のベースとなる全国共通のエネルギー・資源のうち、トリウム原子力発電を連載します。その際の問題意識としては、

【一階(ベース)】の可能性として、

○トリウム原子力発電

実現性、エネルギー量から可能性は高く、ウランと違い安全と言われるが、原子力エネルギーに変わりなく、自然の摂理に反する抵抗感はあるが。。。
ウランと同じように日本はトリウムを自給できない問題は?
廃棄物の問題は?

のようになります。これらが事実としてどうなのかが最終的には求められます。

そこで2回に分けて、トリウム原子力発電を含めた、核エネルギーを利用した発電システムを概観すると同時に、調査課題を抽出していきたいと思います。その後、調査課題を、テーマごとにアップしていきます。

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トリウム溶融塩炉という原子力発電システムが、新しいエネルギーの候補として紹介されるようになってきました。日本では、古川博士の著書『「原発」革命』に具体的な内容が紹介されています。しかしこれらは、目に見えない領域を観念で捉える必要があることから、なかなか理解しにくい状況にあります。

それゆえに、このシステムの可能性の判断には困難がつきまといます。そこで、今後の分析の焦点を合わせるためにも、まずは聞きなれないトリウム原子力発電は、今までの原子力発電とどう違うのか?についての大きな概要を先に説明します。

1.トリウム溶融塩炉ってなんだろう?

古川博士の提唱する『トリウム溶融塩炉』という言葉は、『トリウム』という核燃料となる物質名『溶融塩炉』という、原子炉の構造種別(これはトリウムと直接関連する概念ではありません)の二つの概念の組み合わせになっています。

☆核燃料としての『トリウム』

核燃料を、今まで使われていたウランからトリウムという物質に替えて原子炉をつくります。また、核燃料としてトリウムをそのまま利用するのではなく、トリウムを核化学処理し、ウランに変換してから使用します。つまり、核分裂を利用した原子力発電という概念レベルでは、従来の原子力発電もトリウム原発も変わりません。

☆炉の構造形式としての『溶融塩炉』

溶融塩炉とは炉の構造種別を指します。現在稼動中の原子力発電所は、世界中どこでも全て固体燃料を使用しています。これを、この構造種別を固体燃料型炉と呼ぶとすると、溶融塩炉とは、液体化された核物質含有燃料を利用した原子炉であるため、この構造種別は液体燃料型炉と呼ぶことが出来ます。

液体燃料型の事例【トリウム溶融塩炉】
画像はNPO「トリウム熔融塩国際フォーラム」さんよりお借りしました。

また、『軽水炉』『高速増殖炉』などの名称は、固体燃料型や液体燃料型という構造種別の下の小分類ということになります。ただし、現在稼動中のものは固体燃料型が全てなので、『軽水炉』『高速増殖炉』は固体燃料型の小分類を表していることになります。

固体燃料型の事例【ウラン原子炉(沸騰水型)】
画像は「あとみん(原子力・エネルギー教育支援情報提供サイト)」さんよりお借りしました。

ここで、古川博士の著書『「原発」革命』の中の主張をまとめると、

固体燃料の原子力発電所では、燃料装着、連続処理、メンテナンス等の点において合理的でないのに対して、液体化燃料を使用する溶融塩炉では、液体循環システムを主体とした単純なプラントとして設計可能で、固体燃料型炉の弱点を克服できる。

となります。

次に、溶融塩を非常に大雑把に解説します。まず、『塩(えん)』とは、酸とアルカリを反応させたときに出来るほぼ中性の結晶のことを指します。そして、溶融塩というのは、常温で固体(結晶)の『塩(えん)』を、高温で液体にしたものです。

今回の塩とは種類が違いますが、例えば食塩(NaCl)を(水を入れないで)加熱すると固体が溶けて液体になります。このように、高温で液体になったある種の溶融塩の中に、核燃料を入れた液体循環型の核化学反応装置の構造を溶融塩炉といいます。

2.原子力発電所はどうやって電気を作り出しているのか?

原子力というと、核反応ばかりに注目が行きがちですが、もっと単純化して実態構造をつかんでみます。

まず、交流電気は、何かのエネルギーを使ってタービンという羽根車を回し、その羽根車が発電機を回すことによって作り出されます。例えば、火力発電なら石油で水を沸騰させて出来た蒸気で、水力発電なら落下する水で、羽根車を回しています。
そして原子力発電では、核分裂の際に発生する熱エネルギーで水を沸騰させ水蒸気を作り、それで羽根車をまわしているのです。単純化すると、核分裂エネルギーで大きなヤカンを沸騰させて、そこから出てくる蒸気で羽根車を回しているわけですね

タービンのイメージ
画像は日立さまよりお借りしました。

このようにシステムとしては単純なものですが、原子力発電というとなにか複雑で、素人にはわかりにくいという先入観があります。しかしそれは、システム全体の話ではなく、熱エネルギーを発生させる核化学反応の部分に原因があるのです。

3.熱エネルギーを発生させる核反応とはどんなものだろう?

石油は燃えると熱を出します。これも化学反応ですが、原子(や分子)の組み合わせが変わるだけで、原子そのものが変化するわけではありません。それに対して核分裂などの核化学反応では、原子そのものが変化します。

原子が変化することを身近な物質でいうと、もともと窒素だったものが炭素になるとか、金が水銀になるというような反応です。ここで重要なのは、ある元素は他の元素に変わる可能性があり、永久に炭素は炭素、金は金のままのように、固定されているわけではないということです。

しかし、経験的には、窒素が別の物質である炭素になるようなことを目撃したことはないと思います。それは、ある特殊な条件がないと原子は変化しないからです。その条件としては、原子自身が大きなエネルギーを保有しているか、外部から大きなエネルギーを加えられているかで、不安定状況になっていることです。

そのような原子は、安定状態(=低いエネルギーの状態)に戻るために、エネルギーを放出したり、安定した複数の原子になるためにエネルギーを放出しながら、核分裂を起こしたりします。ここで、核分裂とは、例えばウランという元素が、バリウムとクリプトンという2種類の元素と放射線に変化することを言います。

核分裂の模式図
画像は「U.S.N. アラスカ放射線研究所」さんよりお借りしました。

そして核反応の前後で、元素の質量が減ります。例えばウラン235は、バリウムやクリプトンと中性子2個になり、本来235あったものが、234.8程度になります。この約0.2の質量分がエネルギーに変わります。これは、アインシュタインの発見した、質量はエネルギーに変換でき、そのエネルギー量は、質量×光速の二乗であるという理論に基づき計算できます。

これの意味するところは、質量とはエネルギーの一種であるということです。だから、質量が消滅した分エネルギーになるということです。そして、それが光速の二乗という極めて大きな数に比例するため、他の化学反応のレベルをはるかに超えたエネルギーが取り出せるのです。

通常の化学反応(例えば、水素と酸素が化合して水となる反応など)で発生するエネルギーはeVレベル(23キロカロリー/モル)程度であり、また、一般に原子が変化する核反応(例えば炭素14が電子を放出するか形の崩壊をして窒素14になるなどの反応)で発生するエネルギーは普通0.1から数MeVまである。これに対して、核分裂反応によるエネルギーは200MeVであるから、一般の核反応に比べれば2~3桁、通常の化学反応に比べれば、数億倍も大きい。

ここで、eVはエレクトンボルトというエネルギーの単位です。MeVはメガエレクトロンボルトといいい、基礎となる単位の106(=百万)倍のことです。ここでは、eVという単位より、この倍数に注目してください。

取り出せるエネルギーの大きさの反応別比較
反応の種別
エネルギー量
eV換算値
倍率
通常の化学反応
eV
1
1倍
原子が変化する核反応
MeV
1,000,000
100万倍
核分裂反応
200MeV
200,000,000
2億倍




ちなみに石油を燃やすというのは、通常の酸化という化学反応なのでeVレベルになります。それに対して、このように大きなエネルギーを取り出せる可能性が、原子力発電(や核融合炉)の開発動機のひとつになっています。

     
(つづく)

List    投稿者 sinsin | 2010-01-23 | Posted in E03.トリウム原子力発電6 Comments » 

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コメント6件

 りりー | 2011.01.03 22:55

>古代宗教(ユダヤ教・キリスト教)は、唯一神・絶対神を作り上げることで、自然の恵みを無視し、自然は、神に帰依する選民にとって、敵対物となった
なんと!!!!
確かに、倒錯していますね!!
それほどの存在不安だったんですね。
なんかそう考えると、かなり根深いところからねじれちゃってますね。。。
次回からどうなるんでしょう><
楽しみにしてます!

 ゆーと | 2011.01.04 7:11

支配層が大衆を支配する為に古代宗教が作られたのだと思っていたのですが、
>身分支配の苦しみ⇒救い期待であり、それに応える形で古代宗教が登場
大衆も身分が固定されていき、苦しみが常態化し、何かにすがっていないと苦しい状況だった。だから救い期待が生起され、古代宗教が登場したんですね。
確かに、現実が辛いから救いを求める。というのは自然に考えればそうだなって思いました。
とても楽しそうなシリーズなので、次回以降も楽しみに期待してます♪

 Bee | 2011.01.05 16:23

現実が辛いから救いを求めて古代宗教が登場するところまでは納得でした☆
>自然は、選ばれた民族(人々)により、征服する対象物
ただ、その中身がそれまで恵みをもたらしてきた自然さえも『征服』する対象となってしまうのには疑問が。。。自然圧力さえも苦しみに分けられてしまったのですね。。。
続きも楽しみたいと思います~♪

 leonrosa | 2011.01.05 22:42

りりーさんコメントありがとう
ユダヤ教、そしてそこから派生するキリスト教の唯一神は、精霊信仰や守護神信仰に照らし合わせると、やはり異様だと感じます。 
 
彼らは、人間の事しか関心をもたない心性に至ったのだと思います。自然の圧力と恵みの中で行われる労働が、彼らにとっては罰、苦痛でしかないのですから。 
 

 狩人 | 2011.01.05 22:56

>富の拡大欲求や私権意識などの欠乏の全てが守護神信仰に包摂されているという点である。
>自然圧力×同類闘争圧力⇒富族強兵共認⇒守護神信仰で統合。 
自然外圧>同類圧力の時代では、私権的欲求を満たすには、守護神信仰があったんですね。そうだったんだ!とびっくりしましたが、読んでてなるほどと思いました。
富国強兵による森林破壊という環境問題は発生したようですが、自然の摂理が意識されていたのは、守護神信仰がこの時代の最先端だったからなんですね。

 leonrosa | 2011.01.05 23:47

ゆーとさんもコメントありがとう
現実が辛いから、その現実を見ずに、架空観念に収束するのは、やはり疑問ですね。

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