2011-01-31

『次代を担う、エネルギー・水資源』水生圏の可能性、水力エネルギーの活用12.水力発電の可能性(後編)

前編では、主に資源エネルギー庁の資料を元にして、中小水力発電所の潜在力、可能性を確認してみました。 
 
そこで気づいたのは、通産省・資源エネルギー庁は、国産エネルギーである「水力発電の可能性」を本気になって追求していないという事でした。 
 
通産省・資源エネルギー庁は、国際的な資源勢力(ウラン資源と石油資源)の影響下にあり、ウランと原油消費の削減につながる「水力発電」を軽視してきたといえるでしょう。 
 
そこで、今回は環境省の調査や独自データ処理を行い、水力発電による電力の国産化、自給率の向上を追求します。 
 
①日本国土には、2万か所・1500万KWの中小発電所が可能だ 
②原子力の都合で歪められている水力発電の低い稼働率 
③水力発電で電力供給の37%を賄える可能性がある 
 
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①日本国土には、2万か所・1500万KWの中小発電所が可能だ 
 
環境省が、再生可能なエネルギーの日本国土での可能性を本格的に調査してます。 
調査のタイトルは、「再生可能エネルギー導入ポテンシャル調査」(21年度)です。その報告書が公開されています。リンク 
 
この報告書の第5章が「中小水力発電の賦存量および導入ポテンシャル」です。 
 
調査の方法は、全国河川の地形・高低差・流量をメッシュ地理データとして処理し、水力発電の発電能力の理論値を推計しているものです。 
 
推計の仕方は、河川の合流地点に仮想発電所を設け、そこに流れ込む水量と高低差から、その発電所の発電能力を設定するものです。 
 
  suiryoku204.bmp 
 
この調査によると、仮想発電所の数は183,255地点、可能発電能力は2,895万KWという膨大な数字になります。 
 
この理論値から、道路から比較的近い、国立公園などの特別な制限区域ではない、建設単価が妥当な範囲(260万円/KW)に納まっている等の条件をつけて、現実的な地点数と発電能力を出しています。また、中小水力発電ということで、1か所3万KW以下の発電所という条件を付けています。 
 
結果は、相当凄いものです。

   可能な地点数  20,848地点 
 
   発電能力合計  1,525万KW

これは、中小水力発電所として、自然地形を一変させるような大型ダムではない発電所です。自然の河川や地形に即して造られる発電所です。 
 
日本の揚水型を除く一般水力(流水式とダム式)の総発電能力は、現在、2,074万KWですから、既存の74%にもなります。凄い潜在力がありそうです。 
また、か所数でも、資源エネルギー庁の2,700か所とは格段に違いますね。 
 
因みに、地域別では、東北地域が5,080か所で最大です。中部地域4,189か所、関東地域2,875か所、九州地域1,934か所と続きます。 
 
 
②原子力の都合で歪められている水力発電の低い稼働率 
 
発電能力が設定できたら、次は、その発電所が年間どれ位の電力を供給できるか、年間発電総量、年間の稼働率はどうなるかを試算する必要があります。 
 
そこで、既存の水力発電所の稼働率を知らべてみました。すると、驚くべき結果です。 
下に、表と図にまとめてみました。 
 
「水主火従」の時代である1955年(昭和35年)では、水力発電所は61%の稼働率です。稼働率は、365日24時間運転を100%とした基準で算出していますので、61%稼動率というのは、223日・24時間発電、或いは365日・15時間発電 という状況です。 
1955年の水力発電所は、年間を通じて、しっかり発電していたのです。 
 
ところが、2008年になると水力発電全体の稼働率は19%しかないのです。この低い稼働率にはからくりがあります。 
 
suiryoku201.bmp 
 
シリーズの10回で、原子力発電所の定常運転の都合で、揚水型水力発電所が沢山つくられ、この揚水型発電所は稼働率3%ともいわれています。この揚水型発電所の低い稼働率が、水力発電所の全体稼働率を下げているのでしょうか。結果は、違っていました。 
 
表では、水力発電合計と一般水力(流水式+ダム式)、揚水の別で、稼働率を算出してあります。
一般水力の稼働率は、1955年の61%から、1975年には52%に下がり、1985年には50%を切り、2008年現在では39%という結果です。 
 
つまり、1955年の61%からみると現在の39%は、2/3に止まり、その能力の1/3を無駄にしているのです。 
 
対して、原子力発電は、稼働率80%、70%運転をしているのです。 
 
原子力発電所を定常運転するために、超低稼働率である揚水型発電所をつくり、既存の一般水力の能力も無駄にしているのが、現在の日本の発電事情なのです。 
 
表の右端に、一般水力と揚水型の発電能力を書いておきましたが、なんと、3%、5%しか稼動させない揚水型の発電能力が2,564万KWもあり、一般水力の2,064万KWを超えています。 
 
現在、低稼働になっている一般水力発電所を、1955年並の稼働率にあげ、超低稼働率の揚水型発電所の稼働率を、工夫してあげることが出来れば、現在、10%といわれている水力発電の比率を格段にあげる事ができます。 
 
この視点も加えた、既存水力発電所とこれからつくる「中小水力発電所」で、必要とする電力の何%を賄えるのか、大胆に推計してみましょう。 
 
 
③水力発電で電力供給の37%を賄える可能性がある 
 
図は、現在と将来(計画)を合わせて表現してあります。当ブログのオリジナルな図ですよ。 
 
まず、現在の水力発電の発電能力、発電量、電気供給に占める比率です。
一般水力は、2,074万KWの能力をもっていますが、その稼働率は39%に止まっています。 
一方、揚水型は、2,564万KWという能力をもっているにも係らず、稼働率は3%にすぎません。 
その結果、年間に発電する総量は、777億KWhに止まり、電気供給量の7.8%です。 
 
国産エネルギーである水力発電を低稼働で運営しているために、水力比率は8%なのです。 
 
suiryoku206.bmp 
 
国産エネルギーである水力比率を上げるにはどうしたらよいでしょう。まず、水力発電所の稼働率を上げることです。その上で、①で確認した「中小水力発電所」を全面的につくっていくことです。 
 
図の【将来】は、その試算結果を表しています。 
 
一般水力は、今後つくれるものも含めて発電能力2,460万KWとし、稼働率は64%とします。(1955年の実績が61%ですから、可能でしょう。) 
揚水型は、現在の能力のままで稼働率8%と設定します。(1995年の稼働率が6.5%ですから、可能な稼働率でしょう。) 
中小水力発電所は、環境省の試算を元にして、発電能力1,530万KWとします。地域密着型でメンテナンスもこまめにできることから、稼働率は75%とします。 
 
この結果、水力発電全体で、年間、2,564億KWhの発電ができます。現在の発電量777億KWhの3.3倍にもなります。 
 
一方、必要電力供給量の方は、人口の減少やGDP縮小を考えて、現在の70%(30%縮小)程度と想定します。 
 
この結果、水力発電で、電力供給の37%が賄えることとなります。 
 
全国に2万か所の中小水力発電所をつくり、これまでつくってきた大型発電所の稼働率を上げれば、電力の37%を、国産エネルギーである水力発電で供給できるのです。 
 
日本の国土の特徴である、豊富な降水量と急峻な河川を活用した、水力発電の将来像が少しみえてきましたね。 
 
次回、最終回は、水力37%に向かう『ロードマップ』を扱います。 
 

List    投稿者 leonrosa | 2011-01-31 | Posted in E07.水力エネルギーの活用7 Comments » 

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コメント7件

 ひめ | 2011.12.29 19:55

原発の事故を受けて、今年はみんなの意識が大きく変わりました。
これまで当たり前に可能性と捉えられていた「科学技術」が、人間の能力を超え、行き過ぎた怪物になってしまったのだと実感しました。
このままでは、地球が壊れる、人の心も壊れる、そんな危機感でいっぱいでした。
でも、もう一方で「なんでこうなったのか?」という疑問はずっと残っていました。
“科学はどこで道を誤ったのか?”
このシリーズで、もう二度と道を誤らないよう、次の世代、次の次の世代にも、ずっと残していける教訓を残していきたい。
そして、誤る以前の、まっとうな科学とは?技術とは?から、新しい可能性が見えてくるのではないかという期待もいっぱいです。
楽しみにしています!!

 だいち | 2011.12.29 20:11

>近代思想に導かれ、現実の(生物、人間を含む)自然の摂理を無視し、自然を支配するという倒錯した架空観念発で、要素還元主義により無理やり人工的に解を導きだしている科学技術、そしてその近代科学技術にたいする万能観が、人類滅亡に瀕するような状況へ暴走させている問題の核心です。
 この認識は、過激ですが、大きな気付きです!今まで「基本的に科学は客観的であり、正しい。問題はそれを使っている人間だ。」と思っていました。
 しかし科学技術そのものに対する、問題提起であり、それはこの間の原発問題も含めて、まさに実感とも連動するところです。
 シリーズとても楽しみにしています!

 gakusya_x | 2011.12.30 8:57

科学が道を誤った??
とんでもない”
科学は、まだ、未熟の未完成だ”
原子論も地震論も、40年前から、まったく”進んでない
学問が止まったまま””
何の発見もない””
原子力の平和利用ではじめた原発”だが、
放射能と原子の火の消し方が解らないまま、実行した付けが、今になって出てきた。
とにかく”人間の造った物は50年が限度”
建物は老朽化、原子炉は金属疲労する。
人類が滅ぶ可能性は、原発が一番高い”
福島は、世界に向けての「大きな教訓」だ
科学は未熟”経済は行くところまで来た
これからが、本番”科学の時代だ。と思う

 のん | 2011.12.31 14:25

事実を知らない(知ろうとしない)事、自ら考えない事って、とても罪なんだなぁ、と今回の記事を拝見してふと思いました。
このシリーズを通して、学者やマスコミに惑わされず、自分達でも考えていける思考が学べるんじゃないかと、期待しています。

 mine | 2012.01.05 12:30

gakusya_xさんこんにちは。
>科学が道を誤った??
>とんでもない”
>科学は、まだ、未熟の未完成だ”
仰ることは分からなくも無いですが、福島原発事故をはじめ、自然の摂理を超えた(=人間の捉える範囲を超えた)状況を目の前にして、未完成だと言い切るのはあまりにも無責任だと思います。
いつ暴走するか分からない未完成な車に、日本国民が乗っている様なものです。
明らかに道を誤っている思います。

 kirin | 2012.01.05 22:36

コメントを入れてくださった皆様、ありがとうございます。
少なからず誰もが科学は万能と思い込んでいるところがありました。しかし、福島原発災害により、科学技術の極みにある核エネルギー災害は、人類を滅亡の危機に導くことが明らかになりました。
この事実に直面した今、科学技術について、真正面から考えていかなければ、途方もない被害をだした(これから何世代も被害を出し続ける)福島原発災害をまったく無駄なものにしてしまいます。
このシリーズで、読者の皆様と一緒に考えていければと願っていますので、応援よろしくお願いします。

 どらみ | 2012.01.17 21:06

「科学」そのものは素晴らしいのです。新たな発見があればアップデートされるので。原子力が危ないと証明するのもまた科学。風力発電も、太陽光発電も、また科学の力で生まれたものです。原子力が危険である事はとっくの昔から既に分かっていたのにも関わらず、なぜ使用をやめないのでしょうか?それは科学のせいでしょうか?私は今の経済システムのせいだと思います。成長し続けなければならない経済や、お金に縛られた社会のせいで、環境が汚染され続けます。原発から、再生可能エネルギーに切り替えるための資源は十分にあります。それができない理由はいつも同じ。お金がかかるからです。私は経済システムを変える事こそが、環境汚染を止める事ができるたった一つの手段だと思います。

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