次代のエネルギー潮汐・海流の可能性 2.潮汐は何故起こるのか
前回は、潮汐の基礎現象を押えてみました。
今回は、潮汐現象は何故起るのか、潮汐の原理を追求します。
潮汐は、月の引力により、海の水が引っ張られ、盛り上がるので水位が高くなると説明されます。月の引力の海水作用説です。
これに対して、月の引力が地球の地殻に対して働き、地殻の変形→水の移動、潮汐の発生という説もあります。月の引力の地殻作用説です。
月の引力による地殻変形を指して「地球潮汐」といいます。
それでは、潮汐は何故起るのかを追求してみましょう。
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月と地球の相互作用により1日2回の潮汐が起る
潮汐が1日2回あるというのは、ある地点で、月が正面に来る時とその地点の地球裏側に月が来る時に同じように力が働くということです。月の影響が、月に面した側とその反対側に働き、海面が盛り上がるのです。普通は、次のような図が登場します。
この図では、月がある方向に引力が働き、海面が盛り上がることは理解できますが、反対側に何故力が働くかが分りませんね。
実は、月が地球の周りを回っていると表現しますが、ニュートンの万有引力と相互作用の原理に従うと、月と地球は1つの回転中心の周りを回ります。(比喩的にいうと、地球も月の周りを回っているのです。)
この回転中心は、月と地球の重量(質量)によって決まり、実際には地球の内部に位置します。しかし、地球内部では地球の回転軌道が分りにくいので、敢えて地球の外側にもってきた図を作ってみました。真中にあるのが、誇張した回転中心です。
この図で分るように、地球の回転運動により、月と反対側に大きな遠心力が働きます。
月に面した側には、月の引力が働き、反対側には地球回転運動の遠心力が働き、表と裏に力が働くのです、だから、潮汐が1日2回起るのです。
そして、月と地球の相互作用に、太陽の位置が関係し、月・地球・太陽が直列した満月・新月の大潮、月・地球・太陽が90度で配置した上弦・下弦の小潮となるのです。
潮汐は、海水に働く月の引力か、地殻に働く月の引力か
大潮の時の満潮時刻は、6時間遅れる
もう一度、海南の潮汐表を見てみましょう。。
個人で編集されている潮汐表・tide736.netさんの海南の潮汐カレンダーからお借りしました
この図をみて、新月・満月の日の満潮時刻のズレを発見した人は鋭いです。
月の引力が作用し海水が盛り上げるなら、満月の時は0時に月が真南に来るので、月の引力は最大となり海水の潮位も最高になるはずです。満月の日には、0時と12時が満潮時刻になるはずです。
しかし、海南の汐見表では、満潮時刻は6時と18時過ぎです。0時と12時から6時間遅れで、満潮になるのです。
この満潮時刻の0時・12時からの5~6時間遅れ現象は、日本の海岸殆んどで起っています。また、ハワイでも概ね6時間遅れです。
不思議ですね。
月の引力の海水作用説では、満潮時刻の遅れ=海水移動時間
月の引力の海水作用説では、満潮時刻の遅れを、次のように説明します。
月の引力により、海水が引上げられるが、水の流れには抵抗があるため、時間遅れが生じ、特定地点での満潮時刻は、その地点での月の引力が最大になる時刻から数時間遅れる。
実際の潮の満ち干は海水と海底の摩擦や海水の慣性、地形的な要素も加わり南中から数時間程度遅れるようです(図)。従って大雑把ですが、月の出時刻前後1~2時間頃が満潮になり、南中時刻の前後が干潮と考えることもできます。
月と月暦さんの月の潮汐力(潮の満ち干と潮流)から
引力と海水移動の抵抗力を計算して、理論的な遅れ時間を精緻にシュミュレーションしているサイトはうまく見つかりませんでした。
潮汐を扱っているサイトの殆んどは、時刻遅れを扱っていませんし、潮汐表まで言及しているサイトでも、この時間遅れを余り問題にしていません。
考えてみれば、満月・新月・上弦・下弦で大潮か小潮かが分り(中間の若潮や中潮も分り)、その地点の満潮、干潮の時刻が分れば、実用上は十分ですから、時間遅れが何故あるのかは、不要な発問かもしれません。
月の引力の地殻作用説なら、満潮時刻の6時間遅れが説明できる
満潮時刻の6時間遅れに注目し、月の引力が地殻へ作用し、地殻の変形で海水の高低が生じているという説に行き着いた人がいます。
科学ジャーナリストの邱国寧博士です。
潮汐の真のメカニズム
邱国寧氏は、月の引力が地殻に作用し、地殻が盛り上がり、海水は逃げて行くというメカニズムを考えました。これだと、月が真南にくる時刻に干潮となり、それから6時間遅れて満潮になります。大潮の満潮時刻の6時間遅れが説明できます。
外的引力の「延径効果」理論の導入
地球の海潮汐のメカニズムは外的引力の「延径効果」仮説の導入によって合理的に説明できる。
図に示すように、外的引力が地球「近力点」(a)の地殻を牽引し、引力方向へ地球は直径が(ac)から(a’c’)に延長される。楕円球になった地球の質量の分布が変化したため、地球重心(O)が引力方向の(O’)へシフトされる。
その結果、新しい地球重心(O’)に対して、「近力点」(a’)と「遠力点」(c’)の地域の地面が上昇し、(b)及び(d)の地域の地面が下降することになる。
地球表面に覆う海水は新しい地球重心(O’)に対して再分布を行い、地面上昇海域(a’), (c’)から地面下降海域(b’), (d’)へ流動する。
その結果、地面上昇海域(a’), (c’)において、水面が地面に対して相対的に下がり、干潮になる。逆に、地面下降海域(b’), (d’)においては、水面が地面に対して相対的に上がり、満潮になる。
なお、月の引力による地殻の伸張については、江刺地球潮汐観測施設で、概ね30cmの変形が確認されています。
江刺施設は、地球潮汐(ちきゅうちょうせき)の観測施設として設置され、1979年6月から観測が続けられています。地球潮汐とは、地球が月と太陽の引力を受けて周期的に約30cm変形する現象です。地球潮汐の観測は、延長250mの坑道内に設けられた石英管ひずみ計や水管傾斜計が用いられています。
月の引力の海水作用説と地殻作用説のどちらが正しいのでしょうか
もう一度、海南の汐見表を見てみましょう。今度は、上弦・下弦の小潮の満潮、干潮時刻です。
上弦・小潮の時は、満潮が0時・12時、干潮が6時・18時です。下弦・小潮の時は、満潮が23時・11時、干潮が5時・17時です。
潮位差が少ない(海水の移動量が少ない)小潮の時に、月が真南にくる0時と真裏にくる12時が満潮時刻となっています。これは、月の引力の海水作用説が有力なことを示しています。
(なお、邱国寧氏は新月・大潮の潮汐データを詳細に分析して、6時間遅れを確認し解析していますが、小潮の場合の時間遅れの少なさについては、明確に論証していません。)
また、月の引力の地殻作用説の場合、地殻変形が30cmの大きさなのに対して、海水の潮位差は1m程度となり、単純な海水再配置では説明しきれない要素が残ります。
やはり、月の引力(及び地球の回転遠心力)により、流動性の高い海水が動き、潮汐が生じているとする『月の引力の海水作用説』が妥当なようですね。
付)地球潮汐・地殻変形と地震の関係が研究されている
邱国寧氏の『月の引力の地殻作用説』は、別の意味で注目すべき発想です。
月の引力による地殻変動(地球潮汐)については、地震との関係が云われ出しています。
▼潮が満ち引きする海洋潮汐のように、固体である地球も潮汐力の影響を受けている。この「地球潮汐」は相対的に見ればわずかな力だけれども、地震、特に巨大地震の引き金になっている可能性が高いことを示す研究がある。
▼防災科学技術研究所月や太陽の引力が地震の引き金に(2010年1月28日) スマトラの地震を対象にした研究。
▼地球潮汐による地震トリガーの研究で博士号をとった防災科研 地震研究部特別研究員の田中佐千子氏による研究によれば、月の引力の影響は、地殻のひずみがまだあまり溜まってないときにはほとんど関係ないが、巨大地震が近づくと次第に強く現れるようになるという。つまりひずみが溜まれば溜まるほど、震源域の応力が臨界状態に近くなればなるほど、地球潮汐が地震の引き金となっている可能性があるという。
▼ナショナルジオグラフィック 日本:予兆を探して(2006年4月号)
防災科学技術研究所の地震学者、田中佐千子(写真、静岡の海を前に)らは、世界で起こった2000の地震と、潮の干満との相関関係を調べた。その結果、75パーセントの地震が、基準海面よりも1.8メートル以上と、潮位がかなり高い時に起きていたことがわかった。
2011.03.19 巨大地震と月による地球潮汐/社会的リソース配分を考え直すべき
また、こんな記事もあります。
地震発生における地球潮汐トリガー説、月引力トリガー説、及び満月トリガー説に関するまとめ
最後は脱線しましたが、次回は、巨大な水の力、海流をとり上げます。
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