2010-01-25

『次代を担う、エネルギー・資源』林業編2 バイオマスの可能性 ~技術が確立しているバイオマス事例1 黒液~

『次代を担う、エネルギー・資源』林業編1 林業の現在~循環型社会の実現に向けて~のエントリーを受けて、林業に関連するエネルギー源、バイオマスの可能性を考えてみたいと思います。
すでに技術が確立し、実用されているバイオマス事例として林産資源利用の一つ、紙を生成する過程で使用する「パルプ」について焦点を当ててみたいと思います。
このパルプの製造工程において、既にバイオマス燃料の一例としてフル活用されているものがあるのです。
  
木材(チップ)からパルプを製造する工程で生成される「黒液(廃液)」がそれであり、生産の現場で発生した廃液をほぼ100%その生産の現場で再利用されています。
つまり再利用率は100%と効果が高いバイオマス燃料となっているのです。
    
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2008年度 日本のバイオマス年間発生量と再利用率(出典:社団法人日本有機資源協会のパンフレット)
アジアバイオマスオフィスからお借りしました
しかしこのパルプ生成も輸入木材が多くの比率を占めるのが現状です。
紙やパルプの現状を押さえつつ、国産材への転換についても考えてみたいと思います。
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■1.バイオマス燃料としての「黒液」
◆(1)「黒液」の生成と再利用100%のバイオ燃料 
   
パルプ生成の課程で採取される「黒液」のカロリーは重油の1/3~1/2程度あるため、これを工場内で加工してボイラーで燃焼させ、発生する蒸気でタービンを回して工場内電力に変換しているのです。
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□パルプを製造し、黒液を生成する連続蒸解釜
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□黒液(王子製紙㈱HPよりお借りしました)
以下日本製紙洋紙営業本部 「紙das」 より引用

 木材(チップ)は、セルロースが主成分の繊維部分と繊維同士を接着する役割をもつリグニンなどからなる。
 KP(クラフトパルプ)をつくるには、この木材(チップ)に薬品(「白液=苛性ソーダ」)を加え、蒸解釜にて高温高圧下で蒸煮し、繊維をとり出す。このとき、繊維以外のリグニンなどが「白液」中に溶け出し、「黒液」と呼ばれる溶液となる。この「黒液」は、紙を製造する上で非常に重要なエネルギー源として利用される。 
 KP製造過程で得られる「黒液」(濃度20%程度)は、そのままでは燃料とはならないが、エバポレーターという装置で70%程度まで煮詰めると、回収ボイラーでの燃焼が可能となる。「黒液」中の有機分を燃焼させ、発生するエネルギーを蒸気・電力に変換し、工場内で利用する。
 一方、「黒液」を燃焼させた後に残る無機分は水に溶け、「緑液」となる。これを、製薬工程で、もとの「白液(=苛性ソーダ)」にもどし、蒸解工程で再利用する。
 このように、KPはエネルギー利用や化学薬品の再利用が可能であることから、経済的であり、環境面 においても合理的な製法だ。そのため、KPは古紙パルプを除く国内パルプ生産の約80%を占めている。
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また、「黒液」燃焼後の残渣から、原料薬品(「白液」)もほとんど回収・再利用されるのです。
◆(2)原料薬品(「白液」)の回収・リサイクル
1.パルプ製造課程で木材チップに原料用薬品(「白液:苛性ソーダ⇒水酸化ナトリウム」)を加え、蒸解釜を用いて高温高圧下で蒸煮し繊維を取り出し、繊維分はパルプとして洗浄・漂白工程を経て紙の原料となる。
2.繊維以外の物質が薬品(「白液」)中に溶け出し、廃液(「黒液」)が発生する。
3.この「黒液」を蒸留器を用いて濃縮させ「ソーダ回収ボイラー」を用いて燃焼させることで、
 ①蒸気を発生させ、タービンで発電して工場内に電力供給。
 ②燃焼させた後の残渣に生石灰を加えることで、最初の工程の原料用薬品(「白液」)の約98%の量に戻り、回収・再利用できるリサイクル工程となっている。
  
「ソーダ回収ボイラー」は構造も燃料系統以外は水管ボイラー同様なので、もちろん抄紙機や工場の動力に用いる電力を賄う自家発電で用いる蒸気も同時に取り出すことが出来る。この回収ボイラーによって工場内で使用する殆どの電力を賄っているところが多いようです。
◆(3)CO2をカウントしないで済む、カーボンニュートラル

黒液(黒い植物性廃液)などのバイオマス燃料は、燃焼した際にCO2を発生しますが、これはバイオマスの成長過程で光合成により大気中から吸収したCO2を再び大気中に放出しているだけであり、ライフサイクルから見ると大気中のCO2を増加させることにはなりません。これを「カーボンニュートラル」と呼びます。
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王子製紙㈱HPからお借りしました
パルプ製造工程では、薬品(「白液」)加えて生成された廃液(「黒液」)をタービンで蒸気と電力を発生させ、残渣に石灰石を加えて、ほぼ当初の量の薬品(「白液」)を再生して再利用するリサイクル工程をとっています。
つまり「黒液」は工場内で使用する殆どの電力を賄っている、再利用率の高いバイオマス燃料となっているのです。しかもバイオマス燃料であるため、燃焼の際にCO2の加算はしなくてもよい。ちなみに「黒液」を利用してエタノールを製造する試みもスタートしています。
■2.パルプの輸入木材利用から国内産木材の利用へ 
     
しかし、パルプの生成には多く(75%)の輸入材が使われており、『地域毎気象特性を生かし、低密度エネルギーを効率よく取り出し、より自給自足・地産地消的に生産・消費を行う必要がある。』 (次代を担う、エネルギー・資源 プロローグ)ことから考えると 、これを国内産へ移行させていくことが必要となります。
以下の情報は「熱帯林行動ネットワーク 紙と森林伐採について考えるページ」から引用させて頂きました。
◆(1)紙消費量の推移
まずパルプ生成を考える上で、紙の使用量はどうのように推移してきたのでしょうか。
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上表に示されているとおり、紙の使用量は1970年を境に急激に増加しています。
しかし、ここ10~20年はパソコンや携帯電話の普及等により新聞や雑誌が読まれなくなったせいか頭打ちの状態です。
◆(2)古紙利用率
そして紙の原料としては、日本国内で消費されている「紙」・「板紙(段ボールや紙箱など)」のほとんどは、木材と古紙を原料にして作られています。「紙」・「板紙」の原料の57%は古紙で、残りの43%は木材から作られるパルプになっています。
日本は他国に比べて古紙利用率(57%)が高いのですが、「板紙(90%)」に比べて、「紙(32%)」は低く、なかでも古紙回収システムが確立していない印刷・情報用紙(21%)や包装用紙(6%)は低くなっており、パルプ生成に頼っています。
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◆(3)木材チップ、パルプの輸入状況
パルプ生成は8割が国内で加工されたものですが、その生成の原料である木材チップの7割は輸入されています。つまり、 「紙」生産に使われているパルプ全体の75%が海外原料によるものです。
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これまでのデータからみると、紙・パルプは、輸入材原料が多くを占めています。
国産パルプの原料(7割が輸入材)は天然材、人工材、製材残材がほぼ1/3づつを占めているが、国内木材利用率を高める意味でも資源の有効利用の意味でも、これら輸入材を国産材の利用へ転換し、かつ「間伐材」の利用増加などが望まれます。
しかし、現状では製紙用原料として利用されている「間伐材」の量は約60万m3とされており、パルプ用原料の2%にも満たない量です。
国産木材や間伐材が使われない主な理由は、輸入原料に比べて割高であることとされています。紙原料だけの問題ではありませんが、日本の管理された林業からの木材が使われず、海外の天然林伐採が行われているという現実は、『次代を担う、エネルギー・資源』 林業編1 林業の現在~循環型社会の実現に向けて~ でも提起された社会(市場)システムの欠陥と言えるでしょう。
国内産木材の国内消費量に対するポテンシャルとしては充分に可能な訳ですから、紙の使用量を減らす意識(もったいない)や回収システムの確立(古紙利用率の増加)などと共に、国産材利用を推進する政策と林業を「必要な産業」とする大衆共認が形成されれば、パルプ生成、製紙業と密接に関連して『次代を担う、エネルギー・資源』として国内林業を大きく改善していくことが可能になると思います。
次回は林業に関連するエネルギー源として、他のバイオマス事例を紹介したいとおもいます。

List    投稿者 kaz-tana | 2010-01-25 | Posted in E02.林業編6 Comments » 

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コメント6件

 古今東西 | 2011.01.04 22:32

西洋と東洋との違いを考える上で、それぞれの地域の当時の気象や食糧事情などの要因(自然外圧)を考えることは重要だと感じました。歴史を考える上で気象学、地政学などの環境科学的なアプローチも有効だと気づかされました。

 さんぽ☆ | 2011.01.05 0:22

>日本人やインド人が、国家や天皇や官僚に期待しているのは、秩序さえ安定していればそれで良いということなのではないだろうか。
なんとなくこの感覚、分かります。
そう思えるのも、「共同体」という安心基盤という安心基盤が存在していたからなんですね。
そして、それが社会期待の根底にあるものなんですね。
こうやって深い思いを観念化してもらえると、すっきりとしてきますね!

 yoriya | 2011.01.05 21:07

古今東西さん
コメントありがとうございます♪
>歴史を考える上で気象学、地政学などの環境科学的なアプローチも有効だと気づかされました。
西洋と東洋の違いと同様に、東洋の国々の違い(例えば、日本と中国の違いなど)を考える上でも必要となってくるのではないでしょうか?
特に自然観への違いなどが環境問題の根底にあるのかもしれません。
応援よろしくお願します☆

 yoriya | 2011.01.05 21:18

さんぽ☆さん
コメントありがとうございます♪
>「共同体」という安心基盤が存在していたからなんですね。
そして、それが社会期待の根底にあるものなんですね。
現在の政治や経済、環境問題などの閉塞感を打ち砕けるのは、日本人が本来持っていた「共同体」という安心基盤を背景とする共認力なのかもしれません。
今年もよろしくお願いします。

 sasakita | 2011.01.06 21:24

縄文人は、朝鮮からやってきた支配部族を抵抗なく受入れ、江戸になると鎖国をする…??
縄文人と江戸時代の日本人の違いが気になりました^^

 パルタ | 2011.01.08 22:21

私は皆殺しという形態は西洋においても
12世紀までは局所的・限定的であったと考えます。
皆殺し作戦が全面的となったのは13世紀の異端審問官設置以後であると見ます。
これは重要な転機だろうと思います。
東洋においても中国・モンゴルでは皆殺しはよく行われていました。
戦国期の日本もそうです。
12世紀までは西洋と東洋は戦争での殲滅の位置付けがあまり変わりがないように思います。
ローマが殲滅しようとしたのはカルタゴであって、
マケドニアやエジプト、シリアではありません。
ポリス間戦争と帝国戦争は異なります。
13世紀以後はポリス間戦争に見られた
残虐性が古代以上に前面化したのではないでしょうか。
ただし、これには宗教には正統と異端があるという考えが
西洋に登場する必要があったのです。
異端正統論争が登場したなら、
ミトラス教でも西洋は殲滅をするでしょう。
この古代と中世の意識の断絶は大きいのです。
それは中国やモンゴルの自然発生的な殲滅戦とは異なり、意識的なものです。

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