『次代を担う、エネルギー・水資源』水生圏の可能性、水力エネルギーの活用8. 小水力発電の実現基盤を探る!
「第1回全国小水力発電サミットin都留」から引用させていただきました。
資源エネルギー庁が行なった第5回発電水力調査(1986年公表)によると、10000KW以下の未開発の水力は全国で約2500ヶ所近く(潜在発電能力670万KW)存在し、小水力発電が広がる余地が大きくありますが(資源エネルギー庁「水力のページ」)、法規制の厳しさや支援策の貧弱さが普及・拡大の壁になっているとされています。
その中にあって、前回見たように、意欲的な自治体やNPOは、趣旨を鮮明に打ち出して賛同者を募り、共同で資金を出し合って小水力発電を実現してきています。
今回は、「市民・自治体」「企業」「国」の動きから、小水力発電の普及の実現基盤を探っていきます。
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①自分達のエネルギーは自分たちで創ることを楽しんでいる「市民・自治体」
前回紹介があったように、2010年10月の2日間にわたり、小水力発電では一歩先んじている山梨県都留市において、「第1回全国小水力発電サミット」が開催されました。
サミットでは、事例報告、パネルディスカッション、交流会、分科会などが行われましたが、それらへの参加者(団体)が面白い!参加者の活動を一部紹介します。
○自治体から【徳島県上勝町】
上勝町では、「緑の分権改革」を展開しようとしています。(上勝町HP から引用)
上勝町は、ごみゼロを代表とする様々な環境への問題に取り組んでいます。
最近では国としても「緑の分権改革」という、環境への配慮を行いながら、地域の持久力向上と自立を図ろうとする地域へ根ざした取組みがあります。上勝町でもこの事業に取り組むべく、豊かな自然環境を生かし、再生可能なエネルギーの利用を図り、エネルギーとして供給することでまちのエネルギーをまかない地産地消が行える「まち」へと成長していきたいと思っています。
その一環として、3kwと2kwの小水力発電をはじめ、木質バイオマス利活用、バイオガス、太陽光発電など幅広くクリーン・エネルギーを調達しています。
○農業団体から【那須野ヶ原土地改良区(栃木県)】
全国土地改良事業団体連合会「農業用水を利用した小水力発電」から引用させていただきました。
土地改良区とは、土地改良法に基づく土地(農地)改良事業を施行することを目的として設立された法人で、現在は「水土里ネット」(みどりネット)という愛称で呼ばれています。
農林水産省の旗振りもあって、土地改良区では、平成13年度から全国ベースで『21世紀土地改良区運動』(=土地改良施設(農道・水路・貯水池・農村公園など)を使って様々な活動に多面的に利用する)を展開しています。
栃木県の北部に位置する那須野ヶ原の土地改良区は、「総合学習」「地域のお祭り」「学生トライアスロンなどのイベント」など土地改良区運動のみならず、クリーン・エネルギーとして、国営土地改良事業として全国で初めての小水力発電施設「那須野ヶ原発電所」(340kw)を設置しています。総合学習ではこの発電所の見学も人気で、毎年6500人を受け入れています。
○市民団体から【髙家領水車母さんの会(岩手県)】ネットから活動実例を引用します。
「わが町から、心の栄養もどうぞ!」から引用させていただきました。
1.水車蕎麦の店「森のそば屋」運営
山間高冷地の条件を活かしたソバ栽培、守り続けてきた水車小屋、伝承の手打ちの技。この3つの資源を活かし、ソバに付加価値を付け、地域の活性化を図ることをねらいとして、平成4年11月、「森のそば屋」を開店した。戸数55戸、人口200人の単なる通過点であった山あいの集落のそば屋に、今では2万人を越す人が訪れるようになった。
2.そば打ち体験、イベント参加等
そば打ち体験の受け入れ、イベントへの出店、出前のそば打ち教室など、そば打ちの伝承活動に取り組んでいる。体験は、青森、秋田、宮城など隣県からも来ており、最近は総合学習や修学旅行で来る小中学生が増えている。
サミットの分科会では、
「地域に1万世帯が居住していれば、エネルギーコストは100億円/年かかるが、この金額を自給することで雇用問題を解決できないか?」という小水力発電を契機に地域の自立を図ることという提案があったり、「地域で必要な電力は、大手の電力会社が供給するような高品質の電力である必要はなく、電力の質を下げればコストも下げられるのではないか?」といった意見も交わされました。
また、「市民がエネルギー事業を始めるには、先ずその事業に関わる人の思いが必要であることや、地域の技術を見出し、活用するためには関わる人の思いや信頼関係が必要である」という意見もありました。
水力発電を牽引する事例として前回紹介された「おひさまファンド」、NPOによる「くるくるエコプロジェクト」も含めて、先進的な「市民・自治体」は、
単に市場が開かれているからとか儲かるからということではなく、また、
実現できないことを様々な規制のせいにするのでもなく、
「地域の活力再生」「市民協働」を基盤にして、事業の見通しを立て、小水力発電を実現しています。
彼らが牽引する小水力発電事業には、「地域への愛着」や「自分たちのことは自分たちで」という気概がまずあり、そういう気概を持った人々が集まって、ワイワイガヤガヤと楽しみながら創っています。
この「楽しみながら創る」という新しい意識潮流が、最先端の実現基盤になっているのです!
②儲けは二の次、可能性を感じて参画し始めた「企業」
引き続き、最近、活発化してきている企業の動きを見てみましょう。
○商社・丸紅の場合
日本経済新聞(2010.4)「小水力発電の全国展開狙う丸紅の大西英一さん」より引用。
財団法人新エネルギー財団HP から引用させていただきました。
丸紅は自社が保有する三峰(みぶ)川発電所(長野県伊那市)内で、小水力発電を始めたのを皮切りに全国で小水力発電事業を展開する計画だ。
(中略)
「コストダウンに知恵を絞った。まず発電機は汎用製品を6台並べた。水力発電所は地形や水量などが場所により違うため、基本的にオーダーメード品というのが常識だった。水量に合わせて機械を設計する思想だが、私たちは機械に合わせて水量を調整することにした。春の出水期など水量豊富なときは、並列6台をフル稼働させるが、水が減れば休ませる。その方が効率的だと判断した。」
(中略)
「もうひとつ、延長した管路を繊維強化プラスチック製にするなど、初期投資を少なく工期を早くするよう心がけた」
(中略)
「5年以内に全国10カ所ほどに展開を考えており、まず自社の施設内で経験を積んだ。次は長野県内で案件がある」
○コンサル・日本工営の場合
南日本新聞(2010.9)「遺構活用し曽木の滝に小水力発電所を計画」より引用。
平凡堂 a-stm「曽木発電所遺構」から引用させていただきました。
伊佐市(鹿児島県)と建設コンサルタント大手の日本工営(東京都)は、同市の曽木の滝公園内に残る曽木第一発電所遺構を生かした小水力発電所を建設する計画を28日、市議会全員協議会に示した。2012年4月稼働を目指す。
日本工営によると、発電所は最大出力450キロワット。一般家庭約1000軒分に当たる年354万キロワットアワーを発電する。
(中略)
「小水力発電は初期投資額がかかる故に、自治体は導入に及び腰。民間が踏み込んだ官民連携の事業モデルをつくることで、小水力発電普及につなげたい」
その他、地方の建設業が水力発電の専門部署をつくったり、電力会社も小水力発電事業を行なう子会社をつくるなど、様々な業種の企業が参画しています。
現時点では「儲け」は二の次で、可能性を感じて動き出している段階ですが、様々な企業の参画により、供給体制が整い、導入しやすくなっていくと考えられます。
③ようやく小水力発電に振り向き出した「各省庁」
施策レベルでは、現在も、
・1000kW以上は電力会社の買取義務のある再生可能エネルギーの対象外。
・太陽光発電に比べて低い売電価格。(太陽光発電は48円、小水力発電は10円程度)
・河川法の水利権や自然公園法の壁があり、それをクリアするための手続きが煩雑。
・小水力には不利な補助制度
などの壁があります。近年の施策動向を見てみましょう。
2005年:電力会社に一定割合で再生可能エネルギーの導入を義務づける『電気事業者による新エネルギー等の利用に関する特別措置法(RPS法)』で、1000kW以下の水力発電も対象になった。(経済産業省)
2005~2006年:「他の水利使用に従属する小水力発電」について、河川流量への影響検証の手続きを不要にしたり、水利権許可を不要とするケースも具体化した。(国土交通省)
2009年:政府が発表した「経済危機対策」で太陽光発電等と並んで小水力発電の普及促進が盛り込まれた。
それを受けて、2009年度から『地域新エネルギー等導入促進事業』により、従来補助対象外だった1000kW以下の小水力発電に対して1/2の補助がでるようになった。(経済産業省)
また、農業用水を利用した小水力発電について、これまでは発電施設の単独整備では助成がでなかったが、2009年度から一部事業で単独整備でも助成が受けられる制度が創設された。(農林水産省)
2009年末からは、経産省に有識者検討チームを発足。「全量買い取り」の導入、その対象を太陽光発電以外にも拡大することが検討されだした。従来のRPS制度や余剰電力買取制度を廃止して全量買い取り制度に一本化すべきとの意見もある
。
このように徐々にではあるが小水力発電の普及を後押しする動きになっていますが、国は有効な手を打てていないのが現状です。
ただ、常に一番遅い「国」が、漸く小水力発電に振り向きだしたのは、多くの人がそこに可能性を感じ、現実が変わりつつあることの証といえるでしょう。
細かい理屈はさておき、小水力発電に対して多くの人々が可能性を感じ、
それを地域やみんなのために使ってみようという気概のある人が現れ、
そういう人々が楽しみながら協働する、
という動きが全国で広がっています。
これらを基盤にして、小水力発電が広がり、10年後には、日本の小河川や農業用水路で小水力発電の姿が当たりのようになっているのではないでしょうか。
いよいよシリーズの終盤です。
次回からは、水力発電全体の可能性を追求していきますのでよろしくお願いします。
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