『次代を担う、エネルギー・水資源』水生圏の可能性、水力エネルギーの活用11.水力発電の可能性(前編)
水力エネルギーの活用シリーズでは、日本における水力発電所の歴史を見てきました。また、地域に密着して取り組まれてきた「小水力発電所」の歴史や最近の取り組みについて扱ってきました。
小水力発電所は、その地域の住民や市民企業(社会的企業)が取り組み出しており、エネルギー自立への追求が始まりました。
そこで、シリーズの最終局面として、豊富な水資源に恵まれている日本国土で、どの程度水力発電の潜在力が残っているかを扱ってみます。
①潜在水力発電能力は、既存の50%(エネ庁試算)
②都道府県別の潜在的水力発電
③小水力の可能な地点数は多大だが
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①潜在水力発電能力は、既存の50%(エネ庁試算)
水資源に恵まれている日本では、明治以来、全国の水力発電の可能性調査をしてきました。
題して「包蔵水力調査」です。明治43年~大正2年に第1次調査を行い、最後の第5次調査は昭和58年で終わっています。
通産省・資源エネルギー庁、電力会社は、原子力発電所促進の路線をとったので、その後、「包蔵水力調査」を実施していません。
しかし、自然エネルギー、循環エネルギーへの関心が強まり、水力発電への期待が高まっていますので、資源エネルギー庁なりの「小水力発電」の潜在力を試算しています。
その試算が発表されているので、ポイントを絞った表にしてみました。(下表)
データ引用:出力別包蔵水力(一般水力)
既存と工事中の水力発電所は、地点数で1,920地点、発電能力は2,260万KWです。出力5万KW以上の地点では、殆どが開発されているのに対して、1万KW以下の地点では、既存発電所は半数以下に止まっています。
対して、未開発の発電所適地は、2,713地点、発電能力は1,212万KWと推計されています。
未開発で残っている適地は、発電に必要な流量や高低差が小さく、発電能力でみると相対的に小さな場所です。だから、地点数では、2,700程あるのに、潜在的な発電能力は、既存の半分程度に止まっています。
未開発の水力発電適地は、2,700程度でしかないのでしょうか。
この表をみて、「なんか変」と思った人は、鋭いです。
未開発の適地を、発電能力別にみると、1,000~3,000KWの適地が、1,232地点で最大です。そして、1,000KW以下の適地は371地点としています。
発電能力は、流量と高低差で決まりますので、発電能力が小さくなればなる程、可能な地点数は増加するはずです。
1,000KW以下は、本格的に調査していないのです。
だから、資源エネルギー庁の試算は、大規模と中規模の水力発電所の潜在力を推計したものなのです。
小規模発電所(1000KW以下)の潜在的な地点数と発電能力を次に見てみたいですが、その前に、日本のどこに、未開発の水力発電(大規模と中規模)が存在しているか、都道府県別に簡単に見てみましょう。
②都道府県別の潜在的水力発電所
上記の表に対応した、都道府県別の既存水力発電所と未開発の発電所です。青色の部分が既存発電所、緑色の部分が、未開発の水力発電所です。(下図)
図の出典:都道府県別包蔵水力(上位20位)
既存の水力発電所が多いのは、本州の中央部に位置し、高い山脈とそこから流れ落ちる河川を沢山もっている県が圧倒的ですね。岐阜県、富山県、長野県、新潟県、静岡県です。各県の代表的な河川の名前が浮かぶでしょう。
未開発の発電所は、やはり、これらの各県が多いですが、北海道に未開発の発電所適地が多く残っています(緑の帯が大きい)。山形県も未開の比率が高いです。
長野県や山梨県は、県行政として「小水力発電」に意欲的に取り組み出しています。それに続くべきなのが、北海道や山形であるともいえます。
では、本題の「小規模水力発電」の潜在力にもどります。
③小水力の可能な地点数は多大だが
資源エネルギー庁は、①の包蔵水力調査が、小規模水力発電をカバーしていないのに気づいていますので、平成20年度に特別な調査を行い、小規模水力発電所の可能性を整理しました。
調査名は、『中小水力開発促進指導事業基礎調査(未利用落差発電包蔵水力調査)』です。いかにも、官僚的なタイトルがついていますね。
この調査は、農業用水や上水・工業用水用の既存ダムを活用する『ダム利用型』と、農業用水路や上水路、下水道放水路の水路を活用する『水路利用型』の両方を調べています。
▼既存のダム利用
▼既存の水路利用
報告書からポイントを絞って表にまとめました。
日本には、用水や河川管理用に小規模なダムが沢山あります。農業用水のダム、利水用のダム、砂防ダムです。これらのダム利用型の小規模発電の可能地点数は、971地点です。その発電能力は、合計で30万KW程度です。用途別では、農業用水ダムが一番多いですね。
次に、水路利用型では、可能地点数は418地点、発電能力は約2万KW程度と試算されています。
①の表では、1000KW以下の未利用地点数は、371地点、発電能力は24万KWでしたが、この調査では、地点数がダム型+水路型の合計で、1400地点弱に増えていますね。
小規模水力発電所は、既存の各種ダムを活用するだけで、1000箇所以上が可能なのです。
小規模水力発電所の可能性は多大に残っているといえます。
一方、個々の発電所の能力は、100KW程度が大半になるため、その発電能力の合計は、30万KW程度に止まります。
発電所数では、多大な可能性があるのですが、発電能力という点で弱点をもっています。
少し、がっかりですね。
上記調査報告書のリンクを張っておきます。容量が大きいです。詳細が知りしたい人のみクリックしてみて下さい。
出典:未利用落差発電包蔵水力調査
しかし、しかしです。
自然エネルギーに目覚めた(?)環境省が、『小水力発電の資源賦存量全国調査』に取り組み出しました。
その調査によると、河川(集水路)で、約2500万KW、農業用水路で1300万KWという理論値を出しています。膨大な潜在力があるという調査結果です。
資源エネルギー庁の試算が正しいのか、それとも環境省の見解が正しいのか、次回(後編)で、その検証を行います。
同時に、小規模水力発電所は、1箇所つくるのに、どの程度の資金が必要なのかも確認します。
最後に、ちっと連想しにくい「砂防えん提」について、発電所の事例をのせておきます。
出典:近年の導入事例の紹介(3)砂防ダム
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